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日本の離散要素法の研究者

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日本の離散要素法の研究者(にほんのりさんようそほうのけんきゅうしゃ、英: Japanese researchers on the Discrete Element Method)は、日本国内の大学・研究機関・公的研究所などに所属し、粉体工学、岩盤力学、地盤工学化学工学などの分野で離散要素法(Discrete Element Method; DEM)およびその拡張手法の研究・開発を行っている研究者の総称である[1]

ここでは、市販ソフトウェアのユーザーにとどまらず、自ら数値モデルやシミュレーションコードを開発している研究者を中心に概説する。

概要

日本では、1970年代以降、粉体工学や岩盤力学の分野で離散要素法の応用研究が進展し、21世紀に入ると、GPUや大規模並列計算環境を用いた高性能計算や、数値流体力学(CFD)との連成解析(CFD–DEM)、粒子破壊や軟化挙動を扱う拡張DEMなどが活発に研究されている[1][2]。粉体工学会誌や化学工学会誌などでは、粉体プロセスにおけるシミュレーション技術や粒子法シミュレーションのレビュー論文が多数掲載されており、DEMが産業界のプロセス開発ツールとしても位置づけられている[3]

日本のDEM研究の特徴として、(1) 粉砕・混合・成形・流動層など粉体プロセスを対象とする化学工学・機械工学系の研究、(2) 岩盤破壊や発破、トンネル施工などを対象とする岩盤力学・地盤工学系の研究、(3) スーパーコンピュータやGPUを用いた粒子法シミュレーション基盤の高性能化を目的とする計算科学・数理科学系の研究が相互に連携している点が挙げられる[3][4][5]

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主な研究者

要約
視点

本節では、離散要素法あるいはその拡張手法のモデル化・アルゴリズム開発・ソフトウェア実装に顕著な貢献を行っている日本の研究者を、「教授・グループリーダー級」「准教授・主任研究員級」などの役職を第一の基準とし、その範囲で概ねキャリア(年齢)の順に列挙する。

教授・グループリーダー級

田中 敏嗣(たなか としつぐ)
追手門学院大学理工学部機械工学科教授、大阪大学名誉教授[6][7]。粉体工学・混相流を対象とした固気二相流シミュレーションや離散粒子モデルに関する業績で知られ、「粒子モデル計算機を用いた高濃度粒子流動の数値解析法の開発」「混相乱流中に形成される粒子大規模構造の数値解析」などの研究課題に携わってきた[2]。企業との連携においては、マイクロ波化学株式会社の技術アドバイザーを務め、同社ニュースリリースでは「粉体シミュレーションにおける世界的な第一人者」と紹介されている[8]
加納 純也(かのう じゅんや)
東北大学多元物質科学研究所・金属資源プロセス研究センター機能性粉体プロセス研究分野教授。[9][10] 粉砕・混合・メカノケミカル反応などの粉体プロセスを対象に、粉体工学会誌や資源・素材系学会誌に多数の論文を発表しており、「機能性粉体プロセス学」の講座教員として粉砕効果を活用した機能性粉体プロセスの高度化を目指している。[11] 石原真吾らとの共同研究では、Advanced Distinct Element Method(ADEM)を用いた粉体圧縮成形やボールミル内粉砕挙動の解析など、粒子破壊を含む粉体シミュレーション手法の開発・応用に関わっている。[12]
酒井 幹夫(さかい みきお)
東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻教授。専門は粉体工学、計算科学、粉体・流体・混相流を対象とした粒子法シミュレーションおよびシミュレーションベース・デジタルツインである。[13][1] 東京大学工学系研究科の研究者情報やJ-GLOBALのプロファイルでは、デジタルツイン、サイバーフィジカルシステム、粉体シミュレーション、混相流などがキーワードとして挙げられており、競争的研究費の課題として「高精度金型設計のための粉体成形シミュレーション技術の実証」「大規模固気液三相流システムのデジタルツイン」などを主導している。[1][14] 自身の研究室ウェブサイトでは、固気二相流・固気液三相流を対象とした粗視化DEMモデル、自由表面を伴う粒子法–CFD連成法、符号付き距離関数(SDF)による任意形状壁モデルなどの独自開発手法が紹介されており、学術論文だけでなく書籍『粉体の数値シミュレーション』等を通じて国内外に影響を与えている。[15][1]
岩﨑 智宏(いわさき ともひろ)
大阪公立大学大学院工学研究科物質化学生命系専攻および工学部化学工学科教授。[16] 研究分野として粉体工学、反応工学・プロセスシステム工学を掲げ、「数値シミュレーションによる粉体プロセスの解析」を主なテーマとしている。[16][17] 粉体工学会誌や化学工学会の講演では、湿潤粉体、機能性ナノ粒子の合成、乾式機械的処理などに関する研究のほか、装置工学グループとして粉体材料の設計・製造プロセスの解析・最適化に取り組んでいることが紹介されている。[18]
木俣 光正(きまた みつまさ)
山形大学学術研究院システム創成工学分野教授。[19][20] 山形大学の研究室紹介では、研究テーマとして「機能性粒子合成」「メカノケミカル反応」「粉体シミュレーション」が掲げられ、キーワードに「DEMシミュレーション」「粉体流動性」などが挙げられている。[21] 粉体輸送・ホッパー排出挙動・粉体流動性評価などに対してDEMシミュレーションを活用し、粉体工学会での講演や企業向け技術セミナーを通じて産業応用に貢献している。[20]
桑木 賢也(くわぎ けんや)
岡山理科大学工学部機械システム工学科教授。[22][23] 熱工学研究室の紹介では、流動層や粉体層内の流動・伝熱挙動の解析を通じた高効率、低環境負荷な熱エネルギー利用技術の確立を目的としているとされる。[24] 研究キーワードとして「流動層」「多孔質体の伝熱」「二酸化炭素回収」「DEMシミュレーション」などが挙げられており、代表粒子法や大規模DEMシミュレーションを用いた流動層装置の設計・評価に取り組んでいる。[25]
西浦 泰介(にしうら だいすけ)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)付加価値情報創成部門 数理科学・先端技術研究開発センター主任研究員(グループリーダー代理)。[4] DEMやSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)などの粒子法を用いた混相流シミュレーション、津波土石流などの防災問題に対する大規模数値解析を専門とする。[26][27] OpenMPやMPIを用いたオープンソースDEMコード「ppohDEM」の開発・高速化に関する論文では、降順ストレージ法(DSM)に基づく接触候補ペア探索アルゴリズムなどを提案し、多数のCPU・スーパーコンピュータ環境での性能評価を行っている。[28]

准教授・主任研究員級

福田 大祐(ふくだ だいすけ)
北海道大学大学院工学研究院環境循環システム部門・准教授。[5][29] 専門は岩石動力学、岩石破壊力学、岩石破壊数値モデリングであり、Hybrid Finite–Discrete Element Method(HFDEM)を用いた三次元岩盤破壊シミュレーションや発破解析に関する研究を行っている。[30] 3D HFDEMコードをCUDA C/C++ によりGPGPU並列化した研究では、準静的・動的荷重下での岩石破壊過程を高解像度で再現する数値シミュレータの構築が報告されている。[31][32]
石原 真吾(いしはら しんご)
東北大学未来科学技術共同研究センター准教授(研究者情報上は多元物質科学研究所との兼務を含む)。[33][34] 粉砕プロセス、粒子破壊、材料プロセスにおける粉体挙動の数値解析を専門とし、Advanced Distinct Element Method(ADEM)の開発と応用で知られる。ADEMを用いた粉体圧縮成形挙動の解析や、金属粒子・鉱石ペレットの変形・破壊挙動シミュレーションに関する論文を多数発表している。[12][35][36] また、SPHとの連成(ADEM–SPH)による相変化を伴う軟化・溶融挙動の解析など、複雑な材料プロセスへの展開も行われている。[37]
西浦 泰介
西浦は主任研究員・グループリーダー級のポストにあるが、粒子法基盤開発やppohDEMのような大規模オープンソースDEMコードの開発において中心的役割を果たしていることから、本節でも代表的研究者として再掲される[4][28]

その他の代表的研究者層

粉体・岩盤・地盤分野の研究室では、市販コードに独自モデルを実装したり、自前の研究用コードを保有したりすることが一般的であり、ここで挙げた以外にも多くの研究者が離散要素法のアルゴリズム開発に関与している。例えば、粉体工学会や粉体粉末冶金協会、岩盤力学に関するシンポジウム等の講演資料には、DEM、HFDEM、ADEMなどの手法を用いた自主開発コードや拡張モデルに基づく研究成果が多数報告されている。[38][39]

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研究分野別の位置づけ

粉体工学・化学工学

粉体工学・化学工学分野では、粉砕、混合、コーティング、流動層、固気・固液・固気液混相流などのプロセスに対してDEMが利用されている。[3][16][21] 酒井幹夫、田中敏嗣、加納純也、岩﨑智宏、木俣光正、桑木賢也らは、粉体工学会誌や化学工学会関連の出版物で、粉体プロセスに対する粒子法シミュレーションの適用・高度化に関する成果を多数発表している。[1][2][10][16][20][25]

岩盤力学・地盤工学

岩盤力学や地盤工学では、岩盤破壊、トンネル掘削、発破、斜面安定などの問題に対して、FDEMやHFDEM、DEM–SPH連成解析などが用いられる。[5][30][40] 福田大祐は、GPGPU並列HFDEMに基づく三次元岩盤破壊解析やフラクチャリング制御に関する研究課題を主導しており、KAKENの研究課題情報にも「高度フラクチャリング制御技術の構築」などが記載されている。[30][31][32] 津波防災や護岸構造物の破壊解析の分野では、西浦泰介らによるSPH–DEM連成解析の適用が報告されている。[26][40]

高性能計算・数理科学

大規模並列計算やGPUを活用した粒子法シミュレーション基盤の開発は、日本のスーパーコンピュータ利用と密接に関連している。ppOpen-HPCやppohDEMなどのオープンソースコードは、DEMを含む粒子法の性能改善を目的とした計算基盤として開発されており、その代表的な事例として西浦泰介らの研究が挙げられる。[28][41] これらの基盤は、固気混相流や土-水連成問題、津波・土石流シミュレーションといった大規模問題へのDEM適用の拡大を支えている。[4][27]

脚注

関連項目

外部リンク

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