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倫理委員会

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治験審査委員会(ちけんしんさいいんかい、英: Institutional Review Board, 略称: IRB)は、日本の臨床試験治験)において、試験計画の倫理性・安全性・科学的妥当性を審査する独立した委員会である。治験実施機関ごとに設置が義務付けられており、被験者の人権や安全の保護とデータの信頼性の確保を目的として審査を行う。日本では医薬品医療機器等法に基づく「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP省令)」により設置が定められている。[1]

概要

治験審査委員会は、治験計画書(プロトコール)や被験者説明・同意文書などを審査し、治験が倫理的かつ科学的に妥当であるか、また 被験者の権利と安全が適切に保護されるか を判断する。審査は独立した立場で行われ、治験責任医師や治験依頼者(スポンサー)から独立した委員によって構成される。[2]

日本では、治験審査委員会の設置・運用の基準が GCP 省令で定められており、治験を開始する前に当該委員会の承認を得ることが義務付けられている。審査では、被験者の保護(人権・安全)治験の科学的妥当性 の両面が評価される。

主な審査項目

治験審査委員会は、一般に以下の点を含む項目を審査する:

  • 治験の目的、方法および実施計画(プロトコール)の妥当性
  • 被験者が十分な情報を得た上で参加の意思決定をできるようにするための説明・同意の方法
  • 治験参加者の安全性および倫理的取り扱い
  • 治験の継続・中止の判断に関する基準
  • モニタリングや監査の報告に対する意見および評価

これらは臨床研究倫理の国際的ガイドラインや GCP の規定と整合する形で審査される。[3]

各国の制度

日本における治験審査委員会は、GCP省令に基づき治験のみを対象として設置が義務付けられている。国内の臨床研究や観察研究など、治験以外の分野については別途ガイドラインや倫理委員会制度が適用されている。

海外では、米国の制度として機関審査委員会(Institutional Review Board, IRB)があり、これは臨床研究全般の倫理審査を担う独立機関として機能している。IRB は欧米を中心に広く導入されており、日本の治験審査委員会と役割や設置形態が類似する部分と異なる部分があるが、いずれも被験者保護と倫理的審査の確保を目的としている。

アメリカ合衆国

臨床研究を審査するというコンセプトを初めて公に取り入れた米国では、倫理委員会に相当するものは「機関審査委員会(仮訳)」 - Institutional review board (IRB)である。一般に、IRBとして知られる米国独自の制度となっており、個別の施設が個別の名前を付けている場合がある。「ビーチャー論文」を契機として、1974年の「国家研究法」(National Research Act of 1974) と「ベルモント・レポート」(Belmont Report)といった歴史的な由来があり、インフォームド・コンセントを補完し、第三者機関で監督を行う、というものである。

カナダ

アメリカと似た、 Research Ethics Board (REB)である。

オーストラリア

国立健康医学研究カウンシル英語版(National Health and Medical Research Council)(NHMRC)。

日本

IRBの名称について

日本の治験審査委員会は、米国の制度であるIRBを参考にしたため、日本では治験審査を指して俗に「IRB」と呼ばれる場合がある[5]。ただし、制度も異なり、アメリカのものなので、行政などがIRBという用語を使う場合は正しく区別するなど、注意が必要である[6]

その日本語表記も、日本医師会「施設内審査委員会(IRB)[7]」、大阪市立大学医学部「研究倫理審査委員会(IRB)[4]」、「治験審査委員会 (IRB)[5]」としたり、意味合いのみならず、表記にも混沌が見受けられる。

歴史

要約
視点
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ニュルンベルク継続裁判で刑を宣告されたヘルタ・オーバーホイザー医師

人間を対象とする実験(人体実験)において最も基本的な倫理原則のひとつは、実験者はいかなる場合においても被験者が望まない実験を行ってはならないということである。この考えは、1947年のニュルンベルク綱領において初めて成文化された[8]。 この綱領は、価値のない実験で被験者を殺害し拷問した医師らを裁いたニュルンベルク継続裁判のひとつ医者裁判の結果定められたもので、被告医師のうちには絞首刑に課せられた者もいた。綱領の第5項は、実験者自身も被験者となるような場合を除いては危険な人体実験は行ってはならない、としている。このニュルンベルク綱領は後に世界中の医療倫理規範に影響を与え、タスキギー梅毒実験のような綱領に反する悪名髙い実験も明るみに出ることとなった[9]。1966年には、「倫理と臨床研究(ビーチャー論文)」を書いたハーバード大学医学部麻酔学教授のヘンリー・ビーチャー博士英語版が、インフォームド・コンセントのための規則と条件を定義することと共に、研究プロトコルに関する追加の監視体制としてこの倫理委員会体制を設立することに取り組んだ[10] [11]

この他、たとえその被験者が罹患する可能性が低い疾病の治療に関して遠い将来に可能性があるだけというような利益だとしても、ボランティア被験者が当該実験や研究から何らかの利益を得なければならない、とする倫理原則もある。 治療が不可能な病気に苦しむ患者に対してときに実験薬の試験が行われることもあるが、研究者自身がその病気にかかっていない場合はその研究者が被験者となったとしても利益を得る可能性はないため、被験者となり得ない。一例として、研究者ロナルド・C・デロシアーズ(Ronald C. Desrosiers)は、自分が開発していたエイズワクチンを自身でテストしなかった理由を問われ、自分はエイズのリスクがなかったのでテストをしても利益がなかったであろうからと答えている[12]

倫理委員会の監督において重要なのは、被験者からインフォームド・コンセントを得ることを確実にすることである。インフォームド・コンセントは、実験に参加するボランティアが、行われる手順を完全に理解し、関係するすべてのリスクを認識し、実験が行われる前に実験への参加に同意するという原則である。インフォームド・コンセントの原則は、1901年にキューバで行われたアメリカ陸軍黄熱病調査で最初に定められたが、当時は一般的で公式な指針などはなかった[13]。黄熱病問題のときの原則がニュルンベルク綱領起草の際に参照され[14]、1964年世界医師会によるヘルシンキ宣言でさらに発展し、この倫理委員会制度の基礎となっていった[15]

ヘルシンキ宣言の最初の改訂では、人体実験における研究プロトコル(計画書)を承認するために倫理委員会を招集することが初めて国際指針に記載された(Helsinki II、1975)[16]。発展途上国でのプラセボ試験に関する第4回目の改訂(1996年)を巡っては議論も起きている。これは米国がインドで行った抗HIV薬ジドブジンの試験は同宣言に違反していると批判するものであり、これを受けてアメリカ食品医薬品局はヘルシンキ宣言の新改訂版の採択をせず、代わりに1989年の改訂版を参照することとなった[17]

倫理委員会は、世界保健機関が設立した機関である国際医科学団体協議会(CIOMS)が作成した「人を対象とする生物医学研究の国際的倫理指針」でも設置が求められている。1993年に初めて公開されたCIOMSガイドライン英語版(CIOMS倫理指針)は、法的効力を持たないものの各国の倫理委員会制度起草に影響を及ぼしてきた。また発展途上国での感染症問題を念頭においた指針であることも特徴のひとつである[18][19]

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関連項目

出典

文献

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