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燗酒

加熱した酒 ウィキペディアから

燗酒
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燗酒(かんざけ、異体字 : 𤏐酒)とは、加熱したのこと。日本酒のほか中国酒紹興酒などでも行われる[1]。酒自体を加熱する行為のことを、(かん)を付ける、お燗(おかん)するなどと言う。

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ガスコンロでお燗する様子

日本酒と燗

要約
視点

酒を温めて飲む習慣は日本以外にも例があるが、日本酒のように季節を問わずに飲み方の一つとして広く親しまれているのは珍しいとされる[2]

「燗」は酒を適温にまで温めること[3][注釈 1]室町時代には「間」と表記され、寒と温の間の程よい状態にする意味で用いられたとされる[3]明治時代になり火偏の付いた「燗」が現れたという[3]

日本酒は加温すると苦みや酸味、塩味は変わらないが、甘みは強く感じるようになるとされる[2]。また、アルコール度数も高いほうが旨く感じられるようになるとされる[2]

お湯割りと区別されるが、熱い湯で割ったぬるい燗はホット割燗と呼ばれることがある[5]

また、事前(飲む前日以前に。直前ではない。)に加水(お湯は使用しない。)しておくことを前割りと呼ぶ[6]。前割りすることで焼酎と水が馴染むため、前割りした焼酎を燗すれば、お湯割りよりもまろやかさが増す[7]。焼酎を水で割って1日から2日置いてからゆっくりと温めて人肌のぬる燗にして飲むことを燗付けと呼ぶ[6]

ひれ酒骨酒では魚の旨味を引き出すため熱い燗酒が注がれる。燗をつける際、基本的にスパイスや砂糖などが加えられることはない。原酒のようにアルコール度数の高い日本酒では加水してから燗をつけることもある。

歴史

酒を温めて飲むようになったのは平安時代以降とされる[8]。『延喜式』内膳司では燗に用いた土熬鍋があった[8]。また、10世紀後半に成立した『宇津保物語』には酒を温めて接待した記録が残っている[8]

『貞順故実聞書条々』によれば、酒の燗は9月9日から3月2日までであるという。『温古目録』でも「煖酒、重陽宴(9月9日)よりあたためて用いるよし、一條兼良公の御説に見えたり」とする[8]

季節に関わりなく燗をするようになったのは江戸時代の文化文政期とされる[8]ルイス・フロイスの『日欧文化比較』には、日本人はほとんど一年中酒を温めて飲むという記録がある。この習慣は江戸時代にも続き、江戸の人々も一年中燗酒を飲んでいた[9]

手法

燗鍋
燗鍋に相当するものは延喜式が成立した平安時代中期には存在していた[1]。江戸時代の天保年間に著された山崎美成の随筆 『三養雑記』には「延喜式内膳司の土熬鍋は、今のかん鍋にて、上古よりその器もあれど、煖酒は重陽の宴より、あたためて用ゆるよし、一條兼良公の御説のよし、温古日録に見えたり」とある[1]。同様の内容は 『天野政徳随筆』にも記されている[1]
延喜式が成立する平安時代の中期には後世の燗鍋に相当するものがあったとされるが、土熬鍋が実際にどのように使われていたかは分かっていない[1]
近世には燗鍋は井原西鶴の浮世草子によく登場し、その挿絵には鍋に弦の付いた燗鍋が描かれている[1]。『和漢三才図会』は燗鍋を銚子に代えて酒を酌むことを卑賎の風習としているが、町人社会では便宜的に燗鍋が酒を注いだり運ぶための器として用いられていた[1]
銚子・ちろり
安永年間から文化年間にかけて黄表紙が刊行されるようになったが、代表的な作品から燗鍋は姿を消し、銚子(ちょうし)や銚釐(ちろり)が登場するようになった[1]
銚子(ちょうし)は注ぎ口のある鍋に長い柄を取り付けた道具で、さしなべ、打ち銚子、ながえの銚子などとも呼ばれた[1]猪口に酒を注ぐための銚子は、一升瓶等で搬送された日本酒を1合から2合入れておく酒器で、燗をする時にも用いられた[10]。なお、江戸時代末期には燗徳利が出現し、明治時代にはこれも銚子と呼ばれるようになった[1]
銚釐(ちろり)は金属製の筒状の容器であり、把手、蓋、注ぎ口が付いているもので、酒の燗のための用具であったが盃に注ぐのにも用いられた[1]
燗徳利などによる湯燗
江戸時代には徳利(とっくり)は酒だけでなく、醤油の容器でもあった[1]。燗鍋などを直火や熱灰に置いて酒を温めるのに対して、燗徳利などを用いて湯で間接的に温める方法を湯燗と称する[1]
嘉永年間に喜田川守貞が著わした『守貞漫稿』では、京阪では必ず銚子を用いており燗徳利は稀であるが、江戸では略式では燗徳利を用いることがほとんどであるとしており、燗徳利が普及し始めた頃と考えられている[1]
土瓶による直燗
土瓶を燗に用いることもある[11]。「きびしょ」や「きびちょ」ともいうが、煎茶などの急須を指すこともある[11]
焼酎を燗するための酒器薩摩焼の「黒ぢょか」がある。「黒ぢょか」で燗をする場合は前割りした方が好ましい[7]
やかんによる直燗
やかんによる直燗も行われるが、燗瓶(容器)は本来は表面比が小さく、加熱時間も短いほうが適している[12]
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小林家(北海道栗山町)に展示されている酒燗器
酒燗器(自動酒燗器)
料飲店などでは酒燗器が使用されることもある[12]。熱源にはガス式と電気式がある[12]。熱交換方式もパイプ式、プレート式、タンク式、燗瓶によるものがある[12]
  • 一升瓶を逆立ちさせてセットして用いる自動酒燗器がある[2]。貯湯式倒立型のものは湯の中で水浴して温める[12]
  • 旅館などでは通過式と称されるタオル蒸しやうどんの掛汁を保温する機械と兼用器としたもの(パイプ内を通酒して温める)がある[12]
  • 徳利を使用して水浴としシーズヒーターで水を温めるものがある[12]
電子レンジ
電子レンジで燗を付けることもでき、酒の量や電子レンジの機種にもよるが、1合あたり1分が目安とされる[2]。ただし、電子レンジの欠点として液温にムラが出ることが挙げられる[2]

温度

日本酒の燗では細かな温度表現があり、一般的には以下のように分類される(独立行政法人酒類総合研究所「酒類販売管理研修通信 平成16年12月 第4号」)[2]。飲用温度はあくまでも目安である。

さらに見る 名称, 飲用温度 ...

涼冷え、花冷え、雪冷えは沢の鶴が提唱した表現である[16]

これら以外の名称として、飛び切り燗を更に越えた温度に対して煮酒と呼ぶなど様々な表現が存在する。泉鏡花は潔癖性で酒を煮立つまで温めていいたことから、これを当時の文壇では「泉燗」と呼んでいた。

適性

独立行政法人酒類総合研究所「酒類販売管理研修通信 平成16年12月 第4号」によると、大吟醸や生酒など香りやフレッシュさを味わう種類では燗には向いていないとしている[2]。また、吟醸はぬる燗でも美味しいものの、一般的には加温によって酒の特徴が弱まるとする[2]。その上で燗酒には味のしっかりした純米酒や本醸造酒のほうが向いているとする[2]

新潟県長岡地域振興局「美酒日和」では、吟醸酒、純米酒、本醸造酒、普通酒、樽酒、生貯蔵酒について、温度別の目安を記している[14]。それによると、吟醸酒は冷やして(約10℃)や常温(約20℃)を最適とする一方、上燗(約45℃)や熱燗(約50℃)は適さないとしている[14]。また、樽酒についても、冷やして(約10℃)を最適とする一方、上燗(約45℃)や熱燗(約50℃)は適さないとしている[14]。生貯蔵酒については、冷やして(約10℃)を最適とする一方、ぬる燗(約40℃)や上燗(約45℃)、熱燗(約50℃)は適さないとしている[14]

缶入り燗酒

日本盛はホット専用の缶入り燗酒を2017年に発売した。酵母や仕込み方法を工夫し、コンビニエンスストアなどで連続加温した状態で陳列・販売できるようにした[17]

富久娘酒造がかつて販売していた「燗番娘」(商品上の表記は「𤏐番娘」)[18]や白龍のふぐひれ酒のように、特殊な加熱容器により火を用いずに燗を行えるようになっているものも存在した。[19]生石灰(酸化カルシウム)と水を混合した時に起こる発熱反応を利用している。[20]

カクテルの材料

カクテルの材料に燗した日本酒が用いられる例として、オレンジ・サキニー卵酒がある。しかし、オレンジ・サキニーや卵酒は、燗酒ではなく、カクテルとして扱われる。

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中国酒と燗

中国の醸造酒(黄酒)である紹興酒もまた、燗をつけて飲むことがある。日本酒の場合と同様で、暑い時期にはあまり行われず、寒い時期に多く行われる傾向にある。また、基本的にスパイスや砂糖などが加えられることはなく、加水も行わない。

歴史

日本酒を燗するのと同様に、紹興酒などの黄酒を燗することも古くから行われてきた。

中国にも酒鐺(ノウ)と呼ばれる酒を温めるための鍋が存在した(『和漢三才図会』巻三十一にも「酒鐺」の記載がある。)[1]白楽天の詩に「鐺脚ノ三州 何ノ處二曾シ 甕頭ノー餐 幾時力同ジクセン」の一節がある[1]

その他の酒と燗

ワインと燗

シェイクスピアの作品には「十二夜」など幾度も「バーン・サック」(ホット・シェリー酒)が登場する。ヨーロッパでは赤ワインにスパイス(シナモンクローブなど)や砂糖などを加えて燗をつけたグリューワインがある。しかし、日本酒、中国酒、焼酎の場合は、基本的に何も加えずに燗を行うのだが、対してグリューワインの場合はスパイスなどを加えるため、カクテルとしての扱いとなる。

ビールと燗

燗をして飲むことを目的として醸造されるビールも存在する。冬季限定で、ベルギーではクリスマスマーケットなどで提供されている[21]。リーフマンス グリュークリークは煮沸時にスパイスを投入して製造されている[21][注釈 2]

評価

貝原益軒は『養生訓』で次のように述べている[4]

繧格致鯨論ニハ、醇酒ハ冷飲ニヨロシトイヘリ。然レドモ多ク飲メバ、冷飲ハ最モ能ク胃ヲ傷ム。冷飲二宣シキハ少シク飲ム人ハ然ルベシ。時珍ハ酒ハ熱クシテ飲ムヲ甚ダ良シト云ウ。人ノ生質ニヨリ、病症ニヨルベシ。偏(ひとえ)二拘(かかわ)ル可ラズ。貝原益軒、『養生訓』[4]

※時珍は中国の本草学者である[4]

脚注

参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク

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