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緊縮財政政策

インフレ状態の抑制・財政収支の悪化改善・国債残高の累増解消などを目的に行われる歳出削減や増税による財政赤字縮小させる財政政策 ウィキペディアから

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緊縮財政政策(きんしゅくざいせいせいさく、英:Austerity measures policy, Fiscal consolidation policy, Fiscal austerity policy)または緊縮財政とは、政府支出の抑制や増税といった手段で、財政赤字の削減や財政黒字の拡大をしようとする試みのことである[1][2][3][4][5]。対義語は積極財政[6]、または放漫財政[7][8][9]。、完全雇用時(完全失業率3%[10])の赤字財政は緊縮財政ではなく、完全雇用財政赤字なので放漫財政に分類される[7][11]

概要

緊縮財政は、政府が自らの債務を履行できない懸念が高まっている場合や、バブル経済や高インフレが発生している場合、さらにその解決を大義名分として民営化規制緩和などの付随する経済政策を実行したい当局の意図がある際に進められる。特に政府が発行権を持たない通貨で、経済力に見合わない巨額の債務を抱えている場合に、緊縮財政を求められることが多い。例えば、ユーロ圏ドルで多額の借り入れを行っている多くの南米諸国が該当する。国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの国際機関が、通貨危機に陥ったり対外債務を抱えた国に最後の貸し手として融資する際に、構造調整プログラムの一つとして要求する場合がある[12][13]

新自由主義の中心的なイデオロギーに、小さな政府(低い税負担と政府支出の削減)がある[14]管理通貨制度の国は中央銀行を後ろ盾にして自国通貨建ての国債を発行する際に、低金利でも購入者が居る限り・高インフレとならない範囲では、需要と供給の両面を強化することが出来る。自国通貨建て国債が低い金利だと売れないために、慢性的に高い金利と高インフレに悩まされている国としてトルコがある[15][16][17][18]第三の道など左派が新自由主義を事実上後押しすることもある。ドイツではドイツ社会民主党の第三の道に従った改革にて、緊縮財政(政府支出削減)による財政再建と低い失業率を成し遂げた[19]。日本においては積極財政=戦争への道というようなイメージが根強いとの意見がある[20]

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緊縮財政と物価・失業率

要約
視点

物価高騰(インフレ)対策

財政赤字による国債残高の累増状態の削減、または景気の加熱やインフレを抑えるために支出の削減や増税などにより総需要を引き下げるために行われる。日本の場合、戦前は西南戦争による戦費支出のための不換紙幣増発の影響で1879-80年に激しいインフレーションが起きた。つたり、物価が高騰(紙幣価値が下落)したことによって、銀貨と紙幣の比価が乖離し、国際収支の悪化は正貨を流出・枯渇させ、金利が高騰し投機が流行して生産資金の欠乏状態となった。そのため、松方正義が大蔵卿・蔵相として主導した松方財政(1881年~1892年)という財政・金融政策が行われ、これは兌換制度の確立を契機に前期と後期に区分される。前期には、大隈重信による通貨流通量維持の方針から転じ、緊縮財政を採用することで剰余金を確保し、これをもとに正貨を蓄積、不換紙幣の回収と通貨供給量の縮小が図られた。軍事費拡大や公債発行においても、通貨整理との整合性を重視した政策が取られた。この過程で物価の下落が生じ、いわゆる「松方デフレ」と呼ばれる現象が発生したが、1885~1886年には銀本位制が導入され、貨幣制度の整備が進んだ。後期においては、税収の伸び悩みを前提に緊縮財政が継続され、財源の限られた中で公債政策を通じて軍備拡張や鉄道建設などの支出が賄われた。一方、金融政策では通貨収縮方針が見直され、日本銀行による兌換券の増発を通じて民間金融が拡大したことにより、企業勃興期における資金需要への対応や、公債の国内消化(日本国民による日本国債購入率上昇)が進んだ。松方財政は最終的に、貿易収支が比較的安定する状況下で、外資への依存を抑えつつ近代的な財政・金融制度の基盤整備を進め、日本の資本主義経済の形成に貢献した[21]。戦後は神武景気岩戸景気のときは国際収支の悪化時、またいざなぎ景気のときには物価上昇(インフレ)を抑制するために行なわれた[22]

財政健全化と低失業率の両立の成否

失業率が激増した世界恐慌の渦中にあった1930年代、反緊縮財政の議論が顕著になった。ジョン・メイナード・ケインズは有名な反緊縮の経済学者になり、「不況のときではなく景気が過熱しているとき(インフレまたは好景気時)が緊縮財政の適切な時期である」と指摘した[23]。ケインズ経済学者は、失業率が高い不況時に、高失業率から脱するまでは財政赤字でも政府支出を増やすことは適切であると主張している。ポール・クルーグマンによれば、政府は家計とは違った経済主体であるため、景気後退や経済危機時に政府支出削減が行われると、不景気を悪化させる[24]。ポールは、経済全体である人の支出は別の人の収入であるとし、誰もが支出を削減しようとすると合成の誤謬に経済が閉じ込められ、GDPの成長が抑制されたり、GDPが低下し景気後退が悪化する可能性があるとしている[25]。 2007年-2010年の世界金融危機で財政赤字の激増状態に陥った各国で緊縮財政が採用され、特にヨーロッパのユーロ圏に深刻なマイナスの影響を与えた。欧州委員会(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)は支援の条件として緊縮財政を要求した[注釈 1]。2011年にはユーロ圏労働人口の10%が失業し、若者(15歳から24歳)の失業率は20%と上昇した。財政赤字が深刻だった国家の失業率は、アイルランド全体が15%・若者が30%、ギリシャ全体が14%・若者37%、のちにはスペイン全体が20%・若者44%となった。不況が続く各国では、緊縮財政を要求する国際機関に対する非難が高まった[26]。IMFは、緊縮財政を行っても景気が回復をすると予想したが、実際には雇用減少・消費低迷・信用下落を招いた。2012年にはIMFは経済危機時に緊縮財政をすることが誤りであると認める結果となった[27]

政府支出はそれ自体がGDPの主要な構成項目であり、増税は民需を縮小させるため、緊縮財政は総需要を抑制する効果がある。そのため、インフレ時には物価高騰を抑えるメリットもあるが、高失業率を招くレベルの緊縮財政は、GDPの毀損や成長率の鈍化につながる。このケースでは、税率を引き上げても税収が増えるとは限らず、税収の原資であるGDP縮小・税収減少する可能性もある。1990年代以降、日本や多くのヨーロッパ諸国の民主主義国家では、選挙のために膨張する社会保障費を歳入に見合う水準まで削減する改革や、歳出に見合うだけの増税を実施することが出来ず財政赤字が拡大していった。したがって、緊縮財政(増税)を実施したからといって、財政赤字の要因となっている歳出削減も行わなければ財政赤字解消や政府債務の削減が必ずしも達成されるとは限らない。この傾向に反して、ドイツだけが2009年の憲法改正で財政規律を明文化し、2014年に達成した黒字財政を維持している [28] [29] [19]

完全雇用時の財政赤字

完全雇用財政赤字とは、景気変動を取り除いた構造的な財政赤字を意味し、分かりやすく言うと経済が潜在的な生産能力を最大限に発揮した場合でもなお発生する財政赤字である[30]。2023年9月24日時点で、日本の財政赤字の構造は「完全雇用財政赤字(構造的財政赤字)」であるため、景気回復によって自然に解消される性質のものではなく、意図的な財政再建によって積極的に是正する必要がある。しばしば指摘される「日本は緊縮財政を行っている」との認識は誤解であり、実態と乖離している。国際通貨基金(IMF)の『Fiscal Monitor』によれば、日本の構造的財政収支(一般政府ベース)は1994年以降、恒常的に赤字を記録しており、緊縮財政ではなく、放漫財政が続いていることが明らかだと指摘されている。この分析はIMFだけでなく、経済協力開発機構(OECD)による同様の推計においても、日本の財政赤字の構造はほぼ同じように確認されている。さらに、労働政策研究・研修機構の「統計トピックス(均衡失業率、需要不足失業率)」によれば、日本では2015年第4四半期以降(新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年のコロナ禍の一部期間を除き)、需要不足失業率が解消され、完全雇用が達成されている。それにもかかわらず財政赤字が継続していることから、日本の赤字は「完全雇用下における財政赤字(構造的赤字)」である。このように、日本の財政は緊縮的ではなく、むしろ放漫財政に近い運営が続いている。財政の持続可能性を確保するうえでも、これ以上の財政刺激策は不要であり、むしろ早急な財政健全化のための再建策が求められている[7]。「完全雇用財政赤字」の概念は1960年代のアメリカや、1972年の日本の経済白書においても「完全雇用バランス」として用いられていたもので、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)によって「構造的財政収支(General government structural balance)」として推計されている。 国際通貨基金(IMF)の推計によれば、2023年度の日本の完全雇用財政赤字は約37兆円に上り、同年度の当初予算における社会保障関係費(約36.9兆円)に匹敵する規模である。日本が完全雇用財政赤字を消費税の引き上げのみで補填しようとする場合、消費税率を更に約12%引き上げる必要がある。これは2023年度予算における国・地方を合わせた消費税収(約30兆円)および、消費税率1%あたり約3兆円の税収を基にした試算によるものである。この場合、国民負担率は55.6%に達すると見込まれている。完全雇用なのに赤字財政を続ける日本は「メタボ財政」と評される放漫財政状態であり、持続可能な財政運営の観点から、歳出に合わせた増税または社会保障関係費などの歳出削減といった財政健全化策が必要な状況にある。さらに、財政健全化を「経済成長」によって実現しようとする場合であっても、短期的な需要刺激ではなく、潜在GDP(経済の供給能力)の底上げが不可欠であると指摘されている[30]

就労インセンティブ強化による両立成功

ドイツが社会保障給付削減というの緊縮財政を進めながらも、低失業率と財政黒字を両立できた要因として、専門家が挙げるのは、2003年に打ち出された「就労インセンティブ」強化を含んだ構造改革「アジェンダ2010」である。 ドイツでは1970年代のオイルショック以降、高水準の失業率が慢性化していた。1990年の東西統一後は、旧西ドイツよりも競争力の劣る旧東ドイツ地域で工業生産が急減し、大量の失業者が発生。一時的に失業率は低下したものの、1999年以降再び上昇し、2004年からの3年間は10%超の高失業率が続いた。 高失業率に加えて、社会保障費の増大と旧東ドイツ地域への復興支出ドイツ財政に重くのしかかり、当時の統一ドイツは「欧州の病人」とまで揶揄された。しかし、経済成長の促進、社会保障制度の適正化、国際競争力の強化を目的とした、労働市場社会保障費用の削減・税制の包括的制度改革であり、ドイツの硬直的高コスト経済構造にメスを入れた「アジェンダ2010」を契機に、情勢は転換を迎える。具体的な改革内容として、企業の柔軟な人材採用を可能にするための解雇規制の緩和、失業者への職業紹介所への迅速な登録義務づけ・長期失業者に対する失業給付の支給期間短縮・所得税率および法人税率の引き下げという「就労インセンティブ」の強化と個人消費刺激といった一連の改革により、ドイツは雇用財政健全化の両立に成功し、他国の緊縮財政失敗例とは一線を画す結果を残した。[19]

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出典・脚注

関連文献

関連項目

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