十六島ホタルエビ発生地
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十六島ホタルエビ発生地(じゅうろくしまホタルエビはっせいち)とは、千葉県香取市を流れる利根川左岸の十六島地区にかつて存在した、国の天然記念物に指定されていたホタルエビの発生地である。
真夏の蒸し暑い夜、佐原近郊の利根川沿いにある大小さまざまな水門近くの澱んだ小川に、青白い光を放つホタルエビが同時に多数発生するという世界でも類を見ない現象であり[1]、1934年(昭和9年)5月1日に国の天然記念物に指定された[2][3]。
ホタルエビとは淡水域に生息する複数種の淡水エビが、発光バクテリアに感染することによって発光する形態を言い表したもので、特定の種を指すものではない。発光バクテリアに感染したエビは敗血症を起こし、急速に状態を悪化させ数時間で死亡するが、発光から死ぬまでの、わずかの時間に全身を美しい青白色に光らせる。生物発光の一種ではあるが、今日ではビブリオ属菌のひとつNAGビブリオ (Cholera non-O1[4])の感染によって引き起こされる、伝染性光り病であると判明しており、一度発光してしまったエビは遅かれ早かれ死を避けられないという、エビにとっては恐るべき病態の一種である[5]。
しかし、高度経済成長期にかけて行われた周辺水田の大規模な圃場整備による小規模河川の埋め立てや、工場排水や生活排水による水質汚染等の影響により生息する淡水エビ自体が激減した[5]。それに加え天然記念物指定水域と利根川河口との間に建設された利根川河口堰によって、発光バクテリアに必要な水中塩分の濃度が減少したことも重なり、ホタルエビは急速に姿を消し、1972年(昭和47年)の夏に目撃されたのを最後に発生が見られなくなった[6]。
その前後にかけて行われた生物学者や地元関係者による地道な追跡調査の甲斐もなく再発見には至らず、最後の目撃から10年後の1982年(昭和57年)10月7日に国の天然記念物指定が解除された[7][8]。