Loading AI tools
紫色の光の帯が表れる大気の発光現象 ウィキペディアから
スティーブ(STEVE、スティーヴ)は、紫色に輝く光の帯が夜空にみられる大気の発光現象で、カナダ・アルバータ州のオーロラ撮影者らによって発見された[1][2]。欧州宇宙機関(ESA)の地磁気観測衛星Swarmの観測データを分析した結果によると、スティーブは幅およそ25kmで東西に伸びる高温気体の帯で、地上300kmでの温度は3,000度も上昇し、流速はスティーブの外側の気体が10m/s程度なのに対し、スティーブ内は6km/sと桁違いに速い[3]。スティーブは、実は普遍的に発生している現象だが、最近までその存在は全くと言ってよい程知られていなかった[3]。
この発光現象を発見したのは、アルバータ・オーロラ・チェイサーズ(Alberta Aurora Chasers)という、Facebook上のオーロラ撮影者グループに参加するオーロラ撮影者達で、彼らは発見から暫くは、この現象を「プロトンアーク」と呼ばれる陽子のオーロラ現象であると思っていた[5][3][6]。
しかし、撮影された画像をみたカルガリー大学の地球物理学者ドノヴァンは、この発光現象がプロトンアークではないと指摘した。なぜならば、陽子オーロラは肉眼でみえる現象ではなく、構造上の特徴も撮影された光の帯とは異なるからである[2][1]。
オーロラ撮影者の一人で、アルバータ・オーロラ・チェイサーズの管理者を務めるラツラフは、この現象がプロトンアークではないと知ると、映画"Over the Hedge"(邦題『森のリトル・ギャング』)中で、突如現れた生垣の正体に悩む動物達が、生垣を"Steve"と呼ぶことにした場面に着想を得て、この発光現象を"Steve"と呼ぶことを提案した[2]。
その後、正体のよくわかっていないこの異常な「オーロラ」は、オーロラ追跡の市民科学事業「オーロラサウルス(Aurorasaurus)」上で、2年間に30件以上の発生が報告された[7]。
考案者のラツラフは、Steveは科学的名称が決まるまでの仮名と考えていたが、オーロラサウルスを主催するNASAゴダード宇宙飛行センターの地球物理学者マクドナルドが、"Sudden Thermal Emission from Velocity Enhancement"をSTEVEとするバクロニムを考えると、NASAも"Strong Thermal Emission Velocity Enhancement"として採用し、STEVEがこの現象の公的な名称に決まった[5][7]。
スティーブの光は、一見オーロラ状にみえるが、通常のオーロラとは色や持続時間、観測できる場所といった特徴が明らかに異なっている[7]。スティーブの外見的な特徴をまとめると、以下のようなものになる(観測実績については、いずれも2018年3月現在)[8][1]。
ドノヴァンは、カルガリー大学とカリフォルニア大学バークレー校が運用するオーロラ観測用全天撮像装置網のデータと、アルバータ・オーロラ・チェイサーズが撮影した写真などから、スティーブ発生時に発生地点上空をSwarm衛星が通過した機会を突き止め、Swarm衛星の測定データを調べることで、スティーブの特徴の一端を明らかにした[2][1]。
2018年3月、マクドナルド、ドノヴァンらはその成果を"Science Advances"誌に発表。スティーブが発生している領域では、西向きに最大5.5km/sという高速でイオンが流れ、領域内での電子温度は最高で6,000Kに達する一方、電子の密度は2-3割に低下していることが示された[1]。これらの特徴は、スティーブが、電離層の狭い緯度幅にみられる西向きの高速イオン流「サブオーロラ帯イオンドリフト(Subauroral Ion Drift、SAID)」に関係した現象であることを示唆する[9][1]。スティーブが冬季に観測されていない点も、SAIDが発生する季節の傾向と合っている。SAIDに伴い光学的な現象が発生することはそれまで知られておらず、スティーブはSAIDに関係して発生した光学的な現象が、史上初めて記録された例とみられる[7][1]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.