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情報行動
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情報行動(じょうほうこうどう、英:Information behavior)は、さまざまな文脈において人がどのように情報を探索し、利用するかを理解しようとする図書館情報学の研究領域[1]。これは情報探索(英語版)や情報検索を含むが、人がなぜ情報を求め、どのようにそれを用いるのかを理解することも目的とする。「情報行動」という語は1982年にトーマス・D・ウィルソンが命名し[2]、導入当初は論争を引き起こした[3]。現在ではこの語は広く採用され、ウィルソンの情報行動モデルは情報行動研究文献で広く引用されている[4]。2000年、ウィルソンは情報行動を「情報の源泉とチャネルに関する人間行動の全体」と定義した[5]。
情報行動に関する多様な理論は、情報探索を取り巻く諸過程の理解を目指す[6]。21世紀初頭における情報行動の最も引用された出版物の分析は、その理論的性格を示している[7]。情報行動研究は、心理学・社会学・教育学のより広い研究パラダイムに根ざした多様な研究方法論を用い得る[8]。
2003年には、情報探索研究のための枠組みが提案され、研究対象について明確で構造化された記述を作成することを導き、情報探索を情報行動の内部に位置づける概念として捉えることを狙いとした[9]。
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情報行動の諸概念
情報ニーズ
情報ニーズ(英語版)はウィルソンが導入した概念である。個人の情報ニーズを理解することは、次の三要素を含む。
- なぜその個人が情報を探す決断をするのか
- 見つけた情報はどのような目的に資するのか
- 情報が取得されたのち、それはどのように利用されるのか[2]
情報探索行動
情報探索行動は、情報行動の中でもより特定的な概念で、検索・発見・取得に焦点を当てる。情報探索行動の研究は、情報システムの改良に焦点を当てうるし、情報ニーズを含む場合には、利用者がそのように振る舞う理由にも焦点を当てうる。
利用者の情報探索行動に関するレビュー研究は、行動要因・個人要因・製品とサービス要因・状況要因が情報探索行動に影響することを指摘した[10]。情報探索行動は、利用者側で明示的であったりそうでなかったりする。利用者は当該データの中に見出し得るタスクを解決したり、ある知見を確定したりしようとする場合もあれば[11]、視覚コンテンツの探索や情報サービス内容への習熟といった用途において、探索過程それ自体が目的の一部であることもある[12]。(ネットサーフィンなど)
一般論としては、情報探索は検索エンジンとの一回限りの取引ではなくセッションとして理解・分析されるべきであり、目下の情報ニーズに加えて、利用者の高次の意図を含む広い文脈で捉える必要がある[13]。
情報利用
情報ニーズとは、自身の知識にギャップが存在することの認識であり、そのギャップを埋めるために情報を求めたいという欲求を惹起する。これは、多くの場合、現在の理解では解決できない問題や問いに遭遇したときに生じる。
情報貧困と障壁
1987年にエルフレダ・チャットマン(英語版)が導入した情報貧困は[14]、情報へのアクセスがすべての人に等しく開かれてはいないという理解に基づく。情報貧困は情報そのものの欠如というよりかは、自身の経験が、外部から提供される情報への不信を生むという世界観を指す[14]。
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メタ理論
要約
視点
図書館情報学において、メタ理論は「与えられた現象についての理論化を方向づけ導く一群の仮定」と記述される[15]。図書館情報学の研究者たちは、自らの研究で複数の異なるメタ理論を採用してきたが、昨今の研究者の共通関心・論点は、情報行動・情報利用者・情報利用の研究を支える理論の幅広さである。諸研究が同一の理論に基づかない場合、個別研究の比較や統合が困難になるため、懸念として指摘されてきた。これは1980年代初頭の情報行動文献研究でも表明されており[16]、より新しいレビューでは、情報行動研究の裾野があまりに広いため、特定の文脈や状況に範囲を絞る必要があると宣言されている[17]。
以下は、図書館情報学研究を導いてきたメタ理論のうちの一部(すべてではない)の記述である。
認知主義的アプローチ
情報行動の理解に対する認知的アプローチは心理学に根ざす。これは、人の思考が情報の探索・取得・利用の仕方に影響するという前提を置く。情報行動が認知によって影響されるという前提から出発する研究者は、人が情報行動に従事している最中に何を考えているのか、そしてそれらの思考が行動にどのように影響するのかを理解しようとする[18]。
ウィルソンが情報ニーズを定義して情報探索行動を理解しようとした試みには、認知的アプローチが含まれる。ウィルソンは、情報行動が個人の認知的ニーズによって影響されると理論化する。個人の認知的情報ニーズを理解することで、その人の情報行動への洞察が得られるかもしれない[2]。
ナイジェル・フォードは情報探索に対して認知的アプローチを取り、情報探索の知的過程に焦点を当てる。2004年、フォードは情報検索システムをいかに改善するかに焦点を当てる認知的アプローチにもとづく情報探索モデルを提案し、情報探索と情報行動を同義ではなく、それ自体としての概念として確立することに資した[19]。
構築主義的アプローチ
情報行動への構築主義的アプローチは、人文社会科学に根をもつ。これは社会構築主義に依拠し、人の情報行動が社会における経験によって影響されると仮定する[18]。情報行動を理解するために、構築主義的研究者はまず、その行動を取り巻く社会的言説を理解しなければならない。構築主義的な情報行動研究でもっとも参照される思想家はミシェル・フーコーであり、彼は普遍的人間本性の概念を退けた。構築主義アプローチは、個人の社会経験にもとづいて行動を文脈化する余地を拓く。
この社会構築主義的アプローチで情報行動を研究した一例として、公立図書館の編み物グループにおける情報行動の研究がある[20]。著者らは研究の枠組みに集団主義理論を用い、情報行動の普遍性を否定し、「コミュニティが情報ニーズ・探索・源泉・利用をいかに集団的に構築するか」を理解することに焦点を当てる[20]。
構成主義的アプローチ
構成主義的アプローチは教育学と社会学に由来し、「個人は、自らが活動している社会世界から強く影響を受けつつ、自分の世界についての理解を能動的に構築する」とみなす[18]。情報行動の構成主義的研究は概して、個人の現実を、その人が暮らす社会によって築かれるというよりは、当人の心の内に構築されるものとして扱う[21]。
構成主義メタ理論は、社会構成主義(英語版)によって社会や文化の影響に余地を与える。「心は世界との関係において現実を構築するが、この精神過程は社会的慣行・歴史・重要な他者との相互作用から受ける影響によって大きく方向づけられる」と論じるからである。[21]
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理論
要約
視点
上述のように、情報行動研究については理論の多様性が懸念されてきたが、近年の研究はこれらの理論・理論モデルの影響がごく限定的であることを示している[22]。研究者は、社会学・心理学・コミュニケーション学・組織行動学(英語版)・計算機科学など多くの分野から概念や理論を援用してきた[23][24]。
ウィルソンの情報行動理論
この語は、トーマス・D・ウィルソンが1981年の論文で命名した。根拠は、当時用いられていた「情報ニーズ」という用語はニーズ自体が直接観察できないのに対し、人々が2情報を探す際にどのように振る舞うかは観察・調査できるからというものだった[2]。もっとも、情報検索の分野では、行動を背後のニーズに結び付ける研究が増えてきている[25]。2000年にウィルソンは、情報行動を、能動的・受動的な情報探索と情報利用を含む、情報の源泉とチャネルに関する人間行動の全体として記述した[5]。彼は情報探索行動を、何らかの目標を満たす必要から生じる、目的的な情報探索と記述した。情報探索行動は、探索者があらゆる種類の情報システムと相互作用する際に用いるミクロレベルの行動であり、探索者とシステムとの相互作用にも、検索を組み立てて追跡するという純粋な方法にもあてはまる。
トーマス・ウィルソンは、情報行動が能動的であれ受動的であれ、人間の情報行動のあらゆる側面を覆うと提案した。情報探索(英語版)行動は、特定の疑問に答えるために能動的に情報を探す行為である。情報検索行動は、探索者が対象のシステムと相互作用することから生じる行動である。情報利用行動は、探索者が求めた知識を自己に取り入れることに関わる。
小社会と「閉じた生活」
エルフレダ・チャットマン(英語版)は「閉じた世界」理論を展開し、これを「容認された近似的世界」と定義した。閉じた世界においては小社会が形成され、小社会の住民は現実を日常の延長と考え、問題が生じないかぎり情報を探す意味はないと考える[26]。小社会は閉じた社会で、参加者に同様の関心を課し、誰が重要か、どの考えが妥当か、誰を信頼すべきかについての意識を共有させる。[26]
彼女は刑務所における女性囚人を研究した。囚人達は時間の経過とともに徐々に刑務所内の「閉じた生活」へと同化され、刑務所内の基準と共同的認識に基づく小社会が形成される。こうした世界に生きる成員達は、小社会自体が重要あるいは関係があると見なす情報しか、自分たちの世界の境界を越えて情報を求めに行かない。例外は「閉じた生活」がもはや機能しないという場合のみである。時間とともに変化していく刑務所の外の世界は、そこから隔離された受刑者達にとっては本質的ではない。[26]
情報探索における熟練と非熟練
熟練した情報探索者と非熟練の探索者のインターネット検索手法を比較すると、熟練者はドメインを再訪し、連続的に検索し、パターンやインタラクションのなかで逸脱や後戻りが少ない。非熟練者は多くのドメインを訪れ、様々な検索を試し、探索経路は頻繁に枝分かれする[27]。
センスメイキング
ブレンダ・ダーヴィン(英語版)はセンスメイキング(英語版)の概念を提起した[28]。センスメイキングに関する研究は、我々が不確実な状況をいかに理解しようとするかを考察する。彼女のセンスメイキングの記述は、我々が情報に関する意思決定のために、情報をどのように解釈するか定義から成る。
ブレンダ・ダーヴィンは、センスメイキングを、人々が自分たちの世界を自らの言葉で意味づける方法として記述した。
知識の異常状態
知識の異常状態はニコラス・J・ベルキン(英語版)によって理論として展開された。
知識の異常状態とは、探索者が自分の知識状態にギャップを認識している状態である。この認識とそれに続く仮説設定は、人がなぜ検索を開始するのかを研究するうえで重要な影響力をもつ[29]。
モデル
要約
視点
マッケンジーの二次元モデル
マッケンジーのモデルは、日常生活における個人の情報探索が「情報実践の連続体(中略)既知の情報源を能動的に探し求めることから(中略)求められてもいない助言を与えられることに至るまで」起こると提案する[30]。このモデルは、情報探索研究における焦点を、情報行動研究から情報実践研究へと繋げる。
マッケンジーの二次元モデルは、「接続」と「相互作用」という情報処理の2つのフェイズと、積極的探索・積極的スキャン・非指向的観察・代理による獲得、という4つの情報実践からなる。[30]
情報調査過程
図書館情報学において、情報調査過程は1991年にキャロル・クールサウ(英語版)によって提案されたモデルで、情報探索行動により焦点を絞っている。クールサウの枠組みは高校生に対する研究に基づいたが[31]、のちに職場を含む多様な人々へ拡張された。これは感情、特に不確実性の役割を検討し、多くの調査が過度に高い不確実性のために放棄されると結論づけた[32][33][34]。
情報調査過程は6段階のプロセスであり、各段階は次の4側面を含む[35]。
- 認知:何を獲得しようとするのか
- 感情:探索者が何を感じていたか
- 行動:探索者が何をしたか
- 戦略:探索者が何を達成しようとするか[31]
クールサウの業績は構成主義(英語版)的であり、利用者の認知経験だけでなく、情報探索中の感情経験を探究する。情報探索は不確実性の感情で始まり、不安・混乱・疑念を経て、最終的に安堵・満足・失望のいずれかで完結するとする。この「情動」の考慮は、その後キルティとリーザーによって、感情ではなく身体的影響と美学に焦点を移して再現された。[41]このモデルの有用性は2008年に再評価されている。[42]
情報探索プロセス
デイビッド・エリスは、物理科学・社会科学の研究者[43]、および技術者・研究者の行動[44]を、半構造化インタビュー(英語版)とグラウンデッド・セオリーの手法で調査し、情報探索に付随する活動の記述に焦点を当て、情報探索における六つの主要活動を見いだした。
- 探索の開始
- 資料の追跡
- 半指向的(意図的でありながら偶然も許容する)探索
- 質・適合性の判断にもとづく情報源の選別
- 関連領域の動向の把握
- 関係資料の体系的な抽出
チュー、デトラー、ターンバルはエリスのモデルをウェブ検索に適用して精緻化した。チューは、オンライン検索事象においてエリスの主要活動を特定し、それらを四種の探索(非指向的ネットサーフィン、条件付きの調査、情報検索、形式的検索)に結びつけた[45]。
情報採餌
スチュアート・カード(英語版)、エド・チー(英語版)、ピーター・ピロリ(英語版)によって発展したこのモデルは、文化人類学の理論から導かれ、食物の採餌にたとえられる。情報探索者は、リンク・要約・画像といった手がかりを用いて、目的情報への近さを見積もる。この見積もりは明瞭である必要がある。利用者はしばしばあてもなくネットを見たり本を読んだりしたり、特定情報を探したりするからである。情報採餌は、人々がどのように検索するかよりも、なぜそのように検索するかの説明的モデルである[46]。
非線形情報行動モデル
フォスターとウルクハートは、非線形な情報行動モデルについて、さまざまな文脈とパーソナリティを考慮に入れた豊かな理解を提示する。著者自身、この新モデルにはさらなる発展が必要だとして、現行では慎重な姿勢を取っている[47]。
日常生活情報探索モデル(ELIS)
レイジョ・サヴォライネンは1995年に日常生活情報探索モデルを発表した。これは生活様式、生活領域、日常生活における情報探索という三つの基本概念に基づく[48]。
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脚注
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