昇降演算子は、角運動量の量子力学的な取り扱いで用いられる。 一般的な角運動量ベクトル J(各成分は Jx, Jy, Jz )から、2つの昇降演算子J+ 、J–が定義できる。[4]

ここで i は虚数単位。
直交座標系での各成分は、次の交換関係を満たす。
![{\displaystyle [J_{i},J_{j}]=i\hbar \epsilon _{ijk}J_{k}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/1c774fd99fb91eb8937cbaaa6b6af2eaf88e7ad6)
ここでεijk はレヴィ=チヴィタ記号、 i, j, k は x, y, zのいずれか。よって昇降演算子とJz の交換関係は
![{\displaystyle {\begin{aligned}\left[J_{z},J_{\pm }\right]&=\pm \hbar J_{\pm },\\\left[J_{+},J_{-}\right]&=2\hbar J_{z}.\end{aligned}}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/5752ac74f27a9a5f8576d603b58243cb1ced9d23)
昇降演算子を演算子 Jz にかけると
![{\displaystyle {\begin{aligned}J_{z}J_{\pm }|j,m\rangle &=\left(J_{\pm }J_{z}+\left[J_{z},J_{\pm }\right]\right)|j,m\rangle \\&=\left(J_{\pm }J_{z}\pm \hbar J_{\pm }\right)|j,m\rangle \\&=\hbar \left(m\pm 1\right)J_{\pm }|j,m\rangle .\end{aligned}}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/66c576ce8c00213a49083145fa5fce2cc0966eac)
この結果と

を比較すると、
は
のスカラー倍となる。
これは量子数を増減させるという昇降演算子の性質を表している。

α と β の値を求めるために、J+と J− のエルミート共役(
)の関係から、それぞれの演算子のノルムを考えると、

昇降演算子の積は J2 とJzの交換関係で表される。
![{\displaystyle {\begin{aligned}J_{-}J_{+}&=(J_{x}-iJ_{y})(J_{x}+iJ_{y})=J_{x}^{2}+J_{y}^{2}+i[J_{x},J_{y}]=J^{2}-J_{z}^{2}-\hbar J_{z},\\J_{+}J_{-}&=(J_{x}+iJ_{y})(J_{x}-iJ_{y})=J_{x}^{2}+J_{y}^{2}-i[J_{x},J_{y}]=J^{2}-J_{z}^{2}+\hbar J_{z}.\end{aligned}}}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/500fe8b785ae37f58fbaaedbaf48c50cf2162e72)
このように |α|2 と|β|2 を J2 と Jz の固有値で表現することができる。

α と β の位相は物理的に意味はないので実数に選ぶと次のようになる。

m は j (
) に制限されるので

原子・分子への応用
原子系や分子系のハミルトニアンは角運動量の内積を含む。例えば超微細構造ハミルトニアンの磁気双極子項がある[5]

ここでI は核スピンである。 角運動量代数は球面基底で再計算することで単純化できる。 球面テンソル演算子の記法を用いることで、 J(1) ≡ J の"−1"、"0"、"+1" 成分は[6]

これらの定義から、上記の内積を展開できる。

この展開は、状態が mi = ±1 とmj = ∓1 だけ量子数が異なる項と結合している状態を表している