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タンパク質を構成しないアミノ酸

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タンパク質を構成しないアミノ酸
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タンパク質を構成しないアミノ酸(タンパクしつをこうせいしないアミノさん、: Non-proteinogenic amino acids)は、天然においては、生物の遺伝コード(コドン)に見られないアミノ酸である。タンパク質を組み立てるための翻訳装置では22個(真核生物では21個)のアミノ酸しか用いられないが、天然のタンパク質から得られるアミノ酸としては140以上が知られており、天然で生成または実験室で合成されるアミノ酸としては、数千が知られている[1]

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タンパク質を構成するアミノ酸は、全てのアミノ酸のほんの一部分である。

タンパク質を構成しないアミノ酸の多くは、以下の点で注目すべきである。

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否定による定義

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リシン

官能基としてアミンカルボン酸を持つ全ての有機化合物がアミノ酸である。タンパク質を構成するアミノ酸はその中の一部であり、中央の炭素原子(α-または2-)が左旋性アミノ基カルボキシル基側鎖、α-水素原子を持つ。例外は、アキラルであるグリシンと、アミノ基が第二級アミンでありイミノ基を持たないもののしばしばイミノ酸とも呼ばれるプロリンである。

遺伝コードは、翻訳によってタンパク質に取り込まれる20個の標準アミノ酸をコードしている。しかし、タンパク質を構成するアミノ酸としてはさらに2つ、セレノシステインピロリシンがある。この2つにはコドンは割り当てられていないが、特殊な配列が存在する場合に終止コドンの位置に加えられる。即ち、セレノシステイン挿入配列 (SecIS) があった場合にUGAコドンがセレノシステインに翻訳され[2]PYLIS配列があった場合にUAGコドンがピロリシンに翻訳される[3]。これら以外の全てのアミノ酸が「タンパク質を構成しないアミノ酸」である。

アミノ酸のグループとしては、以下のようなものがある[4]

  • 20の標準アミノ酸
  • 22のタンパク質を構成するアミノ酸
  • 80以上の高濃度で非生物的に合成されるアミノ酸
  • 900程度の天然経路で合成されるアミノ酸
  • 118以上のタンパク質に組み込まれる人工アミノ酸

これらのグループには重複はあるが、同一のものではない。22のタンパク質を構成するアミノ酸は全て生物等によって生合成されるが、発生源はそれだけではなく、非生物的(生物誕生前の環境や隕石中)にも生じうる。ノルロイシン等のいくつかの天然アミノ酸は、タンパク質合成プロセスがそれほど厳密ではないために、誤ってタンパク質に取り入れられることがある。オルニチン等の多くのアミノ酸は、生合成で生み出される代謝中間体であるが、タンパク質に取り入れられることはない。タンパク質中でのアミノ酸残基の翻訳後修飾により、タンパク質の一部ではあるがタンパク質を構成するアミノ酸ではないアミノ酸が多く形成される。α-メチルノルバリン等の他のアミノ酸は、非生物的な環境でのみ見られる。エンジニアリングされた系において、30以上の非天然アミノ酸が翻訳によってタンパク質に組み込まれるが、これは生合成的ではない[4]

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命名法

カルボキシル基中のものも含め、分子を構成する各炭素原子に順番に番号を割り振ることによって有機分子中の様々な炭素原子を区別するためのIUPACナンバリング体系に加え、アミノ酸の側鎖上の炭素原子にギリシャ文字を割り振ることができる。この際、α炭素は、カルボキシル基と側鎖、さらにα-アミノ酸の場合はアミノ基を持つ中央のキラル炭素となり、カルボキシル基の炭素は数えない[5](したがって、タンパク質を構成しないα-アミノ酸の多くの名前は、「2-アミノ」で始まる)。

L-α-アミノ酸以外の天然アミノ酸

要約
視点

天然に存在するアミノ酸のほとんどは、L型のα-アミノ酸であるが、例外も存在する。

α-アミノ酸以外

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生物中にもいくつかの非α-アミノ酸が存在する。これらの構造では、アミン基は、アミノ酸分子の端にあるカルボキシル基から遠い位置に置かれる。β-アミノ酸は2番目、γ-アミノ酸は3番目の炭素上にアミン基が置かれる。例えば、β-アラニンγ-アミノ酪酸、δ-アミノレブリン酸等がある。

かつては、β-アミノ酸の二次構造が有害であると考えられたが[7]、間違いであることが明らかとなった[8]

D-アミノ酸

いくつかのアミノ酸はキラリティーが反対で、通常のリボソーム転写/翻訳はされない。細菌の細胞壁の大部分は、アミノ糖が短いオリゴペプチドで架橋されたペプチドグリカンでできている。オリゴペプチドは非リボソーム的に合成され、D-アラニンD-グルタミン酸等の特殊なアミノ酸を含む。さらに前者はalr遺伝子またはホモログのdadX遺伝子でコードされるピリドキサールリン酸結合酵素により、後者は補因子に依存しない酵素 (murI) によってラセミ化されている。テルモトガ属D-リシンバンコマイシン耐性細菌はD-セリンvanT遺伝子)を持つ[9][10]

動物では、いくつかのD-アミノ酸は、神経伝達物質である。

水素を欠くα-炭素

タンパク質を構成するアミノ酸は全て、α炭素上に少なくとも1つの水素原子を持つ。グリシンは2つの水素原子を持ち、その他は全て1つの水素原子と1つの側鎖を持つ。水素原子をメチル基で置換すると、タンパク質の主鎖が歪む[7]

菌類の一部では、抗菌活性を持つペプチドの前駆体として2-アミノイソ酪酸を生産する[11]。これはアラニンに似ているが、α炭素上の水素の代わりにメチル基を持つため、アキラルである。α水素を持たないアラニン様物質としては、他にメチレン側鎖を持つデヒドロアラニンがある。これは、天然に存在するいくつかのデヒドロアミノ酸のうちの1つである。

双子アミノ酸の立体中心

L-α-アミノ酸の一部では、2つの末端のどちらがα炭素であるかについては曖昧である。タンパク質中では、システイン残基は他のシステイン残基とジスルフィド結合を形成して、タンパク質を架橋することができる。2つの架橋したシステインは、シスチン分子を形成する。システインとメチオニンは、一般的には直接のスルフリル化で形成されるが、いくつかの種はトランススルフレーション経路で形成され、ここでは活性化されたホモセリンまたはセリンがシステインまたはホモシステインと融合してシスタチオニンを形成する。似た化合物にランチオニンがあり、2つのアラニン分子がチオエステル結合で結合したもので、様々な生物で見られる。同様に、ジリンマメの毒であるジェンコル酸では、2つのシステインがメチレン基で繋がっている。ジアミノピメリン酸は、ペプチドグリカンの架橋や脱炭酸によりリシンの前駆体として用いられる。

生物誕生前のアミノ酸と代替生化学

要約
視点

隕石中やユーリー-ミラーの実験等の生物誕生以前の環境を再現する実験では、20種類よりも多くのアミノ酸が見られ、その中のいくつかは標準よりも高い濃度となった。ここから、宇宙のどこかでアミノ酸を基盤とする生命が全く別に現れたとしても、共通するアミノ酸は高々75%に過ぎないことが予測される[7]。最も顕著なのは、アミノ酪酸が欠けていることである。

さらに見る グリシンに対する割合 (%), 分子 ...

直鎖状側鎖

遺伝コードについては、進化の過程で遺伝コードが成立する際に偶然決まり、そのまま現在まで凍結されたものだとする偶然凍結説が提唱されており、20種類の標準アミノ酸の中で直鎖状の側鎖を持つものがアラニンのみである理由は、単純にバリンロイシンイソロイシンの冗長さのためかもしれない[7]。しかし、直鎖状側鎖を持つアミノ酸は、より安定なαヘリックスを形成すると報告されている[12]

カルコゲン

セリン、ホモセリン、O-メチルホモセリン、O-エチルホモセリンは、それぞれ、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、O-メチルヒドロキシメチル基、O-メチルヒドロキシエチル基を側鎖に持つ。一方、システイン、ホモシステイン、メチオニン、エチオニンは、それぞれのチオール置換体である。セレノール置換体は、セレノシステイン、セレノホモシステイン、セレノメチオニン、セレノエチオニンである。Aspergillus fumigatusAspergillus terreusPenicillium chrysogenum等のいくつかの種は、硫黄のない環境では、テルロシステイン、テルロメチオニンを作ってタンパク質に取り込むことができる[13]

ヒドロキシル側鎖を持つヒドロキシグリシンは、非常に不安定である。

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拡張遺伝コード

役割

細胞内、特に独立栄養生物の細胞内では、タンパク質を構成しないアミノ酸のいくつかは代謝中間体として見られる。しかし、多くのアミノ酸はケト酸として作られ、最後の段階でアミノ化されるため、タンパク質を構成しないアミノ酸が代謝中間体になることはかなり少ない。

オルニチンシトルリンは、アミノ酸異化の一部分である尿素回路で生成される[14]

一次代謝に加え、タンパク質を構成しないアミノ酸のいくつかは、小分子や非リボソームペプチドを作るための二次代謝の前駆体や最終生成物となる。

翻訳後のタンパク質への取込み

タンパク質を構成するアミノ酸のように遺伝コードでコードされていないが、非標準アミノ酸のいくつかはタンパク質中で見られる。これらは、タンパク質中の標準アミノ酸の側鎖が翻訳後修飾されたものである。このような翻訳後修飾は、しばしばタンパク質の機能や制御に必要なものである。例えば、グルタミン酸のカルボキシル化物であるγ-カルボキシグルタミン酸は、カルシウムカチオンとより結合しやすく[15]、プロリンのヒドロキシル化物であるヒドロキシプロリンは、結合組織コラーゲン)の維持に不可欠である[16]。他の例として、真核生物の翻訳開始因子EIF5Aに含まれるヒプシンは、リシン残基を修飾したものである[17]。このような修飾は、タンパク質の局在を決めることもある。例えば、長い疎水性の官能基が付加すると、タンパク質はリン脂質膜に結合しやすくなる[18]

おそらく誤取込みによって、タンパク質中にアミノマロン酸が含まれることもあるという予備的証拠も得られている[19][20]

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毒性アナログ

タンパク質を構成しないアミノ酸のうち、チアリシン等は、タンパク質を構成するアミノ酸の特定の性質を模倣するため、毒性を持つ。またキスカル酸カナバニンアゼチジン-2-カルボン酸等は、神経伝達物質となるアミノ酸を模倣するため、神経毒となる[21]セファロスポリンCはホモグルタミン酸骨格がセファロスポリン基でアミド化されている[22]D-ペニシラミンは、作用機構が未知の治療薬である。

天然に生成するシアノトキシンもタンパク質を構成しないアミノ酸を含んでいる。例えば、ミクロシスチンノジュラリンは、どちらもβ-アミノ酸であるADDAに由来する。

非アミノ酸

タウリンは、アミノスルホン酸でありアミノ酸ではないが、ネコ等の特定の生物では栄養要求を満たすのに必要な量がビタミンよりも必須アミノ酸に近い。

オスモライトであるサルコシントリメチルグリシンはアミノ酸に由来するが、それぞれ第2級アミン、第4級アミンを持つ。

出典

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