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グラジェントエコー法

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グラディエントエコー法(Gradient Echo Imaging, GRE)は、磁気共鳴画像法(MRI)における撮像シーケンスの一つであり、再収束パルスを用いずに傾斜磁場の操作によって信号を形成する手法である。励起角は通常90°未満で設定され、これにより縦磁化の回復が早まり、短いTRやTEでの撮像が可能となる。信号減衰は主にT2*緩和に依存するため、磁場不均一や磁化率効果に敏感である一方、高速撮像や血流・組織コントラストの強調に有用である。

GRE法には大きく分けてSpoiled GRE、SSFP-FID、SSFP-Echo、Balanced SSFPの4種類があり、横磁化の扱い方やコヒーレンス経路の違いによって画像コントラストが異なる。Spoiled GREはT1強調に適し、Balanced SSFPはT2/T1比に依存した高SNR画像を提供するが、オフレゾナンスによるバンディングアーチファクトを生じやすい。

GREはそのシンプルな構造に反して、定常状態や残留横磁化の取り扱いなど物理的背景が複雑であり、信号形成の理解にはスピンエコーやスティミュレイティドエコーを含むコヒーレンス経路の概念が重要となる。現在では3D撮像や高速撮像に広く用いられ、臨床応用として心臓CINE撮像、血流や灌流の評価、脂肪肝の定量、微小出血や鉄沈着の検出など多岐にわたっている。

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原理と仕組み

グラディエントエコー法(Gradient Echo Imaging, GRE法)は、磁気共鳴画像法(MRI)の撮像シーケンスの一種であり、従来のスピンエコー法と異なり180°パルスを使用せず、傾斜磁場による位相分散と再収束(デフェーズとリフェーズ)によってエコー信号を得る手法である[1]

この方法では再収束パルスが存在しないため、信号減衰はスピン間の相互作用によるT2緩和ではなく、静磁場の不均一や磁化率効果を含むT2*緩和に依存する。その結果、GRE法はスピンエコー法に比べて磁場不均一や金属アーチファクトに敏感である[2][3][1]

GRE撮像ではフリップ角を90°未満に設定することが多く、これにより横磁化と縦磁化の比率を調整し、縦磁化の回復を早めることで短いTR・TEを実現し、高速撮像や3次元撮像に有効となる[3][1]

GRE法はさらにSpoiled GRE、SSFP-FID、SSFP-Echo、Balanced SSFPの4種類に大別される。それぞれ信号形成に関与するコヒーレンス経路が異なり、画像コントラストも大きく異なる[2][4]

特にBalanced SSFP(trueFISP, FIESTAなどに相当)は残留横磁化を保存して利用するため、T2/T1比に依存した特有のコントラストを示すが、バンディングアーチファクトが発生しやすいことが知られている[2][4]

GRE法は撮像時間の短縮、3D撮像、血流効果や磁化率効果の強調などの利点から、臨床現場において広く利用されている[3][5][1]

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シーケンスのバリエーション

グラディエントエコー(GRE)系の高速撮像は、主にRFスポイルド(RF-spoiled), グラディエントスポイルド(unbalanced/gradient-spoiled), バランスドSSFP(balanced SSFP; bSSFP)のバリエーションに大別される。RFスポイルドは短いTRでも残留横磁化の寄与を抑えることで概ねT1強調のコントラストを与え、bSSFPはT2/T1依存で高SNRを提供し、unbalanced系は混合コントラストを示す。[6]

バランスドSSFP(bSSFP)は全軸で勾配面積をゼロにする(完全リワインド)ため、オフレゾナンス(共鳴周波数のずれ)に依存したパスバンド/トランジションバンドの信号特性を示し、帯域の間隔は1/TRで決まる。位相サイクリング(典型は180°)によりバンド位置をシフトし、複数取得の合成で均一化を図ることもできる。[7][8][9] bSSFPはオフレゾナンスに敏感であるため、短いTRの選択や良好なシムが画質安定化に重要であり、信号の直感的理解には有効フリップ角の概念が有用とされる。[7]

グラディエントスポイルドGRE(unbalanced)では、各TRに一定のスポイラ勾配を付加して横磁化を空間的に平均化し、bSSFPに比べて背景磁場の不均一性への感度を低減する一方、SNRは相対的に低い。多くの実装ではわずかな拡散感度も帯びる。[7][6]

RFスポイルドGRE(FLASH/SPGR/T1-FFEなど)は、二次式のRF位相増分(例:117°系列)により残留横磁化成分の寄与を抑制し、短TRでもErnst条件に近いT1コントラストを確保する臨床ワークホースである。造影剤ダイナミクスの撮像や高速3D撮像に広く用いられる。[6][7]

SSFPファミリーの命名は非統一で、unbalanced SSFPにはSSFP-FID(FISP/FFE/GRASS)SSFP-Echo(PSIF/T2-FFE/CE-FAST)が含まれ、balanced SSFPTrueFISP/FIESTA/balanced FFEなどの別名を持つ。[8]

GRASE(Gradient- and Spin-Echo)は、FSEに類似した複数のリフォーカスRF列に、各エコースペーシング内でEPI様のGRE読み出しを挿入するハイブリッドである。高磁場や3D化での時間効率の高い読出しとして有用で、脳灌流のASLにおける3D読出しや、単回呼吸停止での3D MRCPなど、現代的応用が多数報告されている。[10]

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画像の特徴とアーティファクト

グラディエントエコー(GRE)法は、スピンエコーに比べて短い反復時間(TR)とエコー時間(TE)の設定が可能であり、高速撮像や血流強調に適した特徴をもつ[11]

一方で、GRE法はT2* 緩和に依存するため、磁化率差や金属による局所信号低下・歪みなどのアーティファクトが生じやすい[12]。また、流入効果(inflow effect)により血管や血流の描出が強調されるが、流速や乱流によって信号欠損が起こる場合がある[13]

心臓MRIの分野では、bSSFPやspoiled GREなどの派生シーケンスが用いられ、それぞれのアーティファクト特性や描出能の違いが報告されている[14][15]

さらに、GRE法は化学シフトアーティファクト(脂肪と水の信号差による境界アーチファクト)が目立ちやすいが、帯域幅を広げる、脂肪抑制パルスを併用するなどの工夫で低減できることが示されている[12]

臨床応用

グラディエントエコー(GRE)法は、目的に応じたシーケンス設計により多彩な臨床応用が可能である。胸部領域では、並列撮像・圧縮センシング・AI再構成を組み合わせたAI加速3D GREが報告され、CTを基準とした肺結節検出で96.3%の感度、約3分53秒の短時間撮像、さらにLung-RADS分類で高い一致を示し、被ばくのない代替としての可能性が示唆された。[16]

全身一般では、RFスポイリングGRE(主にT1強調、CE-MRAや初回通過灌流など)、bSSFP(高SNR・良好な血液‐組織コントラストだがオフレゾに敏感、心臓CINEの定番)、T2*強調GRE(磁化率差に敏感で微小出血や鉄沈着に有用)といったバリアントの適切な選択が臨床性能を左右する。これらの特性は撮像パラメータ(TR/TE、フリップ角)やRFスプイリング、フロー/ケミカルシフト/モーションへの感受性とともに体系化されている。[6]

肝臓領域では、二重エコー化学シフトGRE(in-/out-of-phase)により、(S_IP−S_OP)/S_IP などの信号差比がCTの肝/脾比(L/S)と強く相関し、脂肪肝の定量的重症度分類に応用可能とされる。装置にPDFF実装がない環境でも、迅速・非侵襲の代替定量法として有用である。[17]

神経・運動器領域では、GRE T2*が局所磁場不均一(磁化率)に敏感であることを活かし、微小出血(CMB)や鉄沈着の検出率を高める。また、T2*マッピングは、関節軟骨や椎間板の早期変性・微小損傷のバイオケミカル変化を定量評価する指標として検討されている。[18]

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技術的発展と歴史

1980年代半ば、低フリップ角と短TRを用いて待機時間を省き、高速・低SAR・良好なSNR/時間効率を実現するFLASH(Fast Low Angle Shot)が提案された。FLASHは読み出し勾配の反転でFIDをエコー化し、多数回の迅速反復により秒オーダーの撮像を可能にした。[19]

その後、RF位相インクリメントとスポイラ勾配で横磁化の履歴を抑えるRFスポイルドGREが普及し、短TRでもエルンスト方程式に従う明確なT1強調が得られるようになった。これは造影MRA、心筋パーフュージョン、3D解剖撮像など高速T1撮像の標準形となった。[20]

一方、全軸の勾配モーメントを各TRで厳密にゼロ化するバランスドSSFP(bSSFP)は、TE=TR/2のエコーで高SNRを示し、短TR条件では概ねT2/T1比に依存する独特のコントラストを与える。心機能CINEなどで広く使われるが、オフレゾナンスによる周期的なバンド状低信号(バンディング)を抑えるため、TR短縮や位相循環などの工夫が重要である。[20]

1990年代初頭、ヒト一次視覚野の刺激課題により、4TのGRE画像で内因性信号が5–20%程度増加し、TEを短縮すると効果が減弱することが報告された。これは血流増加が酸素代謝増加を上回ることで静脈血デオキシヘモグロビンが減少し、磁化率差が縮小、T2*が延長して信号が増えるというBOLD(blood oxygenation level–dependent)コントラストの実証である。[21][22] BOLDは灰白質に優位に現れ、左右視野刺激で一次視覚野の対側半球に局在するなど、機能局在マッピングに有用である。[21][22]

さらに、T2*ベースの手法は、長TEのGREや関連技術を通じて磁化率差(微小出血、静脈、含鉄沈着など)を強調しうる原理・実装・応用が体系化され、構造・機能双方の評価に応用範囲を広げている。[23]

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脚注

関連項目

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