トップQs
タイムライン
チャット
視点

ユークリッドの補題

素数に関する基本的な性質を述べた補題のひとつ ウィキペディアから

Remove ads

ユークリッドの補題(ユークリッドのほだい、: Euclid's lemma)またはユークリッドの第一定理(ユークリッドのだいいちていり、: Euclid's first theorem)とは素数に関する基本的な性質について述べた次の補題である:

ユークリッドの補題  素数 p が 2 つの整数の ab割り切るなら、その素数 pa または b の少なくとも 1 つを割り切る。

この性質は整数論の基本定理を証明する鍵となる[注釈 1] [注釈 2]

ユークリッドの補題の名は、古代ギリシアの数学者アレクサンドリアのエウクレイデスの著作『原論』第7巻の命題30で示されたことによる。

たとえば、p = 19a = 133b = 143 の場合、ab = 133 × 143 = 19019 について、ab = 19019p = 19 で割り切れるので、ユークリッドの補題から a = 133, b = 143 の少なくとも一方は p = 19 で割り切ることができる。実際、133 ÷ 19 = 7 であり a = 133p = 19 で割り切れる。

反例

ユークリッドの補題は p合成数の場合には成り立たない。 たとえば、p = 10a = 4b = 15 の場合、合成数 p = 10 は積 ab = 4 × 15 = 60 を割り切るにもかかわらず、 p = 10a = 4 を割り切れないし b = 15 も割り切ることができない (ab = 60 = 10 × 6)。

定式化

要約
視点

p素数とし、2 つの整数 a, b の積 abp で割り切れるとする(このことは記号的に p ab と表す。これの否定は p ab と表され、abp で割り切れないことを示す)。このとき p a または p b、あるいはその両方が成り立つ。

同値な言明として以下のようなものがある。

  • p a かつ p b ならば p ab
  • p a かつ p ab ならば p b

一般化

一般化された補題もまたユークリッドの補題と呼ばれる:

定理  ca互いに素であり、かつ c ab ならば、c b である。

この定理がユークリッドの補題の一般化であることは、c が素数なら

  • c a
  • ca と互いに素のため c a、従って c b

のいずれかであることによる。

Remove ads

証明

要約
視点

ベズーの補題による証明

ベズーの補題を利用した証明をする[1]。ベズーの補題によれば、x, y互いに素な整数であるなら(x, y最大公約数1 であるなら)、

(1)

を満たすような整数 r, s が存在する。

a, c が互いに素であり、かつ c ab であるとすれば、ベズーの等式 (1) より、以下の等式を得る。

(2)

(2) の両辺に b を掛ければ

(3)

となる。(3) の左辺の第一項は c で割り切れ、第二項は ab で割り切れるので仮定より c でも割り切れる。従ってそれらの和も c で割り切れるから c b が成り立つ。これは上述のユークリッドの補題の一般化になっている。

最小公倍数・最大公約数の性質から

公倍数は最小公倍数の倍数である。…①

公約数は最大公約数の約数である。…②

二つの正整数 の最小公倍数を 、最大公約数を とするとき、

の関係がある。…③

③は①②より直接証明できる。

が互いに素であるとき .ゆえに .…④

ここでユークリッドの補題の前提条件として が互いに素であり、かつ のとき, の倍数かつ、当然 の倍数であるから、 の公倍数. ④より で①より .ゆえに . これが証明すべきことであった.[2]

『原論』の証明

『原論』では第7巻の命題30において、ユークリッドの補題が証明されている。『原論』にある証明はそのままでは意味を理解することが難しいので、Heath (1956, pp. 331f)にある証明を引用する。

命題19
もし四つの数が比例するならば,第1と第4の積は第2と第3の積に等しいであろう。そしてもし第1と第4の積が第2と第3の積に等しいならば,四つの数は比例するであろう[注釈 3]
命題20
同じ比をもつ2数のうち最小の数はそれと同じ比をもつ2数を,大きい数が大きい数を,小さい数が小さい数をそれぞれ割り切り,その商は等しい[注釈 4]
命題21
互いに素である2数はそれらと同じ比をもつ2数のうち最小である[注釈 5]
命題29
すべて素数はそれが割り切らないすべての数に対して素である[注釈 6]
命題30
もし二つの数が互いにかけあわせてある数をつくり,2数の積を何らかの素数が割り切るならば,それは最初の2数の一つを割り切るであろう[注釈 7]
証明
素数 cab を割り切るならば,ca または b を割り切るであろう。
ca を割り切らないと仮定せよ。
そうすれば,[命題29]より,ca は互いに素である。
abmc と仮定せよ。
そうすれば,[命題19]より,cabm となる。
そうすれば,[命題20]と[命題21]より,自然数 n≧1 があって,bnc となる。
したがって,cb を割り切る。
同様にして,cb を割り切らないとき,ca を割り切る。
したがって,ca または b を割り切る。
これが証明すべきことであった[8]
Remove ads

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

Loading related searches...

Wikiwand - on

Seamless Wikipedia browsing. On steroids.

Remove ads