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潤滑油 ウィキペディアから
エンジンオイル(英: engine oil)とは、エンジンに使用するための油であり、様々な機能のために使用されるが、主となる潤滑作用を元に潤滑油とも呼び、モーターオイル(motor oil) と呼ぶこともある。
エンジンの動作に必須であり、エンジン内各部へ行き渡ることで後述するような様々な機能を担っている。
自動車やオートバイで多く採用される4ストロークエンジンでは、エンジンオイルはエンジン内各部を循環している。停止時のエンジンオイルは、ウェットサンプエンジンならエンジン底部に取り付けられているオイルパン(オイル溜り)に、ドライサンプエンジンなら独立したオイルタンクに溜まっているが、エンジンが稼動し始めるとオイルパンやオイルタンクにあるオイルがオイルポンプにより吸い上げられ、オイルフィルターやストレーナーなどを通ってろ過され、(一部車種では)車体の前部に取り付けられた空冷式オイルクーラーやエンジン内部の水冷式オイルクーラーを通って冷却され、クランクシャフトやシリンダー壁、動弁機構など、エンジン内の各部へ圧送される。その後、オイルパンやオイルタンクへ戻ってくる。エンジン稼動中にはこの循環が繰り返されている。一部の車種ではオイルパンからオイルポンプを通ってフィルターを通り、オイルパンに戻る濾過のみのルートを別に持つ車種もある。また湿式クラッチや変速装置の潤滑などと兼用されているものもある。
4ストロークエンジンオイルは、エンジンの発する高熱に曝されたりエンジン内に発生した汚れを自らの中に取り込んだりして、徐々にその性能は劣化していく。そこで一定期間ごとにオイルを交換したり補充することで、その性能を回復させる必要が生じる。
かつての一部の自動車、現在でも主に小排気量のバイク、その他チェーンソー等で使用される2ストロークエンジンでは、エンジンオイルは燃料(ガソリン)に少量ずつ混ぜられ、クランクシャフトやシリンダー壁を潤滑した後に燃料と共に燃焼し、排気ガスの一部として排出される。そのため、4ストロークエンジンと違ってオイルは循環せずに使い切りである。オイルの量は減少していくので、適時補充する必要がある。
エンジンオイルは、危険物第4類第4石油類(潤滑油)に分類される。
エンジンオイルには、主に以下のような作用がある。
レシプロエンジンでは金属製のシリンダー内をピストンが毎分数千回上下するほか、クランクメタルやカムなど、金属同士がこすれ合うことによる摩擦によって、金属の磨耗や発熱を生じる。それらを流体潤滑作用・弾性潤滑作用・境界潤滑[1]作用により、摩擦を軽減し、エンジン内各部を潤滑するのが、エンジンオイルの重要な作用である。ロータリーエンジンでは、金属製のハウジングとローターのシール類の潤滑のために吸気に少量のオイルを付加して潤滑している。
エンジンオイルがエンジン内各部を巡る際に、エンジンで発生した熱を奪うことでエンジンを冷却することも、重要な作用である。オイルに蓄えられた熱は、空冷式や水冷式のオイルクーラー、あるいはオイルパン(オイル溜り)等で冷却され、冷えたオイルはオイルポンプによりまたエンジン各部へ送られる。
エンジンオイルによる冷却作用は、空冷エンジンだけでなく水冷エンジンでも重要である。エンジンの構造上冷却水を循環させられない箇所も多く、そういった箇所の冷却は水冷エンジンでもエンジンオイルの冷却作用に頼るしかないからである。
空冷エンジンではシリンダーやヘッド、クランクケースにフィン(ひだ)を設けて冷却を行っているが、高熱となるヘッドのバルブガイドやプラグ周辺には多めのオイルを供給して冷却している。このため、高負荷となる空冷エンジンではオイルクーラーを装備することが多い。また多くの高出力エンジンでは、ピストン裏にオイルを噴出させて冷却している。
通常の空冷エンジンよりもオイルをヘッドに積極的に供給して放熱を強化した油冷エンジンというものも存在する。スズキは過去にSACS(Suzuki Advanced Cooling System)という油冷エンジンを販売していた。現時点ではホンダのCB1100が油冷を併用したエンジンを使用している。
過給器(ターボチャージャー)付きのエンジンの場合、タービンハウジング(タービンを覆う容器)は排気温度(摂氏700度以上)により熱せられ、赤く発光するほどである。そのタービンシャフトの保持(ボールベアリングなどを使わない油膜によるフローティング軸受け)や冷却もエンジンオイルに頼っていたが、最近ではクーラントによる冷却も併用されている。高回転しているタービンの軸受けへのオイル供給が停止されると、金属同士が直接摩擦することで焼きつきが起こりタービンが破損するので、ターボエンジン搭載車では、「高速走行直後はしばらくアイドリングした後にエンジンを止めて下さい」といった内容の注意書きがある。また同じ理由でターボエンジン車にはアイドリングストップ機構を装備していないことが多い。
シリンダーとピストンは完全に密着している訳ではなく、熱膨張に対応する面とピストンが運動できるように隙間(クリアランス)が設けてあり、またピストンリングにも切れ目がある。この隙間に入り込んで両者を潤滑するとともに気密性を保持するのも、エンジンオイルの重要な作用である。エンジンオイルはそれらの表面に液体の膜(油膜)を形成する。
もし、この油膜の保持が不十分であればシリンダーに取り込まれた気体が燃焼室から漏れてしまい、正しい燃焼ができなくなる。また、点火した後に膨張した燃焼ガスも同様に漏れてしまい(これがブローバイガスである)、本来の出力を得ることができなくなる。またオイルが動弁系のシールから漏れて燃焼室に入るとオイル下がりとして排気ガスに白煙を発生する。またピストンリングの不良でクランクケース内の油煙が燃焼室に入るとオイル上がりと称して排気ガス白煙を発生する。
シリンダーとピストンの間隙は使用するに従い徐々に増加すると共に、工作精度が低いエンジンなどはこの間隔が広いため、古いエンジンにとってこの気密特性はより重要である。一方、工作精度が高くクリアランスが狭い・加工技術によって元々の気密性が高いエンジン(省燃費エンジンなど)にとっては、適度な気密特性が必要となる。
エンジンが稼動すると、その燃料の燃焼過程で主に酸化による化合物やスラッジ等の「汚れ」が発生する。これらの汚れは故障の原因となったり、エンジンの寿命を短くする一因となる。これを防ぐために、エンジン内に発生した汚れを取り込み分散させたり、酸性化を中和するのも、エンジンオイルの重要な作用の1つである。大きなスラッジやゴミはエンジンオイルフィルター(もしくはストレーナ)によってろ過されるようになっている。
こういった作用を持つために、2ストロークエンジン用オイルとは違って4ストロークガソリンエンジン用エンジンオイルではオイルが使用経過と共に汚れていくのは、エンジン内の汚れをオイル内に取り込んでいる結果だからである。ただしこの能力には限界があるために、一定期間ごとに交換する必要がある。なお、オイルの色が黒くなるのは、燃焼で発生した炭化物(スス)を取り込むためであり、色の黒さとオイルの劣化は必ずしも平行しない。ディーゼルエンジンでは炭化物の発生が多いために早期にオイルが黒くなるが、これは必ずしも劣化が原因ではない。
また、給気によって燃焼室に入り込んだ粉塵(主にケイ素酸化物)を洗浄する役割もある。エアフィルターを通して吸気していても、フィルターの目よりも細かい物質は通り抜けるので、それらを取り込んで、粉塵による摩擦を低減させる作用がある。
燃料は燃焼によって水分を生じる。また、エンジン内外の気温差による結露によって内部に水分が発生することがある。これらの水分がエンジン内部の部品に錆や腐食を発生させる原因となる。また、燃焼ガスやブローバイガス、あるいはエンジンオイルそのものの劣化などから発生する化合物も、エンジン内を腐食させる。錆や腐食はエンジンの寿命を短くする一因であり、これらの発生を予防するのもエンジンオイルの重要な作用である。
少ない走行距離を頻繁に繰り返す用途ではオイルの温度が上昇せず、燃焼に伴って発生した水分が蒸発しないためにオイルに水分がたまり乳化することがある。基本的にエンジンは適度な温度で稼働することが前提であり、エンジンオイルの温度が低いと粘度上昇による燃費悪化や乳化、発錆がおこり、高温では粘度低下や変質による潤滑性能低下による焼き付きなどが起きやすい。
自動車やオートバイ用のエンジンオイルは、以下の3種類に大別することができる。
エンジンオイルはベースオイルの種類や割合などにより次のように分類される。消費者が得られる情報として、化学物質等安全データシート(MSDS(Material Safety Data Sheet))に製品のブレンド内容および毒性などの情報が記されている。
なお上記の分類はあくまで基油におけるものであり、添加剤の溶剤には基本的に鉱油が用いられるため、例えPAOやエステルベースの化学合成油であっても鉱油を全く含まないというケースはエンジンオイルにおいては極めて限られる。
1992年に導入された分類方法。一般ユーザーに直接の関係はないが、業界においては添加剤との組み合わせや処方の変更時などに活用されている。
上記API分類のグループI〜IIIでは粘度指数の規定があるが幅が広く同一グループであっても粘度指数にある程度の開きが生じる。ベースオイルにおいて粘度指数は重要な要素の1つであるため、各グループの末尾に+を追加表示することにより分類を拡張、細分化したものを使用することがある。以下の分類での粘度指数の数値はen:Lubricant#Base oil groupsを参考にしたが、この分類はあくまで通例的、慣例的なものであり厳格に定義されたものではない。
エンジンオイルは粘度によってその用途や使用環境が異なり、基本的にはメーカー推奨の粘度に従って選定する必要がある。
主にシングルグレードと呼ばれるが、モノグレードと呼ばれる場合もある。マルチグレードが普及する前は外気温(季節)に合わせシングルグレードを使い分けていた。
※APIに正式に申請、パスしたオイルにはドーナツマークが表示され、ILSAC規格をパスしたオイルにはスターバーストマークも表示される。これらはEolcs(Engine Oil Licensing and Certification System)により管理されている。
廉価価格帯であったり、処方等の関係で規格に近しい性質ながら認証取得に難がある、そもそも規格が廃番となってしまっている等の事情によりオイルの中には規格による認証を取得していないオイルもある(「SN相当」のような表記である場合)。
エンジンオイルは、機械的圧力による分子の剪断(せんだん)、外気による酸化・ニトロ化、熱による重合、燃料やブローバイガスなどの混入・希釈により徐々に劣化する。劣化すると粘度が低下し、エンジン内部の油膜形成が出来なくなり保護性能が失われ、エンジンの故障につながる。そのため、劣化の度合いによりオイルの交換が必要となる。
添加剤配合量にもよるが、鉱物油では約110℃以上、化学合成油でも130℃以上で熱による化学変化などのオイル劣化が始まり、一度劣化したオイルは油膜保持性能や緩衝作用などの性能が低下し回復しない。
オイルの劣化度合いは、目で見る・触る等の簡単な方法で判断できるものではない。一般に指標とされる色の黒さは炭化物によるもので、清浄性や分散性とは直接関係しない。乗用車の場合、使用期間や走行距離(後述)によって交換時期が規定されているが、発電や産業用エンジンの場合、稼働時間で規定される場合が多い。
また、劣化だけでは無く、オイル量のチェックも必要である。エンジンに不具合が無くともオイル量は徐々に減少する(単純に燃料と共に燃焼されるほか、燃料とオイルそれぞれの成分が互いに溶け出して軽質分が燃焼される。特にガソリンエンジンでオイルの銘柄によって排気臭が変わるのはこのため。なお、LPG自動車や天然ガス自動車は燃焼方式はガソリンと共通なのでエンジンオイルも基本的に共用できるが、燃料にオイルの成分が溶け出さないためエンジンオイルによる排気臭はしない)ため、規定量より下回らないように適時補充する必要がある。ただし、一般的には減少量はわずかで、オイル交換時期までに補充を必要とする場合は少ない。大きく減少するようならばオイル漏れやオイル上がり、逆にオイル量が増えた場合は燃料や冷却水等の混入といったトラブルが予想される。ただし、ディーゼルエンジンの場合はDPFを再生させるためにポスト噴射(燃焼行程後の追加噴射)し燃料を触媒内で燃焼させる(すなわちアフターファイアーさせることと同じ)方式をする車種の場合、燃料の一部がシリンダー壁に付着してエンジンオイルを希釈するため構造上オイル量が増えざるを得なくなっているので、ディップスティックに通常の上限下限のみならず別途希釈上限が設けられており、その上限に抵触したら交換する必要がある。
オイル交換は、車両保証の観点でいえば、メーカーが規定しているエンジン使用期間や使用走行距離基準に応じて行うことが必要である。交換や点検管理をしていないと、エンジンオイルはエンジン内の全ての部位に関わるものであることから、エンジンにどんな不具合が生じた場合でも整備不十分によるものと見なされ本来の保証が受けられなくなることが想定される。
しかし、オイルに含まれる基油や添加剤の性状劣化特性からいえば、メーカーの指定交換時期は絶対的なものではなく、あくまで一般的使用条件を想定したものであり、油温やエンジン回転数、ブローバイの量などにより規定より劣化が早い・遅い使用条件も存在する。
メーカーは環境保護とメンテナンスフリーの観点から、以前よりエンジンのオイル容量を増やし、またオイル性能の高いものを使うことによってオイル交換間隔を長くし、オイル廃棄物の量も減らすロングドレーン化が要求されるようになった。この場合、メーカーが性能を認定したロングドレーンに対応したオイルを使用する必要がある。
メーカーは、劣化が早い使用条件としてエンジンオイル以外の消耗品も含めてシビアコンディション(後述)という参考基準を提示しており、概ね一般的な使用の半分の期間・距離での交換を推奨している。日本では夏季にエアコンを使用し渋滞やゴーストップが多い市街地での使用状態はシビアコンディションに相当する。
逆に、平坦地を法定速度付近の一定速度で淡々と長距離を走ることが多いような使用条件の場合、オイルの劣化は一般的使用条件よりも遅くなる。
また点検等でエンジンに不具合が発見され、原因を解決した後や、競技走行等でオイルが高温にさらされた後(後述)の場合にも、オイル交換が必要となる。
軽自動車及び普通車の場合、一般的にオイル交換時期は、オイルの性能低下や量の減少を考慮し、またオイル廃棄物の環境負荷など多くの条件を考慮の上、自動車メーカーによって走行距離や使用期間が指定されている。オイルの劣化を直接判断することは難しいので、走行距離もしくは使用期間ベースとした基準は自動車においてほぼ共通したものとなっている。また、センサーによりオイルの状況を感知、またはエンジンの稼働時間などによってオイル交換の時期を指示する車両もある。なおトヨタ自動車ではオイル交換の目安について、ガソリン車(ターボ車除く)の標準交換時期を15,000km、または1年としている[3]。
シビアコンディションで使われた車の場合は概ねこの半分の期間での交換が指定されている。シビアコンディションの定義は、自動車メーカーにより多少の差異はあるが概ね、以下のように定義している。
環境保護を目的として、20,000から30,000kmと長い交換サイクルを指定する自動車もある。欧州車では酸化等の劣化が進みにくい特性を持つエンジンオイルを指定し、オイル容量を多くすることで、長期間使用できるようにしていることが多い。ただし、交換の距離は増えても、期間は大幅には増えていないことに注意が必要である。また、輸入車メーカーでも、天候や渋滞など使用環境の厳しい日本仕様では、交換距離を短くしている車種も多い。
これらの指定は保証期間内でエンジンに支障をきたさないために自動車メーカーとして定めた最低限の要求であり、オイル自体の劣化は徐々に進んでいる。そのため、メーカー指示値を最大として使用条件により早めに交換した方が良いという意見がある。しかし、現在は製造物責任法により取扱説明書の記述に欠陥がある場合は製造物の欠陥と同格に扱われることが規定されており、不具合に繋がる危険性を十分に排除した記載が製造者側に求められているだけでなく、廃棄物などの環境負荷の観点からも、指定交換時期は余裕を持って設定されているとの見解もある。
上記のように自動車メーカーが交換時期を定める一方、一部のオイルメーカーやガソリンスタンド、カー用品店、自動車整備工場等では3,000から5,000kmごとの交換を推奨している。その根拠として、3,000から5,000km程度走行するとエンジンの機械的な騒音が多少高くなることやオイルが汚れて黒くなること、更には特に日本において一般的な自動車ユーザの使用状態が低速・短距離側のシビアコンディションに該当する、などを挙げている。この騒音は機構上問題が無い程度のオイル粘度の低下が主であり、多少大きくなってもエンジンが故障するものではない。また、オイルが黒くなるのは清浄作用が働いているためであり、早くて1,000kmほどで黒くなる場合もある(ディーゼルエンジンの場合黒くなるのが早い場合がある)が、黒くなったからといっても直ちに性能が劣化しているとはいえない。これら言説では劣化状況の説明として不十分である。ほかに交換推奨距離を短くする理由として、摩耗防止性能が新油の7 - 8割程度に劣化する距離で設定している場合もある[4]。
これらの業者により、オイルの特性による正常な現象を故障に結び付く要因として消費者の不安を煽るような表現を用いた交換推奨が行われるのは、頻繁なオイル交換によるオイルそのものの拡販、来店頻度を増やすことによる整備用品拡販・整備業務受注の拡大を狙ったものという批判がある。オイルメーカーは、環境問題への配慮から交換時期を長期化したロングドレインオイルの開発が求められている。学術的研究としては長寿命化に取り組んでいながら、広報上は一般的取扱説明書記載時期よりかなり短期での交換を推奨をするオイルメーカーもあり、そうした不誠実な対応もこの疑惑を強めている。
使用者としては、車種毎に決められたオイル交換時期やシビアコンディションの定義を参考に、油量などの適切な点検を行った上でオイル交換の頻度を決めることになる。
大型車の場合、エンジンオイルの交換間隔の設定が長い場合がある。これは、乗用車に比べてオイルの使用量が多いこと、相対的にエンジンが低回転域で運用が多いなどの理由がある。もちろん、使用説明書に従ってオイル交換は必要であることに変わりはない。
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより圧縮比が高く排気ガスにパーティクルや酸化物が多いためオイルの劣化が早い。国産メーカーのディーゼル車のオイル交換推奨距離は5,000km程度(トヨタ車)とガソリン車より短く設定されている。エンジンオイルの色は交換後でも早期に黒くなるが、オイル交換は色よりも走行距離や稼働時間で管理する。
最新のディーゼルエンジンでは燃料やオイルに含まれた硫黄や窒素が灰分となってDPFを詰まらせるために、こらを低減させた指定のオイルが必要である。このため、DPF装着車では。この問題への対策として日本技術会の規格であるDH-2規格のオイルを使用することが必須である。さらに新しい規格として軽量車向けのDL-1が存在するが、これは重量車向けのCF規格やDH規格(DH-1/DH-2)、また欧州向けのACEAのCカテゴリやEカテゴリの規格と基本的に互換性が無い(例:DL-1/DH-2/CF-4/C3/E9)。最新のディーゼルエンジンに使用するオイルについては取扱説明書の注意をよく確認する必要がある。
ディーゼルエンジンは、走行距離の多い長距離トラックなど営業車等に使われる場合が多く、オイルの交換頻度は車両の維持費、多忙な運転時間を割いての交換作業、台数が多ければ会社の経営に影響を与える。このため、ススの分散性、耐磨耗性を添加剤で補いロングドレン化を図ったオイルを使用することにより、高速道路での走行を主体とすることを前提に10万kmの交換間隔を指定している商品がある。
ディーゼルエンジンが多く使われている欧州では、環境保護と資源保護の観点からロングドレン可が進んでいる。例えば、フォルクスワーゲンの場合ガソリン車(VW504規格)30,000km/2年に対しディーゼル車(VW507規格)では最大で50,000km/2年となっている。
オートバイでは、4ストロークガソリンエンジンか2ストロークガソリンエンジンを搭載するものの2種類が一般的である。ロータリーエンジンやディーゼルエンジンを搭載するものは非常に稀である。ここでは一般的なガソリンエンジンについてのみ述べる。
4ストロークエンジンを搭載するオートバイでは、スクーター等の無段変速機装着車や、レース用車両等の乾式クラッチ装着車などを除き、エンジンオイルがトランスミッションやクラッチの潤滑や冷却を兼ねているため、排気量の割にオイル量が多い。オートバイ用エンジンは一般的な自動車用エンジンと比べて水冷式より空冷式が多いためオイルが高温となりやすく、また常用回転数が高く小型高出力のために劣化が早い傾向がある。これらの理由から、一般的な自動車よりも早い交換時期(1/2程度かそれ以上)が設定されている車種がある。また空冷式の大型車では、20W-50など粘度が非常に高いオイルが指定されている場合が多い。
なお湿式クラッチを採用するエンジンでは、自動車用では一般的な減摩剤によってクラッチの滑りが生じる場合がある。そういったトラブルを防ぐために、オートバイ専用オイルとして、自動車技術会の定めたMA,MA1,MA2,MBという4種類のJASO(日本自動車規格)と呼ばれる規格がある[5]。
2ストロークエンジンを搭載するオートバイでは、エンジンオイルをガソリンに混ぜて共に燃焼させる構造なので、オイルの成分が排気ガスの成分に影響しやすい。このため、潤滑性能に環境性能を含めた2ストロークエンジンオイルの性能の規格としてFB、FC、FDという3種類のJASO規格がある[6]。2ストロークエンジンでは、エンジンオイルと別にトランスミッションやクラッチを潤滑するオイル(ミッションオイルやギアオイルと呼ばれる)がエンジンに注入されており、これも定期的に交換する必要がある。ミッションオイルは4ストロークエンジンオイルより負荷が少なく、劣化する要因も少ないために、その交換時期は長めに設定されていることも多い。ただし、ミッションオイルに自動車用エンジンオイルを流用すると湿式クラッチで滑りが発生する場合がある。
スクーターでは湿式クラッチが使われていないので、自動車用エンジンオイルを使用しても粘度が指定範囲であれば不具合は起きない。
レシプロエンジン推進の航空機においては、オイル交換の時期は、各機体のメンテナンスマニュアルを参照する。
オイルフィルターとは、別名オイルエレメントとも呼ばれ、4ストロークガソリンエンジンやディーゼルエンジンに備えられたオイルのろ過装置である。
エンジンオイルにはエンジン内部で発生する汚れやゴミ、摩耗によって発生する金属成分をろ過するためにオイルフィルターが設けられている。現在ではほとんどの自動車やオートバイのエンジンにオイルフィルターが装備されているのが一般的だが、設計年代の古いエンジンや簡素な設計のエンジンではオイルフィルターがなく、より簡単な金網状のオイルストレーナー、もしくは、流入するエンジンオイルの圧力で受動的に回転する遠心分離器が付いているだけのものもある[注 3]。
オイルフィルターは、オイル内に取り込まれていた金属粉やスラッジ(ホコリや燃焼カスなどの不純物)を濾し取ることでエンジンの損傷を防止するが、フィルターの目を細かくしてろ過能力を上げ過ぎると油圧上昇や目詰まりなどの不具合を引き起こすため、通常は50ミクロン以上のものをろ過するように設計されている。
多くのエンジンでは、オイルフィルターが目詰まりをした場合やオイルの粘度が高くなりすぎる冷間始動時を想定して、ある程度油圧が上昇するとフィルターをバイパスする機構を備えている。この機構はあくまで一時的なものであり、バイパス弁が開いた状態で常用することはエンジン保護のために好ましくないので、オイルとフィルターは定期的に交換するのが原則である。
オイルフィルターは主に50ミクロン位までの異物を除去するように設定されている。新品時は目が粗く、50ミクロンより大きい異物を通す傾向がある。使用を続けると目が詰まって50ミクロン以下の異物も濾過するようになる。したがって、オイルフィルターを頻繁に交換すると、目が粗い状態でフィルターを常に使用することになり好ましくない。しかし、長時間交換せずにフィルターの目が詰まってバイパス弁が開く状態で使用することもエンジンにとって好ましくない。
従って、ある程度目詰まりした状態で、かつ、バイパス弁が開かない範囲での使用が推奨される。通常メーカーはオイル交換2回から数回に1回のオイルフィルターの交換が指定されている。
フィルターを交換した場合は、フィルター内部に含まれていた分のオイル量が不足するため、フィルターのサイズに応じてオイル交換のみの場合より余分にオイルを充填する必要がある。なお、自動車の取扱説明書に記載されているオイル充填量は、フィルターとオイルを共に交換する時の量を示している場合か、それに加えてオイルのみ交換する時の量を併記している場合が多い。オイルフィルターを交換する場合はパッキンにオイルを少量塗布し、まず手で締込み、最終的にトルクレンチで規定値まで締め込むことが望ましい。フィルターの締めすぎは、交換不能など、後々トラブルとなりやすい。
フィルターユニット全体を交換するカートリッジ式が普及する以前から、フィルターケース内部のろ紙(エレメント)のみを交換する方式があり、現在でも船舶、産業用を始めとした大排気量エンジンでは一般的である。近年、環境負荷低減のため乗用車や軽量商用車でもこの方式を採用する例が増えており、欧州車ではこれが主流で、日本車でもトヨタ、日産のエンジンに関してはこの方式を採用する例がある。この場合、指定のパッキン(Oリング)も同時に交換する。
一般的な乗用車(排気量2,000ccクラス)のエンジン内部に必要なエンジンオイルは4リットル弱である。最近の乗用車では、特に小排気量エンジンを搭載している車種を中心に3リットル程度で済むものも多い。ハイブリッド自動車の場合は、車体が1,800ccクラス - 1,600ccクラスに見えてもガソリンエンジン自体は1,300cc相当であることもあり、エンジンオイルの規定量は3リットル前後である。
一方で3,000ccを超える大排気量車や空冷式の車は一般的にオイル量が多い。また、過給器搭載車や直噴エンジン搭載車は、オイルの負担が重いために意図的にオイル量を増やす傾向がある。また、欧州車は高速で長距離を移動する用途が多く、またオイル交換間隔が長いため、一般にオイルの量が日本車より多い。例えば、ベンツは小排気量の一部車種を除き5.5 - 9リットルが標準であり、BMWも2,000cc以上ならば6.5リットル程度が標準である。ディーゼルエンジンの場合も、先述したようにオイル汚れや油量減少が激しいため、旧型の一部車種を除きオイル量はガソリン車に比べてかなり多くなる。5リットル - 9リットル程度が標準である。
大型トラックやバスは、エンジン自体が大きく、オイル量は数十リットルにもなりうる。なお、ディーゼル微粒子捕集フィルターを持つ車種でフィルターの再生のために燃焼行程後に燃料を追加噴射する「ポスト噴射」方式で触媒を燃焼させる車種の場合、燃料の一部がシリンダー壁に付着してエンジンオイルを希釈し、走行距離が短いとオイル量が増えるという問題があり、レベルゲージの通常の上限のさらに上の印に達した場合は交換する必要がある。
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