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機能的行動アセスメント
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機能的行動アセスメント(きのうてきこうどうアセスメント、英: Functional behavior assessment、略称:FBA)は、応用行動分析(ABA)の方法の一つであり、行動を維持している環境要因を特定するために用いられる手続きである。機能的アセスメントとも呼ばれる。
概要
機能的行動アセスメントは、三項随伴性(先行事象・行動・結果事象)の枠組みに基づき、問題行動の直前および直後に生じる環境要因に関する情報を集め、分析する手続きである。効果的な介入法を立案することを目的として実施される[1]。
行動の機能
要約
視点
行動の機能とは、行動の理由や目的を指す。全ての行動は偶然に起こるものではなく、本人にとって何らかの目的や意味をもっていると考えられている。
1つの行動が複数の機能を同時に持つ場合もあり、このような行動は「マルチ・オペラント行動」と呼ばれる。特に、コミュニケーション能力に制約がある場合や、適切な要求行動が無視される環境においては、 複合的な機能をもつ行動が観察されやすい[2]。
また、同じ機能を果たすために複数の行動が現れることもある。たとえば、「勉強を避けたい」という目的で、教師に暴言を吐く、プリントを破る、学校の器物を壊すといった行動が見られる場合がある。
長年の研究により、行動の機能にはいくつかの分類が示されている。代表的な見方として、次の二つの枠組みが挙げられる。
行動の目的(機能的カテゴリー)による分類
人がその行動によって得ようとする結果に基づき、以下の4つに分けられる[3]。
- 要求:物や活動などへのアクセスが与えられることによって行動が維持される。
- 注目:一人あるいは複数の人からの関心や反応が得られることによって行動が維持される。
- 回避・逃避:困難な課題や不快な状況から逃れられることによって行動が維持される。学校環境で見られることが多い。
- 感覚刺激(自己刺激):行動そのものが感覚的な刺激や快感をもたらす。気分がよくなる、痛みが軽減するなど。外的な環境要因とは無関係に維持されるため、自動強化とも呼ばれる。身体内部の先行事象や結果事象に反応して生じる行動であり、外部から観察できる環境変化が見られないのが特徴である。独り言を言う、身体を揺らすなどの行動が含まれる。また、痛みや不快感を言葉で伝えることが難しい場合や、強迫性障害など、医学的な問題が背景に存在するケースもある。一般に、自動強化を機能とする行動は、他の機能(逃避、注目、物の獲得など)に基づく行動と比較して介入が難しいとされる。
強化の種類(随伴性の形式)による分類
行動が維持される強化の種類に基づく分類[4]。強化には、行動の直後に好ましい刺激が加わることで行動が増加する正の強化と、不快な刺激が取り除かれることで行動が増加する負の強化がある。
正の強化と負の強化は、強化が他者を通して得られる社会的強化と、他者を介さずに個人が直接的に強化を得る自動強化に分けられる。
- 正の社会的強化:行動の直後に他者を介して好子(注目、物品、活動など)が与えられることにより、その行動の生起頻度が増加する現象を指す。例えば、子どもが「ジュースちょうだい」と親に頼み、親がジュースを与えた結果、その後も同様の行動が増加する場合、この行動は正の社会的強化を受けているといえる。このように、標的行動の直後に他者が好子を提示することによって行動が強化される点が特徴である。子どもが壁に頭を打ち付けた際に母親が家事を中断して駆け寄り注目を与える場合、「頭を打ち付ける」という行動が母親の注目という好子によって強化され、行動が維持されている可能性がある。
- 負の社会的強化:行動の直後に他者を介して不快な刺激(嫌子)が除去され、その結果として特定の行動の生起頻度が増加する現象を指す。例えば、寒さを感じた人が他者に「窓を閉めて」と依頼し、相手が窓を閉めた結果として「寒さ」という不快な刺激から逃れられた場合、この行動は負の社会的強化を受けているといえる。このように、嫌悪刺激の除去が他者の行動によって媒介される点が特徴である。問題行動の後に他者が嫌悪刺激(例:困難な課題など)を取り除くことで、その問題行動が維持・強化される。生徒が授業中に課題を与えられた際、大声で騒いだら、教師が「じゃあ今日はやらなくていい」と課題を中止するなどがある。
- 正の自動強化:他者の仲介を必要とせず、行動の結果として自動的に好子(快刺激)が生じ、その行動の生起頻度が増加する現象を指す。例えば、子どもが自ら冷蔵庫を開けてジュースを取り出し、好子であるジュースを得た結果、同様の行動が繰り返し生じる場合、この行動は正の自動強化を受けているといえる。正の社会的強化(例:他者に飲み物を頼み、もってきてもらう)とは異なり、正の自動強化では他者の介在がなく、行動そのものが快い感覚刺激や満足感を直接もたらす点に特徴がある。
- 負の自動強化:他者の仲介を必要とせず、行動の結果として自動的に不快な刺激(嫌子)が除去または軽減され、その行動の生起頻度が増加する現象を指す。例えば、寒さを感じた人が自ら窓を閉め、その結果として寒さという不快な刺激から逃れる場合、「窓を閉める」という行動は負の自動強化を受けているといえる。このように、行動自体が不快な刺激や不快情動を軽減する機能を持つ点が特徴である。負の自動強化を受けて起こる行動の代表例としては、過食などが挙げられ、不快な感情を一時的に緩和する手段として機能することがある。
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評価方法
要約
視点
機能的行動アセスメントにおける評価方法は、「間接的方法」「直接的方法」「実験的方法(機能分析)」の3つに分けられる。
間接的方法
質問紙やインタビューなどによって情報を収集する方法である。簡便に実施でき、10〜30分程度で終了することが多い。保護者や教師など、対象者をよく知る人物に質問を行う。
代表的な質問紙には以下がある。
- MAS(Motivation Assessment Scale)[5]
- QABF(Questions About Behavioral Function)
- FAST(Functional Analysis Screening Tool)[6]
インタビューを通じて得られる情報は、明確かつ客観的に記述する。先行事象と結果事象に基づいて記録を行い、推測や解釈を避ける必要がある。
例:
- 〇 適切な記述:ジョンは、母親にテレビを消して食卓に来るように指示された直後に、椅子を叩く行動を行った。
- × 不適切な記述:ジョンは、思い通りにいかないと癇癪を起こす。
インタビューでは、問題行動が発生する前後の状況について詳細に尋ねる。質問例には以下のものが挙げられる[4]。
先行事象
- その問題行動は、どのようなときに起きやすいか?どのような場所で起きやすいか?
- その問題行動は、誰がいるときに起きやすいか?
- その問題行動が起こる前に、やっていた活動や出来事は何か?
- その問題行動の直前に、他の人が言ったことやしたことは何か?
- その問題行動を起こす前に、その子どもは他に何かをやっていたか?
- その問題行動が起きにくいのは、どんなときで、どんな場所で、誰といるときで、どんな活動や状況のときか?
結果事象
- その問題行動の後にどのようなことが起きているか?
- その問題行動が起きたら、親はどのようなことをするか?
- その問題行動が起きたら、周囲の人はどのようなことをするか?
- その問題行動が起きた後で、何が変わるか?
- その問題行動が起きた後、得することは何か?
- その問題行動を起こすことで、しなくてすむことは何か?
この方法は簡便である一方、信頼性が低い点が問題とされる。回答は記憶や主観に依存するため、同じ質問でも回答者によって大きく異なり、妥当性も限定的である[7]。仮説の形成には有効であるが、因果関係を直接示すことはできないため、直接的方法と併用することが望ましい。
直接的方法
直接的方法とは、対象者を自然な環境で直接観察し、行動およびその前後に生じる先行事象・行動・結果事象を記録する手法である。観察によって得られた複数のエピソードを分析し、行動に共通して見られるパターンを明らかにすることで、行動の機能を推定する。
代表的な手法として、A-B-C記録法が挙げられる。この方法には、記録形式や目的に応じて以下の種類がある。
- 記述法:問題行動が起こるたびに、先行事象・行動・結果事象を簡潔に記述する方法。観察者が自由記述形式で具体的な状況を記録する。
- チェックリスト法:想定される先行事象・標的行動・結果事象があらかじめ一覧化されたチェックリストを用いる方法。チェックリストは、質問紙やインタビューによって得られた情報をもとに作成され、特定の問題行動が生起するたびに該当項目に印をつけていく。
A-B-C記録の分析法の一つとして、ABC象限分析(ABC-QA)がある。これは、A-B-Cデータを基に行動の機能を視覚的に整理・分析するための手法である。行動の前後に生じた出来事をもとに、行動の機能(例:注目の獲得、逃避、物の獲得など)を推定する際に用いられる。
以下は「注目の獲得」を仮定した場合の分析例である。分析では、行動の前後に「注目」が存在したかどうかを表に分けて整理し、該当する象限にチェックを入れていく。
まず、考えられる行動の機能の中から1つを選択する(たとえば「注目の獲得」など)。次に、ABCデータを基にして、観察された事例が該当する象限にチェックを入れていく。最後に、各象限へのチェックの分布をもとに、行動の機能を推定する。
第3象限にチェックが多い場合、行動の機能は「他者とのやりとりからの回避」である可能性が高い。第1象限または第4象限に集中している場合は、注目は行動の主な機能ではないと考えられる。第2象限に多く分類される場合、行動の機能が「注目獲得」である可能性が高い[3]。
直接的方法は、膨大なデータの収集と分析を必要とするため、実施者の負担が大きいという欠点がある。しかし、間接的方法と比較してより正確かつ客観的な情報を得ることができる[4]。
実験的方法(Functional Analysis、FA)
実験的方法(機能分析)は、環境要因を実験的に操作し、行動との因果関係を特定する手法である。ブライアン・イワタらによって発展した。最も信頼性が高い方法とされるが、標的行動を意図的に誘発する必要があるため、実施には一定のリスクが伴う。そのため、この手続きは通常、認定行動分析士(BCBA)の監督下で行うのが国際的な標準となっている[8]。
機能分析に至るまでには、いくつかの段階的な手続きが行われる。まず、保護者、教師、職員、同級生、本人などの標的行動を目撃したことのある人物に対してインタビューを実施し(間接的方法)、行動の具体的な定義や、先行事象・結果事象に関する仮説を立てる。次に、日常的な環境で直接観察を行い(直接的方法)、実際の行動の発生状況とインタビューで得られた仮説が一致するか確認する。観察結果が仮説と一致する場合には、最初に立てた仮説の妥当性が高まると判断される。
一方で、インタビューと直接観察の結果が一致しない場合には、再度聞き取りや観察を行い、仮説の修正が行われる。それでもなお、環境要因と行動の因果関係について明確な仮説が立てられない場合、実験的な手続きである機能分析を実施して、実際に行動がどのような条件で生起・維持されるかを確定する。このように、機能分析は仮説検証の最終段階として位置づけられている[4]。
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実施方法
要約
視点
1. アセスメント・チームの形成
アセスメントは、複数の関係者で構成されるチームによって実施される。チームには、専門家のほか、標的行動を目撃したことのある人(家族、教師、同級生など)が含まれる。場合によっては本人が参加し、インタビューを通じて行動の理由や背景についての情報が収集される。機能的行動アセスメントに関する知識を有する者がリーダーとなり、チームメンバーは、観察や経験に基づく情報を提供し、インタビューや質問に回答する役割を担う[3]。
2. 標的行動を選択する
標的行動の選択にあたっては、複数の問題行動が見られる場合でも、一度に1つの行動に焦点を当てる。優先順位は、まず自己や他者、財産に重大な危害を及ぼす行動への対応が最優先とされる。その次に本人が本来得られるはずの学習機会や社会的関わりを妨げる行動が対象となる。単に「多少迷惑」程度の行動については、機能的行動アセスメントの実施が必ずしも必要とされるわけではない[3]。
標的行動には、行動の頻度や強度だけでなく、その行動の社会的重要性が考慮される。この評価には社会的妥当性の概念が用いられる。社会的妥当性とは、介入目標の社会的意義、介入手順の社会的受容性、そしてその効果の社会的重要性を示す指標である。
社会的妥当性を評価する方法には、主に「質問票(アンケート)」「インタビュー」「観察」の3つがある。
- 質問票:対象者や保護者、支援者に対していくつかの質問を行い、介入の目標や方法、成果がどの程度受け入れられているか、満足度を1~5の数字で評価する。
- インタビュー:個別やグループで話を聞き、対象者や関係者の意見や感想を直接収集する。
- 観察:実際に介入が行われている様子や対象者の行動の変化を確認し、手順が正しく守られているかや、予期しない問題が発生していないかを確認する。
社会的妥当性の評価は、介入の前・中・後の3段階で行う。
- 介入前:目標の妥当性、達成可能性、方法の受容性を確認する。
- 介入中:方法の実施状況、効率、予期せぬ問題の有無を確認する。
- 介入後:行動の変化や維持、生活の質への影響などを評価する。
社会的妥当性は、介入が対象者の日常生活に変化をもたらすか、介入手順が倫理的・法的に許容可能か、対象者の受容や満足度が得られているかなどの指標を通じて判断される。例えば、攻撃行動を減らすためのタイムアウトは、表面的に行動頻度が減少することがあるが、長時間の隔離や社会化機会の欠如など別の問題が生じる場合がある。このため、単なる行動変化だけでは介入の妥当性を評価できず、社会的妥当性の検証が必要とされる[9]。
3.標的行動を定義する
標的行動は、関係者によって異なる言葉で呼ばれることがあり、同じ表現であっても必ずしも同一の行動を指すとは限らない。そのため、行動は客観的かつ具体的に定義する必要がある。例えば、「癇癪」という曖昧な表現の代わりに、「床に倒れて大声で泣き叫ぶ」「机を叩く」「物を投げる」など、誰が見ても同じように認識できる観察可能で具体的な表現を用いる。
行動の定義は、2名の観察者が別々に同じ行動を観察しても一致するように記述される。このようにして定義された行動が、複数の観察者によって同じように認識されるかどうかを確認するために用いられるのが観察者間一致率(IOA)である。観察者間一致率とは、2名の観察者が同一の行動を独立して観察・記録した際、その記録がどの程度一致しているかを示す指標であり、この一致率が高いほど、行動の定義が明確で客観的であるといえる。一般的に、一致率90%以上が望ましく、少なくとも80%以上であることが求められる[4]。
観察者間一致率の算出方法
- 頻度
- 少ない方の頻度 ÷ 多い方の頻度 × 100(%)
- 例)Aが攻撃行動10回、Bが9回と記録した場合
- 9 ÷ 10 × 100 = 90%
 
- 持続時間
- 短い方の持続時間 ÷ 長い方の持続時間 × 100(%)
- 例)Aが28分、Bが30分と記録した場合
- 28 ÷ 30 × 100 = 93.3%
 
- インターバル記録法におけるIOA(観察者間一致率)の算出方法
インターバル記録法では、観察時間をインターバルに分け、各インターバルごとに2人の観察者の記録を比較して一致・不一致を判定する。一致したインターバル数を全インターバル数で割ることで、観察者間一致率を算出する。例えば、20インターバルのうち17インターバルで2人の観察者が標的行動の生起または非生起で一致した場合、IOAは「17 ÷ 20 × 100 = 85%」となる。タイムサンプリング記録法におけるIOAも同様の方法で算出される。
インターバル記録法におけるIOAには、「生起限定IOA」と「非生起限定IOA」の2種類がある。生起限定IOAでは、2人の観察者がともに「行動が生起した」と記録したインターバルのみを一致として算出し、行動が生起しなかったインターバルは計算に含めない。これに対して、非生起限定IOAでは、2人の観察者がともに「行動が生起しなかった」と記録したインターバルのみを一致として算出し、行動が生起したインターバルは計算に含めない。
インターバル内頻度記録法IOAでは、各インターバルごとに観察者間一致率を計算する。「(少ない方の頻度÷多い方の頻度)×100=観察者間一致率(%)」。そして、全インターバルの平均を取ることで全体の観察者間一致率を計算する。「各インターバルの一致率の合計(%)÷全インターバル数」[4]
4. 標的行動の測定方法を決める
- 連続記録法:観察時間の間、対象者を観察し、標的行動が生起するたびに記録する方法。頻度・持続時間・潜時・強度などのデータを得られる。
- 頻度:特定の時間内に行動が生起した回数を測定する方法。開始と終了が明確で、不連続的に生起する行動(例:手を挙げる、席を立つ)に適している。観察時間の長さに応じて、1日あたり、1時間あたり、1学期あたりなど異なる尺度で測定される。観察時間が異なる場合、割合を計算する必要がある。割合は、行動の回数を観察時間の長さで割って出す。例えば、20分間で10回叫んだ場合、1分あたり0.5回の割合で叫んだことになる。
- 持続時間:持続時間とは、行動の開始から終結までの時間を測定する方法である。主に、泣き叫ぶ、課題からの逸脱行動など、比較的長時間にわたって続く行動を評価する際に用いられる。観察者は、行動の開始時刻と終了時刻を記録し、その差を持続時間として算出する。また、持続時間を観察時間で割ることで、持続時間パーセンテージを求めることができる。これは、観察時間に対して標的行動がどの程度の割合で生じていたかを示す指標である。
- 潜時:ある刺激が提示されてから標的行動が開始されるまでの時間を測定する方法。例えば、アラームが鳴ってから起床するまでの時間や、指示が出てから課題に取り組み始めるまでの時間などがある。
- 強度:標的行動の強さをあらかじめ複数のレベルに分けて記録する方法。行動が生起するたびに、該当するレベルを記録する。強度の測定が必要となる行動には、攻撃行動、癇癪、器物損壊、大声などが含まれる。声の大きさを測る際はデシベル計などが用いられることもある。標的行動を5つのレベルに分けるのが基本であり、例えば以下のように定義される。
- レベル1:拳を壁に一度叩きつける
- レベル2:拳を何度も壁に叩きつける
- レベル3:拳を壁に叩きつけて穴を開ける
- レベル4:拳を何度も壁に叩きつけ、2つ以上の穴を開ける
- レベル5:拳を何度も壁に叩きつけ、壁の大部分を破損させる、または出血を伴うケガをする[3]
 
 
- 強度を記録することで、行動の頻度も同時にカウントされる。各強度レベルでの記録1件が行動の生起回数1として扱われる。各レベルの行動生起率を以下の式で算出する。
- 「生起率(回/分) = 各強度レベルでの行動の生起数 ÷ 観察時間(分)」
- 例:観察時間が20分で、レベル2の行動が10回記録された場合、
- 10 ÷ 20 = 0.5
- したがって、レベル2の生起率は「1分あたり0.5回」となる。
 
- 産物記録法:産物記録法では、行動そのものを直接観察するのではなく、行動の結果として得られた成果物を観察・測定する。例えば、宿題の正解数、工場で生産された製品の個数、子供が壁に開けた穴の数、誰かの腕に噛みついた跡の数などが記録の対象となる。観察者がその場にいなくてもデータを収集できるという利点があり、特に危険な行動を記録するときに有効となる。一方で、記録された産出物を誰がどのように作成したかを確認できないという欠点もある。例えば、生徒が宿題を自分で行ったのか、他者の援助を受けたのか、あるいは別の人物が代わりに行ったのかを教師が判断することは困難である[4]。
- インターバル記録法:観察時間全体を一定の短い時間区間(インターバル)に区切り、各インターバル内で標的行動が生起したか否かを記録する方法である。インターバルの中で一度でも行動が見られた場合は「あり」として記録し、行動がなかった場合は空欄や「なし」として記録する。例として、授業時間を15分間ずつのインターバルに分け、各インターバルのなかで、児童が立ち歩きをしたかどうかをチェックする方法などが挙げられる。行動が生起したインターバルの割合は、「行動が見られたインターバルの数 ÷ 全インターバルの数 × 100」で求められる。
- インターバル内頻度記録法:インターバル記録法と頻度記録法を組み合わせた方法である。各インターバル内で標的行動が生起した頻度を記録する。
- タイムサンプリング記録法:観察時間をインターバルに区切り、そのインターバル内の特定の時点において標的行動が生起したかどうかを記録する方法である。たとえば、15分のインターバルのうち1分間だけ観察を行う、またはインターバル終了の瞬間に標的行動が生起していたかどうかを記録するなどの形式がある。後者は瞬間タイムサンプリング記録法と呼ばれる。この方法は、インターバル全体を通して継続的に観察する必要がないという利点があるため、頻度の高い行動や長時間の観察に適している。
5. ベースラインの確定
ベースラインとは、介入を開始する前の通常の状態における標的行動の測定値を指す。観察時には、大人が特別な対応をせず、普段通りに関わることが重要とされる。標的行動のパターンを把握するために、観察は通常3〜5回程度実施される[3]。
6. インタビュー
チームメンバーへのインタビューが実施される。インタビューでは、主観的な意見ではなく、事実に基づく情報が収集される。インタビューをもとに仮説を立てることが必須とされる。
この過程では、行動の前後に関する情報に加え、睡眠や食事、健康状態、服薬状況および薬の影響の可能性についても確認される。また、行動が生起する場面における周囲の人々の存在や人数など、環境的要因が行動に及ぼす影響についても検討される。
確立操作の有無、すなわち問題行動が好ましいものが長期間遮断された後に起こるのかや、不快な刺激との長期的な接触後に生じるかどうかが確認される。また、行動を維持している可能性のある強化子(人、出来事、物、活動など)についても明らかにされる。
支援職員の勤務体制や、対象者が意思を表明するために用いているコミュニケーション手段についての情報、問題行動と同様の機能を果たす社会的スキルやコミュニケーションスキルを習得しているかどうか、過去に実施された介入プログラムおよびその効果に関する情報も収集される[3]。
7. 行動の観察
標的行動の観察にあたっては、観察者、観察時間、および観察場面を明確にする必要がある。観察者には、親、教師、専門家、さらには本人が含まれる場合もある。本人自身が自らの標的行動を観察・記録する場合、これを自己監視という。自己監視は、標的行動の頻度が低い場合や、他者のいない状況で行動が生起する場合に有効である。
行動を観察する際には、反応性に注意する必要がある。反応性とは、観察や記録の存在そのものによって行動が変化してしまう現象を指す。例えば、授業中に立ち歩く児童が、観察されていることに気づくと行動を控えるようになる場合などである。反応性を軽減する方法としては、観察されることに慣れるまで一定期間待つことが挙げられる。この変化は一時的であり、観察に慣れることで元の行動水準に戻ることも多い。その他の方法として、一方向からのみ透視可能な鏡(ワンウェイミラー)を用いた観察や、参与観察者(支援員など通常その場にいる人物が観察者となる方法)による観察、または映像記録を活用することがある。
自己監視では、自分で自分の行動を記録するという行為そのものが、望ましい方向への行動変容を促すこともある。実際に、自己監視によってチックの頻度が減少したという研究結果も報告されており、自己管理法の一種としても機能する。
観察時間を設定するためには、一日の中でどの時間帯に行動が起こりやすいかを調べる必要がある。一日の中で行動が起こりやすい時間帯を調べるために、30分刻みで標的行動が生起したかどうかを記録する方法がある。これをスキャッタープロットという。さらに、教師や保護者へのインタビュー結果も併用することで、行動が起こりやすい時間帯を把握できる。
観察場面は、自然場面と設定場面に大別される。自然場面とは、標的行動がよく生起する日常的な環境であり、家庭や教室などで観察が行われる。自然場面では、実際の生活状況における行動を具体的に観察することができる。一方、設定場面とは、クリニックのプレイルームなど環境の変数操作が容易な場面であり、観察条件を統制しやすいという特徴をもつ。
さらに、観察は構造化された環境と非構造化された環境で実施される。構造化された環境では、標的行動が観察時間内に生起しやすくなるようにする。たとえば、親に特定の要求を行うよう指示し、行動を引き出すように設定する。一方、非構造化された環境では、特定の活動や指示を与えず、自然な日常活動の中で行動を観察する[4]。
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グラフ化
標的行動を時間の経過に沿って視覚的に示すために、記録したデータをグラフ化する。これにより、標的行動がいつ、どのように生起したかを一目で確認することができる。
グラフには通常、「ベースライン期」(介入前の行動の測定値)と「介入期」などの区分を設け、介入前後の行動の変化を比較する。
グラフの分析においては、独立変数と従属変数の関係を理解することが重要である。独立変数とは、標的行動の変化を生み出すために研究者が意図的に操作する変数であり、先行子操作や強化手続きなどの介入法がこれにあたる。一方、従属変数とは、介入の影響を受けて変化する標的行動自体を指すものであり、たとえば攻撃行動の頻度、課題遂行時間、自発的な発言数などがこれに該当する。
また、「剰余変数」と呼ばれるものもある。これは、研究者が介入計画に組み込んでいない要因であり、標的行動に影響を及ぼした可能性のある変数を指す。行動が変化したときに、その変化が本当に介入の効果なのか、それとも別の偶然の要因(剰余変数)によるものなのかを見分ける必要がある。
行動変容の効果を検討する際には、用いた手続き(独立変数)と標的行動の変化(従属変数)との間に関数関係があるかどうかを明らかにする。関数関係があるといえるのは、以下の条件が満たされた場合である。
- 他の要因を一定に保ったまま、独立変数を操作したときに標的行動の変化が生じる。
- その過程が何度も繰り返し再現され、そのたびに行動が毎回変化する。
これらの条件を満たした場合、研究者は標的行動を実験的にコントロールしたといえる。すなわち、介入手続きが行われたときにのみ行動が変化した場合、その変化は介入(独立変数)によって生じたものであり、他の偶発的な要因(剰余変数)によるものではないと考えられる[4]。
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研究計画法
要約
視点
研究計画法は、介入を進めるための計画の立て方を示すものである。行動分析の分野では、介入の効果を確かめるために用いられる。英語ではリサーチデザインとよばれる。
ABデザイン
ABデザインは、最も基本的な研究デザインである。ベースライン期(A期)と介入期(B期)の2つの段階で構成される。A期では介入を行わずに行動を記録し、B期で介入を行って変化を比べる。
このデザインでは、介入が一度しか導入されないため、行動の変化が本当に介入によるものか、他の要因(剰余変数)によるものかを区別できない。たとえば、行動が減ったのが介入の効果ではなく、以前テレビで見た情報の影響かもしれない。そのため、このデザインだけでは行動変容の因果関係を示すことはできず、研究で使われることは少ない[4]。
ABAB反転デザイン
ABAB反転デザインは、ベースライン期(A期)と介入期(B期)をそれぞれ2回ずつ繰り返す研究デザインである。A-B-A-Bの順に行動を観察し、介入の有無による変化を確認する。
最初の介入期(B期)の後に再びベースライン期(A期)に戻すことから「反転デザイン」と呼ばれる。この反転により、行動が元の水準に戻るかを確認でき、介入と行動変化との間に関数関係があるかどうかを明確に示すことができる。
例えば、最初のベースライン期(A期)では標的行動が高頻度で起こり、介入期(B期)で行動が減少したとする。次に再びベースライン期(A期)に戻すと行動の頻度が元の水準に戻り、再度の介入期(B期)で再び行動が減少した場合、介入と行動変化の間に関数関係があると判断できる。
ただし、自傷行為などの危険を伴う行動を扱う場合、再度ベースライン期へ戻すことにより行動を再び悪化させることは倫理的に問題がある。そのため、対象行動や状況によってはABAB反転デザインの使用が適切でない場合もある[4]。
多層ベースラインデザイン
ABAB反転デザインが、同一の対象者・同一の行動・同一の場面に対してベースライン期と介入期を2回繰り返すのに対し、多層ベースラインデザインは、複数の対象者・複数の行動・複数の場面において、介入を段階的に導入することで、行動変化の一致性を確認するものである。
- 対象者間多層ベースラインデザイン
- 同一の標的行動に対して、複数の対象者にベースライン期と介入期を設定する方法である。
- 4名の対象者が同じ行動を示す場合、それぞれのベースライン期の長さを異ならせ、介入の開始時期を順次ずらして実施する。対象者1に介入を開始した時点では、対象者2・3・4はベースライン期にあり、対象者2への介入開始時には対象者3・4が引き続きベースライン期にある。対象者3への介入時には対象者4のみがベースライン期となり、最後に対象者4に介入を行う。
- たとえば、「授業中に手を挙げて発言する」という行動を標的行動とした場合、手を挙げて発言できたときにトークン(シールやポイントなど)を与える。一定数のトークンがたまると、児童は好きな活動(例:5分間の自由時間、好きな本の閲覧、好きなおもちゃの使用)と交換できるようにする。
- 対象者1にこのトークンシステムを導入すると、手を挙げる回数が増加する。一方で、介入をまだ導入していない対象者2・3・4には変化が見られない。その後、順に対象者2・3・4へ同様のトークン強化を導入すると、それぞれの介入導入後に手を挙げる行動が増加する。
- このように、対象者1への介入(例:授業中に手を挙げて発言する行動を促すためのトークン強化)を行っている間に、対象者2・3・4の手を挙げる行動には変化が見られず、その後、対象者2・3・4それぞれに同じ介入を順に導入した際に、介入後にのみ手を挙げる行動が増加した場合、介入と行動変化の間に因果関係があると判断できる。
- つまり、行動の変化は他の出来事や偶然の影響ではなく、介入(トークン強化)そのものの効果によって生じたと解釈される。
- 行動間多層ベースラインデザイン
- 一人の対象者に対して、複数の標的行動についてベースライン期と介入期を設定する方法である。
- たとえば、自分の身の回りの整理が苦手な児童に対して介入を行う場合、「朝、制服のボタンをすべて留める」「手洗い場で手と手首を30秒間洗う」「学用品(筆箱・ノート・教科書)を所定の場所に収納する」「帰宅後、自分のランドセルや靴を指定された場所に片付ける」など、複数の行動を標的とする。
- 最初に①「朝、制服のボタンをすべて留める」行動に介入を導入し、次に②「手洗い場で手と手首を30秒間洗う」、さらに③「学用品を所定の場所に収納する」という順に介入を段階的に導入していく。それぞれの標的行動が、介入導入後にのみ改善する場合、行動変化は介入の効果によるものであり、他の予想外の要因(剰余変数)ではないと結論づけられる。
- 場面間多層ベースラインデザイン
- 場面間多層ベースラインデザインは、一人の対象者の同じ標的行動について、複数の場面(異なる場所や時間)でベースライン期と介入期を設定し、それぞれの場面ごとに順番に介入を導入していく研究デザインである。
- たとえば、ある児童の「授業開始時に着席する」という行動を標的行動として、国語、算数、図工の3つの授業場面で観察を行う場合を考える。まず、すべての授業でベースライン期に行動を観察すると、いずれの授業でも着席までに時間がかかっていることが確認された。次に、最初に国語の授業でのみ介入(たとえば、着席後にトークンを与える)を導入したところ、国語の授業ではすぐに着席行動が増加したが、他の授業では変化が見られなかった。続いて算数の授業に介入を導入すると、算数でも着席行動が増加したが、図工ではまだ変化が見られなかった。最後に図工の授業に介入を導入したところ、図工でも着席行動が改善した。
- このように、介入を導入した場面でのみ行動の変化が生じ、未導入の場面では変化が見られなかった場合、行動変化は介入の効果によるものであると判断できる。
条件交代デザイン
- 条件交代デザインは、ベースライン期と介入期、または異なる2種類の介入条件を交互に実施する研究デザインである。
- 従来のABデザイン、ABAB反転デザイン、多層ベースラインデザインでは、ベースライン期(A期)の後に介入期(B期)が順次実施されるのに対し、条件交代デザインでは、2つの条件が日ごとやセッションごとに交互に設定される。
- このデザインの特徴として、もし外的要因や偶発的な出来事(剰余変数)が影響していたとしても、それは両条件に同様に作用するはずである。そのため、ある条件下でのみ標的行動が変化した場合、それは介入効果によるものであると判断できる。
- たとえば児童に暴力的な漫画を見せる日と見せない日を交互に設定し、観察したところ、漫画を見せた日にのみ攻撃行動(友達を叩く・物を投げるなど)が増加した場合、この行動変化は漫画の影響によるものであると判断できる。もし天気や教室の騒音、睡眠不足などの外的要因や偶発的な出来事(剰余変数)が行動に影響していたとしても、それらは漫画を見せる日にも見せない日にも同様に作用するはずである。
基準変更デザイン
- 基準変更デザインは、1つのベースライン期と1つの介入期から構成され、介入期において標的行動の達成基準(目標レベル)を段階的に変更しながら、その都度行動の変化を観察する方法である。
- ベースライン期では、介入を行わずに標的行動を測定する。その後の介入期では、一定の達成目標を設定し、達成できたら次の段階へと基準を引き上げていく。基準を変更するたびに標的行動がそれに応じて変化する場合、行動変化は介入の効果によるものと判断でき、他の偶発的な要因によるものではないと考えられる。
- 日常場面の例として、勉強時間を増やす場合が挙げられる。たとえば、最初の週に「1日5分間勉強する」(介入期1)という基準を設定し、達成できたらおやつなどの強化子を与える。次に「10分」(介入期2)、「15分」(介入期3)、「20分」(介入期4)と段階的に目標を引き上げていき、勉強時間が基準の上昇に合わせて延びていけば、行動変化は介入(強化手続き)の効果によるものとみなされる[4]。
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介入方法
→詳細は「応用行動分析」を参照
機能的行動アセスメントの結果に基づき、問題行動の機能を特定したうえで、行動の変容を目的とした介入が実施される。これらの介入は、問題行動を減少させると同時に、適切な代替行動を形成するものである。
主な介入方法には、先行子操作、分化強化、消去などが用いられる。これらは嫌悪刺激を使用しないため「機能的介入法」と呼ばれる。特に、危険行為や強度の高い行動が見られる場合には、安全を確保するため、確立操作や先行子操作によって対応することが推奨される。
一方で、弱化は、他の方法が十分な効果を示さない場合の最終的な手段として位置づけられる。弱化手続きのうち、嫌悪刺激の提示を伴わないタイムアウトやレスポンスコストといった負の弱化は使用されることがあるが、嫌悪刺激を伴う正の弱化は倫理的・実践的な観点から、ほとんど用いられることはない[10]。
関連項目
- 応用行動分析
- 機能的コミュニケーション訓練
- トラウマインフォームドケア
脚注
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