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キクザメ

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キクザメ
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キクザメ (菊鮫、学名:Echinorhinus brucus) は、軟骨魚綱キクザメ目キクザメ科に分類されるサメ。

概要 キクザメ, 保全状況評価 ...

太平洋を除く全世界の熱帯、温帯域の海に生息する。本種はめったに発見されない種であり、通常水深400 - 900メートルくらいの海底で生活するが、それより浅い海に現れることもある。太いがっしりとした魚体の最後方に二つの小さな背鰭を持ち、臀鰭(尻びれ)はもたない。体表に大きな、棘状の楯鱗(サメやエイなどに特有の)が散在していることにより他種と容易に区別できる。体色は茶色か黒色で、最大で体長3.1メートルにまで成長する。

キクザメが捕食する生物には、自分より小さなサメ、硬骨魚、そしてカニが含まれ、動きの遅い本種はこれらを吸い込むように捕食すると考えられる。本種は卵胎生で、メスは一度に15匹から52匹の子を産む。人間に害はなく、漁業においてまれに混獲され、魚粉肝油という形で利用されることがある。

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分類と命名

本種はフランス博物学者ピエール・ジョセフ・ボナテールによって1788年にはじめて記載された。彼は本種をSqualus brucusと名付けたが、このbrucusという種小名はギリシャ語で「深海からの」という意味の語bruxあるいはbruchiosに由来する[4][5]。この時の本種のタイプ標本は紛失している[6]1816年アンリ・ブランヴィルが本種に対し、 Echinorhinus(キクザメ属)という属名を与えた[7]。 1960年代まで、太平洋で捕獲された同属種のコギクザメ(E. cookei)は本種と誤認されていた[5]。英名はBramble shark(「イバラのサメ」の意)の他にSpinous shark、Spiny shark(どちらも「トゲのあるサメ」の意)などがある[8]

形態

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キクザメの体(上図)。体の後方に背鰭があり、臀鰭を欠き、楯鱗(下図)が大きく棘状なのが特徴。

キクザメの体は太い円筒状であり、頭部は少し平たくなっている。鼻先は丸みを帯びていて、鼻孔が大きい。目に瞬膜はなく、目の後ろには噴水孔がある。口は幅が広く湾曲しており、両端にはわずかに溝がある。上顎には20から26、下顎には22から26の歯列が並ぶ。それぞれの歯はナイフのように先端が尖っていて、尖った小突起もいくつかみられる。5対の鰓裂がみられ、その中で最も尾側にある対が最も長い[6][9]

胸鰭は短く角張っている。一方腹鰭は長く比較的大きい。二枚の背鰭は小さく、頭寄りの第一背鰭の始点は腹鰭の始点と並んでいる。臀鰭はなく、尾柄は太い。尾鰭は非対称形で上部が伸長している[10]

皮膚は数ミリメートルの厚さの悪臭を放つ粘液で覆われている[11][12]。様々な大きさ(最大で1.5センチメートル程度)の楯鱗(皮歯)が全身に不規則に散在する。それぞれの楯鱗は棘状で、その基底部から放射状に溝が広がっている。最大で10ほどの楯鱗が一体化することがある。90センチメートルより小さい個体では、頭部の下側と口の周りの領域は小さな楯鱗に覆われている。大きな個体ではこの楯鱗が大きく、まばらになる。本種の上部(背部)は茶色から黒色で、紫色の光沢を帯びる。下部(腹部)は腹部より色が薄い。赤か黒の斑をもつ個体もいる。捕獲して間もないうち緑色の光沢があったという標本が一例ある。本種は最大で体長3.1メートルに達する。記録されている最大の重量は体長2.8メートルのメスの個体で、200キログラムであった[6][3][5]

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分布

キクザメの記録はきわめて稀で、その場所は東太平洋を除く世界中の温帯、熱帯海域に散在している。ほとんどの記録は東大西洋と西インド洋に集中しており、ここでの分布域は北海ブリテン島から地中海を含みインド洋のモザンビークまで広がっている。西大西洋では、アメリカマサチューセッツノースカロライナルイジアナ、そしてトリニダード・トバゴブラジルアルゼンチンから少数の標本が得られている[5]インド太平洋ではオマーン[13]インド、南日本、南オーストラリアニュージーランド、そしておそらくキリバスで記録がある[6]

本種は海底近くで見つかり、通常水深400 - 900メートルの大陸縁辺部や大陸棚に生息すると考えられる[14]。しかしながら、最も浅いところで冷水の湧昇がみられる水深18メートルの地点からも記録があり、最も深いところでは水深1,214メートルから記録がある[3][6][10]。少なくともヨーロッパの海では、夏の間は水深20 - 200メートルの浅い海に移動すると考えられている [5]

生態

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卵黄のつまった袋をつけたキクザメの胎児

動きの遅い本種は、自分より小さいサメ(アブラツノザメなど)や、硬骨魚エソなど)、カニを捕食する。咽頭が口の大きさに比較して大きいため、吸い込むように餌生物を捕食していると考えられる[6]。本種は卵胎生である。メスは2つの卵巣と2つの子宮を持つ。子の数の記録は15匹から52匹となっていて、産み出された子の体長は40 - 50センチメートルと推定されている [5][15]。出産直前の胎児の楯鱗は発達中であり、肌にあいた穴のなかにある小さな棘としてみることができる[16]。性的成熟に達するときの体長は未だ定かでないが、成熟したオスの最小記録は1.5メートル、成熟したメスの最小記録は2.1メートルである[6]

人間との関係

肝油が利用されたり、生息地では食用とされることもある[1]

キクザメが人間に危害を及ぼした事例は知られていない。本種はトロール漁業などの漁業、あるいはスポーツフィッシングを楽しむ釣り人によって混獲される。東大西洋では本種は魚粉に加工されるが、商業的にはあまり重要でない[8][6]南アフリカでは本種の肝油が薬として高い価値を持つが、一方インドではその油は価値の低いものとみなされ、防虫のためカヌーに塗るなどして使われる[15]

生息数の推移などに関するデータはないものの、各地で漁獲量が減少していることから2020年の時点で生息数は減少していると考えられている[1]。本種を対象とした漁業、もしくは混獲などが減少の原因として考えられている[1]。ヨーロッパでは19世紀までは比較的一般的だったとされるが、20世紀には多くの地域で絶滅したと考えられている[1] 現在北ヨーロッパ沿岸や地中海では本種はきわめて珍しい種であり、歴史的史料に基づくと北東大西洋における本種の個体数は18世紀19世紀以来かなり減っていると考えられる。この減少の原因は漁業にあるといわれるが、それは本種が長い寿命をもちゆっくりと成長する種であるため、乱獲による影響を強く受けると考えられるからである[5][10]

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出典

関連項目

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