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殿囲
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殿囲(でんい、臀囲とも表記。英語: hip circumference) は、身体計測値のひとつで、殿部の水平方向の周囲長を計測するものである。 ヒップ周囲長ともいう。 殿囲は皮下脂肪と下半身の筋肉を反映するとされ、医学的には、主に肥満、特に脂肪分布の評価を目的として測定される。 ただし、単独で使用されることはまれで、ウエスト・ヒップ比等、他の身体計測値との組み合わせで用いられることが多い。

概念と関連用語
殿囲は、ヒトの殿部、すなわち、尻の水平方向の周囲長である。 なお、殿部は、元は臀部と表記されたが、1958年に日本解剖学会が殿部を正式名称とした[1]。 そのため、学術的な文献では殿囲が広く使われているが[2][3]、一般には臀囲もよく使用されている[4]。
殿囲は、英語では、通常、「hip circumference」と呼ばれ、日本語でも、殿囲の意味でヒップ周囲長ということも多い[5]。 (ヒップ周囲径[6]、ヒップ周径[7]と表記されることもあるが、同じ意味である[※ 2]。) なお、殿囲を意味する英語として、「buttock(s) circumference」[※ 3]もあるが、あまり使われない。
- 服飾のヒップ/腰囲
殿囲は、服飾においてはヒップと呼ばれ、同義語が腰囲とされる[8][9]。「腰囲」は被服関連の文献で使用されることがあるが、医学文献では使われない。
殿囲の測定法・部位
殿囲は、通常、立位で巻き尺を使用して水平方向に測定するが、殿囲の測定部位は統一されておらず、殿部の最後突部、最大周囲長部、その他、複数の部位が記載されている[10][11]。
最も後方に突出している部位
「殿部の最も後方に突出している部位」は、学術的にも、一般的にも、広く用いられている殿囲の測定部位である[12]。
- 学術
米国のNHANES(国民健康栄養調査)[13]、および、フェンクス・ツールキット(学術的に推奨される人体計測法カタログサイト)では、殿囲は殿部の最大突出部で測定するとしている[14]。 日本の人工知能研究センターの「人体寸法・形状データベース」でも、殿囲は自然立位で殿部が最も後方に突出している高さにおける体幹の水平周長としている[2]。
- 服飾
JIS L 0111(衣料等のサイズの日本規格)では「ヒップまたは腰囲」の定義として「臀部後突点における水平面と体表面との交線の周囲長」としている[8]。 ISO 8559-1(衣料サイズ呼称の国際規格)でも、ヒップラインは殿部後突点(側方からみてもっとも後に突出した殿部の点)をとおる水平面と体表面の交線としている[15]。
最も周囲長が大きい部位
WHOの非感染性疾患の危険因子の調査マニュアルである「WHO・ステップス・サーベイランスマニュアル」では、殿囲は尻の最大周囲長部で計測するとしている[20][21][※ 4]。 プリーディの「人体計測ハンドブック」[22]、英国の医学研究審議会疫学ユニットの提供する人体計測のツールキット[23]でも同様である。
その他の殿囲計測部位・計測法
その他の殿囲の計測部位としては、大転子(大腿骨の上外側の突起部分)の高さで計測するもの[10][11]、腸骨稜の3 インチ(約7.6 cm)下方[10]ないし4 cm下方[11]で計測するもの、上腸骨棘で計測するもの[11]、最も側方に突出した部位で計測するもの[24]、などがある。また、近年は、3次元形状計測装置(スキャナ)による計測も普及しつつある[25][26]。
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殿囲の医学的意義
殿囲は大きいほど、心臓血管疾患および心臓血管疾患による死亡・全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが減少することが報告されている(腹囲の増大が疾病や寿命短縮につながるのとは逆である)[27]。 殿囲が10cm増加するごとに全死亡リスクが10 %低下するとのメタアナリシス報告がある(同論文によれば、腹囲については、殿囲と逆に、10cm増加するごとに全死亡リスクが11 %増加するとされる)[28]。 また、殿囲は、血糖値・血圧・脂質とは逆相関すると報告されている[27]。 さらに、腹囲が大きくないヒトにおいては小さな殿囲は死亡リスクと強く関連しており、 寿命短縮を統計的に予測する場合、腹囲と殿囲の両方をモデルに加えるほうが、いずれか一方のみを採用するよりも優れた結果が得られると報告されている[29]。 殿囲と腹囲が疾患や寿命に与える影響の機序の詳細は不明であるが、腹囲は腹部の内臓脂肪と皮下脂肪を反映するのに対し、殿囲は殿部の皮下脂肪と下半身の筋肉量を反映するとされ、両者は体成分や脂肪分布の異なる側面を反映していると考えられている[29][30]。
肥満関連疾患以外では、殿囲が大きいほど、大腿骨近位部骨折(股関節骨折)が減少すると報告されている[31]。
殿囲を含む体格指数
要約
視点
肥満の評価にはボディマス指数(BMI)が広く用いられているが、 脂肪の分布(内臓脂肪と皮下脂肪)を反映せず、また、脂肪と筋肉を区別しない、等の欠点がある。 腹囲・殿囲などの身体計測値を利用してBMIの欠点を克服すべく、 さまざまな体格指数が提案されてきたが、その代表的なものがウエスト・ヒップ比である[29]。
ウエスト・ヒップ比

ウエスト・ヒップ比(WHR)は、腹囲(ウエスト周囲長)を殿囲(ヒップ周囲長)で除したものである。
WHR = 腹囲 / 殿囲 [6]
WHRは、内臓脂肪の増加を反映する腹囲と、 肥満関連疾患のリスクに対して保護的に作用する殿囲の比をとることにより、 腹囲・殿囲単独よりも鋭敏に肥満のリスクを評価することを目指したものであり、 内臓脂肪の増加している中心性肥満(腹部肥満)のマーカーである[27]。 (肥満における脂肪分布の類型として知られる、腹部の脂肪が増加する「リンゴ型肥満」と殿部から大腿に脂肪が増加する「洋ナシ型肥満」を区別できる指標でもある[32]。) WHRはBMIよりも心臓血管疾患・糖尿病や死亡のリスク評価に優れている[33][34]。 31件のコホート研究のメタアナリシスでは、WHRが0.1増加するごとに全死亡のリスクが20 %増加すると報告されている[28]。 また、ウエスト・ヒップ比はBMIや腹囲単独よりも心臓血管疾患の予想に優れているとの報告もある[35]。
ウエスト・ヒップ比の問題点としては、全く異なる体型のヒトが同じウエスト・ヒップ比を呈しうること[29]、治療により分子と分母の両方が変化するため経過を追いにくいこと[34]、腹囲と殿囲の関係は非線形的であるためにその比の評価が難しいこと[29]、腹囲と殿囲の測定部位にそれぞれどこを採用するかによる影響が大きいこと[11]、などが指摘されている。
なお、WHOのメタボリックシンドロームの診断基準にはWHR(男性で>0.90、女性で>0.85)が含められていた[21]が、 腹囲と殿囲の両方を計測するのは煩雑であること、内臓脂肪量との相関は腹囲のほうが優れていること、等の理由から、 日本をはじめとする近年のメタボリックシンドローム診断基準ではWHRではなく腹囲が採用されている[36][34]。
英語版Waist–hip ratioも参照されたい。
体脂肪率指数
体脂肪率指数(Body Adiposity Index :BAI)は2011年にベルグマンらにより提唱された、体脂肪率を推定するための体格指数である[37]。
BAI = ( 殿囲(cm) ÷ 身長(m)1.5 )ー 18 [37][※ 5]
体重を必要としない簡易な式であるが、男女の体型差を考慮していないこと、標準的な体脂肪率測定法である二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)とよく一致しないこと、等の批判がある[38]。
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日本人の殿囲の分布
日本人殿囲の統計データについては、外部リンクを参照されたい[39]。
健康診断における殿囲
成人の健康診断においては、腹囲(ウエスト周囲長)は一般的に計測されるが、 殿囲(ヒップ周囲長)を計測する施設は存在するものの少数である[40]。
脚注
外部リンク
関連項目
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