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拡散強調画像

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拡散強調画像(かくさんきょうちょうがぞう、英: diffusion-weighted imaging, DWI)は、水分子の拡散運動による信号減衰をb値で制御して可視化するMRI法で、画素ごとの見かけの拡散係数(ADC)などを定量できる。

急性虚血性脳卒中の発症早期から異常を示し、腫瘍・感染・体幹部領域にも応用が広がる。

EPIを基盤とする撮像と歪み・ゴースト等の補正手法が画質を左右し、IVIMやDTI/DKIなどのモデル化により微細構造や微小循環の評価も可能である。標準化されたプロトコルは治療選択や予後予測を支え、医療の質向上に寄与する。

原理

拡散強調画像(DWI)は、水分子のブラウン運動が拡散感受化勾配の前後で位相ずれを生じることを利用し、信号減衰の大きさを拡散感受化の強さ(b値)で制御して可視化する。自由拡散の仮定では信号は $S(b)=S_0\exp(-bD)$ に従い、ボクセル内の見かけの拡散係数(ADC)を画素ごとに求められるため、拡散の低下・上昇が画像コントラストとして現れる[1]。ただし「見かけ」であるのは、細胞膜やミエリンなどの微細構造による障害やボクセル内毛細血管内の微小循環(IVIM)が寄与しうるためであり、低b値域では灌流成分(偽拡散係数 $D^\*$ と血流分画 $f$)をモデル化して拡散と分離できる[2]

白質のように拡散が方向依存(異方性)を示す組織では、複数方向で測定して対称3×3テンソルに当てはめ、固有値固有ベクトルから拡散の大きさと優位方向を推定する。テンソルの形の偏りは分数異方性(FA)として定量化され、主固有ベクトルで色付けしたカラーFAは神経路の走行を描出できる[3][4]。この異方性は、軸索方向には障害が少なく横方向には膜・ミエリンなどの障壁が多いという微細構造に起因し、細胞浮腫や細胞密度・ミエリンの変化、細胞骨格の障害など病態変化がADCやFAに反映されるため、DWI/DTIは早期虚血や腫瘍などの可視化に有効となる[1][4]。なお、b値は感度とS/Nのトレードオフを規定する基本パラメータであり、原理上は勾配強度・持続時間・間隔の設定で決まる[5]

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撮像法

拡散強調画像(DWI)の取得には、高速性に優れるsingle-shot echo planar imaging(SS-EPI)が広く用いられ、b=0画像を含む複数b値・複数拡散方向の組み合わせで撮像するのが基本である。撮像設計では拡散符号化パルスの配置(モノポーラ/双極)、方向数、b値とTE・SNRのトレードオフを考慮する。これらは臨床実装の概説として整理されている。[6]基礎的には、勾配強度・持続時間・間隔(δ, Δ)の設定が感度(b値)と時間分解能を規定し、方向数の増加は異方性評価やテンソル推定の信頼性を高める。[7]

SS-EPIは位相エンコード方向の幾何学的歪みに脆弱であるため、撮像パラメータの選択が重要となる。歪み量は共鳴周波数の変化量とecho space(ESP)、位相方向FOVに比例し、ESPは主として周波数マトリクス数と受信バンド幅で、位相方向FOVはShot数・phase FOV比・並列撮像(PI)係数などで規定される。したがって、rBW拡大や周波数マトリクス最適化でESPを短縮し、PIやマルチショットで位相方向FOVを事実上縮小することが撮像設計上の基本戦略となる。[8]

歪み低減と空間分解能の両立を狙う方法として、readout-segmented multi-shot EPI(RESOLVE)が利用される。これは読み取り方向にk空間を分割してESPを短縮しつつ、PIを併用し、ナビゲータによる再取得でモーション由来の位相ズレを補正する設計である。3Tボランティア頭部とファントムの検討では、頭蓋底の歪み低減に「最短ESP+PI係数3」の組み合わせが有効と報告されている。[9]同様に、撮像中に位相エンコード極性を反転させたb=0画像を追加取得して変位場を推定し、全拡散画像に適用する方法(blip-up/blip-downペア)は、追加時間が比較的少なく臨床プロトコルにも組み込みやすい。[10]

以上より、DWIの撮像法は、(1)SS-EPIを基本にb値・方向数とTE/SNRの釣り合いを取る、(2)ESP短縮と位相方向FOV縮小を意識したパラメータ最適化、(3)必要に応じたRESOLVEや逆位相b0取得の追加という段階的な設計で構成される。[6][8][9][10]

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画質とアーチファクト

拡散強調画像(DWI)の画質は、EPI特有の歪みと偽像に大きく左右される。主因の一つは位相エンコード(PE)方向の磁化率不均一で、空気・骨近傍で伸長や圧縮が生じ、レジストレーションや定量値に系統誤差を与える。逆位相エンコード(blip-up/blip-down)を併用した補正や各種手法の比較では、選択するアルゴリズムにより残存歪みや定量の安定性が大きく異なることが示されている[11]

Nyquistゴーストは勾配遅延などによる偶奇エコー間の位相誤差で発生し、特にマルチショット/マルチバンドEPIでは低減の頑健性が重要となる。交互極性読み出しを用いたマルチショット/マルチバンドEPIにおいて、参照なしに2次元位相誤差を推定・補正する手法が報告され、Nyquistゴースト低減が示されている[12]。さらに、参照データを用いず画像の評価関数(例:Ghost/Object最小化やエントロピー)から一次位相差を推定する“referenceless”法も公開され、教育・研究用途で利用されている[13]

幾何学的歪みに対しては、PSFマッピングに基づき、単一PSF参照から反転位相用カーネルを鏡像生成し、blip-up/downの補正画像を重み付き結合する拡張PSF法が提案されている。圧縮領域の情報欠損を抑えつつ高忠実な補正を達成し、SE/GEの両EPIで有用性が示された[14]

運動は画質劣化の主要因であり、readout-segmented EPI(RESOLVE)ではナビゲータにより劣化セグメントを破棄・再収集する再撮像モードが有効である。ファントムでの検証では、体動が生じる条件でも同モードの「ON」により画像品質の改善が示された[15]。実務上は、(1)ゴースト補正(参照なし/あり)→(2)運動・渦電流補正→(3)歪み補正(逆位相もしくはPSF)→(4)重み付き融合とQA、の流れを設計することで、定量指標の信頼性向上が期待できる[11]

定量解析

拡散強調画像の定量解析は、信号減衰を単指数モデル とみなして算出するADCマップが基本である。ADCは平均拡散性を表すが、低b値では微小循環が寄与しうるため解釈に注意が必要である[16][17]

拡散テンソルMRI(DTI)では固有値からMDやFAを導出し、FAは配向秩序や膜障壁に起因する異方性を反映する。しかし交差線維や部分容積で値が歪み、灰白質ではFAが髄鞘密度の特異的指標とは限らない[16][18]

非ガウス性を評価する拡散クルトシス画像(DKI)は平均クルトシス(MK)などを算出し、微細構造の複雑性に敏感とされる[19][18]

血流と拡散の分離を図るIVIM解析では、拡散係数D、偽拡散係数D\*、灌流分画fを推定し、造影剤なしで微小循環を数量化できる。腫瘍学では良悪性鑑別や治療モニタリングへの応用が報告される一方、b値設計やノイズ、フィッティング手法への依存から再現性に課題が残る[17][20]

さらに、MAP-MRI由来の指標やNODDIの神経突起密度指数(NDI)は、髄鞘や神経突起分画への感度が報告されているが、モデル仮定や固定パラメータに由来する系統誤差に留意すべきである[18]。臨床では、ADC/FA等のテンソル指標、MK、IVIM、NDIを相補的に用い、病態・解剖学的部位・撮像条件を踏まえて総合判断することが推奨される[16][18]

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臨床応用

拡散強調画像(DWI)は神経領域で最も確立した応用を持ち、とりわけ急性虚血性脳卒中では発症早期から異常を示し、早期診断と転帰予測に寄与する[21]。AHA/ASAのガイドラインは、DWIを含むMRIを急性期治療の意思決定に位置づけ、時間不明発症例でのDWI–FLAIRミスマッチを静注血栓溶解療法選択の根拠として認めるなど、画像に基づく適応判断を明確化した[22][23]

神経救急以外でも、DWIは椎骨動脈解離の壁内血腫の描出、静脈血栓症における血栓本体の検出と可逆性浮腫/不可逆性梗塞の鑑別、細菌性脳膿瘍の中核にみられる著明な拡散制限による腫瘍との鑑別、プリオン病の皮質リボン像など、多彩な場面で診断能を高める[21]

体幹部では、前立腺多パラメトリックMRIの標準化指針PI-RADS v2.1がDWIを中核指標として位置づける。末梢帯ではDWIスコアが全体評価を主導し、移行帯でも一部病変でDWI所見によりカテゴリーを補正するなど、臨床的に意義のある病変の選別精度向上が図られている[24]

乳腺領域ではEUSOBI国際コンセンサスが、DWIを多パラメトリックMRIの必須構成として推奨し、b=0/800 s/mm²を用いた短時間撮像と小ROIによるADC評価の標準化を提示した。これにより良悪性鑑別の特異度向上や不要生検の低減、ネオアジュバント治療効果判定への有用性が示されている[25]。これらの応用は、取得条件と解析法の標準化を前提に、適応拡大と医療資源の最適化に資する[25]

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脚注

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