男の娘
女装する日本の男性を指すスラング / ウィキペディア フリーな encyclopedia
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「男の娘」(おとこのこ)は、日本のインターネットスラング[2]。2000年代にサブカルチャーの領域で知られるようになり、2010年代に広く一般に普及してブームを起こした[2]。漫画やアニメなどのフィクション(二次元)および現実世界(三次元)における、「少女のような外見をした少年」を指していう他者からの評価語であるという一定の共通認識は成立しているが[3][4]、厳密な解釈は定まっていない[5]。
二次元における「男の娘」の流行は、1990年代に形成されたショタや百合などのジャンルが、2000年代前半以降急速に女装表現と結びついて発生したものという考察がなされている[6]。代表的なキャラクターとしては『GUILTY GEAR XX』のブリジットや、『処女はお姉さまに恋してる』の宮小路瑞穂、『はぴねす!』の渡良瀬準、『バカとテストと召喚獣』の木下秀吉などが挙げられ(詳細はいずれも後述)、「こんなかわいい子が女の子のはずがない」という有名な倒錯フレーズも生まれた[7][8]。それらがオタク男性たちの性的指向の変化を反映したものかどうかに関しては専門家の意見が分かれているが[9][10]、「受け身になりたい」という男性の願望が表れているであろうという点では大体の一致を見ている[11][12]。
三次元で「男の娘」と呼ばれる男性たちの少なくない数が、トランスジェンダーやゲイなどではなく、一種のコスプレイヤーであるという点で複数の専門家の見方は一致している[13][14]。江戸時代以前の日本は稚児や女形などの芸能が盛んであり、女装を禁忌としていた西洋文化圏とは対照的な地域のひとつであった[15]。二次元サブカルチャーの動きは元来女装に寛容であった日本の伝統へと接続し、インターネットの普及も大きな後押しとなって、「かわいい」に価値を置く若い世代のカジュアルなファッション文化として定着した[16]。そうした現実で女装する人々にも「かわいがられたい」という欲望の存在が指摘されている[17]。
時期の重なり合う両者に共通する社会的背景は、第二次世界大戦後のフェミニズムの拡大・男性優位主義の縮小の過程と[18]、バブル崩壊後の長引く景気後退・労働市場の急激な規制緩和であり、浮かび上がってくる問題は「男性の生きづらさ」である[19]。女装してリラックスしたいというこの現象は、21世紀初頭の日本における男性問題の映し鏡として登場したものという考察がなされている[20]。
「男の娘(おとこのこ[23][注 6])」という言葉は、「少年」を意味する「男の子」の「
椿の調査によれば、この言葉は2006年9月9日に開催された同人誌即売会「男の娘COS☆H」において、初めて(語の意味とともに)記録に残る形で使用された[30]。女装・ふたなり・女体化・異性への憑依などをした「男の娘」の同人誌即売会
が、その第1回の開催概要であった[12][注 8]。「男の娘」という言葉は明確な定義がなされないまま[31]、インターネットスラング・インターネットミームとして拡散していった[26]。
二次元のオタク文化に端を発した「男の娘」がメディアで紹介される機会は、2009年[32][33]ないし2010年[29][34]ごろ以降増えていった。ところが、それらの多くは現実世界(三次元)で女装する男性たちを取材したものであった(図1)[32]。二次元の流行が波及し、若年層を中心にポップでカジュアルな女装がおこなわれるようになり、彼らもまた「男の娘」と呼ばれるようになっていたのである[35][32](#コスプレ・女装も参照)。「オカマ」「ニューハーフ」「女装少年/男子」「直接的に「女装」の意味を含まず、婉曲的で、未だ手垢も付かず、ふわふわしていてカワイイ感じの「男の娘」が多くの人々のオトシドコロとして選択された
のである[18]。ときには、マーケティングの都合から「男の娘」が使用されることもあった[38]。
定義の例
「男の娘」の定義は、専門家や当事者により、例えば以下のように言及されている(これらのほかにも複数の言及がある)。
論者 | 定義 |
---|---|
漫画研究者 日高利泰 |
そもそも「男の娘」とは一体何なのか。漠然とした共通理解として、それが女の子のような外見をした少年(とりわけ美少年)を指して用いられるということはわかる[3]。 |
ライター 来栖美憂 |
「男の娘」というワードはもともとネットスラングであり、二〇一〇年代に入って一般に普及した。『大人限定 男の娘のヒミツ』によると「きれいな女装少年」を指し示す言葉であり、女装をしてはいるがどこかに「男」の要素を必ず残していることが肝心であるという[39]。〔田中東子による来栖 2015b, p. 32の解説〕 |
日本近代文学研究者 水野麗 |
「男の娘」とは「どんな服装であれ、女の子のように見えるかわいらしい美少年」を指し、女装少年は「女の服装をしている、かわいらしい美少年」を指すという違いがある〔……〕[40]。 |
新聞記者 (福) |
「女装男子」は、見た目で女の子の格好をしている男子ですよね。「男の娘」は主体的というか「自分で女の子の格好をしたい」「女の子になりたい」っていう気持ちを持っている男子を指す言葉ですかね。〔……〕「女装男子」はスタンスは少年で、たまに女の子の格好をする[41]。 |
タレント 大島薫 |
自分で名乗るのは男の娘じゃないとよく言われます。〔……〕おそらくそのひとたちの主張の根幹にあるのは、自ら女装してしまったら男の娘ではないということなんだと思います。男の格好をしていて本人も男だと思っているけれど、女の子に見えてしまうのが男の娘である[42]。 |
オタク文化史研究者 吉本たいまつ |
現在の二次元表現に現れる「男の娘」は、非常に多様である。〔……〕「見た目は美少女だが内面は男らしい」という、非常にゆるい共通認識はあるが、女装に対する認識や性自認などはキャラクターごとに違う。内面の設定から「男の娘」を定義することは難しい。〔……〕そこで本稿では「男の娘」に厳密な定義を行わず、外見で大まかに区分することとする[43]。 |
論者 | 定義 |
---|---|
「プロパガンダ」主宰 西原さつき |
男の娘という存在の、明確な定義は私もハッキリと分かっている訳ではない。ただ女性ホルモンの投与を受けておらず、身体は完全に男性の状態。でも顔は女の子にしか見えない。かつ、若い。というのが私の中での男の娘の印象だ[44]。 |
ニューハーフAV女優 橘芹那 |
三次元では敢えて言葉を濁している人が多いから、定義をはっきり確立させたほうがいいよ。誰一人、三次元で男の娘という言葉の定義をはっきりさせていない。だから、叩かれるのは当たり前だと思う。人によって定義が違うんだから。自分が「男の娘とは何か」と訊かれたら、それは女装もニューハーフも含むと断言するよ[45]。 |
比較文化研究者 佐伯順子 |
「男の娘」「女装子」は、服装のトランスジェンダーであるが、身体的性の越境や、性的指向が男性に向かうことを伴わないという意味で、「ニューハーフ」とは区別する必要があるだろう[46]。 |
日本文学研究者 伊藤慎吾 |
リアルでは二次元の萌えキャラを指向した女装が表現された。まず当時の〈男の娘〉を「二次元の萌えキャラを理想とした美少女に見まがう男子」と定義しておこう[47]。 |
性社会・文化史研究者 三橋順子 |
今、定義を四つ[注 9]申しましたが、そのうちの二つに、「カワイイ」という言葉が入っています。これが一つのキーワードだと思います。そこで、私なりの定義を示しますと「まるで女の子のようにカワイイ、女装した男の子」ということになります[48]。 |
共通する認識
「女装」という概念は、男性が女性風の装いをすることで自然と発生するが[49][50]、「男の娘」はそうではない。漫画研究者の泉信行は、従来の「オカマ」「ニューハーフ」などの呼称は女装という行為によって付けられはするが、その巧拙までは問われなかったと指摘し[36]、次のように続けている(二次元/三次元)。
「男の娘」は、まず第一に「女子にしか見えない/女子より女装が似合う」といった容姿への賛辞が前提としてある。〔……〕「充分に女子として見られる」という「見る側」の視点から呼ばれる言葉なのだ。
—泉 2015, pp. 176–177、出典の強調は傍点
すなわち、ライターの宮本直穀も指摘し[51]、日本文学研究者の伊藤慎吾なども論じているように[4]、「男の娘」は外部・他者からの評価語だということである[注 10]。そこでは、「かわいさ」「美しさ」「若さ」といったものが評価のポイントになってくる。例えば美術評論家の暮沢剛巳は、二次元のキャラクターに関し、「美少女にしか見えない」という外見上の要件が欠落している限り「男の娘」とみなすことはできない
と主張している[9]。メディア文化論研究者の田中東子も、来栖の定義のうちに「きれい」「少年」(=若い)という要素が抜きがたく含まれている点に注意を向けている[53]。三次元に対しては、三橋が「かわいい」がキーワードだと主張しているほか(前掲)[48]、性の事典『セックスペディア』(2014年、文藝春秋)でも女装愛好家との線引きは難しいところですが、若くて、ルックスレベルが高いと男の娘に認定されるようです
という説明がなされている[54]。
二次元においては、女装を必須としない定義もある(樋口 2015, p. 85、斎藤 2015, p. 203、伊藤 2023, p. 226など)。日本近代文学研究者の水野麗もそのような立場(前掲)だが[40]、やはりかわいい女の子にしか見えない容姿や性格
という審美的な基準が含まれてくると述べている[55]。タレントの大島薫が紹介している女装を不可とする定義(前掲)にも、女の子に見えてしまう
という要件が含まれている[42]。
一定の共通認識が存在するにもかかわらず、この言葉の定義をめぐっては戦争にも似た状況が現れているとライター(2014年当時)の川本直は報告している[23][5]。まず、「男の娘」は二次元限定のファンタジーであるという考え方があり、三次元に実在する人間を「男の娘」という語で呼ぶことに対しては(「三次は惨事」[56]などと)反発する声がある[57][58][5]。三次元の「男の娘」同士でも解釈をめぐる争いがある[59][60]。二次元においても事情は同様であり、例えば以下は、主人公が女装して女学園に通うアダルトゲーム(いわゆる女装潜入もの)の開発者座談会でのやり取りである。
東ノ助:『月に寄りそう乙女の作法』の情報を公式HPで解禁した時、主人公の紹介に「男の娘」って書いてあったんです。そうしたら発売後にユーザーさんから「朝日は男の娘じゃない!」ってお叱りをいただきました。〔……〕
NYAON:実は私も『オトメ*ドメイン』のコンセプト紹介で湊を「男の娘」って書いてしまって、怒られました。 — BugBug 2016年12月号, p. 151
吉田悟郎の漫画作品『オトコの娘ラヴァーズ!!』(2012年)は、こうした状況について、女装してる子を愛でたい人
可愛い男の子が好きな人
可愛く女装したい人
といった、そもそもは異なる対象・行為を愛好していた人々が、「男の娘」という便利な言葉の登場にともないひと括りにされたため、混乱が生じたものという解説をおこなっている[56]。編集者・井戸隆明は、この語の使用者は「男の娘」という概念にそれぞれなりの所有意識を持っていると推測しており、無理に定義せずに曖昧さを残しておくほうが無難であると語っている[61]。宮本は二次元に関し、作品の受け手にとって女の子っぽさが可愛らしい少年
程度の理解で充分である趣旨を述べている(強調はママ)[51]。漫画家の秀良子は、「男の娘」に相対的な概念が存在しないことを示唆している[62]。