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円回内筋症候群
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円回内筋症候群(えんかいないきんしょうこうぐん、英語: Pronator teres syndrome; PTS)は、前腕前面にある正中神経(せいちゅうしんけい、Median nerve)が、主に円回内筋(えんかいなきん、Pronator teres muscle)付近で圧迫されることによって生じる絞扼性神経障害の一つである。手根管症候群と症状が類似しているため、しばしば鑑別が必要となる。
疫学
円回内筋症候群は、手根管症候群と比較して稀な疾患である。女性に多くみられ、男性の約4倍の罹患頻度があるとされる。発症年齢は比較的幅広く、特に反復的な前腕の回内・回外動作(手のひらを下向き・上向きにする動き)を伴う職業(大工、機械工、組み立てライン作業員など)やスポーツ(テニス、ボート競技、重量挙げなど)に従事する人に多く発生する傾向がある。
病態生理
正中神経は、上腕から前腕を通り手首、指先へと伸びる主要な神経の一つで、前腕の特定の解剖学的部位で圧迫を受けやすい。円回内筋症候群では、以下の部位での圧迫が主な原因となる。
- 円回内筋の二頭間:正中神経が円回内筋の浅頭と深頭の間を通過する際に圧迫される(最も一般的)。
- 上腕二頭筋腱膜(Bicipital aponeurosis):肘窩(ちゅうか、肘の前面のくぼみ)を横切るこの線維帯が厚くなることで圧迫が生じる。
- 浅指屈筋の線維性弓(Fibrous arch of the flexor digitorum superficialis):この部位での圧迫も起こりうる。
- ストルザース靭帯(Ligament of Struthers):稀に、肘関節近くの上腕骨内側上顆(ないそくじょうか)にある骨棘(こつきょく)と結合する先天的な靭帯によって圧迫されることがある。
これらの部位での圧迫により、正中神経の機能が障害され、痛み、しびれ、筋力低下などの症状が現れる。
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症状
症状は通常、利き腕に多く発生し、以下のような特徴がある。
- 痛みと不快感:前腕近位部(肘に近い側)に沿った鈍い痛みや不快感。
- しびれと感覚異常:母指、示指、中指、および環指(薬指)の橈側(親指側)半分の掌側(手のひら側)と指先にしびれやチクチク感(錯感覚)が生じる。手根管症候群と異なり、正中神経からの枝である**掌枝(palmar cutaneous branch)**が圧迫部位より近位で分岐しているため、手のひら自体の感覚は保たれることが多い。
- 筋力低下:母指の外転(横に開く動き)や、母指と示指で行うピンチ動作(つまむ動き)の筋力低下。
- 夜間痛の欠如:手根管症候群で特徴的な夜間の症状悪化や痛みは、円回内筋症候群では通常みられない。
- 動作による悪化:症状は、前腕の反復的な回内動作や、抵抗をかけた回内・肘伸展の動作によって悪化する。
診断
診断は、症状の問診と身体診察に基づいて行われる。
- 疼痛誘発テスト:肘を90度曲げた状態で、術者が前腕の回外(手のひらを上に向ける動き)に抵抗をかけ、患者に回内(手のひらを下に向ける動き)を維持させつつ肘をゆっくりと伸ばす(伸展させる)動作で、症状が誘発される場合に陽性と判断される(円回内筋症候群テスト)。
- Tinel徴候:円回内筋部(肘のやや下)を軽く叩くと、指先に向かって放散する痛みやしびれが生じる(陽性)。
- 神経伝導検査・筋電図検査:これらの電気生理学的検査は、正中神経の障害部位を特定し、手根管症候群などの他の神経障害と鑑別するために有用である。ただし、軽症例では正常値を示すこともある。
治療
治療は、まず非外科的(保存的)療法から開始されることが一般的である。
- 保存的治療
- 安静と活動制限:症状を悪化させる反復動作や過度な負荷を避ける。
- 装具療法:肘関節の装具を用いて、神経への圧迫が少ない位置で固定する。
- 薬物療法:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを用いて、痛みや炎症を抑える。
- 理学療法(物理療法):ストレッチや筋力訓練、超音波治療などが行われる。
- 局所注射:ステロイド注射が症状緩和のために行われることがある。
- 外科的治療
保存的治療を6週間以上続けても効果がない場合や、神経障害が進行している(高度な筋力低下や感覚麻痺がある)場合、手術が検討される。手術では、正中神経を圧迫している円回内筋の腱やその他の組織を切開・解放し、神経の圧迫を取り除く(神経剥離術)。
関連項目
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