「ドクター・スース対ペンギン・ブックス裁判」(1997年の第9巡回区連邦控訴裁判所判決) は、元ネタに対する皮肉や悪ふざけといった要素がないことからパロディとみなされず、フェアユースが認められなかった事例として知られている[115][116][117]。被告ペンギン・ブックス社らは "The Cat NOT in the Hat! A Parody by Dr. Juice" のタイトルで書籍を出版したが、これが元フットボール選手O・J・シンプソンによる殺人容疑裁判概要を、ドクター・スースの児童文学『キャット イン ザ ハット』の設定で韻を踏んで物語っていたことから、訴訟に至った[118]。表現性や物語のプロット、キャラクターの特徴などに類似性が認められ、かつフェアユース第1基準に関しても元ネタからの変形が十分でないと判断された[118]。
商標権侵害に対して強気の姿勢をとっているとも言われるフランスの高級ファッションブランド ルイ・ヴィトン社は[119]、過去にパロディ関連訴訟で繰り返し敗訴を喫している[注 12]。たとえば「ルイ・ヴィトン対MOB裁判」(Louis Vuitton Malletier, S.A. v. My Other Bag, Inc.)は、My Other Bag (MOB) 社が自社製トートバッグ上にルイ・ヴィトンなどの有名ブランドバッグのイラストを描いて販売したことから、ルイ・ヴィトンが権利侵害で提訴した事件である。二審の第7巡回区控訴裁の口頭弁論では、担当判事が「これはジョークです。ルイ・ヴィトン社はこのジョークが理解できないのでしょうが、ジョークなんですよ」と嘲笑する場面さえあった[注 13]。また訴訟動機が「弱い者いじめ」(bully)だとも指摘している[87]。一審、二審ともMOB製品はパロディと認められ、ルイ・ヴィトン側は最高裁に上告したものの棄却された[87]。本件ではパロディ創作者側の表現の自由を擁護したと解されている[120]。
パロディ関連ではデックメイン対ヴァンダースティーン裁判(英語版) (Deckmyn v Vandersteen, Case: C-201/13, 2014年CJEU判決) が知られている[128]。本件では原著作物の著作権者側の権利と、パロディ利用する側の表現の自由の間でいかにバランスを取るべきかが問われた[129]。
ベルギーの右派ポピュリズム政党フラームス・ベランフ[注 16]に所属する政治家ヨーハン・デックメイン(オランダ語版)は2011年、新年の祝賀会でカレンダーを参加者に配布したが、この表紙に使われた絵画がヴァンダースティーンの描いた作品に類似しているとして、著作権侵害でデックメインと政党後援会組織がベルギーの裁判所に提訴された。ヴァンダースティーンの作品は元々、コミック本『Suske en Wiske(英語版、オランダ語版)』に登場するキャラクターの一人を表紙に描いたものであり、白色のチュニックをまとって空中からコインをばら撒いている構図である。この表紙絵は "De Wilde Weldoener" (「強制的な恩恵を施す者」の意) と題された[127][128]。一方カレンダーの表紙は、キャラクターがヘント市の市長ダニエル・トゥルモント(英語版) (左派政党のフラマン系社会党)に差し替えられており、コインを集めようとする周囲の民衆はイスラム教の女性が肌を隠すために被るブルカ (ベール) を身にまとい、有色人種に置き換えられる差別的な内容であった[127][128]。第一審裁判所(英語版) (Rechtbank van Eerste Aanleg) は著作権侵害を認めて5,000ユーロの損害賠償を命じたが[注 17]、被告が控訴している。二審の控訴裁(英語版)(Hof van beroep)もベルギー著作権法で定められたパロディの例外規定の要件を満たさないとして棄却しつつ、CJEUに意見照会を求めた[127]。
Lorsque l'oeuvre a été divulguée, l'auteur ne peut interdire: 4° La parodie, le pastiche et la caricature, compte tenu des lois du genre; (日本語訳)著作物が公表された場合には、著作者は、次の各号に掲げることを禁止することはできない。 (4) パロディ、模作及び風刺画。ただし、当該分野のきまりを考慮する。
デックメイン判決以前のフランスにおけるパロディのリーディングケースが SAS Arconsil v Moulinsart SA (パリ控訴裁 2011年2月18日判決、no 09/19272) である[7]。2011年に漫画タンタンの冒険シリーズの原作者が、『タンタンチベットをゆく』のパロディ小説『サン・タン絞首台に行く』を海賊版としてパロディ作家ゴルドン・ゾーラ(フランス語版)を訴えた事件では、パリ控訴院は「主観的要因(ユーモアの意図)」「客観的要因(混同のおそれの有無)」の要件を満たしており、「当該分野の決まり」を守らなかったという証拠が確立していないことから『サン・タン絞首台に行く』はパロディ小説であると認め、少部数で商業的な影響も少ないことから著作者・出版社の権利を不当に侵害していないと決定した[132]。
歌手の物まねパロディに関する判決
また、歌手の物まねが合法的なパロディだと判示された1988年の破毀院(フランス最高裁)判決 (Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 12 janv. 1988, préc (n. 11)) も存在する。シャンソン歌手シャルル・トレネの『優しきフランス(フランス語版)』(Douce France) が、Thierry Le Luronによって物まねされ、『優しいトランス』(忘我の境地の意、Douces Transes)にもじられた。声音も真似ており、トレネがアカデミー・フランセーズ会員選出のために費やした無駄な労力を揶揄した。破毀院は無礼な嘲笑は法的に禁じられておらず、むしろ元ネタから改変されていることから、受け手側が2つの作品を混同するおそれがないとして、著作権侵害の訴えを退けている[133]。
2014年CJEU判決に影響を受けたフランスの判決
デックメイン判決以降では、2015年の破毀院判決(Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 15 May 2015, 13-27.391)がある。本件はファッション写真家 A Malka(一部伏字)の作品を無断で芸術家 Peter K(一部伏字)が複製したことが問題となった。しかし A Malka の原著作物は過剰広告と過剰消費を象徴していることから、Peter K は自身の作品を通じて A Malka の作品の価値を貶め、見る者たちに問題喚起する目的だと主張した。破毀院はフランス著作権法 第122条の5 (4) だけでなく、EUの情報社会指令 第10条を考慮して A Malka の著作者人格権と、パロディ創作者 Peter K の表現の自由の間でバランスをとる必要性を説き、二審の控訴裁に差し戻した[7]。
後述の Louis Vuitton Malletier, S.A. v. My Other Bag, Inc.(2014年提訴)以前にも Louis Vuitton Malletier S.A. v. Haute Diggity Dog, LLC, 507 F.3d 252, 258(4th Cir. 2007)で敗訴となっている[107]。また実際に訴訟には至らなかったものの、ペンシルベニア大学が開催した商標法のシンポジウムで、当イベントの告知ポスターにルイ・ヴィトンの商標パロディが掲載されたことを受けて、大学側を提訴すると脅した事例もある[87]。
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“Poetics By Aristotle | Written 350 B.C.E”.The Internet Classics Archive.マサチューセッツ工科大学.2020年10月19日閲覧。“Part II...Homer, for example, makes men better than they are; Cleophon as they are; Hegemon the Thasian, the inventor of parodies, and Nicochares, the author of the Deiliad, worse than they are…(抄訳: 例えばホメーロスは人々をより良く描き、クレオフォンはありのまま描き、パロディの発明者たるタロスのヘゲモンや『デイリアーダ』の著者ニコカレスはより劣った形で描いた。)”
Edme-François, Mallet. "Burlesque". The Encyclopedia of Diderot & d'Alembert(Collaborative Translation Project). Translated by Segrest, Colt Brazill; Arbor, Ann. ミシガン大学図書館. 2020年10月13日閲覧。Originally published as "Burlesque," Encyclopédie ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers, 2:467–468(Paris, 1752)
Konnikova, Maria(2014年12月10日).“Excuse Me While I Kiss This Guy”[この男にキスしている間は邪魔しないで](英語).The New Yorker.2020年10月4日閲覧。“One of the reasons that "Excuse me while I kiss this guy" substituted for Jimi Hendrix's "Excuse me while I kiss the sky" remains one of the most widely reported mondegreens of all time can be explained in part by frequency.(抄訳: ジミー・ヘンドリックスの名曲 "Excuse me while I kiss the sky" を "Excuse me while I kiss this guy" に聞き間違えたとする人は多いことから、モンデグリーンの典型例として挙げられるが、これはキスする対象が空 (the sky) ではなくこの男 (this guy) の方が実際によく耳にすることが要因の一つであろう。)”
“The chronology of Las Meninas of Picasso”[ピカソ作『ラス・メニーナス』の連作](英語).El Blog del Museu Picasso de Barcelona (ピカソ美術館公式ブログ).ピカソ美術館(2015年8月13日).2020年10月13日閲覧。“The series is made up of 58 works: 45 interpretations of the work Las Meninas by Velázquez…(抄訳: この連作は計58点で構成されており、うち45点はベラスケス作『ラス・メニーナス』を独自解釈して翻案されたものである)”
“Copyright Act Version of section 29 from 2002-12-31 to 2012-11-06”[著作権法 第29条 2002年12月31日から2012年11月6日時点版](英語).Justice Laws Website.カナダ政府.2020年10月19日閲覧。“29 Fair dealing for the purpose of research or private study does not infringe copyright.(抄訳: 第29条 研究または私的学習を目的としたフェアディーリングは著作権侵害に該当しない。)”
“外国著作権法令集(55)—フランス編—”. 公益社団法人著作権情報センター(CRIC)(2018年3月).2020年10月19日閲覧。“この翻訳は、フランス政府のウェブサイトから2017年6月21日に入手したフランス著作権法 (知的所有権法典(Code de la Propriété Intellectuelle):第1部) の最新版を翻訳したものである。”
“Copyright, Designs and Patents Act 1988 | Section 30A | Caricature, parody or pastiche”[1988年著作権、意匠及び特許法 | 第30A条 | カリカチュア、パロディまたはパスティーシュ](英語).legislation.gov.uk.イギリス国立公文書館.2020年10月19日閲覧。“Text amendment: S. 30A inserted (1.10.2014) by The Copyright and Rights in Performances (Quotation and Parody) Regulations 2014 (S.I. 2014/2356), regs. 1, 5(1) (抄訳: 第30A条は著作権法を改正する規制による、2014年10月1日に新設された条項である。)”