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拡張離散要素法
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拡張離散要素法(かくちょうりさんようそほう、英: extended discrete element method または eXtended Discrete Element Method、略称: XDEM)は、粒状体・粉粒体や多相流における粒子群の運動に加えて、粒子内部の温度、化学種濃度、応力・ひずみ、電磁場などの内部状態量を同時に解く数値解析手法である。
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古典的な個別要素法(離散要素法、DEM)が粒子の位置・速度・回転と接触力に主眼を置くのに対し、拡張個別要素法では各粒子に熱力学状態や場の情報を付与し、それらの時間・空間分布を保存則に基づいて評価する。
流体相や多孔質媒体、構造物などの連続体領域は、ナビエ–ストークス方程式や連続体力学に基づく方程式を用いてオイラー的に記述し、粒子相は個別要素としてラグランジュ的に扱うオイラー–ラグランジュ法の枠組みをとることが多い。このようにして、多数の固体粒子と流体との相互作用や熱・物質移動、化学反応、構造物の変形などを一体的に解析する多物理場数値シミュレーション技法として利用される。
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概要
従来の個別要素法(DEM)は、解析対象を多角形や球形などの剛体要素の集合としてモデル化し、各要素間の接触力や摩擦力、外力を考慮しながら運動方程式を時間積分することで、粉体や岩盤などの挙動を再現する手法である。[1] DEMでは通常、粒子内部は均質な剛体として扱い、内部の温度や化学組成、変形は明示的には表現されない。
拡張個別要素法では、このDEMの枠組みに対して、各粒子にエネルギー保存式や種輸送式、電磁場方程式などの支配方程式を追加する。粒子同士や粒子–流体間の熱伝達・物質移動、表面反応や内部反応、さらには粒子内部の応力・ひずみ分布や電場・磁場分布まで、粒子スケールで評価できる点が特徴である。これにより、単なる粒子運動だけでなく、燃焼・乾燥・焼成・相変化などの熱・反応過程を伴うプロセスや、粒子–構造物間の衝突・摩耗、電磁力を伴う粒子挙動などを統一的に扱うことができる。[2]
流体相と粒子相を別々の数値モデルで表現する手法は、一般に連続体–離散体混合法(combined continuum and discrete model, CCDM)と呼ばれ、XDEMはその一種として位置づけられる。CCDM では、固体粒子はDEMやその拡張法で粒子ごとに追跡され、気体や液体などの連続相は計算流体力学(CFD)や有限要素法などの連続体手法で解かれる。[3] XDEM はこの枠組みをさらに拡張し、粒子内部の熱・物質輸送や反応まで考慮する点に特徴がある。
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歴史
粒子群の運動を直接追跡する数値手法としての起源は、1950年代から1960年代に発展した分子動力学法にまで遡ることができる。Alder と Wainwright、Rahman らは、分子や原子間の相互作用をレナード–ジョーンズ・ポテンシャルなどのポテンシャル関数で記述し、多数粒子系の時間発展を数値的に求める手法を示した。[4][5]
その後、粉粒体や固体粒子が流体中に懸濁した系に対して、粒子の運動をDEMで、流体の挙動をCFDで記述する流体–粒子連成解析が発展した。Kawaguchi らや Hoomans、Xu と Yu らは、固体相を粒子スケールで離散化しつつ、気体や液体相を連続体として扱う CFD–DEM 連成法を構築し、二次元流動層や噴流層などの数値シミュレーションに適用した。[6][7] これらの研究は、固体相を連続体として平均化せずに離散的に扱うことで、多相流の基礎現象の理解が深まることを示した。
拡張個別要素法としての理論的枠組みは、1990年代末に Bernhard Peters によって提案された。Peters は移動火格子上の木質燃料層燃焼や充填層燃焼の解析において、各燃料粒子の運動と内部の温度場・揮発分放出・反応進行を解像するために、DEM と内部1次元反応・伝熱モデルを結合した手法を導入し、「Extended Discrete Element Method」として体系化した。[8][9] その後、この手法はストーカ炉や移動火格子炉、バイオマス燃焼装置、高炉の滴下帯解析などへ応用されている。[10][11]
ルクセンブルク大学では Extended Discrete Element Method Research Group が設立され、XDEM を用いた多物理場・多尺度シミュレーションの研究とソフトウェア開発が継続的に行われている。[12]
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手法
要約
視点
DEMとの関係
拡張個別要素法は、基本的な粒子の運動方程式や接触モデルについては DEM と同じ枠組みを用いる。粒子は質量・慣性モーメント・形状(球形、多面体など)・表面特性を持つ個別要素としてモデル化され、接触時には法線方向と接線方向のバネ・ダッシュポット・摩擦スライダなどからなる接触モデルを通じて力とモーメントが計算される。[13]
XDEM では、これらの運動方程式に加え、各粒子に対してエネルギー方程式や種輸送方程式などの内部状態を表す方程式を付加する。例えば燃焼問題では、粒子内部の温度分布を支配する熱伝導方程式と、揮発分やガス生成を表す種収支式を、粒子の半径方向を独立変数とする1次元非定常方程式として解くことが多い。こうして得られた粒子表面温度やガス生成速度が、流体相のエネルギー方程式や種輸送方程式の境界条件・源項として用いられる。
連続体場との連成
連続体場と粒子群を数値的に連成する方法としては、大きくモノリシック解法と分割(スタッガード)解法の2つがある。モノリシック解法では、流体、固体、熱、化学反応などを記述する支配方程式を一つの大規模な方程式系として組み立て、単一のソルバで同時に解く。一方、分割解法では、CFD ソルバ、DEM ソルバ、熱・反応ソルバなど、物理分野ごとに特化した複数のソルバを用意し、時間ステップごとに境界条件や源項を交換しながら逐次的に解く。
拡張個別要素法は、多くの場合この分割解法に基づくスタッガード連成手法として実装される。流体相はナビエ–ストークス方程式とエネルギー方程式、種輸送方程式などを用いてオイラー座標系で離散化され、粒子相はラグランジュ座標系で粒子ごとの運動方程式と内部保存則を解く。各時間ステップでは、流体ソルバが計算した速度場・圧力場・温度場・濃度場から粒子に作用する抗力・揚力・熱伝達係数・物質移動係数などが評価され、粒子ソルバ側に渡される。逆に、粒子から放出される運動量・熱・質量は、流体セルへの分配(内挿)を通じて連続体方程式の源項としてフィードバックされる。
分割連成は既存の CFD コードや有限要素コ ードと結合しやすく、モジュール性や拡張性に優れる一方で、時間積分の安定性や数値拡散を抑えるための連成アルゴリズムの設計が重要となる。強連成が必要な問題では、反復(サブステップ)を用いたスタッガードスキームや、擬似モノリシックな手法が採用されることもある。
粒子内部の多物理場解析
XDEM の特徴は、各粒子内部の状態を専用の局所モデルで解像する点にある。粒子内部に適用される代表的な保存則とその方程式、未知量の例を以下に示す。
粒子数が多い実用問題では、各粒子に対して完全な三次元場を解くことは計算量の面から困難であるため、多くの場合は半径方向のみを解像する一次元モデルや、粒子内部を均質とみなす零次元(集中定数)モデルが用いられる。反応工学分野の実験・理論研究から、球状粒子の燃焼や乾燥などでは、半径方向一次元モデルでも主要な現象を十分に再現できることが示されている。[14][15]
応用
拡張個別要素法は、固体粒子と流体・構造物・電磁場などが強く相互作用し、かつ粒子内部の熱・物質輸送や反応が重要となる工学問題に適用される。主な応用分野として以下が挙げられる。
- 化学工学・プロセス工学 – 気固二相流や流動層、噴流層、循環流動層などにおける粒子群と気体の相互作用、粉砕、乾燥、造粒などの粉体プロセス、触媒反応を伴う固定床・移動床反応器の解析。[16]
- エネルギー変換・燃焼工学 – バイオマスや石炭の充填層燃焼、移動火格子炉やストーカ炉の燃焼プロセス、廃棄物処理炉内の熱分解・ガス化、燃焼粒子の放射・対流・伝導による熱伝達の解析。[17]
- 鉄鋼・資源工学 – 高炉の滴下帯や装入物の流動・滴下挙動、焼結プロセスにおける粒子層内の反応とガス流動、鉱石や石炭の充填・輸送プロセスなどの解析。[18]
- 機械・材料工学 – 粉体輸送設備やコンベヤベルト、サイロ・ホッパー、高速衝突や衝撃破壊における粒子–構造物間の相互作用、ベルトやライナの変形・摩耗解析。[19]
- 医薬・食品・農業 – 医薬品の粉末ブレンドやコーティング、食品粉粒体(コーヒー豆、シリアル、穀物等)の乾燥・焙煎・輸送、肥料や農産物の流動・貯蔵プロセスなどへの応用が報告されている。[20]
初期の CFD–DEM 解析では、流れ場が単純な流動層やスパウトベッドなどに限られていたが、計算機性能とアルゴリズムの発展により、流動層とコンベヤベルト、サイクロンなど複雑な装置を組み合わせたシステムや、高炉・焼結炉などの大規模プロセスへも拡張されている。[21]
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関連項目
外部リンク
- Extended Discrete Element Method (XDEM) Research Group – ルクセンブルク大学における XDEM 研究グループ(英語)
脚注
参考文献
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