絶対時間と絶対空間
ニュートン力学の理論的土台 / ウィキペディア フリーな encyclopedia
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絶対時間(ぜったいじかん、英: absolute time)と絶対空間(ぜったいくうかん、英: absolute space)はアイザック・ニュートンが『自然哲学の数学的諸原理』(Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica, 1687年刊)で初めて導入した概念で、古典力学が発展するための理論的基盤となった[1]。ニュートンによれば、絶対時間と絶対空間はそれぞれ何物にも依存しない客観的実在の一部である[2]。
絶対的な・真の・数理的な時間とは、外部と一切かかわりなく、おのずとその本質に基づいて一律に流れていくものである。これをデュレーション(英: duration)という別名で呼ぶ。相対的な・見かけ上の・日常的な時間とは、運動の観察を通じて得られる、デュレーションの実用的かつ外的な物差し(正確であれ、不正確であれ)である。一般に用いられているのは真の時間ではなくこちらである。 ...
古典力学 | ||||||||||
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ニュートンの言葉によれば、絶対時間はいかなる観察者とも無関係に存在し、宇宙のいかなる場所でも一定の早さで進んでいく。相対時間と異なり、絶対時間は知覚できるものではなく、数理的に理解するものだとニュートンは信じていた。ニュートンによれば、人間が知覚できるのは相対時間だけで、それは知覚可能な物体(月や太陽など)の運動を測定することと同義である。我々は物体が動くのを見て時間の経過を知るのである。
再びニュートンを引用する。
絶対空間とは、外部と一切かかわりなく、本質として不変不動を保つものである。相対空間とは絶対空間の中を動く一つの座標軸もしくは物差しである。われわれの知覚は諸物体に対する位置として相対空間を作り上げる。そして図々しくもそれを不動の空間とみなすのである。 ... 絶対運動とはある絶対座標から他への物体の移動、相対運動とはある相対座標から他への移動である。
この考え方が意味しているのは、絶対空間と絶対時間は物理的な事象に規定されるものではなく、物理現象が起きる舞台の背景幕やセットだということである。したがって、あらゆる物体には絶対空間を基準とするただ一つの絶対的な運動状態が与えられる。物体は絶対静止状態にあるか、もしくはある絶対速度で運動しているかのどちらかである[3]。ニュートンは自説を補強するため経験論的な例をいくつか紹介している。たとえば、何もない場所に置かれた回転球体の赤道が膨らんでいれば、それが絶対空間中のある軸を中心として自転していることが察せられる。何もない場所に置かれた二体の球体をつなぐひもに張力がはたらいていれば、それらが重心を中心として絶対回転を行っていることが察せられる。
ただし湯川秀樹は、ニュートンは自然の空間や時間が本当は均一ではない、と睨んでいたからこそ、あえて自らの体系の中で仮想されている空間や時間を「絶対空間」や「絶対時間」と呼んだのだ、といったことを指摘している(出典:『湯川秀樹著作集』岩波書店)。
古典力学では今でも絶対時間と絶対空間が使われているが、Walter NollやClifford Truesdellなどによる現代的な連続体力学の定式化においては、弾性率の線型代数にとどまらず、非線型な場の理論に対して位相幾何学および関数解析学が用いられている[4][5]。