正の偶数に対する特殊値
1644年、イタリアのピエトロ・メンゴリ(イタリア語版、ドイツ語版)によって以下の問題が提起された。この問題は、解決に挑んだ数学者の多くがバーゼルの生まれであったことから、バーゼル問題と呼ばれる。
バーゼル問題 ― 以下の級数:

は収束するか。収束するならばその値はいくつか。
レオンハルト・オイラー
バーゼル問題は、スイスのレオンハルト・オイラーによって初めて解決された。オイラーは、三角関数のテイラー級数およびその無限乗積の x2 の項の展開係数を比較することで、

となることから、

が成り立つことを示した。さらにオイラーの研究はバーゼル問題にとどまることはなく、より一般の場合の研究に努め、任意の自然数 n に対して、

が成り立つことも示した[2][3]。ただし、ここで B2n は 2n 番目のベルヌーイ数である。
正の偶数に対する特殊値の証明 —
余接関数の指数関数による定義から、

である。ただし、ここで i は虚数単位である。ここで右辺は、

であり、ベルヌーイ数の定義から、

となるので、ベルヌーイ数の特殊値を利用し、

一方、正弦関数の無限乗積の対数は、

であり、両辺を微分して z を乗じると、

となるが、これをテイラー展開して整理すると、

それぞれで導いた πz cot πz を比較して、

この公式により、正の偶数に対する特殊値を容易く計算することができる。しかるに n = 1 から小さい順に n = 10 まで計算してみると、










となる。またその近似値は、以下の表に示す通りである。
さらに見る ζ (2n), 近似値 ...
正の偶数に対する特殊値の近似値
ζ (2n) | 近似値 | OEIS |
ζ (2) | 1.64493 40668 48226 43647... | A013661 |
ζ (4) | 1.08232 32337 11138 19151... | A013662 |
ζ (6) | 1.01734 30619 84449 13971... | A013664 |
ζ (8) | 1.00407 73561 97944 33937... | A013666 |
ζ (10) | 1.00099 45751 27818 08533... | A013668 |
ζ (12) | 1.00024 60865 53308 04829... | A013670 |
ζ (14) | 1.00006 12481 35058 70482... | A013672 |
ζ (16) | 1.00001 52822 59408 65187... | A013674 |
ζ (18) | 1.00000 38172 93264 99983... | A013676 |
ζ (20) | 1.00000 09539 62033 87279... | A013678 |
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この表からもわかるように、ゼータ関数は s → ∞ の極限で ζ (s) → 1 である。すなわち、

である。また、自然数 n に対して、

を満たすように an と bn を定める。ただし、ここで an と bn は任意の自然数 n に対して常に自然数をとるものとする。すると、このとき an と bn の n = 1 から n = 20 までの挙動は以下の表に示す通りである。
さらに見る n, an ...
係数
n | an | bn |
1 | 6 | 1 |
2 | 90 | 1 |
3 | 945 | 1 |
4 | 9450 | 1 |
5 | 93555 | 1 |
6 | 638512875 | 691 |
7 | 18243225 | 2 |
8 | 325641566250 | 3617 |
9 | 38979295480125 | 43867 |
10 | 1531329465290625 | 174611 |
11 | 13447856940643125 | 155366 |
12 | 201919571963756521875 | 236364091 |
13 | 11094481976030578125 | 1315862 |
14 | 564653660170076273671875 | 6785560294 |
15 | 5660878804669082674070015625 | 6892673020804 |
16 | 62490220571022341207266406250 | 7709321041217 |
17 | 12130454581433748587292890625 | 151628697551 |
18 | 20777977561866588586487628662044921875 | 26315271553053477373 |
19 | 2403467618492375776343276883984375 | 308420411983322 |
20 | 20080431172289638826798401128390556640625 | 261082718496449122051 |
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さらに cn = bn/an と定めると、偶数に対する特殊値はより簡単に、

とかくことができる。するとこのとき、

なる漸化式が存在することがわかる。この漸化式は、ベルヌーイ数を効率的に求める漸化式に基づいている。また、特殊値の係数ではなく、ゼータ関数についての漸化式も存在する。余接関数の微分:

およびその部分分数分解による表現:

を用いれば、

が容易に導かれる[4]。ただし、ここで n > 1 である。
正の奇数に対する特殊値
ゼータ関数は Re s > 1 なる複素数 s に対して定義される関数であるが、その定義式に s = 1 を代入すると、

となって調和級数に一致する。調和級数は、古くにおいては収束すると考えられていたが、今日においては発散することが知られている。しかしこれはコーシーの主値は存在し、

である。ただし、ここで γ はオイラーの定数である[5]。
また、正の偶数に対する特殊値はベルヌーイ数を用いる形で一般化されたが、正の奇数に対する特殊値は簡潔な形で表すことができないことが知られている。例えば、ゼータ関数に s = 3 を代入した実数 ζ (3) はアペリーの定数として知られ、様々な積分表示や級数表示が発見されているものの、簡単な形で表すことができない。また ζ (3) は無理数であることがわかっている。この主張をアペリーの定理という。また、正の偶数に対する特殊値が常に無理数となることはその一般化された公式を見れば一目瞭然である一方、正の奇数に対する特殊値がすべて無理数であるかどうかは現在もまだわかっていないが、すべて無理数ではないかと予想されている[6]。以下の表にその近似値を示す。
さらに見る ζ (2n + 1), 近似値 ...
正の奇数に対する特殊値の近似値
ζ (2n + 1) | 近似値 | OEIS |
ζ (1) | - | - |
ζ (3) | 1.20205 69031 59594 28539... | A02117 |
ζ (5) | 1.03692 77551 43369 92633... | A013663 |
ζ (7) | 1.00834 92773 81922 82683... | A013665 |
ζ (9) | 1.00200 83928 26082 21441... | A013667 |
ζ (11) | 1.00049 41886 04119 46455... | A013669 |
ζ (13) | 1.00012 27133 47578 48914... | A013671 |
ζ (15) | 1.00003 05882 36307 02049... | A013673 |
ζ (17) | 1.00000 76371 97637 89976... | A013675 |
ζ (19) | 1.00000 19082 12716 55393... | A013677 |
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アペリーの定数をはじめとした正の奇数に対する特殊値には様々な積分表示や級数表示が与えられており、それらを計算する場合はゼータ関数の定義式を利用するのではなく、別の収束速度の速い公式を利用することが多い。
ζ (3)
![{\displaystyle \zeta (3)={\frac {2\pi ^{2}}{7}}{\Biggl [}{\frac {3}{2}}-\log \pi +\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {\zeta (2n)}{2^{2n-1}\,n\,(2n+1)(2n+2)}}{\Biggr ]}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c311257b19d8a49bb5424ed508249fdd73ec3ab2)
![{\displaystyle \zeta (3)={\frac {\pi ^{2}}{7}}{\Biggl [}1-4\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {\zeta (2n)}{2^{2n}\,(2n+1)(2n+2)}}{\Biggr ]}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/303d111c6362e9bbffc539680e685aa9a19a40ab)


![{\displaystyle \zeta (3)={\frac {1}{4}}\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {(n!)^{4}\,(30n-11)}{n^{3}\,[(2n)!]^{2}\,(2n-1)}}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/ce9bd2d6043bcee6a6e377764849a00ead0dc436)
![{\displaystyle \zeta (3)={\frac {1}{2}}\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {(-1)^{n-1}\,(n!)^{10}\,(205n^{2}-160n+32)}{n^{5}\,[(2n)!]^{5}}}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/1877ce7b696f8c35bcda84d728d8257349514f3c)






ζ (5)


![{\displaystyle \zeta (5)={\frac {2\pi ^{4}}{3\,(2^{5}-1)}}{\Biggl [}\log 2+\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {(2n+5)\,\zeta (2n)}{2^{2n}\,(n+2)(2n+3)}}{\Biggr ]}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/7cbe867c681468c6401a86a32296ed5531d8682f)
![{\displaystyle \zeta (5)={\frac {2\pi ^{4}}{31}}{\Biggl [}\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {\zeta (2n)}{2^{2n}(n+2)(2n+1)}}-3\sum _{n=1}^{\infty }{\frac {\zeta (3)}{2^{2n}\,(n+1)(2n+3)}}{\Biggr ]}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/19d79f5a6d56fff5b2a4a4348beaade76cc3fe5b)

ζ (2n + 1)
正の奇数 n に対して、

なる級数を定めるとき、ζ (3) や ζ (5) で見られたような一連の級数は次の形で定式化される。

ただし、ここで An 、Bn 、Cn および Dn は、任意の正の奇数 n に対して常に自然数をとるものとする。ここでの Bn はベルヌーイ数とは異なる。すると、このとき An 、Bn 、Cn および Dn の n = 3 から n = 19 までの挙動は以下の表に示す通りである。
さらに見る n, An ...
係数
n | An | Bn | Cn | Dn |
3 | 180 | 7 | 360 | 0 |
5 | 1470 | 5 | 3024 | 84 |
7 | 56700 | 19 | 113400 | 0 |
9 | 18523890 | 625 | 37122624 | 74844 |
11 | 425675250 | 1453 | 851350500 | 0 |
13 | 257432175 | 89 | 514926720 | 62370 |
15 | 390769879500 | 13687 | 781539759000 | 0 |
17 | 1904417007743250 | 6758333 | 3808863131673600 | 29116187100 |
19 | 21438612514068750 | 7708537 | 42877225028137500 | 0 |
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これらの整数はベルヌーイ数の和として表現することができる。任意の整数引数に対するゼータ関数の高速計算アルゴリズムは、アナトリー・カラツバ(英語版)によって与えられている[7][8][9]。