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忍法八犬伝

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忍法八犬伝』(にんぽうはっけんでん)は、山田風太郎の時代小説。忍法帖シリーズの一作。『週刊アサヒ芸能』1964年5月3日号から11月29日号に連載された。『南総里見八犬伝』を根底に、犬士の子孫がくノ一8人と対決する物語である。

あらすじ

将軍家が催した大名たちの家宝陳列の折、安房里見家は『八犬伝』ゆかりの「伏姫の珠」を出品する。珠は将軍家の嫡男竹千代の目に留まり、里見忠義は珠を献上することを約束させられる。

里見家取りつぶしを画策する謀臣・本多佐渡守は、伊賀組頭領・服部半蔵に命じ、半蔵配下の伊賀くノ一たちに珠を偽物とすり替えさせる。進退窮まった里見家では、重臣の「八犬士」が切腹を行い、本物の珠の奪還を甲賀で忍法修行をしている後継者の「八犬士」に託す。しかし、甲賀にいるはずの後継者たちは忍法修行のつらさに耐えかね、江戸に逃げ出していた。

そして、太平の世にどっぷりとつかったろくでなしや、無法者などになっていた犬士たちは、父からの知らせを受けても、その遺言を守る気はなかった。

ところが、里見忠義の妻、村雨の方がこの事態に責任を感じて密かに安房を抜け出すと、状況が一変する。まず、乞食をしていた犬田小文吾が協力を申し出る。小文吾は単身、衆目を浴びながら正面から服部屋敷へ乗り込み、甲賀と伊賀との珠取り合戦の開始を告げる。小文吾は伊賀くノ一に倒されるが、正面からの勝負を挑まれたことで、伊賀者の矜持から珠を始末できなくなる。

他の七人の八犬士も、それぞれ密かに村雨にあこがれており、小文吾の死を皮切りに一命を賭して珠奪還の戦いに乗り出す。忍法の秘術を駆使しながら、次々と伊賀くノ一を倒すが、八犬士たちも倒れて行く。

村雨も捕えられ、服部屋敷に連れ去られ、里見家の姫君と名乗らざるをえなくなった。角太郎は忍法肉彫りを信乃に施し、村雨そっくりの顔に仕立て上げる。忍法肉彫りは骨を削り、肉をつなぐ技であり、元に戻すことはできない術であった。八犬士・最強の誉も高い親兵衛が服部屋敷に斬り込み、村雨の姿をした信乃が囮となった隙に、壮助が本物の村雨の救出に成功する。その後、角太郎自身も忍法肉彫りで小幡勘兵衛に成りすまし、命と引換えに珠を奪い返す。そして、壮助の死をもって最後の珠が取り返される。

江戸城に登城する村雨の懐に、生き残った信乃が珠を放り込んだ。村雨は無事に「伏姫の珠」を献上する。

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伏姫の珠

南総里見八犬伝』で、里見家を守る八犬士達の証となった8つの水晶の珠。

本来は「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字がひとつずつ珠の中に浮き上がっているが、本話中ですりかえられた偽の珠は「狂」「戯」「乱」「盗」「惑」「淫」「弄」「悦」の字となっている。

登場人物

八犬士の子孫

『里見八犬伝』に伝わる八犬士たちを祖とし、代々継承されてきた重臣「八犬士」の末裔。先代たちが切腹して果てると同時に、それぞれの名を受け継ぐことになる。以下、名の後の( )内はそれぞれの本来継承する珠の文字。「」はすり替えられた珠の文字。

  • 犬飼現八(信)「淫」 - 傾城屋。幼名「源五」
  • 犬川壮助(義)「戯」 - 女かぶき一座の振付師。
  • 犬村角太郎(礼)「乱」 - 軍学者。幼名「円太郎」。真面目人間の堅物。
  • 犬田小文吾(悌)「悦」 - 乞食。幼名「大文吾」。面倒くさがりの怠け者。怪力の持ち主。
  • 犬坂毛野(智)「盗」 - 盗賊団の美貌の首領。
  • 犬江親兵衛(仁)「狂」 - 六方者の頭。幼名「子兵衛」。唯一、逃げ出さずに忍法修行を全うしており、八犬士最強とも呼ばれる。
  • 犬山道節(忠)「惑」 - 香具師。信乃とともに大道芸をする。角太郎、信乃、村雨を伊賀くノ一から逃がすために囮として果てる。
  • 犬塚信乃(孝)「弄」 - 女装の軽業師。幼名「小信乃」。常に女の恰好をしている。

伊賀くノ一

服部半蔵の配下で、里見忠義を色仕掛けでたらしこみ、隙を見て珠を奪う。名は『八犬伝』の登場人物からとられている。

  • 船虫(ふなむし) - 伊賀くノ一八人衆。リーダー格。最初に小文吾によって目玉を奪われ、最後に信乃の手裏剣で殺される。
  • 玉梓(たまずさ) - 同上。7番目に死ぬ。自決。
  • 朝顔(あさがお) - 同上。最初に死ぬ。
  • 夕顔(ゆうがお) - 同上。2番目に死ぬ。
  • 左母(さも) - 同上。里見家の姫君が本当は「男」ではないかと疑う。5番目に死ぬ。
  • 牡丹(ぼたん) - 同上。女郎屋に潜入している。3番目に死ぬ。
  • 椿(つばき) - 同上。同じく女郎屋に潜入。4番目に死ぬ。
  • 吹雪(ふぶき) - 同上。女装した信乃に乳房がないことに驚愕しつつ、6番目に殺される。

里見家ほか

  • 里見安房守忠義(さとみ あわのかみ ただよし) - 安房館山藩の大名。安房一国と上総半国・常陸一郡を持つ国持大名
  • 村雨(むらさめ) - 里見家に嫁いだ大久保家の姫君。里見忠義の若い奥方。
  • 正木大膳(まさき だいぜん) - 安房里見家の家老。
  • 昼顔(ひるがお) - 傾城屋の遊女。
  • 服部半蔵正広(はっとり はんぞう まさひろ) - 4代目服部半蔵。初代服部半蔵の三男。

登場する忍法

  • 忍法外縛陣(げばくじん) - 内部から外部への逃げ道をふさぐ。
  • 忍法内縛陣(ないばくじん)- 外部から内部への侵入を防ぐ。
  • 忍法天女貝[1] - 相手の男性器を締め付ける。
  • 忍法影武者 - 薄い皮を残し、脱皮のように中の肉(主に男性器)が離脱する。女性器の中に残した皮が振動を与えることで、相手の女性に間断ない恍惚を与える。
  • 忍法袈裟御前 - 男性器を忍法影武者のように薄い皮で包み込み、間断ない恍惚を与えるが射精には至らせない。このため口から精液が逆流し、恍惚のうちに死に至る。
  • 忍法流れ星[2] - 壁に張り付き、横からの剣さばきで相手を斬る。
  • 忍法地屏風 - 縦横が逆転したように幻覚させる。
  • 忍法犬走り - 四つん這いになり猟犬のような速さで疾走する。
  • 忍法摩蝋燭 - 蝋燭で生じた影で相手を倒す。
  • 忍法肉彫り - 顔の骨格まで変形させ、別の顔に整形する。
  • 忍法踊り子 - 空中に舞い、刃を仕込んだ扇などで襲撃する。
  • 忍法振付指南 - 鞭や掛け声の号令と手の動きにより、条件反射で太夫だったくノ一を操る。
  • 忍法雛鑑別 - 生物の男女を見分ける。
  • 忍法くのいちだまし - 女装して、レズビアンのくノ一を誘惑する。
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目録

[編集]  1. 忠孝悌仁義礼智信

 2. 淫戯乱盗狂惑悦弄

 3. 大事

 4. 行方不明の息子たち

 5. 六方者(ろっぽうもの)と軍学者

 6. 女郎屋者と狂言師

 7. 香具師(やし)と巾着切

 8. 乞食と盗人

 9. 童姫(どうき)

 10. めぐる村雨(むらさめ)

 11. 挑戦状

 12. 忍法「悦」

 13. 念仏刀

 14. 忍法「盗」

 15. 八門遁甲(はちもんとんこう)

 16. 三犬評定

 17. 外縛陣(げばくじん)

 18. 忍法「淫」

 19.「蔭武者」血笑

 20. 虜

 21. 信乃姫様

 22. 陰舌

 23. 蔵の内外(うちそと)

 24. 地屏風(ちびょうぶ)

 25. 二人村雨

 26. 千秋楽は三月三日

 27. 内縛陣(ないばくじん)

 28. 忍法「弄」

 29. 大軍師

 30. 幻戯

 31. 空珠(くうじゅ)

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地陣篇備考

忍法帖シリーズでは全滅が多い「複数の忍者同士の対戦」としては珍しく、女装した犬塚信乃が最後まで生き残る。

書誌情報

  • 忍法八犬伝(徳間書店・平和新書 1964年)
  • 風太郎忍法帖 第5 忍法八犬伝 (講談社、1967年)
  • 忍法八犬伝(徳間文庫 1982年)
  • 忍法八犬伝 山田風太郎傑作忍法帖(講談社・KODANSHA NOVELS 1996年)
  • 山田風太郎忍法帖4 忍法八犬伝(講談社文庫 1999年)
  • 忍法八犬伝 山田風太郎ベストコレクション(角川文庫 2010年)

漫画

山口譲司の作画で『エイトドッグス〜忍法八犬伝〜』として漫画化され、『コミック乱ツインズ』(リイド社)に2016年8月号(2016年7月13日発売)から2017年10月号まで連載された。単行本はSPコミックス(リイド社)より全2巻。

脚注

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