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洪水による被害を軽減または防止するために使用される方法 ウィキペディアから
洪水調節(こうずいちょうせつ)とは、ダムや堰において洪水(ダム管理用語としては一定量(洪水調節水量)以上の流入を指す。)の下流への放流量を調節(抑制)する放流操作で、下流域の洪水被害を防ぐ手法である。治水ダムや多目的ダムにおける重要な操作の一つとされている。なお、放流量の抑制は洪水時に限らず、洪水期から通常期に移行するときに利水容量を増やす為に流量調節(りゅうりょうちょうせつ)を行うことがある。
昨今の温暖化によるゲリラ豪雨や、電気代、燃料代の高騰、CO2削減などの問題で、各利水量の見直しや気象予想の高度化により洪水に対する洪水調節水量の増加などの改善が進んでいる。また、直近までダム運用が建設当時のままだったのは、河川渇水などの地域における環境問題が落ち着き、各利水者(漁業、農業、工業、行政、電力など)が利水量の減少を恐れ、利水、治水の調整を避けていたが日本各地の洪水被害に危機感をおぼえ、時代遅れのダム運用に対し見直しの必要が共有されたことが大きい。
洪水調節の時間経過をグラフ化したハイドログラフで洪水調節の運用方法を把握する事が出来る。
通常の治水ダムにおいては、ダム地点における河川の流入量と同量、あるいは灌漑や河川環境の維持を目的として流入量以上の放流を渇水期(降雪時期~梅雨前まで)に行っている。しかし、豪雨などにより河川の流入量が増加した場合においては、通常運用の流入量と同量の放流を行うと下流域において河川流量の増加と河川水位が上昇し洪水の危険性が増す。
そこで、ダム地点において流入量が洪水調節水量を上回った時点で、ダムからの放流量を洪水調節水量で以下に制限し、流入量と放流量の差分をダム湖内に貯留させれば下流域の河川流量は、洪水調節水量とダム地点から下流域の降水入流量、他の合流する支流水量以下となり、河川水位の上昇を防ぐことができる。また、洪水を伴う降雨が終わり、ダム地点への入流量が減少しても、ダムの洪水調節容量水位(または利水容量水位)になるまで、入流量に対し洪水調節水量が多い状態を継続させ次の洪水に備える。この考え方に基づく手法が洪水調節である。
洪水調節と降水量、入流量、放流量などの時系列をハイドログラフで確認すると、(洪水水量及び最大入流量)ー(洪水調節水量)分をダムに貯留させ、河川水位の上昇発生時刻を遅らせて水害被災者の避難時間を稼ぐ効果がある。また、ダムが満水になり洪水調節が行えくなったときは、俗称:緊急放流(下部参照)として、入流量をそのまま放流する自然河川状態の操作に移行する。そのため以後の河川水量の調整は降水量まかせになる。
放流(利水)ゲートは下記の種類があり、大まかに設置高さ順にしている。各ダムで用水用の順番が上下したり、設けられてない場合もある。治水ダム(洪水対策と渇水対策)と多目的ダム(多種の利水確保)で多様な運用が行われている。また、ゲートは定期点検や修理が行えるように複数のゲートを設け個別に止水板をゲート上流に設置し、洪水調節が出来ない状況を回避するため計画放流水量より各ゲートの放流量の合計が大きい場合もあり、過剰設備では無く予備設備である。
洪水調節は、その手法によっていくつかの方式に分類される[1]。
テレビやラジオなどでダムの緊急放流を行うと報道されるが、ダム関係の用語には「緊急放流」は無く、下記の”ただし書き操作”(異常洪水時防災操作・特別防災操作)が正式名称である。
緊急放流の誤解で、”ダムの洪水調節容量が不足したので洪水中にダムの貯水を放流する”や”ダムが決壊する恐れが有るから、ダムの貯水を放流する”とデマが流れるが、正しくは、”ダムの洪水調節機能を使い切ったので、今後はダムの調節機能無しで『ダム上流の洪水をそのままダム下流に放流する。』”ことである。
関係機関および住民に洪水調節の開始を告知するのは、洪水に対する当面の不安感を取り除くと共に、河川や遊水池などの水没地域からの退避を周知するなど水防の要素も含まれている。なお、洪水調節容量すべてに貯留する状態(大規模な洪水調節専用ダムでは滅多にないが、その他の小規模や多目的ダムなどでは多くある)となり洪水調節が不可能になると、ダム管理者(都道府県営ダムであれば都道府県知事など)の承認を得た上で流入量と同量の放流を行う場合がある。これは各ダムの操作規則の中の記述からただし書き操作と呼ばれる。ただし書き操作により流入量と放流量が一致すれば、差し引きダムに貯留される洪水はゼロとなるため、ダム水位の上昇は止まり、ダムからの越水という最悪の事態(オーバートッピング)は避けられる。また、流入量が一定量未満の場合にも洪水調節と同様のダム放流操作を行うことがあり、これは操作規則で「洪水に達しない流水の調節」と呼んで洪水調節と区別している。
このように、洪水調節は下流河川の水位上昇を遅らせ被災者の避難時間を確保したり、最大流量を抑制したりして洪水被害を軽減させる。流入量が多い場合でも、そのまま流すためダムが無い状態より洪水被害を悪化させることはない。また調節容量には限りがあり自然の暴威の前にはそれを多少緩和する程度にしかならない上に、ダムの調節容量を過大に取れば水道・農業・工業・河川環境などの利水面で大きな影響が出かねない。しかし、これらのことをあまり理解していない、あるいはダムに過大な期待をする流域住民などから「ダムの影響で洪水被害が拡大した」などと誤解されたり訴えられたりすることもある。調節放流をせずに水を溜め込み続ければダムは限界を超えて決壊し、莫大な量の水が一気に下流に押し寄せる鉄砲水が発生し、大きな被害を出す事に繋がるためダムは洪水を全て止める事ができるものではなく、あくまで被害の緩和、軽減しか出来ない事を理解しておく必要がある。
予備放流は、ダムの建設時のダム計画に基づき、通常期水位から洪水期水位に減らす分の洪水調節容量で、通常期の利水容量が含まれている[2]。
事前放流は、ダムの建設時のダム計画には含まれておらず、昨今の集中豪雨(ゲリラ豪雨)や台風などでダムの容量不足や存在意義等が問われ、利水関係者との調整の結果、新たに設けられた洪水調節容量である。事前に洪水が予測出来る時に事前に放流を行い、洪水調節容量の増大を図る。洪水に対する事前放流の実施判断は3日(72時間)前から行う。また、予想累積降雨量は気象庁の全球モデル(GSM)の84時間先の予測と気象庁のメソモデル(MSM)の39時間を元に各ダムの特性に合わせて、放流量、時間帯などを決定する[3]。
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