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WWTR1
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WWTR1(WW domain-containing transcription regulator protein 1)またはTAZ(transcriptional coactivator with PDZ-binding motif)[5]は、ヒトではWWTR1遺伝子によってコードされているタンパク質である。WWTR1は転写コレギュレーターとして機能し、単独で転写に影響を及ぼすことはない[5]。WWTR1は結合パートナーとなる転写因子と複合体を形成した際に、発生、細胞の成長や生存と関連した経路の遺伝子発現を補助し、アポトーシスを阻害する[6]。WWTR1の機能の異常はがんの駆動に関与していることが示唆されている[7][8][9]。TAZという略称はタファジンを指して用いられることもあるため、混同しないよう注意が必要である。
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構造

WWTR1(TAZ)には、プロリンリッチ領域、TEAD結合モチーフ、WWドメイン、コイルドコイル領域、PDZドメイン結合モチーフを有するトランス活性化ドメイン(TAD)が含まれている。TAZにはDNA結合ドメインは存在せず、転写を直接的に駆動することはできない。TAZは、同じく転写コレギュレーターであるYAPと構造的相同性がみられる[5]。YAPとTAZはコイルドコイルドメインでの相互作用を介してホモ二量体や両者からなるヘテロ二量体を形成することができる[11]。YAPとTAZは転写因子と協働して組織形成を促進する。TAZはさまざまな転写因子パートナーと相互作用し、TEAD結合モチーフを介してTEADファミリーのメンバー(TEAD1/2/3/4)と相互作用し、WWドメインを介してRunx/PEBP2、AP-2、C/EBP、c-Jun、Krox-20、Krox-24、MEF2B、NF-E2、Oct-4、p73などPPxYモチーフを有するいくつかの因子と相互作用する[6]。C末端(165–395番)のトランス活性化ドメインは、転写への作用を発揮するために重要であることが示されている[6]。
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機能
要約
視点

TAZは胚発生のほか、器官サイズの調節[12][13][14]、幹細胞の自己複製[15]、組織の再生[15][16]、骨形成[17]、血管新生[18]など、その後の発生過程にも重要な役割を果たしている[19][20]。こうした機能は、TEADファミリー転写因子、PAX3、RUNX1/2など細胞成長、遊走、分化を促進する転写因子に対してコアクチベーターとして作用するすることで発揮されている[10]。TAZとそのパラログであるYAPの増殖機能は、Hippoシグナル伝達経路によって制限されている[21][22][23]。この抑制経路はキナーゼによるシグナル伝達カスケードから構成される。活性化されたセリン/スレオニンキナーゼSTK3/MST2やSTK4/MST1は調節タンパク質SAV1と複合体を形成してキナーゼLATS1/2をリン酸化して活性化し、活性化されたLATS1/2は調節タンパク質MOB1と複合体を形成してYAP/TAZをリン酸化して不活性化する[12][20][24]。Hippo経路の活性化はこうして増殖遺伝子の発現を低下させることで細胞成長を停止させ、またフェロトーシスによる細胞死の減少[25][26]、アポトーシスによる細胞死の増大をもたらす[12][20]。
YAPとの機能的冗長性
類似性
YAPとTAZは類似した配列や結合モチーフを有する[10]。既存の文献においては、YAPとTAZは機能的に冗長なものとみなされていることも多い[10]。両者は器官サイズの成長、細胞遊走、創傷治癒、血管新生、代謝(特にリポジェネシス)に関与している[10][27]。YAPやTAZの不活性化はHippo経路のキナーゼ、すなわちLATS1とLATS2によるリン酸化を介して行われる[10]。リン酸化によって調節タンパク質14-3-3がリクルートされ、YAP/TAZは核移行が妨げられてユビキチン標識がなされ、その後プロテアソームによって分解される[10]。
差異
TAZはTEADとヘテロ二量体(TAZ-TEAD)やヘテロ四量体(TAZ-TEAD-TAZ-TEAD)を形成して転写を開始するのに対し、YAPが形成することができるのはYAP-TEADヘテロ二量体のみである[10]。こうした差異によって、PPARγとの相互作用による脂肪細胞分化の調節や、RUNX2(Cbfa1)など骨特異的転写因子に対するコアクチベーター機能による骨形成といった、TAZに固有の機能がもたらされている[10]。さらに、TAZはNFATC5と相互作用して浸透圧ストレス時の腎細胞の転写を抑制する[10]。YAPとTAZはどちらもSMAD複合体と結合してTGF-βシグナル伝達を促進し、分化や発生を駆動するが、TAZだけがこのシグナル伝達カスケードによってアップレギュレーションされる[10]。またTAZはSMAD2、SMAD3、SMAD4のみと複合体を形成して核移行と転写を促進するのに対し、YAPはこれらに加えてSMAD1やSMAD7とも相互作用する[10]。マウスでのin vivo研究では、機能的なTAZを喪失した動物はYAPの発現を喪失した動物と比較して生存性が高いことが示されている[10]。YAPのサイレンシングは細胞増殖、グルコースの取り込み、細胞周期の停止に関して、TAZよりも強力な影響を及ぼす[10]。非小細胞肺癌細胞株でのアッセイでは、YAPは細胞分裂や細胞周期の進行の調節と関連した遺伝子を主に調節しているのに対し、TAZは細胞外マトリックスの組織化や接着と関連した遺伝子を主に調節していることが示されている[10]。
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相互作用


臨床的意義
要約
視点
疾患における役割
TAZは、がんを含む多くの炎症性疾患への関与が示唆されている。
がん


TAZの高発現は、メラノーマ、頭頸部扁平上皮がん、乳がん、非小細胞肺がんを含む幅広いがんと関連していることが示唆されており、転移の増加、生命予後不良との相関が動物研究や患者データから示されている[9]。構造的に類似するタンパク質であるYAPとともに、TAZは発がんの促進、腫瘍代謝変化、治療介入に対する抵抗性の獲得との関連が多くの研究で記載されている[8][9][33][34]。特に、TAZの過剰発現はシスプラチンによる化学療法や、PD-1抗体を用いた免疫療法に対する抵抗性を付与する[33]。
薬剤標的として
YAPとTAZは、いくつかのがん治療法において治療標的となっている。
Hippoシグナル伝達経路のアゴニストであるC19は、MST1/2とLATS1/2のリン酸化を高めることで下流のYAP/TAZの不活性化を強化する。チアゾビビン、ククルビタシンI、ダサチニブ、フルバスタチン、パゾパニブは、乳がん細胞株においてYAP/TAZの核移行を妨げる良好な結果が得られている[35]。アドレナリンやグルカゴンなど正常な生理的機能のために合成される内因性ホルモンも、Hippo経路の活性化を促進することでYAP/TAZの機能に対し阻害的影響を及ぼすことが示されている[35]。コレステロール合成阻害薬であるスタチン系薬剤は、Hippo経路の上流で阻害的シグナルを伝達するRhoファミリーGTPアーゼを阻害することが示されており、乳がんや肺腺がん細胞の成長を減弱する類似した作用を示す[35]。スタチンが直接的に阻害するのはHMG-CoAレダクターゼであり、この酵素はRho-GTPアーゼの細胞膜への係留を担う脂肪鎖やコレステロールのビルディングブロックとなる脂質を合成するメバロン酸経路において機能している[9]。Rho-GTPアーゼの1つであるRhoAはプレニル化によって活性化され、Hippo経路の活性を低下させる細胞骨格系構成要素の調節に部分的に関与している[9]。チアゾビビンによるRhoキナーゼの標的化や、スタチンによるメバロン酸経路を介した脂質合成の標的化によって、RhoAは阻害されてHippo経路の活性が高まり、YAP/TAZによって駆動される増殖が制限される可能性がある[9][35]。Srcファミリーキナーゼなどのチロシンキナーゼは増殖経路へシグナルを伝達し、その一部はYAP/TAZの機能を促進する。中でもYesはYAPの機能と関連している。ダサチニブやパゾパニブなどの阻害薬によるチロシンキナーゼの標的化も、がんに対しある程度の効果を示している[9]。
TEADファミリー転写因子との相互作用を標的としたYAP/TAZの阻害の研究も行われている[35][36]。TEADファミリー転写因子の結合を阻害するベルテポルフィンは皮膚がん、特にメラノーマの治療の研究が行われているが、前臨床研究段階である[35]。
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出典
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