以下の表は中古文の語法が中心となっている。語法とは時代によって変化するものであり、助動詞の表す意味も使われ方次第で変わってくる。この表は一時的でも使われていた意味は記し、なるべく備考の欄に使われていた時期などを記した。
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種類 | 活用形 | 活用の型 | 接続 | 意味 | 備考 |
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
受身 | る | れ | れ | る | るる | るれ | れよ | 下二段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 受身・尊敬 |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | られよ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 |
る | れ | れ | る | るる | るれ | ○ | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 自発・可能 |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | ○ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 |
使役 | す | せ | せ | す | する | すれ | せよ | 下二段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 使役・尊敬 | 上代文法では「しむ」のみが使役を表していた。 |
さす | させ | させ | さす | さする | さすれ | させよ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | 使役・尊敬 |
しむ | しめ | しめ | しむ | しむる | しむれ | しめよ | 未然形 | 使役・尊敬 | 中古になり「す」「さす」の発達に伴い一時使われなくなったが、中世になり再び使われるようになった。 |
過去 | き | せ | ○ | き | し | しか | ○ | 特殊型 | 連用形 | 過去 | カ変に接続するときはこし・こしか・きし・きしか、 サ変に接続するときはせし・せしか・しきの形でしか接続しない。 |
けり | けら | ○ | けり | ける | けれ | ○ | ラ変型 | 過去・詠嘆 | 上代では過去完了を表していたが、中古では間接過去を表すようになった。 |
完了 | つ | て | て | つ | つる | つれ | てよ | 下二段型 | 連用形 | 完了・確認・並列 | 人為的な場合に使う。 |
ぬ | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね | ナ変型 | 自然発生的な場合に使う。 |
たり | たら | たり | たり | たる | たれ | たれ | ラ変型 | 存続・完了 | 現代語の接続助詞「たり」は、この助動詞から転じたものである[注 8]。 |
り | ら | り | り | る | れ | れ | サ変の未然形と四段の已然形(註:助動詞「り」の接続参照) | 中古になり「たり」の発達に伴い使われる事が少なくなった。 |
丁寧 | す | さ | し | す | す | せ | せ | 四段型 | 未然形 | 丁寧 | 「さうらう」から転じて。使用例も稀で、ほとんどの教科書・参考書には載っておらず、文章に出てきたとしても尊敬の「す」で訳されてしまうことがある。 |
推量 | む(ん) | ま | ○ | む(ん) | む(ん) | め | ○ | 四段型 | 未然形 | 推量・意志・適当・勧誘・仮定・婉曲 | 現代語の助動詞「う」はこれから転じたもの。 意味が非常に多いが、基本は推量・意思・勧誘であり他はこの発展と考える事が出来る。 |
むず | ○ | ○ | むず | むずる | むずれ | ○ | サ変型 | 推量・意志・適当・婉曲 | 成立は中古の口頭語と言われ、清少納言も『枕草子』の中で手紙などでは決して使うべきでないと記している[注 9]。 |
まし | ましか・ませ | ○ | まし | まし | ましか | ○ | 特殊型 | 反実仮想・実現不可能な願望・ためらいの意志・推量・意志 | 「ませば(ましかば)~まし」で反実仮想を表す。 |
けむ(けん) | けま | ○ | けむ(けん) | けむ(けん) | けめ | ○ | 四段型 | 連用形 | 過去推量・過去の原因推量・過去の伝聞・過去の婉曲 | 「らむ」よりも過去を表す。 |
らむ(らん) | ○ | ○ | らむ(らん) | らむ(らん) | らめ | ○ | 終止形とラ変型の連体形 | 現在推量・原因推量・伝聞・婉曲 | 「けむ」よりも現在を表す。 |
らし | ○ | ○ | らし | らし・らしき | らし | ○ | 無変化型 | 推定 | 中古以降はあまり使われなくなり、上代語として扱う参考書も若干ある。但し、室町時代の口頭語において再び使われるようになり、現代語では「らしい」となっている。 |
めり | ○ | めり | めり | める | めれ | ○ | ラ変型 | 推定・婉曲 | 「見(み)あり」から転じたもの。 |
べし | べく・べから | べく・べかり | べし | べき・べかる | べけれ | ○ | ク活用型 | 推量・意志・可能・当然・義務・命令・適当・勧誘 | これの派生形が「べらなり」である。 現代において東日本各地の方言にみられる助詞の「べ」あるいは促音・半濁音化した「っぺ」は、「べし」の語幹「べ」に由来する。 |
べらなり | ○ | べらに | べらなり | べらなる | べらなれ | ○ | ナリ活用型 | 推量 | 中古に一時的に見られたもので省略する教科書や参考書も多い。 |
否定 | ず | ず・ざら | ず・ざり | ず・ざり | ぬ・ざる | ね・ざれ | ざれ | 特殊型 | 未然形 | 否定 | 活用には諸説あるが[注 10]、ここではあえて可能性のあるもの全てを記した。 |
否定の推量 | じ | ○ | ○ | じ | じ | じ | ○ | 特殊型 | 未然形 | 否定の推量・否定の意志 | 助動詞「む」の否定に当たる。 |
まじ | まじく・まじから | まじく・まじかり | まじ | まじき·まじかる | まじけれ | ○ | ク活用型 | 終止形とラ変型の連体形 | 否定の推量・否定の意志・不可能・否定の当然・不適当・禁止 | 助動詞「べし」の否定に当たる。 |
願望 | たし | たく・たから | たく・たかり | たし | たき・たかる | たけれ | ○ | ク活用型 | 連用形 | 願望 | 口頭語では「たし」、文章では「まほし」が使われる。 |
まほし | まほしく・まほしから | まほしく・まほしかり | まほし | まほしき・まほしかる | まほしけれ | ○ | シク活用型 | 未然形 |
断定 | なり | なら | なり・に | なり | なる | なれ | なれ | ナリ活用型 | 体言と連体形 | 断定・指定・所在・存在 | 現代語の「だ」の仮定形「なら」や形容動詞語尾「な」は、「なり」に由来する。 |
たり | たら | たり・と | たり | たる | たれ | たれ | タリ活用型 | 体言 | 断定・指定 | 主に使われたのは中世以降で、文章や和歌でしか使われない。 |
伝聞 | なり | ○ | なり | なり | なる | なれ | ○ | ナリ活用型 | 終止形とラ変型の連用形 | 伝聞・推定 | 「音(ね)あり」から転じたもの。 |
比況 | ごとし | ごとく | ごとく | ごとし | ごとき | ○ | ○ | ク活用型 | 連体形 | 比況・例示 | 形容詞に含める場合もある。 |
ごとくなり | ごとくなら | ごとくなり・ごとくに | ごとくなり | ごとくなる | ごとくなれ | ごとくなれ | ナリ活用型 | 連体形と体言 | 比況 | 「ごとし」を形容詞と見る場合にはその補助活用と見られる。 |
やうなり | やうなら | やうなり・やうに | やうなり | やうなる | やうなれ | やうなれ | ナリ活用型 | 体言 | 比況・例示 | 上代ではあくまでも「やう」と「なり」の形として使われていて、助動詞の形になったのは中世と言われている。 |
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助動詞「り」の接続
 | この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
学校文法を成した橋本進吉によれば、助動詞「り」の接続は命令形である。これは四段及びサ変動詞にしかつかない。
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種類 | 活用形 | 活用の型 |
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
四段 | -u | -a | -i | -u | -u | -e | -e | 四段正格活用 |
サ変 | す | せ | し | す | する | すれ | せ(よ) | サ行変格活用 |
カ変 | く | こ | き | く | くる | くれ | こ(よ) | カ行変格活用 |
存続(り) | り | ら | り | り | る | れ | れ | ラ行変格活用 |
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一般的な高校学習参考書類では、サ変命令形に対して「せ」を認めることは少ないが、本来の活用形は「せ」であると考えられる。命令形「–よ」の語源として間投助詞「よ」を認めることができるのは、カ変からも明らかである。
かつて、存続「り」は次の接続であるとされた。
- 四段正格活用には已然形につく
- サ行変格活用には未然形につく
これらは、上代(奈良時代ごろ)の仮名遣いである上代特殊仮名遣の研究により否定された。四段正格活用の已然形・命令形は同形に見聞きできるが、上代仮名遣いでは母音エに対して二通りの表記が存在する。この二通りをそれぞれ甲類・乙類と呼びならわす。
四段已然形では乙類、四段命令形では甲類が使われており、この仮名遣いを調べれば接続もわかる。存続「り」の場合、甲類にばかり接続するために「命令形接続である」と論証したのである。学参や辞書において四段への接続は、「已然形と命令形」どちらか定まるわけではないが、それは形の上では差し支えないので、従来通りとして積極的には改められないのであろう[要出典]。
サ変に関しては、「せ」の形は未然形と命令形に認められるが、ここは四段と同じだと考えて命令形とする。高校学習では、上代仮名遣いや語源にまで言及しないため、サ変への接続は未然形として扱うのである。[要出典]
以上は、「り」を独立した「助動詞」としてみる際の文法上の接続についてであるが、そもそもは「連用形(-i)+あり」であり、/-ia/の母音連接により結合して/je/(エ段甲類音)を為したのが起源であり、そもそも「〇〇形に接続」との言い方は適切とはいえない。
上代文法
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種類 | 活用形 | 活用の型 | 接続 | 意味 | 備考 |
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
受身 | ゆ | え | え | ゆ | ゆる | ゆれ | ○ | 下二段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 受身・尊敬 | 後に助動詞「る」になった。 |
らゆ | らえ | らえ | ○ | ○ | ○ | ○ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | 後に助動詞「らる」になった。 |
尊敬 | す | さ | し | す | す | せ | せ | 四段型 | 四段・サ変の未然形 | 尊敬 | 後に助動詞「す」「さす」に吸収された。 |
推量 | ましじ | ○ | ○ | ましじ | ましじき | ○ | ○ | ク活用 | 終止形とラ変型の連体形 | 過去推量・過去意思 | 後に助動詞「まし」になった。 |
打ち消し | なふ | なは | なひ | なふ | なへ | なへ | ○ | 特殊型 | 未然形 | 打ち消し | 東国方言。後に形容詞「無ひ」との混同で助動詞「ない」になった。 |
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