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匿名・流動型犯罪グループ

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匿名・流動型犯罪グループ(とくめい・りゅうどうがたはんざいグループ)は、2023年7月に警察庁が「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」と定義した組織犯罪の類型[1][2][3]。略称は匿流[4](とくりゅう、トクリュウ[5]

概要

暴力団準暴力団(通称:半グレ)との関連も指摘される場合がある一方で[6][1]、従来型の反社会的勢力のような統制がないため、勢いに任せて犯行に及ぶ傾向がみられる[7]

2024年3月には、2021‐2024年の3年間の累計で検挙された人数が1万人を超え、捜査が強化されている[5]。内訳は特殊詐欺が6170人、薬物営利犯が2292人、犯罪インフラ犯(旅券偽造、不法就労助長、地下銀行など)が1721人、闇バイト関係(強盗や窃盗などの実行犯)が195人となっている[5]。また、匿名・流動型犯罪グループの中には、資金の一部を暴力団に上納するなど暴力団と関係を持つ実態も認められるほか、暴力団構成員が匿名・流動型犯罪グループと共謀して犯罪を行っている事例もあり、このような集団の中には暴力団と匿名・流動型犯罪グループとの結節点の役割を果たす者が存在するとみられている[1]。またSNSを利用した投資詐欺やロマンス詐欺、インターネットバンキングの不正送金、クレジットカードの不正利用に関与しているとみられている[4]。一部報道によると、特定のデモ活動へのサクラの動員にも関与しているという[8]

犯罪組織がグローバル化しているのも特徴である。東アジアおよび東南アジアの街全体が詐欺組織になっている事例もある。犯罪に関与する国籍も日本だけでなく、中国、ベトナムなど多岐にわたる。

2025年4月に公表された警察庁のまとめでは、2024年の1年で摘発人数が全国で1万105人となった。そのうち実行役を集める「リクルーター」や指示役らは1011人で、末端の実行役はほぼ使い捨てで9094人であった。罪種別の内訳では、銀行口座の譲渡など犯罪収益移転防止法違反が3293人、詐欺が2655人、窃盗が991人、麻薬取締法違反などの薬物事犯が917人である[9][10]

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組織

要約
視点

匿名・流動型モデル

警察庁は2024年版の警察白書において、トクリュウを従来の暴力団とは一線を画す新型の犯罪組織として特集している[11]。その定義によれば、トクリュウの主な特徴は、資金獲得を主目的とし、組織の中核部分を匿名化させ、SNSなどを通じて緩やかに結びついたメンバーが役割を細分化して犯行に及ぶ点にある[11]

この組織構造は意図的に曖昧にされている。伝統的な組織に見られるような明確なリーダーや階層構造は存在せず、メンバーは容易に入れ替え可能な緩やかなネットワークとして機能する[12]。これにより、首謀者を標的とする従来の法執行戦術に対して高い耐性を持つ。通信手段にはテレグラムのような秘匿性の高いメッセージアプリが多用され、匿名性をさらに強化し、捜査機関による傍受を困難にしている[12]

闇バイトによる勧誘

トクリュウが用いる主要なリクルート手段は、SNS上での「闇バイト」募集である[13]。「高額」「即日現金」「書類を受け取るだけ」といった魅力的な言葉で、特に経済的に困窮している者や社会的に孤立している若者を引き寄せる[12]

応募者は運転免許証やマイナンバーカードといった個人情報の提出を求められ、時には自宅までの道のりを撮影した動画を送るよう指示されることもある[13]。これらの情報は、後になって「家族に危害を加える」といった脅迫の材料として利用され、応募者が途中で辞めることを困難にする[13]

このモデルは、現金を受け取る「受け子」や詐欺の電話をかける「かけ子」、強盗の実行役といった、使い捨て可能な末端の実行役を大量に生み出す。彼らは文字通り「捨て駒」として扱われ、逮捕されたとしても、組織の中核は無傷のまま、再びSNSで新たな実行役を補充し、犯行を継続することができる[14]

組織構造

擬似的な家族関係と厳しい上下関係を特徴とする暴力団とは異なり、トクリュウはメンバー間の人間関係が希薄で、流動的であることが最大の特徴である。多くのメンバーは互いに顔を合わせることなく、匿名化されたデジタル通信のみで繋がっている[15]

実態は首謀者を頂点とする階層的なピラミッド構造が存在するが、各階層間の繋がりは意図的に希薄化されており、末端の実行役を逮捕しても、上位の首謀者へと捜査が及ぶ「突き上げ捜査」を困難にしている[16]

一部のトクリュウは暴力団と何らかの繋がりを持つか、構成員をメンバーとして含んでいるとみられ、犯罪収益の一部が暴力団に流れているケースも確認されている[17]

犯罪の多角化

トクリュウの活動は純粋に利益追求型であり、極めて多角化している。警察庁は、特殊詐欺、強盗、窃盗、薬物事犯、密漁、闇金融、悪質ホストクラブなど、多岐にわたる犯罪への関与を指摘している[18]

このような組織構造と活動形態は、トクリュウが現代の「クライム・アズ・ア・サービス」(CaaS: Crime-as-a-Service)プラットフォームとして機能していることを示唆している。首謀者グループが犯罪のインフラを提供し、使い捨ての「労働者」が特定のタスクを請け負うというモデルは、合法的なギグエコノミーの構造と酷似している。

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東南アジアにおける詐欺集団

要約
視点

トクリュウの指示役や中核メンバーは、日本の警察の捜査の手が届きにくい東南アジア諸国(フィリピンカンボジアミャンマータイなど)に拠点を設けているケースが多く見られる[19]。また、中国系の犯罪組織に日本人が参加し、詐欺を行っているケースも多く見られる[20]

東南アジアの活動拠点

ミャンマーカンボジアフィリピンといった、中央政府の統治が弱い、あるいは汚職が蔓延している東南アジアの国々に、「コンパウンド」や「詐欺工場」と呼ばれる大規模な活動拠点が設けられている[21]。これらの拠点には、従来の詐欺だけではなく、トクリュウの指示役にも従事している犯罪者が多い[22]。数百人から時には数千人もの実行役が収容されており、その多くは強制的な状況下で働かされている[23]。ミャンマーの拠点で日本人を含む1万人以上の外国人が監禁されていたという報告もある[24]フィリピン、カンボジアのシアヌークビルラオスゴールデントライアングル、ミャンマーの中国国境地帯、タイ北部などに大規模詐欺拠点が存在する。これらの拠点は、閉鎖的な大規模施設を指す中国語の隠語「園区」と呼ばれている[25]

ミャンマーの例

例として、ミャンマーのミャワディKK園区が挙げられる。このような地域は、中央政府ではなく現地の武装勢力によって支配されており、法執行機関の手が及ばない避難場所となっている[19]。ミャンマーのミャワディ周辺は、現在、違法カジノ、麻薬密売、人身売買、そして特殊詐欺の拠点として知られており、深刻な治安・人道問題が発生している[25]

カンボジアの例

カンボジアのシアヌークビルの例として、プリンス・グループが挙げられる[26]。主要人物の陳氏はカンボジア国内で不動産事業などを行っている裏で、カンボジア国内で少なくとも10ヶ所で国際詐欺センターを運営しており、特殊詐欺マネーロンダリングを行っている[27][28]。フン·マネット総理の「顧問」の肩書きを得ることで、追求を避けていたとされている[29]。2025年10月、米国財務省はこのグループを超国家的犯罪組織として指定し、関連する146の個人および企業体に広範な制裁を課した。

フィリピンの例

フィリピンでの例としてPOGOが挙げられる。POGOとは元々、フィリピンが認可を与えていた国外向けオンラインカジノサービス認可会社である[30]。この中国系のPOGOが特殊詐欺人身売買の拠点となっている事件が発生している[31]タルラック州バンバンでは、最大で851人(外国人351人、フィリピン人500人)の労働者が拘束され、組織に関与していた町長アリス・グオが逮捕される事件が発生している[31]

拠点の管理構造

これらの詐欺拠点の指導部および管理層は、そのほとんどが中国系であると報告されている[20]。元実行役の証言によれば、「ボスは中国人」であり、台湾出身者などが通訳兼中間管理者として機能しているケースもある[32]

実行役の多くは人身売買の被害者であり、高収入の仕事を謳う偽の求人に騙されて現地に連れてこられ、パスポートを取り上げられて監禁される。SNSを利用した投資詐欺やロマンス詐欺に従事させられ、金銭を騙し取る[20]。その手口は非常に洗練されており、被害者の心理を巧みに操るための詳細な「マニュアル」が活用されている[33]。詐欺のノルマを達成できない場合は、激しい暴行を含む過酷な罰が科される[34]。これらの拠点は、内部では労働者が24時間体制で詐欺行為を強いられる、閉鎖されたエコシステムとなっている[35]

ある日本人実行役(A氏)の詳細な証言によれば、中国人が運営する拠点内に15〜20人からなる「日本人チーム」が存在し、彼らの任務は日本の警察官や検察官を装って日本国内の被害者に詐欺の電話をかけることであった[36]。A氏は、同じチーム内に現役の日本の暴力団組員が複数人、中国人管理者の下で「かけ子」として働いていたとも証言している[36]

金融インフラの供給

両者の重要な接点の一つが、資金洗浄などを担う不正な金融インフラの供給である。国内最大級とされる口座ブローカー組織が、年間約1000口座もの不正口座を、国内の犯罪グループだけでなく、「海外を拠点とする中国系詐欺グループ」にも提供していたことが明らかになっている[37]。このブローカーは、匿名性の高いテレグラム上で日本語と中国語の両方で宣伝活動を行っていた。彼らは「闇バイト」を通じて募集した人々から銀行口座、暗号資産ウォレット、そしてそれらに紐づくスマートフォンをセットで仕入れ、パッケージ化して販売していた[37]

国境を超えた送金に対応するために、暗号資産が用いられている。典型的な手口は、不正な資金を他人名義の口座(「受け子」口座)に振り込ませ、その資金で暗号資産を購入し、氏名不詳者が管理する暗号資産アドレスに移転させることで、資金の追跡を事実上不可能にするものである[38]。警察庁の報告によれば、オンラインバンキングで詐取された資金の約半分が暗号資産取引所の口座に送金されている[38]

さらに犯罪組織は、資金の出所を隠蔽するために、資金を多数のウォレットを経由させて複雑な取引履歴を作り出す「レイヤリング」といった高度な技術を用いる[38]。複数の被害者から集められた資金は、しばしば単一の「集約ウォレット」にまとめられた後、取引所に送られて現金化される[38]。他にも、異なるユーザーの暗号資産を混ぜ合わせて追跡を困難にする「ミキサー」や、異なるブロックチェーン間で資産を移動させる「クロスチェーンブリッジ」といったサービスが利用され、取引の連鎖は一層複雑化している[38]

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主な事件

ルフィ広域強盗事件

2022年5月から2023年1月にかけて、日本全国で発生した一連の強盗および強盗殺人事件。指示役たちはフィリピンを拠点として、インスタントメッセンジャーテレグラム」を使い日本国内の実行役を募り、指示していた。トクリュウの代表的なケースとされる[39]

海田町事件

2022年6月、広島県安芸郡海田町で発生した強盗致死・監禁・死体遺棄事件。被害者男性は投資金の返還を名目に監禁され、長時間にわたり暴行を受け死亡したとされ、遺体は未発見である。事件では「回収屋」や「釈迦憎」を名乗るグループがSNS等を通じて威圧・脅迫を繰り返し、暴力的に債権回収を行っていたと報道された[40]

主犯格のIは2024年10月10日に広島地方裁判所で無期懲役判決を受け、2025年7月22日に広島高等裁判所で控訴棄却となり判決が確定した[41]

この事件では、X(旧Twitter)を利用した匿名アカウント群による組織的な脅迫や虚偽情報の流布も確認されており、こうした匿名性と流動性を持つネットワーク構造、実行役・補助役を分担して反復継続的に違法行為を行う形態は、警察庁が定義する匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の特徴と合致すると考えられている[42]

首都圏連続強盗事件

2024年8月以降、関東地方で発生している一連の強盗および強盗殺人事件。闇バイトを実行役としている。

2025年の抗争事件

2025年、名古屋のグループが大阪のグループを襲撃する手前で検挙される事件が続発。名古屋のメンバーが凶器準備集合罪などで逮捕され[43]、同年6月には警察に任意の解散届を提出した。なお、警察は解散の確証がないとして、今後もグループの捜査を続けるとしている[44]

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警察の対応

要約
視点

2025年に第31代警察庁長官に就任した楠芳伸は就任会見においてトクリュウ対策の強化を表明した[45]

全国的な特殊詐欺捜査体制の構築

2024年4月から、他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で捜査を遂行する「特殊詐欺連合捜査班」を、各都道府県警察に構築[46]。また、警視庁約200名、埼玉県警約70名、千葉県警約70名、神奈川県警約60名、愛知県警約30名、大阪府警約40名、福岡県警約25名からなる計500名の専従の捜査員を配置[47][48]。また、2025年10月から警察庁にトクリュウ対策の司令塔となる情報分析室を設置。さらに捜査の主力を担う警視庁の対策本部には、46道府県警から捜査員200人を出向させることとした[49]

新部署の設置

一部県警ではトクリュウ対策の部署を設置している。

  • 警察庁 - 長官官房に匿名・流動型犯罪グループ担当の参事官を新設(初代:石井啓介警視長)[50][51]。トクリュウ捜査を計画・立案する30人余りの参事官室も新設し、指揮命令系統を一本化[52]
  • 警視庁- 2022年12月、副総監をチーム長、組織犯罪対策部長を副チーム長とし、情報の集約・分析を行う「犯罪集団等の実態解明及び取締りに関する特命チーム」を発足。分析した事案は案件ごとに部門横断のタスクフォースを立ち上げ、捜査にあたる[46][53]
  • 北海道警 - 2024年4月、専門部署「組織犯罪対策1課」を新設[54]
  • 岩手県警 - 2024年9月2日、およそ100人体制の部署横断型の対策チームを設置[55]
  • 石川県警 - 2024年11月20日、部門横断の250人態勢のプロジェクトチームを発足[56]
  • 滋賀県警 - 2024年11月26日、「犯罪抑止戦略推進本部」を設置したほか、県と協力して「トクリュウ・闇バイト・詐欺・強盗緊急対策プラン」を策定[57]
  • 福岡県警 - 2024年4月、分野横断的に捜査員を集めた約100人の部署「組織犯罪捜査課」を新設。また、その中に25人の「連合捜査係」を設置し、他県警との連携も推進[58]
  • 長崎県警 - 2024年11月5日、対策プロジェクトチームを発足[59]

闇バイト応募者の保護

警察は、闇バイトに応募した人から「指示役に個人情報を知られ、脅されている」などと相談を受けた場合、本人や家族を保護するとしている。そのような相談を受け保護したケースは、2024年11月末までに全国で125件に上る。そのうち、7割が10代から20代である一方、50代以上も1割いる[60]

国際協力

日本の警察は国際協力に積極的に取り組んでおり、G7やASEAN諸国、さらには国際刑事警察機構(ICPO)との連携が含まれる[61][22]。カンボジアで日本人容疑者29人が一斉に逮捕された事件のように、日本と現地の法執行機関との緊密な連携によって成功した共同作戦は数多く存在する[62]。また、日本の警察はタイ当局と協力し、ミャンマーを拠点とする容疑者を追跡し、逮捕や強制送還に繋げている[63]

資産回復の課題

暗号資産と海外口座の利用は、資産回復において重大な障壁となっている。資金が一度暗号資産に変換され、ミキサーや非協力的な海外の取引所を経由すると、その追跡と押収はほぼ不可能になる。資金の流れは、日本の被害者から国内の「受け子」口座、暗号資産取引所、そして最終的には海外の詐欺集団指導部が管理するウォレットへと移動し、従来の国際銀行規制を回避する[64]

法執行の限界

成功事例はあるものの、重大な課題は依然として残る。ミャンマーのような政治的に不安定な地域での活動は、公式な国家警察ではなく現地の武装勢力に依存せざるを得ない場合があり、これは複雑で信頼性に欠けるプロセスである[63]。秘匿性の高い通信手段や暗号資産がもたらす匿名性は、これらの犯罪を陰で操る最高レベルの首謀者を特定し、訴追することを極めて困難にしている[65]。また、日本国内で指摘された「中国非公式警察署」の疑惑は、国境を越える管轄権の複雑さを示唆している[66]

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脚注

関連項目

外部リンク

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