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世界平和度指数
イギリスのエコノミスト紙が24項目にわたって144カ国を対象に分析した指数 ウィキペディアから
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世界平和度指数(せかいへいわどしすう、英:Global Peace Index、Negative Peace Index[1])は、経済平和研究所による、国または地域における平和の相対的な位置を測定する指数である[2]。23項目にわたって163か国を分析し、各項目は「安全・安心」「国内・国際紛争」「軍事化」の3つのカテゴリに分類される。

概要
世界平和度指数には「安全・安心」「人口10万人当たりの殺人者数」「凶悪犯罪発生率」などの項目が含まれ、一般の人がホームページで参照しやすいように工夫されている。一方で、「軍事化」に関連する「武器の輸出入量、核兵器や戦車の保有数など」など一般市民にはあまり馴染みのない項目もある[2][3]。そのため、世界平和度指数は「世界治安ランキング」というわけではない。
例えば、世界平和度指数が日本よりも高い国であっても、シンガポールを除くと日本よりも人口当たりの殺人件数が若干高い。逆に、サウジアラビアのように、暴力犯罪レベルは低くても、武器輸入、軍事費、潜在的なテロのリスク、近隣諸国との緊張、人権に関する問題などから、世界平和度指数が低い値に留まっている国もある[2]。
また、より一般市民との関係が深く、世界平和度指数の基礎となる「積極平和度指数」が参照される場合もある[4][3]。
この指標は、チベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世や、南アフリカの大司教デズモンド・ムピロ・ツツ、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス、アイルランドの元大統領メアリー・ロビンソン、アメリカの元大統領ジミー・カーターなど、各国の著名人から支持を受けている[5]。
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調査方法
要約
視点
調査チームは、イギリスのエコノミスト・インテリジェンス・ユニットを主体に、平和研究に取り組む大学研究者や専門家によって編成されている。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットは、経済紙エコノミストと同様、エコノミストグループ (en) の一部門である。平和度の評価は、23項目(当初は24項目)の指標から決められている。具体的な指標を下記の表に示す[6]。
表中、EIUはエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの情報、UCDP (Uppsala Conflict Data Program) とは、スウェーデンのウプサラ大学が開発した評価法、UNSCT (Survey of Criminal Trends and Operations of Criminal Justice Systems) とは国際連合の犯罪・裁判状況調査、ICPS (International Center for Prison Studies) とはロンドン大学キングス・カレッジ・ロンドンの刑務所研究所の調査、IISSは国際戦略研究所出版のThe Military Balance 2007、SIPRIとはストックホルム国際平和研究所の兵力輸送データベース (Arms Transfers Database) 、BICCとはボン国際転換センターによる情報である。
データはオーストラリアの経済平和研究所が考案し、国際平和パネル討論会のエキスパート、平和研究所、シンクタンクなどが作成し、イギリスのエコノミスト・インテリジェンス・ユニットがデータを調整したものである。このリストは2007年5月から提供されており、2008年5月、2009年6月2日、2010年6月10日に更新されている。発表者らは、世界の国と地域の平和度ランキングとしては初めてのものと説明している。
調査対象国は2007年には121、2010年は149である。元々はオーストラリアの企業家スティーヴ・キレリアの発案であり、多くの著名人の支持を受けている。情報は、内的状況(暴力、犯罪)、外的状況(軍事費、戦争)に分けられる。この指標の発案者であるオーストラリアの企業家で慈善家のスティーヴ・キレリアは「この指標は、地球上のあらゆる指導者を目覚めさせる役割を果たすであろう」と述べている[7]。
数値データは、次の数式で5段階評価に変換する。ある指標について、その国(地域)の点数がx、リスト中の最小値がMin(x)、最大値がMax(x)だった場合、評価ポイントを、
- 評価ポイント = (x-Min(x))/(Max(x)-Min(x))
で計算する。評価ポイントは0~1のいずれかになるので、これを5段階に変換する。
それぞれの指標は同価値ではなく、調査チームが重要度を判定して重みが付けられている。さらに、内的状況には0.6、外的状況には0.4を掛けた後、総合点を算出している[8]。
世界平和度指数には次のような傾向がある:
評価チームは統計分析の手法を用いて、世界平和度指数と相関が低い項目も見つけている:住んでいる人種の数、宗教の生活への密着度などは、世界平和度指数との相関が小さい[10][リンク切れ]。
2020年の積極的平和指数報告書によると、世界平和度指数は外国人に対する敵対心と一人当たりGDP、政府機能の相関係数が少なくとも0.65に達する極めて高いものだが[1]、2019年5月の欧州連合人種差別報告書によると、ポルトガル、オーストリア、スロベニアとチェコは2022年の世界平和度指数上位10カ国に君臨しながら、欧州連合平均より日本人含むアジア人に対して高い差別があり、これらの国への留学や就業は日本人には控えてほしいものだとのことである[2][11]。
なお、十分なデータが集められなかった国は、評価から除かれている。例えばルクセンブルク、モナコ、グリーンランドなど[2]。2007年のランキングには、ベラルーシ、アイスランド、多くのアフリカの国、モンゴル、北朝鮮、アフガニスタンが入っていない[12]。
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2008-2019 世界平和度指数ランキング
要約
視点
平和な国ほど「点数」が小さい[13][14]。経済平和研究所は、毎年の「世界平和度指数ランキング」とその牽引役である「積極的平和指数ランキング」の発表時に、その年の研究手法に基づいて過去の年間ランキングを作り直している。したがって、2020年6月10日の2020年世界平和度指数ランキングの発表以降、すでに以下の過去の年間ランキングが微調整されている[2]。2019年世界平和度指数ランキングの発表時点では、2008年から2019年の世界平和度指数ランキングは以下の通りである[15]。
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批判
経済紙エコノミストは、この指標に対して批判が出ていることを認めている。特に、軍事費が突出している国に対しての評価が低い点について、「外国(特にアメリカ)から軍事的庇護を受けている国に有利でありすぎる」との批判が出ていることがエコノミスト紙上で公表されている。その上で、この指標の意義は、国と国とを比較することにあるのではなく、ある特定の国の平和さが年とともに向上しているかそれとも低下しているかを見出すことにあると述べられている[16]。
また、世界平和度指数に、女性や子供に対する暴力行為の評価が含まれていないとの批判もある。アメリカの社会学者リーン・アイスラー (Riane Eisler) は、日刊紙クリスチャン・サイエンス・モニターに寄稿し、「控えめに言ったとしても、重要な評価項目が含まれていないこの指標は非常に不正確である」と述べている。例えば中の上程度の評価を受けているエジプトについて「女性の90%が女性器切除を受けている」、同じく中国について「ユニセフの2000年の調査によると、26%の女性が交際相手からDVを受けている。また、ヨーロッパの深刻なDVも考慮されていない」として、このランキングには問題があると述べている[17]。
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積極的平和指数
要約
視点
→「平和学」も参照
積極的平和指数(Positive Peace Index)は、世界平和度指数の原動力となっている[1][4]。積極的平和(Positive Peace)とは、平和な社会を創造し、維持するための態度、制度、構造として定義されている。積極的平和指数は、国や地域の社会的な回復力を測定する[18]システム思考である[19]。平和学や政治学において、「積極的平和」とは、貧困、差別、搾取、抑圧など、紛争や戦争の原因を「積極的に」排除することと定義されている[20]。世界平和度指数は、前述の批判に加えて、兵器の輸出入量、軍事費、核兵器・重戦車保有数、軍事力など、一般市民の日常生活とは関係のない項目も含まれている[2][3]。この場合では、世界平和度指数の推進力である積極的平和指数を参考することもできる[1][4]。
積極的平和指数は、世界が直面している複雑な課題を理解し、それに対処するための枠組みを提供する[21]。迅速で簡単な解決策はない。平和の構築と維持には、積極的平和につながる8つの要素は、全体として、長期的に協調して進展していくものである[22]。積極的平和指数は、平和だけでなく、生活の満足度、幸福、経済成長にもつながる[19]。1942年にアメリカの法学者クインシー・ライトが唱えたのが最初とされ[23]、ノルウェーの平和学者であるヨハン・ガルトゥングが1958年に提唱した概念にもこの積極的平和がある[23][24]。これは、国際的な暴力がないだけでなく、社会のあらゆる部門で個人的・構造的な暴力がないことからなる平和を意味する[25]。ノルウェーの平和研究者ハン・ドルッセンによれば、積極的平和は、社会間の紛争の数が少ないことを特徴としている。米国での人種暴動などの紛争は、先進国でも積極的平和を崩壊させる可能性がある[26]。一方、2022年の積極的平和指数報告書と2019年5月の欧州連合人種差別報告書によると、積極的平和指数の上位10位にランクインしたすべての欧州連合諸国は、日本人を含むアジア人に対する差別が欧州連合平均以下であることが示されている[11][19]。
日本はこれまで、政府開発援助による途上国への開発援助など、「積極的平和」に基づく幅広い国際貢献を行ってきた[20]。経済平和研究所は、少なくとも2012年から積極的平和の向上を掲げている[27]。ガルトゥングは2015年(平成27年)8月22日、沖縄県浦添市へ招かれて講演した際、「私は、日本がこう主張するのを夢見てやまない。『軍隊は持たず、外国の攻撃に備えることもない』と」とも語っている[28]。2015年(平成27年)9月4日の参議院特別委員会では、岸田文雄外務大臣は、安倍政権の積極的平和主義について「貧困や搾取に対処すべきであるという観点では、ガルトゥング博士の積極的平和と重なる部分は多い」と主張している[29]。

2022年、経済平和研究所は「積極的平和」につながる8つの要素を再定義した[19][31]:
- 隣国との良好な関係: 国内外国人平等待遇推進法、国家安全保障経済外部効果、観光客数。
- 十分に機能している政府: 政府の透明性、政府品質、法の支配。
- 健全な事業環境: 健全な政策管理能力、金融機関品質指数、一人当たりGDP。
- 低レベルな汚職: エリートの非派閥化、公共部門横領の抑制、汚職防止対策。
- 高水準の人的資本: 研究員数、若年層のニート率の低さ、健康寿命。
- 情報の自由な流れ: 報道の自由指数、インターネット利用率、政府による虚偽の情報発信の欠如。
- 資源の公平な分配: 医療格差の解消、公共事業、機会均等。
- 他人の権利の受け入れ: 特定社会経済的集団の排除の防止、集団苦情評価、男女平等指数。
2022年の積極的平和指数の上位12カ国は、上からスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スイス、オランダ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、アイルランド、ニュージーランド、そして日本である[19]。世界平和を実現するための高水準の人的資本は、日本が世界一とされている[19]。一方、ルクセンブルク、モナコ、グリーンランドは、世界平和度指数と同様にランキングから除外されている。積極的平和指数のわずかな変化でも、報告書に記載されるほど重要なのである[1]。
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関連項目
脚注
外部リンク
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