変身人間シリーズ(へんしんにんげんシリーズ)は、東宝が製作した、科学技術によって変質、変形あるいは特殊能力を手に入れた人間が登場する特撮映画の総称である。
怪奇映画にSF映画の要素をあわせたものであり、人間の業や悲しみが作品のメインテーマとなっている[出典 1]。SF映画や怪獣映画のように派手な特撮は用いず[6]、特撮を心理的な表現として演出している[7]。
東宝プロデューサーの田中友幸は、制作の動機は莫大な予算をかけずに面白い特撮映画を作りたいという考えであったと述べている[2]ほか、本シリーズをはじめとする怪奇SF映画が途絶えた理由について、映画業界が大作志向になっていったことを挙げている[2]。小説家の小松左京は、本シリーズについて「予算はB級だろうと思うけど、アイデアがあって面白かった」と評している[8]。
東宝レコード『SF映画の世界』や東宝が出版した書籍『東宝特撮映画全史』では変身人間シリーズは『美女と液体人間』、『電送人間』、『ガス人間第一号』の3作を指す[9]。同じ東宝の『マタンゴ』は番外編的扱いであり[10][注釈 1]、『透明人間』は先駆的作品ということで[出典 3][注釈 2]、関連は深いもののシリーズには含まれていない[注釈 3]。
田中は変身人間ものと称していた[2]が、『電送人間』『ガス人間第一号』の検討用台本では「怪奇空想科学映画シリーズ」と付記されている[19]。
- 『フランケンシュタイン対ガス人間』
- 1963年に関沢新一によって執筆された脚本[出典 4]。『ガス人間第一号』の続編であり、生き延びたガス人間水野が藤千代を生き返らせるために怪物フランケンシュタインを利用するというものであったが、企画は『フランケンシュタイン対ゴジラ』を経て『フランケンシュタイン対地底怪獣』へと至った[出典 5][注釈 4]。同作品も、本シリーズに通ずる異形の悲しみを描いた作品であった[28][25]。
- 『怪奇人間特撮シリーズ 戦慄火焔人間』
- 1973年6月に、変身人間シリーズのプロデューサーで東宝映像の社長となった田中友幸によって立てられた企画書[29]。『美女と液体人間』や『電送人間』がテレビ放送で高視聴率を獲得したことから、新シリーズ化を目指して提案されたものであり、後続企画として『透明人間』や『植物人間』なども予定されていた[29]。
- 1974年1月には、監督に福田純を起用することを前提として、掛札昌裕[30]によって検討用台本『火焔人間』が執筆されたが[22]、福田は同年に『ゴジラ対メカゴジラ』『エスパイ』などを手掛けていたため、実現には至らなかった[29]。
- 『透明人間対火焔人間』
- 1975年5月に、掛札昌裕が検討用台本として執筆した作品[出典 6]。『戦慄火焔人間』の企画を発展・継承したものであり[22]、透明人間の設定も『透明人間』での設定を踏襲したものであった[29]。
- 同年3月に『メカゴジラの逆襲』をもって終了したゴジラシリーズに替わる特撮映画として企画されており、福田純が共同執筆した改定稿台本を経て、同年12月に東宝が発表した1976年の企画ラインナップにも挙がっていたが、『ゴジラの復活』『ネッシー』などの企画と競合し、実現には至らなかった[29]。
注釈
資料によっては、『マタンゴ』を変身人間路線の最終作と記述している[出典 2]。 資料によっては、『透明人間』を第1作とし[15][3]、『美女と液体人間』以降を第2作以降にカウントしている[16]。資料によっては『透明人間』をシリーズに含めることには異論が多いと記述している[17][5]。 書籍『オール東宝怪獣大図鑑』では、超能力者を題材とした『エスパイ』も関連作品に挙げている[18]。 書籍『ゴジラ大全集』では、『マタンゴ』の興行失敗によりSF路線から転換したと記述している[27]。
出典
小林淳 2022, pp. 120–124, 「第四章 色彩感豊かなSF映画に活力を注ぐ奏楽 [1960、1961] 一『電送人間』」 小林淳 2022, pp. 74–78, 「第二章 空想特撮映画の可能性を拡げる轟音 [1957、1958] 二『美女と液体人間』」 小林淳 2022, pp. 178–183, 「第五章 空想特撮映画の百花繚乱の姿を包む響動 [1962、1963] 二『マタンゴ』」 ゴジラ来襲 1998, p. 26, 「第2章 東宝・怪獣SF特撮映画の歩み 第1期(1954-1962)」 ゴジラ画報 1999, p. 124, 「special column2 幻の未撮影台本発掘シリーズ2 『フランケンシュタイン対ゴジラ』(1964年7月企画)」 東宝特撮映画大全集 2012, p. 130, 文 鈴木宣孝「撮影秘話-特別編- 東宝特撮映画とその海外進出3 異色のフランケンシュタイン映画」 小林淳 2022, pp. 232–239, 「第六章 奇想天外映画に華美な光彩を加える音場 [1964、1965] 四『フランケンシュタイン対地底怪獣』」 ゴジラ来襲 1998, pp. 74–75, 「第2章 東宝・怪獣SF特撮映画の歩み 第2期(1963-1970)」 ゴジラ画報 1999, p. 189, 「special column 幻の未撮影台本発掘シリーズ5 『透明人間対火焔人間』(1975年10月企画)」