最適企業規模

最適企業規模（さいてききぎょうきぼ、英: Optimal firm size）とは、ある産業におけるある時点で、単位当たりの生産費用が最も低くなる規模の企業の大きさのこと^[1]。

この長期平均費用図は、生産量が OQ₂ を超えない限り規模の経済が得られることを示している。OQ₂ を超えると、追加的な生産によって単位当たり費用が上昇し、規模の不経済を反映する。その結果、社会的に最適な企業規模は、長期平均費用が最も低い OQ₂ となる。

議論

もし生産要素の投入に対して単調な規模の不経済が存在するなら、長期平均費用を最小化する企業規模は労働者1人、すなわち最小限の生産水準となる。しかし、規模の経済も存在し、大企業は部品・保険・不動産・広告などで一括購入割引を享受できるため、単位当たり費用を低下させられる。また、競合企業を買収したり、独占的な業界標準（例：Microsoft Windows）を設定することで競争を制限することも可能である。規模の経済だけが働くなら、理想的な企業規模は無限大となるだろう。しかし、両方が作用するため、費用最小化のためには企業は小さすぎても大きすぎてもならない。

産業による最適企業規模の違い

「規模の不経済」は産業間で大きく変わらない傾向があるが、「規模の経済」は大きく異なる。自動車メーカーは巨額の固定費を抱えるため、生産量が増えるほど1単位当たりの固定費が低下する。一方、花屋のように固定費が非常に低い業種では規模の経済の効果は限定的である。したがって、産業によって規模の経済の程度は大きく異なる。

農業・工業・サービス経済の違いによる影響

工業社会では産業が大規模な規模の経済を持つため、大企業が優勢になる傾向がある。サービス経済では規模の経済が限定的であるため、小規模企業が優勢になる。ただし、例外もあり、マイクロソフトのような巨大なサービス企業も存在する。

自由参入が企業規模に与える影響

短期的には、個別企業が経済利潤を得ることが可能である。この図では、価格（または平均収入）Pが最小平均費用を上回っているため、その状況が示されている。企業は限界費用と限界収入が交わる数量Qを生産し、その単位当たり利潤はPとCの差で表される。

十分な数の他企業が参入すると、市場供給の増加により財の価格が下がり、各企業の経済利潤はゼロとなる。

ある財の市場が自由参入（英語版）を特徴とし、すなわち企業が後退や退出に制約なく市場に出入りでき、さらに企業がU字型の長期平均費用曲線を持つ場合、長期的にはすべての企業が平均費用を最小化する点で生産を行うことになる。 仮にある企業が図に示された長期平均費用曲線を持ち、市場価格 P に直面したとする。この企業は限界費用と限界収入が交わる点（図の Q）で生産し、その単位当たり利潤は平均収入と平均総費用の差（図の P と C）で表される。企業が経済利潤を得ており、自由参入があるなら、他の企業も参入し供給が増加する。その結果、財の市場価格は下がり続け、経済利潤がなくなるまでこのプロセスは続く。長期的には、すべての企業が長期平均費用曲線の最小点で生産し、利潤はゼロになる。

したがって、企業がU字型の長期平均費用曲線を持ち、完全競争が成立しており、(1) 個別企業が市場価格に影響を与えられないほど小規模であり、かつ (2) 自由参入が存在する場合、長期的にはすべての企業が社会的に最適な規模（長期平均費用曲線の最小点での生産）に収束する。

関連項目

• 規模の不経済
• 規模の経済
• 最小効率規模（英語版）