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カテリシジン

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カテリシジンまたはカセリサイディン(cathelicidin, cathelicidin antimicrobial peptide, CAMP)は、ヒトではCAMP遺伝子にコードされる抗菌ペプチドである[1]。活性型はLL-37と呼ばれる。ヒトでは、CAMP遺伝子はペプチド前駆体であるCAP-18(18 kDa)をコードしており、プロテイナーゼ3英語版による細胞外での切断などのプロセシングを受け、活性型であるLL-37となる[1][2][3]

概要 cathelicidin, 識別子 ...

カテリシジンファミリーのメンバーは約30種類が知られており、LL-37はヒトにみられる唯一のカテリシジンである[4]。カテリシジンは好中球マクロファージの分泌顆粒に貯蔵され、白血球による活性化後に放出される[5]。カテリシジンは両親媒性分子と呼ばれる、二重の性質を併せ持った分子である。すなわち、分子の一方の端は水分子に親和性があり、脂肪やタンパク質に反発する。もう一方の端は脂肪やタンパク質に親和性があり、水分子に反発する。こうした性質のため、このファミリーのメンバーは病原体に対し、細胞膜の崩壊、損傷、穿孔といった反応を示すこととなる。

カテリシジンは哺乳類において、侵入細菌の感染に対する自然免疫に重要な役割を果たしている[6]。カテリシジンはディフェンシンなどとともに、抗菌ペプチドに分類される。ディフェンシン類は共通した構造的特徴を有するのに対し、カテリシジン関連ペプチドはきわめて多様である[6]。カテリシジンファミリーは、cathelinドメインと呼ばれる高度に保存された領域と、きわめて多様なカテリシジンペプチドドメインによって特徴づけられる[6]

カテリシジンは、有袋類を含む、多くの哺乳類から単離されている[7]。カテリシジンは主に好中球、単球マスト細胞樹状細胞、マクロファージにおいて[8]細菌ウイルス真菌寄生虫による活性化、または活性型ビタミンDであるビタミンD3によって誘導される[9]上皮細胞ケラチノサイトなど、他の一部の細胞にも存在することが知られている[10]

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名称

カテリシジン(cathelicidin)という名称は、特徴的なcathelin様ドメインが存在することから1995年に命名された[11]。Cathelin自体は1989年に命名されたもので、カテプシンL英語版インヒビター(cathepsin L inhibitor)に由来する[12]

抗微生物活性の機序

カテリシジンの作用機序は、他の抗菌ペプチドと同様、標的生物の細胞膜構造の破壊(損傷や穿孔)を伴う[5]

マクロファージにおいて、カテリシジンはファゴソームに取り込まれた微生物の脂質とタンパク質からなる膜をリソソームとの融合後に迅速に破壊する。そのため、細菌のバイオフィルムの形成を阻害する役割を果たす[13]

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さまざまな細胞や組織と関係したLL-37の多面的な性質

その他の活性

LL-37は細胞増殖や遊走の活性化に関与し、創傷閉鎖過程に寄与している[14]。こうした機構の全てが、組織の恒常性や再生過程に必須の役割を果たしている。また、FPRL1英語版[15]P2X7英語版EGFR[16]IGF1R[17]といったさまざまな受容体に対してアゴニストとして作用する。さらに、LL-37は血管新生を誘導し[18]アポトーシスを調節する[19]

特徴

カテリシジンは12–80アミノ酸から構成され、さまざまな構造をとる[20]。大部分のカテリシジンは23–37アミノ酸残基からなり、両親媒性のαヘリックスへとフォールディングする。さらに、1つもしくは2つのジスルフィド結合によって安定化されたβヘアピン構造を持つ小さな分子(12–18残基)である場合もある。より大きなサイズ(39–80残基)のものも存在し、こうしたものはプロリンの反復モチーフを持ち、伸長したポリプロリン型構造を形成する[6]

1995年Gudmundssonらによって、あるORFのC末端の39残基から抗微生物活性を有するペプチド(FALL-39と命名された)が形成されることが推定された[21]。その1年後、実際にはFALL-39よりも2アミノ酸だけ短い、現在LL-37と呼ばれているペプチドが活性を有することが明らかにされた[22]

カテリシジンファミリーは、シスタチン英語版ファミリーのシステインプロテアーゼインヒビターとアミノ酸配列の相同性を示す[23]。しかしながら、プロテアーゼ阻害に重要であると考えられているアミノ酸残基は通常失われている。

オルソログ

カテリシジンファミリーのペプチドは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、パンダ、ブタ、ウシ、カエル、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ウマ、ワラビーで見つかっている[24]。有袋類でのカテリシジン様ペプチドの発見には、ヒトLL37/hCAP-18に対する抗体が用いられた[25]。これまでに哺乳類では約30種類のメンバーが記載されているが、ヒトで見つかっているのはLL-37のみである[5]。現在同定されているカテリシジンには次のようなものがある。

  • ヒト: hCAP-18(切断されてLL-37となる)
  • アカゲザル: RL-37
  • マウス:CRAMP-1/2 (Cathelicidin-related Antimicrobial Peptide)[26]
  • ラット: rCRAMP
  • ウサギ: CAP-18
  • モルモット: CAP-11
  • ブタ: PR-39, Prophenin, PMAP-23,36,37
  • ウシ: BMAP-27,28,34 (Bovine Myeloid Antimicrobial Peptides); Bac5, Bac7
  • カエル: cathelicidin-AL (Amolops loloensis英語版)[27]
  • ニワトリ: Fowlicidins 1,2,3, cathelicidin Beta-1 [28]
  • タスマニアデビル: Saha-CATH5 [29]
  • サケ: CATH1, CATH2
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臨床的意義

酒さの患者では、カテリシジンとカリクレイン5英語版(SCTE)が増加している。カテリシジンはカリクレイン5とカリクレイン7英語版の双方によってLL-37へと切断される。LL-37の過剰産生は酒さの全てのサブタイプにおいて、病因に寄与していると考えられている[30]テトラサイクリン系が他の抗菌剤よりも酒さに対する効果が高いのは、これらのセリンプロテアーゼに対する間接的な阻害作用のためである可能性がある[31]

血漿中のカテリシジン濃度の低下は、下痢患者の感染症による死亡リスクを有意に高めるようである[32]。カテリシジンの産生はビタミンDによってアップレギュレーションされる[33][34]

SAAP-148(synthetic antimicrobial and antibiofilm peptide)は、抗微生物活性が高められた改変型LL-37である。SAAP-148は生理的条件下でより効率的な殺菌作用を示す[35]。さらに、SAAP-148は薬剤耐性菌やそのバイオフィルムに対し、ハリシン英語版と相乗的作用を示す[36]

LL-37は(他の抗菌ペプチドとともに)乾癬の病因にも関係していると考えられている。乾癬においては、損傷したケラチノサイトから放出されたLL-37は自己の遺伝物質(DNAまたはRNA)と複合体を形成する。この複合体は樹状細胞(抗原提示細胞の一種)を刺激し、樹状細胞はIFN-α、βを放出してT細胞の分化と炎症の持続に寄与する[37]。LL-37は乾癬における一般的な自己抗原として知られており、中等症から重症の患者の約2/3で血中にLL-37特異的T細胞がみられる[37]

LL-37は、アルツハイマー病に関係するペプチドであるアミロイドβに結合する。LL-37とアミロイドβの間のバランスの異常は、アルツハイマー病と関係したフィブリルやプラークの形成に影響を及ぼしている因子の1つである可能性がある。口内での慢性的なポルフィロモナス・ジンジバリスPorphyromonas gingivalisの感染や、ヘルペスウイルス(HSV-1)の感染は、アルツハイマー型認知症の進行に寄与している可能性がある[38][39]

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応用

抗菌ペプチドに関する研究、特にその作用機序に関する研究は20年近く行われている。抗菌ペプチドの臨床応用は関心を集め続けている一方で、いくつかの理由のため広く利用される状態とはなっていない[40]。まず、ペプチドはプロテアーゼによって迅速に分解されるため、抗菌ペプチド由来の薬剤のバイオアベイラビリティは限定的なものとなる。次に、ペプチド型の薬剤は低分子よりも生産コストが高く、酵素による迅速な分解に対抗するために高用量で投与する必要があるため問題となる。また、こうした性質のため、一般的に注射、持続注入、徐放性製剤といった投与経路に限定される[41]

出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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