素数が無数に存在するということは古代から知られてきた事実であるが、ゼータ関数のオイラー乗積表示にも端的に顕われている。

この左辺のゼータ関数は
に極を持つから、右辺も発散しなければならず、そのためには無限個の素数が存在しなければならない。これに倣い、任意の算術級数に含まれる素数で構成された総和が発散することをもってディリクレの算術級数定理が証明される。
ディリクレのエル関数
ディリクレ指標
によるディリクレ級数で定義される関数をディリクレのエル関数という。

右辺のディリクレ級数は
で絶対収束する。また、
であれば、指標の直交性により
であるから、
は
で一様収束して正則である。
については、法
と素な素数
を任意に選び、


とすると
であるから、
は
で一様収束して正則である。従って、

は
に高々位数1の極を持つことを除き
で正則である。整数の素因数分解の一意性と
により

と表され、これをエル関数のオイラー乗積表示という。
補題
である。この補題は算術級数定理の証明の要である。この補題については複数の証明が知られているが、ここでは全面的に複素関数論に頼りながら比較的簡潔な証明を示す。複素関数論の中でも次に挙げる事実が特に重要となる。
- 正則関数の列が一様収束するとき、その極限は正則関数である。
- 局所的に一致する正則関数は大域的にも一致する。
- 正則関数の零点の位数は整数である。
既に示したように、
が
に高々位数1の極を持つことを除き
は正の実軸上で正則である。従って、

は
に高々位数1の極を持つことを除き正の実軸上で正則である。対数を取ると


となるが、
が有界であるから右辺は
で絶対収束する。

は少なくとも
で絶対収束するから、和の順序を交換してテイラー級数

が得られる。テイラー級数は収束円内で絶対収束するから、その収束円の半径を
とすると、和の順序を交換した左辺のディリクレ級数も
で収束する。しかし、
を代入すると、

となって発散する。従って、
である。
となる特異点
があり、

は発散する。仮りに
であるとすれば、

であるから、
が発散するためには
が発散しなければならない。しかし、
は収束円の内部にあるから
は収束する。従って、
である。
であるから、級数が収束するかぎり、実軸上では
であり、
である。従って、
は極でなければならず、そのためには
であり、
であり、且つ、他は全て
でなければならない。
算術級数定理の証明
を互いに素な整数とするとき、算術級数
が無数の素数を含むことを示す。エル函数のオイラー乗積表示の対数を取り、

である。
を乗して総和を取り、ディリクレ指標の直交性により、

である。但し、
は
の複素共役を表す。補題により、
は
に極を持ち、他の
は
で正則であり、且つ、
であるから、左辺は
で有界ではない。従って、右辺も
で発散しなければならず、そのためには
となる素数が無数に存在しなければならない。