トップQs
タイムライン
チャット
視点

IκBキナーゼ

ウィキペディアから

Remove ads

IκBキナーゼ (アイ・カッパ・ビー・キナーゼ)またはIKKI kappa B kinase、アイ・ケー・ケー)は、炎症反応の伝搬に関与する酵素の複合体である[1]。IKK-α、IKK-β、IKK-γの3つのサブユニットからなる。

IκBキナーゼ複合体は、NF-κB(nuclear factor-kB)シグナル伝達経路の中で上流部分に位置する。IκBα(inhibitor of NF-κB α)タンパク質は、転写因子であるNF-κBタンパク質の核局在化シグナルをマスクし、不活性な状態で細胞質に留めておくことでNF-κBを不活性化する[2][3][4]。IκBキナーゼは、IκBαタンパク質をリン酸化し[5]、これによりIκBαがNF-κBから離れる。遊離したNF-κBは核へ移行し、150種類以上の遺伝子を発現させる。

Remove ads

酵素反応

IκBキナーゼは、IκBタンパク質とATPを基質として、リン酸化IκBタンパク質とADPを産生する。IκBキナーゼは、リン酸基をセリンまたはスレオニンの側鎖に結合させるセリン/スレオニンキナーゼの一種である。

ATP + IκBタンパク質 ADP + IκBタンパク質

構造

要約
視点

IκBキナーゼ複合体は、異なる遺伝子にコードされた3つのサブユニットから構成される。

  • IKK-α (IKK1とも呼ばれる) (CHUK)
  • IKK-β (IKK2とも呼ばれる) (IKBKB)
  • IKK-γ (NEMONF-κB essential modulator)とも呼ばれる) (IKBKG)

IKK-αサブユニット及びIKK-βサブユニットが触媒活性を持ち、一方IKK-γサブユニットは調節機能を有する。IKK-αとIKK-βは構造的に似ており、キナーゼドメイン、ロイシンジッパードメイン、ヘリックスループヘリックス二量体化ドメイン、NEMO結合ドメイン(NEMO-binding domain:NBD)からなる[6]。NBDは、ロイシン-アスパラギン酸-トリプトファン-セリン-トリプトファン-ロイシンというアミノ酸で構成され、IKK-αの737-742番目、IKK-βの738-743番目にある[7]。IKK-γは、2つのコイルドコイルドメイン、ロイシンジッパードメイン、ジンクフィンガー結合ドメインからなる[6]。IKK-γはN末端側でIKK-αやIKK-βのNBDと結合し、残りの部分で調節タンパク質と相互作用する[7]

さらに見る conserved helix-loop-helix ubiquitous kinase, 識別子 ...
Remove ads

機能

IκBキナーゼは、リンパ球の免疫制御機構に重要な役割を果たす転写因子であるNF-κBファミリーの活性化に必須である[6][8]。 古典的なNF-κB経路は、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)やインターロイキン-1(interleukin-1:IL-1)のような炎症性サイトカインの放出や、病原体の表面に発現するリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)を含む炎症刺激によって開始される。その下流のシグナル伝達カスケードにより、IKK-γがIKK-αとIKK-βに結合することでIκBキナーゼ複合体が活性化する。IκBキナーゼ複合体は、inhibitor of NF-κB α(IκBα)のセリン残基(32番目と36番目)をリン酸化し、これによりIκBαはユビキチン化を受けてプロテアソームで分解される[5]。IκBαが分解されると、それに結合していたNF-κB(一般的にはp50-p65二量体)が解放さる[8]。この二量体が核へ移行してDNAのκBサイトに結合し、転写活性を示す[8]。NF-κBの標的遺伝子には、細胞周期調節因子、抗アポトーシス・生存因子、炎症性サイトカインなどが含まれる。これらの免疫調節因子の活性化は、リンパ球の増殖、分化、成長、生存を促進する[9]

また、IκBキナーゼはRNA分解酵素であるregnase-1をユビキチン-プロテアソーム系での分解へと導くことで、インターロイキン-6(IL-6)mRNAを安定化する[10]

調節

IκBキナーゼ複合体はIKK-βのキナーゼドメインにあるセリン残基がリン酸化されると活性化する。IKK-γの調節ドメインによってIKKサブユニットがリクルートされると、IKK-βの活性化ループにある2個のセリン残基がリン酸化される。これにより活性化ループが触媒ポケットから離れることでATPやIκBαが触媒部位に入れるようになる。さらに、IκBキナーゼ複合体の中で活性化したIKK-βはIKK-αをリン酸化し、IκBキナーゼの活性を高めることができる。IκBキナーゼが基質であるIκBαをリン酸化し、IκBαが分解されて減少すると、活性状態であったIKK-αとIKK-βはC末端側に自己リン酸化を受けて活性が低下し、上流の炎症シグナルがなくなるとホスファターゼによって脱リン酸化されて不活性となる[5]

調整不全と疾患

多くの疾患で、NF-κBシグナルの調節不全がみられる[5][6][7][8][9][11]。恒常的なIκBキナーゼの活性化によるNF-κBシグナルの活性化は、持続的・慢性的な炎症反応を引き起こし、アテローム性動脈硬化喘息関節リウマチ炎症性腸疾患多発性硬化症の発症につながる[8][11]。さらに、NF-κBはアポトーシスの抑制とリンパ球の成長・増殖促進を同時に行うことから、多くの癌にも深く関与している[8][9]

臨床的意義

IκBキナーゼは、MAPキナーゼ、アポトーシス、Toll様受容体シグナル、T細胞受容体シグナル、B細胞受容体シグナル、インスリンシグナル、アディポサイトカインシグナル、2型糖尿病ヘリコバクター・ピロリの上皮細胞シグナル、膵臓癌前立腺癌肺癌慢性骨髄性白血病急性骨髄性白血病など、代謝に関係する経路に関与している。IκBキナーゼや、IκBキナーゼ関連キナーゼであるIKBKE(IKKε)やTANK-binding kinase 1(TBK1)の抑制は、炎症性疾患や癌の治療への選択肢として研究が行われている[12]。IKK-βの低分子量阻害剤であるSAR113945は、変形性膝関節症患者に対する臨床試験が行われている[12][13]

出典

参考文献

外部リンク

Loading related searches...

Wikiwand - on

Seamless Wikipedia browsing. On steroids.

Remove ads