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インド二大古典叙事詩の一つ ウィキペディアから
『マハーバーラタ』(サンスクリット: महाभारतम् Mahābhāratam) バラタ族にまつわる大叙事詩。バラタ族とは物語の中心となるクル族の別称である。『ラーマーヤナ』とともにインドの二大叙事詩と称され、ギリシャの叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』としばしば比較される。第6巻にヒンドゥー教の聖典である『バガヴァッド・ギーター』を含む。インドの古典語であるサンスクリットで著され、その94%がシュローカ(8音節×4韻脚)と呼ばれる韻律によって構成されている[1]。
Fitzgeraldによれば、ナンダ朝とマウリヤ朝の勃興(紀元前4世紀頃)、とくにアショーカ王(在位は紀元前3世紀頃)によるダルマの宣布により『マハーバーラタ』のテキスト化が開始され、紀元前2世紀中葉〜紀元後1世紀末頃に完成されたとみられる。このテキストは紀元後4世紀(グプタ朝期)にさらに拡張され、後代に伝えられるサンスクリット写本群の元となった[2]。
世界で最も長い叙事詩であり、『マハーバーラタ』自身の語るところによれば10万詩節を含む[3]。ただし、現在底本として用いられることの多いプーナの批判校訂版では7万5千詩節弱、補遺である『ハリ・ヴァンシャ(ハリの系譜)』と合わせて9万詩節を越える程度である[4]。
全18巻の構成を取っているが、全100巻に分ける区分も並存している[5]。各巻の内容は「マハーバーラタの構成」を参照のこと。
この長大な物語には、古代インドにおける人生の四大目的、法(ダルマ)・実利(アルタ)・性愛(カーマ)・解脱(モークシャ)が語られており、これら四つに関して「ここに存在するものは他にもある。しかし、ここに存在しないものは、他のどこにもない」と『マハーバーラタ』自身が語っている[6]。これは『マハーバーラタ』という物語の世界観を表す、非常に有名な一節である。
パーンドゥ王の息子である五王子(パーンダヴァ)と、その従兄弟であるクル国の百王子(カウラヴァ)の間に生じた長い確執と、クル国の継承を懸けたクル・クシェートラにおける大戦争を主筋とする。18日間の凄惨な戦闘の末、戦いはパーンダヴァ側の勝利に終わったものの、両軍ともに甚大な被害を出す。この主筋の周辺に、さまざまな伝説や神話、哲学問答などが組み込まれ、古代インド文化の百科事典的な様相を呈している。
第1巻〜5巻はクル族の祖先にまつわる物語と大戦争に至るまでの経緯を語り、第6巻〜10巻は大戦の詳細、第11巻〜18巻は戦後処理と五王子らの昇天までの後日譚を描く。 第12巻〜13巻の大部分は後世の追加であると考えられ、王権や社会のあり方、哲学的思想などが説かれている。
大戦時における両陣営の主な戦士の構成は以下の通り。
《パーンダヴァ側》
ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ(以上が五王子)、クリシュナ[7]、ドルパダ王、ドリシュタデュムナ、シカンディン、ガトートカチャ、アビマニユ等。
《カウラヴァ側》
ドゥルヨーダナ、ドゥフシャーサナ他(百王子)、ドリタラーシュトラ王[8]、ビーシュマ、ドローナ、アシュヴァッターマン、カルナ、クリパ、シャクニ等。
第6巻23章〜40章に哲学詩篇『バガヴァッド・ギーター』を含み、第1巻62章〜69章に『シャクンタラー物語』、第3巻50章〜78章に『ナラ王物語』、第3巻111章〜113章に『リシャシュリンガ(鹿角仙人)物語』、第3巻257章〜276章に『ラーマーヤナ』、第3巻277章〜283章に『サーヴィトリー物語』など有名な説話が収録されている。
現在主に『マハーバーラタ』研究に用いられる底本は、プーナの批判校訂版(Critical Edition)と呼ばれるテキストである[9]。 それ以前で言えば、初の『マハーバーラタ』完全版として1834年と39年にカルカッタ版が刊行された。それに続き1862年から63年にニーラカンタの注釈が付されたボンベイ版が刊行されている[10]。
1925年、V. S. Sukthankarの主導により、『マハーバーラタ』の批判校訂版を編纂するプロジェクトが始動した。この刊本は1933年から66年にかけて全19巻で刊行された。Sukuthankarはこの第1巻のProlegomenaにおいて、この版の目的は「手に入る諸写本を元に構築しうる最も古い形を再構成すること」であると述べている[11]。この編纂方針に従い、成立の新しいと思われる部分が本文から省かれAppendixに回されたため、それまで用いられてきたボンベイ版やカルカッタ版よりシンプルでテキストが短いことが特徴である。
東南アジアではインド二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』は共に王権(クル族を祖先とする王家の正統性)を強調するものとして翻案され、支配階級のみならず民衆の間でも親しまれている。ベトナム(チャンパー)の碑文やインドネシア(ジャワ、バリ)の古典文学およびワヤン・クリットにおいてはクル族両王家のうちカウラヴァ方への共感が見られる。7世紀のチャンパー碑文によればチャンパーとカンボジアの王はカウラヴァのアシュヴァッターマン王子(ドローナの槍の継承者)の子孫である。ジャワにおける翻案(古ジャワ語文学(カウィ文学))ではパーンダヴァ方の血統でありながらカウラヴァ方についたカルナ(ジャワ語カルノ)がアルジュナ(ジャワ語アルジュノ)と共に二人の主人公と目され、カルナは心はパーンダヴァにありながら、カウラヴァを滅ぼすためにカウラヴァについたと改変されている。
『マハーバーラタ』に記された「インドラの雷」の描写は、現代の核兵器を想起させるため、『ラーマーヤナ』とともに、超古代文明による古代核戦争説の証拠であると主張する者がいる[12]。
インドでは何度も舞台化されているため、ここでは日本国内で上演・出版されたものを記述する。
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