二字熟語による往来表現の一覧

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二字熟語による往来表現の一覧(にじじゅくごによるおうらいひょうげんのいちらん)では、漢字圏における往来表現について解説する。

概要

日本語において、二つの漢字を組み合わせた一種の往来表現の用例は多様である。例えば、「日本に来ること」を意味する「来日」という語に倣い、「大阪に来ること」を「来阪(らいはん)」、「アメリカに渡航すること」を「渡米(とべい)」などと表現する。これは、「適魯」(魯に適(ゆ)く)、「升堂」(堂に升(のぼ)る)、「入虎穴」(虎穴に入る)、「遷洛陽」(洛陽に遷(うつ)る)などのように、動詞+場所(目的地)という漢語語構成を準用した熟語である[* 1]略語の一種とみなすこともできるが[* 2]、場所を表した漢字の部分は一種の軸字(概念を象徴する文字)となっており、「来日本」、「来大阪」などとは言わない。軸字は「仙」(仙台)のように先頭の字を用いるもの、「阪」(大阪)のように語末の字を用いるもの、および「洛」(京都)、「寧」(奈良)のように歴史的な名称を用いる場合などがある[* 3][* 4]。「福」の字のように、福島、福井、福岡など複数の地名に対して使われるものもあるが、これらは地理的にある程度の距離があることから実際上の支障はきたさないことが多いものとみられる[* 5][* 2]

さらに漢文法の規則に則って接頭辞を付加し「初来日」(初めての来日)、「再来日」(再度の来日)などと意味を補足することも行われる。また漢語は単語並列の自由度が高いので、仮名書きされる付属語を省略して「来日公演」(来日して公演すること)、「来阪外国人」(来阪した外国人)、「日本人渡米客」(渡米する日本人の旅行客)などのように、一つの文に相当する漢字句を形成することもある[* 6]

このような表現は、動詞の部分を変えることによって「駐日」(日本に駐在すること)、「在日」(日本に居在すること)、「帰阪(きはん)」(大阪に帰郷すること)のような語を連想的に派生することが可能であり、便利がよいので文字数が制限される新聞の見出しや手紙文などで頻用される[* 2]。一方でこれらの表現のうち、辞書に収録されているものはむしろ少数であり、その地方ごとにのみ通じる一種の方言のようなものであると指摘されることもある[* 7]

これらは文章上の表記法であるため、読み方がはっきりしないことも少なくないが[* 3][* 5]、特に混乱がない場合は、音読みをすることが一応の目安となる。また、栃木の「栃」の字の例に至っては、国字であるがゆえに音読みが存在しないが、「励(勵)」(れい)、「蛎(蠣)」(れい)、あるいは「櫔」(れい)などの字から類推して「来栃」(らいれい)、「帰栃」(きれい)という語が、読みとともに創作されることもある[* 8]

同様の表現は、中国や台湾、さらに韓国などの日本以外の漢字圏でも観察される。

日本の都道府県の事例

ジェイ・キャストの2014年の調査によると、「来」+「都道府県を表す1文字」で構成される語は以下のように分類されるという[* 4]

  1. 先頭の字を用いるもの
    青森、岩手、秋田、福島、栃木、群馬、富山、福井、長野、岐阜、静岡、京都、鳥取、岡山、広島、香川、徳島、高知、福岡、佐賀、熊本、鹿児島、沖縄
    使用頻度には差があり、熊本の「来熊」、静岡の「来静」などは用例が多いが、群馬の「来群」は稀である。
    秋田の「来秋」は、「来年の秋季」という意味にも解釈できるため、避けられる傾向がある。
  2. 語末の字を用いるもの
    山形(来形)、千葉(来葉)、大阪(来阪)、長崎(来崎)、大分(来分)
    北海道(来道)もこれに分類される
  3. 特殊なケース
    新潟(来越) - 越後国に由来
    奈良(来寧) - 雅称である「寧楽」に由来
  4. 該当する語がないもの
    宮城、茨城、埼玉、東京、神奈川、山梨、石川、滋賀、和歌山、兵庫、三重、島根、山口、愛媛、宮崎
    兵庫 → 「来神(神戸市)」、愛知→ 「来名〔名古屋市)」、山梨 → 「来甲(甲斐国もしくは甲府市)」、三重 → 「来勢(伊勢国もしくは伊勢市)」のように準用されうる語が存在するものもある。

一覧

要約
視点

以下、各種メディアなどで用例がみられる往来表現を列挙する。なお以下の表現は、特にことわりのない限り、日本の立場からみたものである。

「来」を用いた表現

目的地に来ることを意味する。

さらに見る 表現, 読み ...
表現読み目的地例文用例出典備考
来日らいにち日本--[日2][広6][泉2][林2]「来朝」とも。
来道らいどう北海道-[1][日2][* 4][* 7][* 9][* 10][* 11]-
来札らいさつ札幌-[2][* 3][* 5][* 9][* 10]「来札」は一般的に「こちらへ届いた書状。よそから来た手紙。」の意。[日2]
来旭らいきょく旭川-[3][* 10]-
来函らいかん函館-[4][* 10]-
来釧らいせん釧路-[5][* 10]-
来蘭らいらん室蘭-[1][* 10]-
来青らいせい青森-[6][* 4][* 5][* 9]-
来秋らいしゅう秋田-[7][* 4][* 5][* 9]「来秋」は「来年の秋季」とも解釈される。
来岩[読み疑問点]岩手-[* 4]-
来盛らいせい盛岡-[8][* 5][* 9]-
来仙らいせん仙台-[9][* 5][* 9][* 12]-
来形[読み疑問点]山形-[* 4][* 9]-
来福らいふく福島-[10][* 2][* 4][* 5][* 9][* 11][* 12]「福」は福井、福岡などを指す場合もある。
来群らいぐん群馬-[* 4][* 9]使用頻度は多くない
来橋[読み疑問点]前橋-[* 9]
来水らいすい水戸-[11][* 5][* 9]-
来栃らいれい栃木--[* 4][* 8][* 9]「栃」は国字であり、本来「れい」という読みは存在しない。
来宇らいう宇都宮--[* 9]
来葉らいよう千葉-[12][* 4][* 9]「来葉」は一般的に「後の世。後世、来世。」の意。[日2]
来京らいきょう東京--[林2][* 9]「京」は首都の意味。京都を指すこともある。
類義語に「上京」、「出京」などがある。
来浜らいひん横浜-[13][* 2][* 9]「浜」は浜松を指すこともある。
来甲らいこう甲府-[14][* 4][* 9]-
来静らいせい静岡-[15][* 4][* 9][* 12]-
来浜らいひん浜松-[16][信頼性要検証]「浜」は横浜を指すこともある。
来名らいめい名古屋-[17][* 5][* 9][* 12]-
来新らいしん新潟-[* 4][* 9]-
来潟[読み疑問点]新潟-[* 9]-
来越らいえつ新潟-[* 4][* 9]-
来港らいこう新潟-[18][* 2]新潟港は日本海側で唯一の中核国際港湾である。
「港」は香港を指す場合もある。また、「来港」は一般的に「港へ船が入ってくること。」の意。[日2]
来沢らいさわ
らいたく
金沢--[* 3][* 5]-
来福らいふく福井-[19][* 2][* 4][* 9][* 12]「福」は福島、福岡などを指す場合もある。
来富らいふ富山-[20][21][* 2][* 4][* 9]-
来長らいちょう長野-[* 4][* 9]-
来松[読み疑問点]松本-[22]「松」は松江、松山などを指すこともある。
来岐らいき
らいぎ
岐阜-[23][* 4][* 9]-
来勢[読み疑問点]伊勢-[24][* 4]-
来津らいつ-[* 9]「津」は滋賀県大津市などを指すこともある。
来津らいつ大津-[* 9]「津」は三重県津市などを指すこともある。
来阪らいはん大阪-[25][日2][林2][* 4][* 5][* 9][* 12]-
来京らいきょう京都-[26][27][林2][* 4][* 9]「上洛」、「入洛」のように「洛」の字を用いることも多い。
(「京」の字が東京と紛らわしいため。)
来神らいしん神戸-[28][* 2][* 5][* 9]-
来寧らいねい奈良-[* 4][* 9]-
来和らいわ和歌山-[* 9]-
来鳥らいちょう鳥取-[* 4][* 9]-
来松らいまつ
らいしょう
松江-[29][* 9]「松」は松本、松山を指すこともある。
来岡らいこう
らいおか
岡山-[* 4][* 9][* 11]-
来広らいこう広島-[30][* 4][* 5][* 9]-
来山[読み疑問点]山口-[* 9]「来山(らいさん、らいざん)」は、多く「寺を訪れること」に用いられる。
来徳らいとく徳島-[31][* 4][* 9][* 11]-
来香らいこう香川-[32][* 4][* 5][* 9]-
来高らいこう高松-[33][* 2][* 9]「高」は高知を指すこともある。
来松らいまつ
らいしょう
松山-[34][35][* 9][* 11]「松」は松江、松本などを指すこともある。
来高らいこう高知-[36][* 2][* 4][* 9][* 11]「高」は高松を指すこともある。
来福らいふく福岡-[37][日2][* 2][* 4][* 5][* 9]「福」は福島、福井などを指す場合もある。
来佐らいさ佐賀-[38][* 9]
来崎らいさき
らいき
らいざき
長崎-[* 4][* 9][* 11][* 13]-
来熊らいゆう熊本-[39][* 4][* 7][* 9][* 11]-
来分らいいた大分-[* 4][* 11]-
来豊らいほう大分県-[* 9]-
来宮らいぐう宮崎-[* 9]「来宮」は、一般的に「らいきゅう」と読み「人が宮殿に来ること」の意、また、「きのみや」と読んで「霊木への崇拝から発生した神社の総称」を意味する場合もある。[日2]
来鹿らいか鹿児島-[40][* 12]-
来麑[読み疑問点]
[注 1]
鹿児島露國皇太子ニコラス殿下来麑紀念碑[41][* 12][* 15]「来鹿」より昔の表現[注 1]
鹿児島に滞在する「滞麑」という表現もあり、「フランシスコザビエル聖師滞麑記念」と書かれた教会のアーチがある[* 12]
来沖らいおき
らいちゅう
沖縄-[42][* 2][* 4][* 5][* 7][* 9]現地では「来島」もほぼ同義に用いられる。なお、「来島」は一般的に「よそから島にやって来ること。」の意。[日2][泉2]
来覇らいは那覇-[* 9]-
来米らいべい亜米利加
(アメリカ)
-[43][44][45][信頼性要検証]-
来桑[読み疑問点]
[注 2]
桑港
(サンフランシスコ)
-[46][信頼性要検証]
[注 2]
-
来英らいえい英吉利
(イギリス)
-[47][48][49][信頼性要検証]-
来独らいどく独逸
(ドイツ)
-[50][51][信頼性要検証]-
来韓らいかん韓国-[52][信頼性要検証]-
来星[読み疑問点]星嘉坡
(シンガポール)
-[53][信頼性要検証]「新嘉坡」、「新加坡」などの表記も一般的である。
来港[読み疑問点]香港-[54][信頼性要検証]「港」は新潟を指す場合もある。
来伯らいはく伯剌西爾
(ブラジル)
-[55][信頼性要検証]
来聖[読み疑問点]聖市
(サンパウロ)
-[56][信頼性要検証]
来越らいえつ越南
(ベトナム)
--
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「訪」を用いた表現

目的地に訪問すること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
訪日ほうにち日本--[日2][広6][泉2][林2]-
訪韓ほうかん韓国-[52][泉2]-
訪朝 ほうちょう 朝鮮 小泉訪朝 [57]
訪中ほうちゅう中国--[日2][泉2]-
訪米ほうべい亜米利加
(アメリカ)
--[日2][泉2][林2]-
訪仏ほうふつ仏蘭西
(フランス)
-[58][信頼性要検証]-
訪英ほうえい英吉利
(イギリス)
-[59][信頼性要検証]-
訪独ほうどく独逸
(ドイツ)
-[60][信頼性要検証]-
訪豪ほうごう豪州
(オーストラリア)
-[61]--
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「渡」を用いた表現

目的地に渡航すること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
渡韓とかん韓国-[62][日2]-
渡中とちゅう中国-[要出典][信頼性要検証]-
渡米とべい亜米利加
(アメリカ)
--[日2][広6][泉2][林2]-
渡仏とふつ仏蘭西
(フランス)
--[日2][林2]-
渡英とえい英吉利
(イギリス)
--[日2][広6][泉2][林2]-
渡独とどく独逸
(ドイツ)
--[日2][泉2][林2]-
渡印といん印度
(インド)
玄奘の渡印[要出典][信頼性要検証]-
渡欧とおう欧羅巴
(ヨーロッパ)
--[日2][広6][泉2][林2]-
渡満とまん満州(現.中国東北部)--[日2]-
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「在」を用いた表現

目的地に居住すること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
在日ざいにち日本--[日2][広6][泉2]-
在沖 ざいちゅう 沖縄 在沖米軍 - - -
在韓 ざいかん 韓国 在韓米軍 - [日2] -
在米ざいべい亜米利加
(アメリカ)
--[日2][泉2]-
在英ざいえい英吉利
(イギリス)
--[日2]-
在欧ざいおう欧羅巴
(ヨーロッパ)
--[日2][広6][泉2][林2]-
在京ざいきょう京都--[日2][広6][泉2][林2]「在洛」は類義語。
在京ざいきょう東京--[日2][広6][泉2][林2]「京」は首都の意味。京都を指すこともある。
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「駐」を用いた表現

目的地に駐在すること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
駐日ちゅうにち日本--[日2][広6][泉2][林2]-
駐米ちゅうべい亜米利加
(アメリカ)
--[林2]-
駐英ちゅうえい英吉利
(イギリス)
--[日2][泉2][林2]-
駐仏ちゅうふつ仏蘭西
(フランス)
--[林2]-
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「上」を用いた表現

地方から都(東京)にのぼること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
上京じょうきょう東京--[日2][広6][泉2][林2]
上洛じょうらく京都--[日2][広6][泉2][林2]上洛も参照。類義語に「入洛」がある。
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「帰」を用いた表現

目的地に帰ること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
帰朝きちょう日本-[63][日2][泉2]-
帰札きさつ札幌--[* 3]-
帰福きふく福島--[* 11]「福」は福井、福岡などを指す場合もある。
帰栃きれい栃木--[* 8]「栃」は国字であり、本来「れい」という読みは存在しない。
帰浜きひん横浜-[64][信頼性要検証]「浜」は浜松を指す場合もある。
帰横[読み疑問点]横浜-[65]-
帰京ききょう東京--[日2][広6][泉2][林2][* 3]「京」は都の意味。京都を指すこともある。
帰沢[読み疑問点]金沢--[* 3]-
帰阪きはん大阪--[日2][泉2][* 3][* 12]-
帰京ききょう京都--[日2][広6][泉2][林2]「帰洛」は類義語。
帰洛きらく京都--[日2][広6][泉2][林2][* 3]-
帰岡きこう
きおか
岡山--[* 11]-
帰広きこう
きひろ
ひろしま-[66][* 11]-
帰山[読み疑問点]山口-[67]-「来山」は一般的に「僧侶が寺に戻ること。」「帰郷すること。」などの意。[日2][泉2]
帰徳きとく徳島--[* 11]-
帰高きこう高知--[* 11]-
帰崎きさき長崎-[要出典][信頼性要検証]-
帰熊きゆう熊本--[* 11]-
帰宮きぐう宮崎--[* 3]-
帰鹿[読み疑問点]鹿児島--[* 3]-
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「離」を用いた表現

目的地を離れること。

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表現読み目的地例文用例出典備考
離日りにち日本-[68][日2][泉2][林2]-
離星[読み疑問点]星嘉坡(シンガポール)-[69][信頼性要検証]「新嘉坡」、「新加坡」などの表記も一般的である。
離道りどう北海道-[1][信頼性要検証]-
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脚注

関連項目

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