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水虎

中国の妖怪 ウィキペディアから

水虎
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水虎(すいこ)は、中国湖北省などのにいたとされる伝説上の生き物。3・4歳ぐらいの子供の大きさをしており、水虎という呼び名はに似た要素を体に持っていることに由来している。

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喜多川歌麿春画に描かれた水虎
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寺島良安和漢三才図会』より「水虎」
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鳥山石燕今昔画図続百鬼』より「水虎」

日本では、江戸時代河童のような川に住む妖怪の総称として、主に知識人の間で「水虎」という呼称が用いられていた。

概要

水虎は、3・4歳の児童ぐらいの大きさで、体は矢も通さないほどに硬い鯪鯉(りょうり、センザンコウ[注 1])のようなに覆われている。になると沙の上に身を曝す[1][2]

水虎については、の時代に編まれた『本草綱目』(四庫全書本・巻42)に記載されここから広く知られる。その原典は『襄沔記』(じょうべんき。8世紀初頭)であるが、水虎は、中廬県(現在の湖北省襄陽市襄城区)の涑水そくすい[注 2]が沔水(べんすい、漢江)にそそぐ合流点にいたと記されている[3][4][2]

『本草綱目』にみえる外見特徴については解釈の推移がある。のちに改められた解釈では、虎のような頭や膝(または虎のような掌爪[4])をもつが、これらは常に水中に隠れており、膝頭のみ水上に曝して出し人間の目に触れる。ところが、それに悪戯をしかけるような子供は、人間といえどもこれに噛みつく、とされる[5][4][6]

だが従来の日本では、水虎の膝頭に虎の掌爪のようなものがついているという解釈がある。寺島良安和漢三才図会』(1712年)にこのように漢文で記載され、図解されている[3][7]。ついで、それを参照した鳥山石燕今昔画図続百鬼』も[9]、この解釈を汲んだ絵図を掲載した[10]

また、生け捕りにした水虎の効能について『本草綱目』で述べるが[1]、鼻をつまむことで使役することが出来る、と日本では従来解釈されてきた[11][3][注 3]

しかしこの箇所については、いまでは薬用としての解釈がされ「生け捕りして鼻を摘出/採取すれば、[その部分]はささいなことに利用できる」などと訳出される[12][4]。これでは曖昧だが、他の注釈等からより具体性をもたせることができる:

生きた水虎から摘出する部分はじつは「鼻」ではなく「鼻厭」(「皋厭」[13])であると方以智『通雅』中国語版等にみえe、その部位は生物の「陰」あるいは「勢」の事だと説明される[14][15][4]。皋厭を摘むということは即ち勢去(去勢)であり[16]、つまりは生殖器の採取である[17]。その部位は媚薬に使われるのだと『通雅』等に記載される[14][4][注 4]

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日本における水虎

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寛永年間に豊後国肥田で捕獲されたという水虎(河童のことを示している)

日本では江戸時代以降、『本草綱目』などの本草書を通じて「水虎」の知識が知られた。それを引用した寺島良安和漢三才図会[3]も絵入りで水虎を掲載している。川にいる存在ということから、「河童」のような川にいるとされる存在の総称として医師や学者を中心に用いられた[19][20]。そのため、捕獲された河童を写したとされる絵図にも、『水虎図』や『水虎説』、『水虎考略』などのように「水虎」という語が表題や本文に広く用いられている[21][22]柳原紀光『閑窓自語』の「近江水虎語・肥前水虎語」の項目[23]も、琵琶湖や九州にいる「河童」のことを「水虎」と漢字表記しただけに過ぎない。

日本には本来、中国の水虎と全く同じ性質を持つ妖怪はいないが、以上のような「河童たちを総称した水虎」という呼び方に起因する混用(日本の「河童」のことを述べる文章上も漢字表記が「水虎」と慣用されている)から、地方によっては「スイコ」という言葉は河童の別名のような感覚で用いられてもおり、東北地方や九州地方など各地に見る事が出来る。青森県に見られる水虎様と呼ばれる水神信仰にも、「水虎」という言葉の転用例が見られる[11]

日本の本草学での水虎と河童

寺島良安『和漢三才図会』は、「水虎」にひきつづいて「川太郎」(河童)を書いているが別項目にしており、見た目などの相違点から日本の河童を水虎とは少し異なるものであるとしている[3]。同書は漢名由来で同種とされている動植物についての差異はしばしば本文に取り上げており、このような記述はその一例であると言える。川にいる存在の総称として用いられているものの、水虎と河童が特徴や性質の上で異なる部分があるという認識は、小野蘭山『本草綱目啓蒙』[24]でも、本文は日本の河童の情報、注として中国の水虎についての引用文を分けて掲載していることからも分かる。

鳥山石燕今昔画図続百鬼』には、「水虎はかたち小児のごとし。甲は綾鯉(せんざんこう)のごとく、膝頭虎の爪に似たり。もろこし(唐土)速水の辺(ほとり)にすみて、つねに沙の上に甲を曝すといへり」とあり、これは『和漢三才図会』の内容をそのまま下敷きにしており、河童ではなく中国の水虎をそのまま描いている例である[10]

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注釈

  1. 『本草綱目』の和訳(鈴木訳)「水虎」(323–324頁)では「鯪鯉」の訓は無いが、「鯪鯉」の項(361頁)で「せんざんこう」の名を挙げている。『広大和本草』には「鯪鯉(せんざんこう)」。鳥山石燕も『今昔画図続百鬼』で「せんざんこう」と訓んでいる。
  2. ここでいう「涑水」はどの川なのか未詳である。「涑水」という名の川は『水経注』などに見られるが、聞喜県のものであり異なる。
  3. 『和漢三才図会』では「小使(こづかい)とすべし」と読み下している。鈴木訳では"生捕りしてその鼻をつまんで引き回せば、やや自由になっているものだ"という文言である[2]
  4. 「小使」という語もじつは生殖に関連することがわかる。「小使」は「小通」と同義と『正字通』にあり、「小通」は、小野蘭山が引く『韓詩外伝』の用例では男が十六歳、女が十四歳で精化(性成熟)を遂げるものとされる[15]。この詩の英訳では男性の小通は"精子 semen"、女性のは"体液"ととらえている[18]

出典

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