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羊の毛 ウィキペディアから
ウール (英: wool) は、哺乳類の、厚くて、柔らかくて、波状や巻き毛のアンダーコート[注釈 1]であり[1]、典型的には、羊のアンダーコートである[1]。ケラチン繊維のマトリックスから構成される[1]。また、その毛で作った製品[1](ウールの毛糸、毛織物など)。
ウールの中でも、特に生産量が多く代表的なのは羊毛(羊の毛を原料としたウール)であるが、その他にも、ヤギの毛を原料とするモヘヤやカシミヤ、ウサギの毛を原料とするアンゴラ、アルパカの毛を原料とするウール("アルパカ")などもある(それらの多くは、羊毛よりも高級品として扱われている)。→#動物の種類
羊毛がウールの代表であるので、本記事では羊毛を中心に説明するが、その他、ヤギ・ウサギ・アルパカなど他の哺乳類のウールについても本記事で説明する。
広義には、上述の毛をつむいだ毛糸や、毛糸を織った毛織物などもウールと呼ばれる[2]。
ウールは動物繊維のなかの代表的存在であり、動物繊維のなかで最も多く使用されている[2]。ウールはスーツやコートの服地、セーター・ストール・マフラー・帽子など防寒具や服飾品、防寒具・寝具・緩衝材として使われる毛布、またカーペットやカーテンなどのインテリア品、多用途の羊毛フェルトなど、多様な品の素材として使われている。
羊はかなり昔から飼育されていた。
アナトリア南東部のタウルス山脈で、今から10,500年前の家畜化された羊の証拠が見つかっており、現在のところ、これが羊が最初に家畜化された場所と推定されている[3]。
人類がまだ羊の毛を刈ってそれを使うという方法を思いついていなかった段階では、羊の毛皮を衣服として身にまとっていた。[4]
歴史学者は、古代メソポタミアの人々が羊の毛を刈ってそれから服を作ることができると発見した、と考えている[4]。これは偉大な発見であった。というのは、この方法なら羊を殺さずに服を手にいれることができ、おまけに同一の羊が毎年新たに羊毛をもたらしてくれる可能性があるのだから[4]。メソポタミアの人々は、最初はウールを紡いだり織ったりしなかった。もしかするとそういうことを考えもしなかったのかも知れない[4]。彼らは最初、ウールをフェルトの形で使った[4]。その後、紡いで織って毛織物として使うようになり、それがメソポタミアにとって重要な産品となり、東はインド亜大陸、西は地中海世界、南はアフリカ大陸との貿易が行われた。[4]
古代ローマではウールは一番大切な繊維だった。家族のためにウールを紡いで糸をつくり、それを織ってウールの衣類を作ることは古代ローマの女性全員の義務であり、それを行うことは、美徳と女性らしさの象徴であった[5]。ローマの女性たちの墓石にはしばしば、誇らしげに「私は家を守った」や「私はウールの仕事をした」などの文言が刻まれており、さらに杖、紡錘、ウールのかご、ウールを紡いだ毛糸の玉のレリーフが墓石を飾っていることもよくある[5]。ローマ人は、女性の美徳と、ウールを紡ぎ織ることを、かなり強く関連づけていたので、初代ローマ皇帝のアウグストゥスは彼の妻や娘に対して彼のトーガを紡いで織ることを求め、それをローマ帝国の女性たちへの良き手本としようとした[5]。[注釈 2]
新約聖書の「ルカによる福音書」の2:8-9には、ベツレヘムの 名もない羊飼いたちが登場し、「この土地に、羊飼いたちが、野宿で夜番をしながら羊の群れを見守っていた。すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が回りを照らしたので、彼らはひどく恐れた。」とある。
現代英語ではwoolと呼び、現代フランス語ではlaine(レーヌ)と呼ぶが、それらの語源、言葉の歴史については、記事末尾の#語源の節を参照。
メリノウールの繊維の表面は魚の鱗(うろこ)のような形状の鱗片で覆われている。
ウールの生産量が多い国々は、2023年の統計によると、1位 中国 356,216トン、2位 オーストラリア 348,608トン、3位 ニュージーランド 125,772トン、4位 トルコ 85,916 トン、5位 イギリス 70,448トン、6位 モロッコ 62,083トンなどとなっている。[6]
羊からの毛の刈り取りは重労働であるため、オーストラリアなどでは敬遠されがちである。羊毛刈り用ロボットの開発も進められている[7]。(ニュージーランドでは以前は国民一人あたり20頭の羊がいたが、近年は減少傾向である。)
なお日本ではほとんど生産されておらず、日本で消費されるウールはほぼ100%が海外からの輸入である[8]。
ウールの生産に使われる動物、およびそのウールの名称、特徴などを説明する。
ウールの繊維をつむいで毛糸を作る。
毛糸を織って毛織物をつくる。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
世界的知名度が高いものや歴史の長いものから説明する。
ウール製品が、高い品質基準をクリアしたことを示す品質保証マークとして、ウールマークがある。1964年9月当初は20ヶ国で始まったが、現在は140ヶ国で使用され、幅広く知られている。日本、イタリア等の国々では90%以上の認知度があり、繊維に関連したシンボルマークとしては、世界で最も知られているものである。 ウールマークは「コットンUSAマーク」(国際綿花表議会)とともに世界共通のマークである。
このウールマークによる品質認証の管理、またウール素材に関する啓蒙活動、各企業のウール製品の販売促進支援を世界中で実施している組織はザ・ウールマーク・カンパニーである。
ザ・ウールマーク・カンパニーの前身である国際羊毛事務局(IWS, International Wool Secretariat)は、1937年にオーストラリアの発案で羊毛生産国の出資により、イギリス帝国のロンドンで設立された。IWSはニュージーランド、南アフリカ共和国、ウルグアイなど南半球の羊毛生産国が加わった。
だが環境の変化により、1997年2月に本部をイギリスからオーストラリアのメルボルンに移転してオーストラリアン・ウール・サービセスの子会社となり、1998年7月、IWSからザ・ウールマーク・カンパニーに名称を変更、その後2001年に民営化された。
2007年10月、オーストラリアン・ウール・イノベーション(AWI)がザ・ウールマーク・カンパニーの主要資産を買い取り経営統合を実施し、シドニーに本社を移転。その後、ザ・ウールマーク・カンパニーはAWIの子会社として現在に至る。なおAWIは非営利団体であり、子会社であるザ・ウールマーク・カンパニーも(登記上は民間企業であるものの)同様に非営利で上記の活動を実施している。
こうした経緯から、ウールマークは国によって法人登記が異なる。日本支社はイギリス西ヨークシャーに本社を置く法人IWS Nominee Company Limited(ウールマークの商標登録権者)の日本支社として登録されている。なお日本支社は、東京都港区南青山にある。
ウールマークのデザインはイタリアの著名的グラフィックデザイナーフランチェスコ・サロリアによるもので、毛糸球のフォルムをイメージしたものである。
ウールマークのラベルおよび下げ札は、AWIが定める厳しい品質基準をクリアした製品にのみ付けることが許される。マークをつけるための品質基準は以下のようなものである。
ウールマークには新毛の混用率の違いによるバリエーションがほかに二つ存在する。またこれらの下には特定の機能や品質についての認証を示すいくつかのサブブランドが存在する。
日本における承認(ウールマークライセンス)第一号は日本毛織(ニッケ)である。
かつて、「ウールきものマーク」も存在したこともあった(鶴の形をしたマークである)。
繊維以外にもウールマーク認定商品があり、ウール・おしゃれ着・ドライマークの中性洗剤、液体酸素系漂白剤、衣類用柔軟剤、衣類用防虫剤にも表示されている。中でも白元(現・白元アース)の「パラゾール」、「ミセスロイド」は防虫剤として世界初の認定を受ける快挙を成し遂げた。しかし、近年は洗剤、漂白剤、柔軟剤からは表示がなくなっている。
かつては各家電メーカーが洗濯機(弱水流機能付)や電気カーペットのカバー等で認定商品を生産していたが、現在では日本国内でこれらの製品を見ることはまれである。またマーク下段の英字ロゴは、従来は国によって違いがあった。日本の場合は「ALL NEW WOOL」「NEW WOOL 100%」であり、諸外国は「PURE NEW WOOL」であったが、1998年のザ・ウールマーク・カンパニーへの名称変更の際に、「WOOLMARK」へと世界的に統一された。
日本の「国際羊毛事務局」時代の組織スローガンは「ウールで世界に貢献する」だった。
国際羊毛事務局時代(年代不明)に、「ウール ソング」(通称「ウールマークの歌」、歌:ボニー・ジャックス、作詞:中野良介、作曲:小川よしあき)がソノシートでリリースされた。
※[いつ?]現在はテレビCMは放送されていない。
ザ・ウールマーク・カンパニーは2012年から日本のベストドレッサー賞と協業(コ・マーケティング)を開始した。2012-14年は「クールにウールを着こなす人」として「クールウール賞」、2015年からは「ウールファッションの似合う人」として「ウールマーク賞」を贈呈している。受賞者は以下の通り。
ステッキマークは、英国羊毛公社がラベル等の管理を行っている、ウール製品が高い品質基準をクリアしたことを示すイギリス羊毛製品の品質保証マークである。英国羊毛公社はイギリスのブラッドフォードに本部を置き、日本にも支部を持つ。
日本国内での公社商標の使用は全て、英国羊毛公社の契約・認定を得ることが必要。ライセンシー各社の公社商標使用は、商品の紡績部門から最終製品のブランド(企業)の各段階の企業が全てライセンシー契約を持つことが必要で、その上既定の基準を満たした製品のみ認められる。
英国羊毛公社は、英国内で刈られた羊毛の集荷手配を行い、英国内の選別場へ運び、オークションにかけるための等級別にわける。すべてのロットは国際基準に合わせ、ウールの状態や色などの特徴が試験される。その後、英国羊毛公社本部にてオークションにかけられ、世界中に輸出される。羊飼いの杖をあしらったシンボルマークは高品質のイメージを維持するため、公社の基準を満たす厳選された製造会社の英国羊毛製品のみに交付される。[12]
ウールズ・オブ・ニュージーランドのシンボルマークであり、美しい自然環境の象徴でもある、植物の「シダ」を形どったニュージーランド羊毛の品質保証マークである。
フランスの羊毛協会のマークであり、フランス産羊毛製品の品質保証マークである。(日本では)日本の優良ウールふとんメーカーで組織されているベストウールクラブ(BWC)とフランス羊毛協会(FWA)との合意に基づく、フランス羊毛の品質保証マーク。
赤色と青色のロゴおよび「Laines de France」[注釈 6]の文字が表示される。 レーヌマークの「レーヌ laine」はフランス語で「羊毛」の意味。
羊毛ふとんにレーヌマークを付けるためには、フランス羊毛協会認定の高品質羊毛原料を使用することが必要で、品質基準として、残脂率・植物性夾雑物の残留率・PH・清浄度が定められている。[13]
ファイングレードウールは、日本の組織によって管理されている、ウールを使用した寝具などのインテリア製品が高い品質基準をクリアしたことを示す品質保証マークである。日本国内において最も高い基準を用いており、最高品質を保証する商品にのみ使用される。日本および海外の原料商社や製造工場、公的試験機関からなるファイングレードウールクラブが品質の管理を行う。[14]
ファイングレードウールのラベルおよび下げ札は、ファイングレードウールクラブが定める厳しい品質基準を合格した製品にのみ付けることが許される。マークをつけるための品質基準は以下のようなものである。
ファイングレードウールクラブは、「キャンペーン・フォー・ウール」[15](英国チャールズ皇太子、プリンス・オブ・ウェールズの提唱で2010年英国においてスタートしたもの)と共に羊毛の普及活動を行っている。
現代英語の表記はwoolであり、その発音は発音記号で表記すると wʊlである。他方、現代フランス語ではlaine(レーヌ)と言う。
これの語源を、その大元から説明すると、もともとはインド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語、PIE)の wele という語であり、その語は(サンスクリット語では urna となり)ゲルマン祖語では wulno となり、古英語ではwullとなった(他方、古ノルド語では ullとなり、中期オランダ語では wolle となった)。 古英語のwull の綴りが変化して現代英語のwoolとなった。(他方、古高ドイツ語ではwollaとなり、現代ドイツ語ではwolleとなった)[16]
印欧祖語の wele を語源とする語には別の系統があり、古代ギリシア語では lenos (レノス)となり、ラテン語では lana (ラナ)となった[16]。この系統が現代フランス語で laine (レーヌ)となっている。
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