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自己愛憤怒

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自己愛憤怒(じこあいふんぬ、: Narcissistic rage)とは、自己愛者自尊心もしくは自己価値感への脅威と認識される時に、「自己愛的傷つき」や「自己愛損傷」(Narcissistic injury)などへの反応として生じる、激しい怒りである。自己愛的怒りとも呼ばれる。

自己愛的傷つきはジークムント・フロイトによって1920年代に用いられた用語である[1]。また、自己愛的怒りという用語は、1972年ハインツ・コフートによってつくられた用語である。

用語注: 自己愛憤怒は精神分析・人格心理学上の概念であり、主要診断分類(DSM-5-TRやICD-11)の独立した診断名ではない[2]

特徴

要約
視点

自分の快楽を優先

「自己愛憤怒は自己中心的な人間の中に多発され、自分の利益や快楽を優先するので、その過程で他者を傷つける可能性が高い」[3]。自己中心的な人間には、他者を気にし過ぎるあまり攻撃的になる自己愛者と、他者の評価が本当に気にならないので自分の欲望を他人に押し付けることが出来るサイコパスの2つのタイプがある。自己愛者は、主観的評価より少しでも低い評価や冷遇を他者から受けた途端に怒りを爆発させ、攻撃行動へ結びつく[4]

攻撃行為

自己愛的怒りは、無関心から比較的軽度の苛立ちおよび当惑という例から、暴力的攻撃を含む激しい感情爆発に至るまでの連続体上に生じる[5]。自己愛的怒りは自己愛性パーソナリティ障害に限らず、カタトニーや偏執的妄想、また抑うつエピソードにおいても同様に見られる場合がある[5]

攻撃行動とは、「他者に危害を加えようとする意図的行動」[6]のこと。攻撃行動には2つのポイントがあり、「行為者本人に相手を害しようという意図があるかないか、被害者本人に意に反して害されたという意識があるかないか」[7]「第三者からみて攻撃しているとみなされるかどうか」[8]という点と、危害を加えようとしている[8]という点である(未遂か、成し遂げられたかは関係ない)[8]。「他者を傷つける行為」であっても、たとえば外科手術格闘技自傷行為サディストマゾヒストの関係、何らかの事故の場合は、それぞれ、傷を加える側の目的が「被害者」の治療で「被害者」の目的も同じ、嫌がっているのを無理矢理リングに上げさせられたのではない、行為者と被害者が同一人物、行為を受ける人物が事態を避けようとしていない、加害者の意図した行動ではないので、社会心理学でいう「攻撃行動」ではない[8]

誘発因子とオンライン環境

自己愛的特徴の強い個人では、挑発や自我脅威(否定的評価・批判)に直面した際、反応的攻撃性が高まりやすいことがメタ分析で示されている[9][10]。SNSなどのオンライン状況でも、否定的なフィードバックは怒りや攻撃性の増大と関連し、特性怒りや敵意がその関連を媒介するとの実験的知見が報告されている[11]

また、サイバーブリング被害から生じる社会不安や「怒りの反芻」が攻撃行動を介して悪影響を及ぼし、自己愛特性がこの経路を増強しうるというモデルも示されている[12]

一方、オンラインで意図的に他者の感情反応を引き起こす「トロール行為」は、行為者側のダークトライアド/テトラッド特性(とくにサディズム)との関連が再現されているが、これは被標的者の診断の有無とは無関係に観察される現象である[13][14]。以上より、自己愛憤怒の理解には、個人内要因(脆弱性や怒りの反芻など)に加えて、挑発・嘲笑・オンライン上の否定的フィードバックといった環境要因の相互作用を考慮する必要がある。

完璧主義

ナルシシストはしばしば疑似完璧主義者であり、周囲からの注目の中心であることを求めている。彼らは注目を喚起する状況を作り出す。彼らの完璧になろうとする試みは、その壮大な自己イメージの凝集のためである。彼らは、自らが完璧と考える知覚状態に達していないと、罪悪感、恥、怒り、不安が引き起こされる。彼らは、完璧ではないのであれば、他人からの称賛や愛を失うと信じているのである[15]

自己心理学では、そのような完璧主義の背後に、早期における壮大な自己に対しての外傷性損傷を見るであろう[16]

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経験的研究(2020年代)

自己愛憤怒は理論用語として広く用いられてきたが、近年は経験研究が進んでいる。2021年のメタ分析は、誇大型・脆弱型を含むナリシシズムが攻撃性と小~中程度で一貫して関連すること、特に挑発や自我脅威の状況で関連が強まることを示した[17]。同様に、2022年のメタ分析も、ナルシシズムがとくに反応的攻撃とより強く結びつくことを示している[18]

羞恥・怒り反芻(ルミネーション)と反応的攻撃

自己愛憤怒の近接機序として、羞恥や恥辱感の喚起、ならびに怒り反芻が媒介するという知見が報告されている。実験・調査研究の統合では、ナルシシズム(特に脆弱型)が自我脅威下で羞恥と怒りを高め、反応的攻撃(報復行動)に結びつくことが示唆された[19][20]。また、対人ストレスを受けた際に怒り反芻が攻撃行動を媒介する縦断・横断研究が報告されている[21][22]

関連する対人ストレス・操作行動と注意点

ガスライティングや「DARVO」(否認・攻撃・被害者と加害者の反転)のような操作的応答は、被害者側の混乱や怒りを高めうる心理的虐待の戦術として実験・尺度研究が進みつつある[23][24]。もっとも、これらの概念と「自己愛憤怒」を直接かつ因果的に結びつける高品質研究は現時点で限定的であり、関連は慎重に解釈すべきだとされる。


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脚注

関連項目

外部リンク

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