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喜界島方言
鹿児島県の喜界島で話されている方言 ウィキペディアから
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喜界島方言(きかいじまほうげん)または喜界方言(きかいほうげん)は鹿児島県奄美群島の喜界島で話される方言(言語)である。琉球諸語(琉球語、琉球方言)に属す。エスノローグでは喜界語(きかいご)(Kikai language) としている。現地では「シマユミタ」と呼ばれる。
系統的位置
喜界島方言の系統的位置には議論がある。中本正智は、喜界島北部方言は奄美大島方言・徳之島方言と、喜界島南部方言は与論島方言・沖永良部島方言とそれぞれ同じグループであるとする[3]。一方、ローレンス・ウエインは、喜界島方言が一つの方言区画を成すとする[4]。
下位区分
喜界島は、その面積の割に、地区による方言の差が著しい。大きく北部方言と南部方言に分かれ、北部方言では中舌母音が現われるが、南部方言では現れない。
中本(1976)[5]による下位区分。
- 喜界島北部方言--小野津・志戸桶・塩道
- 喜界島南部方言--上記以外の集落
- 表方言--湾・中里など
- 裏方言--花良治・阿伝など
音韻・音声
要約
視点
音韻
短母音は、北部の小野津・志戸桶で/i, ɪ, u, a/の4つ、中・南部の塩道・阿伝・上嘉鉄・坂嶺・湾・荒木で/i, a, u/の3つである[6]。ɪはïと表記されることもあるが、中舌性は弱い[6]。長母音は、北部の小野津・志戸桶で/iː, ɪː, uː, eː, ëː, oː, aː/の7つ、中・南部の塩道・阿伝・上嘉鉄・坂嶺・湾・荒木で/iː, uː, eː, oː, aː/の5つである[6]。
子音音素は、小野津・志戸桶の場合、/p, b, m, t, tʔ, d, tsʔ, tɕ, s, z, n, ɾ, j, k, kʔ, g, ŋ, w, ʔ, h/が認められる[6]。喜界島方言では、語頭で喉頭化子音(tʔ、kʔ、mʔ)と非喉頭化子音(t、k、m)の対立がある。語中では対立はなく、普通は喉頭化音で出現する[6]。以下では語中のʔは省略して表記している。
日本語との対応
北部の小野津・志戸桶では、日本語のエ段母音に対しɪが対応し、iと区別されている(小野津方言の例:miː「実」、mɪː「目」)[6]。一方、中・南部では区別なく、iに合流している(miː「実」「目」)[6]。ただしナ行では、中里・湾・荒木でもネに対しnɪが現われる[6]。また、喜界島全域で日本語のニに対応する子音は口蓋化してnʲとなっている。すなわち「荷」「鬼」などのニに対しては全域でnʲiが現われ、「根」「胸」などのネに対しては小野津・志戸桶・中里・湾・荒木でnɪ、塩道・阿伝・上嘉鉄・坂嶺でniが現われ、区別されている[6]。
日本語のオ段母音とウ段母音は、喜界島方言でuに合流している。喜界島方言のe、ë、oは、ほとんどの場合、長母音として現れる。歴史的には連母音が融合したもので、eː、ëːはai、aeから、oːはau、aoから来ている場合が多い(小野津方言の例:pëː「蠅」、neː「苗」、soːdeː「竿竹」)[6]。seː「酒」、deː「竹」という例もあるが、これは語中のkが脱落した後にaeが融合したものである[6]。
ハ行子音は、北部の小野津・志戸桶と中部の塩道・坂嶺・阿伝ではpが現われる。ただし閉鎖性は弱く、[ɸ](無声両唇摩擦音)が現われることもある。南部の湾・上嘉鉄などではhが現われる[6][7]。
日本語のカ行のうち、キは、北部の小野津・志戸桶ではkʔiであるが、中・南部では口蓋化してtɕi/tʃi/tʃʔiとなっている(塩道方言の例:tʃʔimu「肝」)[7][6]。クは、各地でkʔuが対応している[6][8]。一方、語頭のカ、ケ、コの子音はhとなる場合がある(iの前でç、uの前でɸとなる場合もある。阿伝方言の例:hata「肩」、çiː「毛」、huɕi「腰・後ろ」)[6]。また主に北部で、語中のガ行子音に鼻音ŋが現われるが、中・南部では鼻音の衰退が進んでいる。また語によってはギがni/nʲiとなっている(志戸桶方言の例:kʔunʲi「釘」)[7][6]。
琉球語の多くの方言では、日本語のス、ツ、ズ(ヅ)に対応する母音が中舌母音またはiとなっているが、喜界島方言ではuを保持している[9]。ツは、喜界島ではtʔuまたはtsʔuが対応している。同一地区でもtʔuとtsʔuとで揺れているが、小野津・志戸桶・中里などではtsʔu、塩道・湾などでtʔuとなることが多い[6][7]。トに対応する拍はtuなので、ツと区別されるが、tʔuの喉頭化が弱まっている場合もあり、その場合は区別しにくい[6]。
ザ行子音は、塩道・阿伝・上嘉鉄・湾などではdとなっている(阿伝方言の例:ʔada「あざ」、tɕidu「傷」)[6]。これらの地域では、ジがdʒi/dʑi/ʑiで、ズがduで、ゼがdiで現れており[9][6]、*z>dの変化が*e>iより先に起きたと考えられる[6]。一方、小野津・志戸桶・坂嶺・荒木ではザ行子音はz、dz、ʑ、dʑといった音声で現れる[6]。
日本語のチにはtɕi/tʃi/tʃʔiが対応する。テはtɪまたはtiであり、チとテの区別は保たれている[6][8]。
リは、湾・花良治ではriであるが、塩道などではrを脱落させてiとなる傾向がある(塩道方言の例:tui「鳥」)[10]。
文法
要約
視点
以下、志戸桶方言の用言の活用について解説する[11]。
動詞
語幹
志戸桶方言の動詞活用を整理すると、基本語幹、連用語幹、派生語幹、音便語幹の4種の語幹に活用語尾が付いていることが分かる。語幹を頭語幹と語幹末に分け、動詞の種類ごとに語幹末の交替を整理すると、下記の通りである。○印は語幹末や活用語尾として何も付かないことを表している。
二類にはmijuɴ(見る)、çɪjuɴ(蹴る)のほかに、nijuɴ(煮る)、kʔijuɴ(着る、切る)、jijuɴ(坐る)、wɪːjuɴ(起きる)、ʔijuɴ(言う)が属す。(動詞の語形は終止形2で代表して示す。以下同じ。)
三類にはkʔaɴtijuɴ(落ちる)、ʔukɪjuɴ(受ける)のほかに、ʔaŋɪjuɴ(上げる)、ʔabɪjuɴ(呼ぶ)が属す。
四類にはwuɴ/wujuɴ(居る)のほかにʔaɴ/ʔajuɴ(有る)が属す。
活用形
4種類の語幹に、それぞれ活用語尾が付いて活用形を成す。活用形ごとに、結びつく語幹と活用語尾が決まっている。その組み合わせは下表の通りである。
※基本語幹の末尾がrになる動詞では、禁止形はrがɴに変わる。例えばtuɴna(取るな)、miɴna(見るな)など。
上記以外の活用をする動詞として、suɴ(する)、kjuːɴ(来る)がある。
未然形には、ɴ(否定)、suɴ(-せる)、riɴ(-れる)、ba(-ば)が付く。例えば、kakaɴ(書かない)、waraːwariɴ(笑われる)など[12]。
連用形には、tui busa(取りたい)、kaki jassaɴ(書きやすい)、kaki ɴnja ʔikjuɴ(書きに行く)のような用法がある[13]。
連体形は、表に示したkakjuɴ(書く)、mijuɴ(見る)、ʔukɪjuɴ(受ける)などのほかに、kakiːɴ、miːɴ、ʔukɪiɴのような形式も現れる。
準体形には、mɪ(か。尋ね)やsu(の。準体助詞)が付く。例えばda ŋa tuju mɪ(君が取るか)、ssa tuju su na(草を取るのか)など[14]。
接続形は、「書いて」「見て」のような意味を表すほか、「書いた」「した」のような過去の意味を表す場合がある。また、接続形にwuɴが付いて「-ている」、ʔaɴが付いて「-た」「-てある」の意味を表す派生形式が生じている。それぞれの活用形の一部を表に示す。
形容詞
奄美・沖縄方言の形容詞は、連用形を除いて、語幹に「さあり」が付いた形から派生しており、ほとんど動詞ʔaɴ(ある)と同じ活用をする。志戸桶方言の形容詞活用は、表のように2種類に分かれる。
ただ、二類の連用形1にmɪddakuのような形も現れる場合があり、一類と二類の区別は失われつつある。
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脚注
参考文献
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