情報の非対称性
交渉における二者間において、市場や専門知識等、交渉に関わる情報量に顕著な差がある状態 / ウィキペディア フリーな encyclopedia
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契約理論と経済学において、情報の非対称性(じょうほうのひたいしょうせい、英: Information asymmetry)とは、取引における意思決定の研究で一方の当事者がもう一方よりも多くの、または優れた情報を持っている状態のことをいう。
情報の非対称性は取引における力関係の不均衡を生み出し、時には取引の非効率性を引き起こし、最悪の場合は市場の失敗を招く。この問題の例としては、逆選抜[1]、モラルハザード[2]、知識の独占[3]などがある。
情報の非対称性を可視化する一般的な方法は、片方に売り手、もう片方に買い手を置いた天秤である。売り手の方が多くの、または優れた情報を持っている場合、取引は売り手に有利に行われる可能性が高い(「力関係のバランスが売り手側に傾いている」)。例えば、中古車を売る場合、売り手は車の状態や市場価値について買い手よりもはるかに良く理解しているのに対し、買い手は売り手から提供された情報と自身の車両評価に基づいて市場価値を推定するしかない[4]。しかし、力関係のバランスが買い手側に傾くこともある。健康保険を購入する際、買い手は将来の健康リスクの全詳細を提供する義務がない場合がある。この情報を保険会社に提供しないことで、買い手は将来保険金の支払いを必要とする可能性がはるかに低い人と同じ保険料を支払うことになる[5]。隣の画像は、完全情報下での2つの主体間の力関係のバランスを示している。完全情報とは、全ての当事者が完全な知識を持っていることを意味する。買い手の方が多くの情報を持っている場合、取引を操作する力は買い手側に傾くことで表される。
情報の非対称性は経済的行動以外にも及ぶ。民間企業は規制当局よりも規制がない場合に取るであろう行動や規制の有効性について優れた情報を持っており、規制の効果が損なわれる可能性がある[6]。国際関係論では、情報の非対称性が戦争の原因となり得ること[7]、そして「近代の大戦の大半は、指導者が勝利の見通しを誤算したことに起因する」[8]ことが認識されている。ジャクソンとモレリは、国家指導者の間には「相手の武装、軍人の質や戦術、決意、地理、政治的風土、あるいは単に異なる結果の相対的確率についての知識(すなわち信念)の違い」や、「他の主体の動機に関する不完全な情報」がある場合に情報の非対称性が存在すると述べている[9]。
情報の非対称性は、プリンシパル=エージェント問題の文脈で研究され、誤報の主要な原因であり、あらゆるコミュニケーション過程に不可欠である[10]。情報の非対称性は、新古典派経済学の重要な仮定である完全情報と対照的である[11]。
1996年、ジェームズ・マーリーズとウィリアム・ヴィックリーは「非対称情報下でのインセンティブの経済理論への基本的貢献」に対してノーベル経済学賞を受賞した[12]。これにより、ノーベル委員会は経済学における情報問題の重要性を認めた[13]。その後、2001年に「非対称情報の市場分析」に対してジョージ・アカロフ、マイケル・スペンス、ジョセフ・E・スティグリッツにもノーベル賞が授与された[14]。