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バージニア級原子力潜水艦

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バージニア級原子力潜水艦
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バージニア級原子力潜水艦(バージニアきゅうげんしりょくせんすいかん、英語: Virginia-class submarine)は、アメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦の艦級。

概要 バージニア級原子力潜水艦, 基本情報 ...

先行するシーウルフ級がコスト上昇のため建造数を削減されたのを教訓としてコスト低減に留意して設計されたほか、冷戦終結後の世界情勢にも対応しており、冷戦後期に建造されたロサンゼルス級の退役を受けて、多数が建造されている。

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来歴

冷戦後期のソ連海軍潜水艦の急激な性能向上に対応して、1979年から1982年にかけて、アメリカ海軍は潜水艦戦略の転換を決断した[1]。これを受けてまず建造されたのがシーウルフ級[1]、将来にわたってソ連潜水艦を圧倒できる対潜戦能力を備えた高性能潜水艦として、1989年度計画より建造を開始した[2][3]。しかし高性能の代償としてコストは高騰しており、また様々な新機軸を導入したこともあって建造段階や運用の初期段階ではトラブルも多発、1989年の冷戦終結や1991年のソビエト連邦の崩壊もあって、建造数は当初予定の30隻よりも削減される見通しとなっていた[2][3]

シーウルフ級のコスト高騰については早くから問題視されており、1988年の時点で、より安価な代替案についての予備的な検討が開始されていた[2][4]。1991年1月には、海軍作戦部長 ケルソー大将によって「センチュリオン」という計画名が与えられ、2月には海軍長官が正式に設計作業を承認、10月にはケルソー大将により要件定義 (MNS) が承認された[4]。1992年8月28日、取得担当国防次官はセンチュリオン計画を正式に国防総省の計画に組み入れ、1番艦を1998年度計画に基づいて建造し、2003年に竣工させる予定を示した[4]

検討を経て、センチュリオン計画艦の排水量は6,000トンから8,500トン程度が適当であると結論され、新規設計艦のほか、シーウルフ級の追加建造や廉価・簡易型、ロサンゼルス級発展型、オハイオ級SSBN派生型、更に通常動力潜水艦まで含めての比較分析(cost and operational effectiveness analysis, COEA)が行われた[4]。1993年8月2日に比較分析が完了した時点では新規設計艦とシーウルフ級追加建造、ロサンゼルス級発展型の3案が俎上に残されたが、ロサンゼルス級発展型については将来発展余地の欠如が問題視され、1994年には候補から脱落した[4]。1993年末頃にはセンチュリオン計画艦はNSSN(New SSN)と称されるようになっており、バリエーション展開について検討するために計画が1年棚上げになる一幕もあったが[注 1]、最終的に、予定通り1998年度計画より建造が開始されることになった[4]。これがバージニア級である[4]

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設計

要約
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船体

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組み立て作業中の「バージニア」

センチュリオン計画の最初期段階で、将来想定されるあらゆる任務においてステルス性が重要になると判断されたことから、シーウルフ級に匹敵する静粛性が求められ、結果として、船体サイズの縮小は一定程度に押さえられた[4]。ロサンゼルス級と比べると、全長は約5メートル長いのに対し、幅や吃水は若干増えた程度であり、L/B比は大きくなった[5]。ただしシーウルフ級と同じく、セイルの前下方には整流用の覆いが装着されていることもあって、浮上時の印象はロサンゼルス級よりシーウルフ級に近い[5]。耐圧殻の素材は、ロサンゼルス級と同じHY-80英語版とする文献と[6]、シーウルフ級と同じHY-100とする文献とがある[7]。なおシーウルフ級と同様、水中での挙動を確認するため、「ヴァージニア」を縮小した設計の無人潜水機「カットスロート」フランス語版が製作されて、試験に供された[8]

本級では、アメリカ原潜として初の非貫通型潜望鏡(光学マスト)の導入を織り込んだことで、艦内配置は大きく改訂された[8]。セイルの直下に発令所を配置する必要がなくなったため、セイルは流体力学的に合理的な船体やや前方に移動し、また発令所は若干後方で、従来より1階層下に移すことで床面積を拡張した[8]。ソナー室も独立区画ではなくなり、コンソールは発令所に配置された[8]。なお本級では操艦をフライ・バイ・ワイヤ方式とし、入力機器としてはジョイスティックを用いている[8]

本級では従来の米SSNと異なり、特殊部隊を支援するため、ダイバーの専用区画と、エスケープハッチを改良したロックアウトハッチを備えている[8]。また発射管室も、魚雷やその装填装置を撤去して、無人潜水機やダイバー輸送用潜水艇などを収容できるように配慮されている[8]

なお建造にあたってはモジュール化が進められており、モジュールをそれぞれ個別に製作した後に耐圧殻に挿入するという方式が採用されている[8]。この方式では、耐圧殻内への組付け前にモジュールごとに試験を行えるほか、将来的なアップデートも容易になるというメリットがある[8]。当初は10個のモジュールによって構成されていたが、2003年度計画の5番艦「ニュー・ハンプシャー」[7]以降は4個に削減することで工期短縮を図っており[8]ブロックIIと称される[9]

2009年度計画の11番艦「ノース・ダコタ」以降は、下記のとおりソナーやミサイル搭載方式を刷新したほか、設計・建造方式も改訂され、建造費の20パーセントの抑制に成功しており、ブロックIIIと称される[8][9]。19番艦「ヴァーモント」以降のブロックIVは細部の設計を改訂することでライフサイクルコストの低減を図っており、従来は実用寿命の間に行える作戦航海は14回、その間に必要なドック入りデポ整備は4回と見積もられていたのに対して、ブロックIVではドック入りデポ整備を3回に減らすことで作戦航海を15回に増加させる[9]。また2019年度計画の29番艦以降は船体を延長して下記のとおりミサイル装備を強化したブロックV、2024年度計画以降の建造分は小改正型のブロックVIとなる[9]。ブロックV・VIの水中排水量は10,000トンを超え、船体は細長くなり、オハイオ級に近いシルエットとなることから、水中運動性能の低下を懸念する声もある[9]

機関

動力源としてはS9G原子炉が搭載された[3]。シーウルフ級のS6Wと同じく、一次冷却水について自然循環併用方式としており、最大出力までのかなりの部分でポンプを使用せずに運転できるようになったことで、雑音の大幅な低減を実現したといわれる[10][11]。また炉心寿命を艦の運用寿命と同等としたのもシーウルフ級と同じで、艦の退役まで燃料交換が必要なくなり、コスト低減に貢献している[8]

推進器はシーウルフ級と同じくポンプジェット方式とされた[10][11]

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装備

要約
視点

C4ISTAR

ソナー

本級は、AN/BQQ-6ソナーを搭載するものとして設計された[7]。その後、シーウルフ級やロサンゼルス級、オハイオ級の同系列ソナーと同様に信号処理装置の商用オフザシェルフ(COTS)化を主眼とするアップグレードであるA-RCI(Acoustic Rapid COTS Insertion)を受けることになり、システム区分はBQQ-10に変更され、本級向けのシステムは1番艦の建造途上にあたる2000年12月に引き渡された[12]。送受波器としては、艦首の球形アレイと船体側面の平面アレイ(Wide Aperture Array, WAA)、そして標準型(TB-16)および細径(TB-29)の2種類の曳航アレイが搭載された[10]。WAAはシーウルフ級で搭載されたものと同系列だが、受波器は従来のセラミック方式ではなく、光ファイバーによるレーザー駆動方式を採用することで軽量化を実現している[10]

ブロックIIIの艦(11番艦以降)では、艦首アレイをLAB(Large Aperture Bow)に変更した[8][10]。これは従来の球形アレイにかわって、艦首部の形状に沿って送受波器や受波器を配列したコンフォーマル・アレイ方式を採用しており、アレイ全体の水密を確保するための手順が不要になったほか、球形アレイでは一部の素子が故障した場合もアレイ全体を交換する必要あったのに対し、LABでは故障した素子のみを交換すればよくなり、製造・保守のコスト低減が図られている[8]

また艦首下部(チン・アレイ)およびセイルには高周波の機雷探知用ソナーが装備されている[13]

情報処理装置

潜水艦情報処理装置としては、BYG-1が搭載された[8]。これはロサンゼルス級などの武器管制システムであるCCS Mk.1(Combat Control System)の後継機であるCCS Mk.2を更に発展させたシステムであり[14]、開発にあたってはBSY-2のソフトウェア資産が活用された[15]

電波・光波機器

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本級は在来型の潜望鏡を廃止し、非貫通型潜望鏡であるBVS-1光学マストを2本搭載した[8]。これは伸縮式マストの先端にカラー/モノクロデジタルカメラや赤外線撮像機光波測距儀などを取り付けて、艦内のディスプレイで映像を表示するもので[10]、上記の通り艦内配置の制約を大きく緩和したほか、映像を複数人で同時に確認できるというメリットもある[2][8]

2017年9月には、コスト削減案の一つとして、光学マストの操作にマイクロソフト社製の民生用テレビゲーム機であるXbox 360のコントローラーを採用する計画がある事が報じられた[16]。現在の潜望鏡制御システムのコストは約3.8万USドル(約400万円)であるが、XBOXのコントローラを採用することによりコストが約1,000分の1の30-40ドルになり、また大柄で扱いにくいという声がある現在の制御システムに比べて、直感的に操作出来る事で訓練期間の短縮も可能であるとされる[17]

また電波探知装置(ESM)としてBLQ-10、レーダーとしてBPS-16を備えている[8]

武器システム

魚雷発射管

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魚雷発射管室内の制御装置

艦首やや後方の両舷に、533mm魚雷発射管が各2門設置されている[10][18]。この魚雷発射管は、圧縮空気によって駆動されるポンプによって取り込んだ海水に圧力をかけて射出するという、空気タービン・ポンプ(Air Turbine Pump, ATP)方式を採用している[10]

魚雷搭載数は26本で、発射管の設置数ともども、ロサンゼルス級とほぼ同数となる[2]

ミサイル垂直発射装置

ブロックI・IIの艦では、ソナーの艦首アレイとセイルの間に12セルのVLSが配置され、トマホーク巡航ミサイルの運用に用いられる[10]。このVLSの搭載数もロサンゼルス級と同数である[2]

ブロックIIIでは、上記のようにソナーの艦首アレイが球形アレイからLABに変更され、艦首のスペースに余裕ができたことから、VLSに代わり2基のVPT(Virginia Payload Tube)が搭載された[8]。これは直径2.22メートルの統合型の発射筒で[10]1,300–2,100 lb (590–950 kg)のペイロードを収容可能であり、標準的には、オハイオ級の一部を巡航ミサイル潜水艦(SSGN)に改造する際に採用されたMAC(Multiple All-up round canister)を搭載する[8]。オハイオ級SSGNではキャニスターの中心に1発、その周囲に円周状に6発の計7発のトマホークを搭載していたが、VPTでは中心部は整備点検用スペースとされ、キャニスター1基あたり6発を搭載する形態となるため、VPT 2基で12発と、ミサイル搭載数はブロックI・IIと同数となる[10]。また無人潜水機など、その他の装備の運用も構想されている[8]

さらにブロックVでは、セイル後方の船体を延長して長さ26mのモジュールを挿入し、ここにVPM(Virginia Payload Module)を搭載している[9]。VPMには大直径の垂直ペイロードチューブ4本が直列に並べられており、ここにもMACを搭載できる[19]。トマホークであればペイロードチューブ1本につき7発を収容できるため、VPTへの搭載分とあわせて40発を搭載することになる[9]。またペイロードチューブの直径の大きさを活かして、無人潜水機や、通常型即時攻撃(CPS)の搭載も想定されている[9]

2024年度に調達を開始する2隻のうち片方は、このミサイル発射管を一部転用し海底戦用の装備を組み込む「改良バージニア級海中・海底戦」(Mod VA SSW:Modified VIRGINIA Class Subsea and Seabed Warfare)構成になる。この艦は現在海底戦任務に就いているシーウルフ級3番艦「ジミー・カーター」の後継、または戦力増強のいずれかの目的で導入されるとみられている[20]

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比較表

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同型艦

要約
視点

2020年代には冷戦期に大量建造されたロサンゼルス級の退役が続いていることから、本級も多数が建造されている[2]。ただし本級の建造ペースがロサンゼルス級の退役ペースに追いついていないため、建造ペースを上げるための施策が講じられているが、衰退著しいアメリカの造船業の状況を考えると実効性は不透明であり、今度もその動向を注視していく必要があると評されている[2]

さらに見る ブロック, 艦番号 ...

オーストラリアのバージニア級導入に向けた動き

2023年3月9日オーストラリアがアメリカ・イギリスとの安全保障枠組み「AUKUS」の一環として、2030年代に最大5隻のバージニア級を購入する方針であると、ロイター通信が4人の米関係筋の情報として報道した[31][32]共同通信によるとインド太平洋で海洋進出を強める中国に対抗する狙いがあるとされ、2030年代前半に3隻のバージニア級を購入するとともに、更に2隻追加購入することも検討している[32]

2023年3月13日、アメリカのジョー・バイデン大統領、イギリスのリシ・スナク首相、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相カリフォルニア州サンディエゴ海軍基地で会談し、オーストラリアの原子力潜水艦取得に向けた3段階の工程表を発表した[33][34]。その中で、第2段階として2030年代前半にオーストラリアがバージニア級を3隻購入し、同時に必要に応じて2隻を追加購入することが発表された[33][34]

2023年11月16日、アメリカ海軍でAUKUSプログラムを担当するリンカーン・ライフステック大佐は14日「オーストラリアの兵士だけでなく造船産業界の労働者にも原潜に慣れ親しんでもらおうと取り組んでおり、2030年代初頭までにオーストラリアの原潜受け入れ準備が整う予定で、2032年と2035年にバージニア級原潜のブロックIVを、2038年にブロックVIIを売却することになる。さらに2030年代後半にイギリスで建造されたAUKUS原潜が引き渡され、2040年代前半頃にオーストラリアで建造されたAUKUS原潜を受け取るだろう」と発表した[35]

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登場作品

映画

ハンターキラー 潜航せよ
映画公開の時点で建造中であるUSSアーカンソーが主人公の乗艦として登場。実際には開発が中止になったASDSを搭載して作戦に投入される。

漫画

空母いぶき
尖閣諸島攻略戦を外部から黙視していた艦が中国人民解放軍海軍の「遠征103」の轟沈を確認している。

アニメ

ゴジラ S.P <シンギュラポイント>
バイオハザード: インフィニット ダークネス
第2話に一部改良を施した同型艦が登場。主人公のレオンら合衆国エージェントを上海市に潜入させるため、潜航艇を乗せてグアムの海軍基地から出航する。しかし中国領海内に入った後、艦内でバイオテロが発生して大勢の乗組員らが死亡。さらに自爆プログラムが作動し、レオンらが潜航艇で脱出した後、爆沈した。
魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女
「ニューメキシコ」が登場。時代設定が2096年であり外観も装備も一新している。主な改装点は、全長が300mに拡大され垂直離着陸機の運用能力が付与されている。
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脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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