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フーリエ級数
複雑な周期関数や周期信号を、単純な形の周期性をもつ関数の和によって表したもの ウィキペディアから
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フーリエ級数(フーリエきゅうすう、英語: Fourier series)とは、複雑な周期関数や周期信号を単純な形の周期性をもつ関数の無限和(級数)によって表したものである。フーリエ級数は、フランスの数学者ジョゼフ・フーリエによって金属板の中での熱伝導に関する研究の中で導入された。

熱伝導方程式は、偏微分方程式として表される。フーリエの研究の前までには、一般的な形での熱伝導方程式の解法は知られておらず、熱源が単純な形である場合、例えば正弦波などの場合の特別な解しかえられていなかった。この特別な解は現在では固有解と呼ばれる。フーリエの発想は、複雑な形をした熱源をサイン波、コサイン波の線型結合として考え、解を固有解の和として表すものであった。 この重ね合わせがフーリエ級数と呼ばれる。
最初の動機は熱伝導方程式を解くことであったが、数学や物理の他の問題にも同様のテクニックが使えることが分かり様々な分野に応用されている。 フーリエ級数は、電気工学、振動の解析、音響学、光学、信号処理、量子力学および経済学[1]などの分野で用いられている。
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概要
要約
視点
フーリエ級数は、関数に対して定義されるフーリエ係数を用いて
の形に表される三角級数のことである。熱方程式を発見したフーリエは、平衡状態における熱方程式に注目し、適当な境界条件の下で二変数のラプラス方程式
に帰着させて解を求めようとした。この時、フーリエは、
という三角級数を見つけている。左辺の三角関数の一つ一つは波打っているにもかかわらず、x に依らない定数に収束しているのである。
x の定義域を広げるとこの三角級数は n を整数として
という矩形波になる。このような不連続な関数まで表せることに興味を抱いたフーリエは、さらに三角級数を詳しく調べ、1822年に出版した著書『熱の解析的理論』の中で、全ての関数は三角級数で書けるということを主張した。
微分方程式の解の形として、三角級数を仮定するという方法は、フーリエ以前にもダニエル・ベルヌーイらによって行われていたが、三角級数という特別な形を仮定することによって得られる特殊な解と考えられていた。フーリエの主張は、三角級数は、そのような特別なものではなく、全ての関数が三角級数で表せると大きく出ている。
フーリエの議論は飛躍が多かったため、反論が相次ぎ、この主張は受け入れられなかった。しかし、フーリエの側にだけ非があるわけではなく、当時の数学が、このような関数列の収束性などを扱うには未熟で、フーリエの主張の真偽を判定することは難しかったことも関係している。この後、関数がフーリエ級数で表現できるための条件などを論じるために、実数、関数、収束、積分などの概念などの見直しが行われ、フーリエ級数論は19世紀数学における解析学の厳密化に大きな影響を与えることになった。
またフーリエ級数に始まるフーリエ解析の研究は、フーリエ変換などの手法を産み、画像処理やデータ圧縮、CT、MRIなど現代科学の基礎技術としても発展していった。
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定義
要約
視点
連続時間信号 に収束するフーリエ級数が得られるときに はフーリエ展開できるというが、 に対する形式的なフーリエ級数が収束するのか、収束するとしても本当に に収束するのかといった複雑な議論が必要で、これはフーリエ級数の収束性問題と呼ばれる。以下ではこれを考えずに形式的に述べることにする。
フーリエ係数
を離散変数とし、周期 で周期的な複素連続時間信号 の
フーリエ級数
フーリエ係数を用いて書かれた多項式
を、m 次のフーリエ多項式 (Fourier polynomial) という。この m を +∞ にした極限
をフーリエ級数という。左辺は
の意味ではないことに注意しなければならない。
実フーリエ級数
実数値関数に限定したフーリエ級数は以下で定義される。
f は、実数 x を変数とする実数値関数で、周期 2π の周期関数であるとする。
と置き、an を f のフーリエ余弦係数 (Fourier cosine coefficient)、bn を f のフーリエ正弦係数(Fourier sine coefficient) という。 これらを用いて書かれた三角級数
をフーリエ級数(Fourier series) あるいはフーリエ級数展開(Fourier series expansion)という。余弦項だけの
を、フーリエ余弦級数といい、正弦項だけの
を、フーリエ正弦級数という。
- フーリエ係数を定める積分区間 −π < x < π に制限して f をみたときに f がフーリエ級数で表される偶関数なら、そのフーリエ級数は余弦級数となり、f(x) がフーリエ級数で表される奇関数なら、そのフーリエ級数は正弦級数となる。
以上に述べた実フーリエ級数は、周期 2π の周期関数 f に対する定義だが、x = (π/L) y という変数変換により、周期 2L の周期関数 g(y) = f((π/L)y) の −L ≤ y ≤ L という区間での定義に変換でき、この形で扱われることも少なくない。
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パーセバルの等式
要約
視点
関数 f(x) が二乗可積分ならば、以下の等式が成り立つ:
この式はパーセヴァルの等式と呼ばれる。
フーリエ級数の例
要約
視点
f(x) = x
周期関数でない関数を周期関数へ拡張し、そのフーリエ級数を扱うことも多い。区間 (−π, π) で定義される関数として次のような例を考える:
この関数 f を使って以下の周期関数 h を定義できる:
この関数 h は ..., −π, π, 3π, ... で定義されない点に注意する。仮に定義したとして、例えば点 π 上では左極限 h(π − 0) と右極限 h(π + 0) が一致せず、これらの点において、値をどのように定義しても h は不連続となる。
以降、記号を粗雑に使い、特に断りのない限り、h の意味で f を用いることにする。
f が区分的に連続微分可能である場合、不連続点でフーリエ級数の収束値は左右からの極限の平均を取るという性質がある。定義した周期関数がフーリエ級数と一致することを求めるなら、x = π での値は左右極限の平均値として定義すべきである:
特に今回の場合、f(π) = 0 となる。
元の関数は奇関数なので、f に対するフーリエ級数は正弦級数となる:
上記より f(π/2) について、以下の等式が得られる:
これはライプニッツの公式として知られる。
また、パーセバルの等式より次の関係が得られる:
f(x) = x2
前節と同様に関数 f として以下を与える:
この場合、周期関数としての f は元となる関数の定義域の境界 −π および π 上で連続となる。
元の関数は偶関数なので、f のフーリエ級数は余弦級数のみで表される:
(x2 を微分して 2 で割ると x になるのと同じように、この右辺の級数を微分して 2 で割ると、前節の f(x) = x のフーリエ級数になる。一般に関数 f に対する導関数のフーリエ級数とフーリエ級数の微分は一致しないが、f のフーリエ級数の微分が一様収束するなら、導関数 f′ のフーリエ級数に一致する。)
さらに、この級数は f(π) について以下のように整理できる:
ここでも ζ(2) が現れる。
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直交性
要約
視点
三角級数の直交性
フーリエ級数のようなものが考えられる背景には、関数の直交性がある。 (−π, π) 上で定義された二乗可積分関数の空間 L2(−π, π) を考える。 f(x), g(x) ∈ L2(−π, π) に対して、内積
- g(x)* は g(x) の複素共役であり、実数値のときは、g(x) と等しい
を定義すると、自然数 m, n ≥ 1 に対し
ただし、δmn はクロネッカーのデルタで、内積の中に用いられている 1 というのは、x に依らずに 1 を値にとる定数関数の事とする。
このような関係から
は正規直交関数列となり、これは L2(−π, π) の正規直交基底になっている。
という計算によって、それぞれ、フーリエ級数の cos nx, sin nx の係数のみを抜き出すことができる。
また、任意の自然数 m について
が成り立てば、 f(x) = 0 となるため、この直交関数列は完備関数列でもあり、この内積によって、 L2(−π, π) は、ヒルベルト空間になる。
複素型のフーリエ級数の場合も、整数 m, n に対して
という直交関係がなりたち、{eimx} は完備関数列になる。
ヒルベルト空間とフーリエ級数
ヒルベルト空間 X と、その正規直交系 {ek} を考える。 x ∈ X に対して、その内積 のことをフーリエ係数という。この時、ベッセルの不等式
が成り立つ。
さらに {ek} が X の基底となっていれば、三角級数のときと同様に級数
が考えられ、これも同じようにフーリエ級数という。この級数が、元の x に等しいとき、フーリエ展開できるという。そしてこの時、プランシュレルの等式
が成り立つ。
ヒルベルト空間 X について、
- 任意の x ∈ X がフーリエ展開できること
- 任意の x ∈ X に対し、プランシュレルの等式が成り立つこと
- {ek} が X の正規直交基底であること
の 3つは互いに同値な条件である。
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主な周期関数のフーリエ級数
要約
視点
主な周期関数のフーリエ級数を示す。
- 関数 は、期間 で定義されるものとする。
- はそれぞれ、直流成分、フーリエ余弦係数、フーリエ正弦係数である。
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出典
参考文献
関連項目
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