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石灰窒素

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石灰窒素(せっかいちっそ)は、炭化カルシウム(カーバイド)と窒素から合成されるカルシウムシアナミドを含む農業用品である。植物および動物ヒトに対して毒性があるので、取り扱いがやや難しいものの、肥料農薬の2つの効果を狙える利点がある。

成分

石灰窒素の農薬としての有効成分は、カルシウムシアナミド(CaCN2)である。工業的にはカーバイド窒素ガス中で約1,200 ℃に加熱して製造する[1][2]

反応式から明らかなように肥料として流通する石灰窒素はカルシウムシアナミドと炭素粉との混合物であり、そのまま肥料・農薬として用いられる。成分は、カルシウムシアナミドが 50–70 %、酸化カルシウムが 10–35 %、炭素粉が 10–25 %、結晶質シリカ 1 %未満からなり[3]、公定規格でアルカリ分 50.0 %以上、窒素全量 19.0 %以上、カルシウムシアナミド二量体のジシアンジアミド性窒素は窒素全量の 20 %以下が保証値である[4][2]

カーバイド製造時の原料の酸化カルシウム(生石灰)の他、不純物として原料由来のケイ酸などを含み、これらも肥料として作用する。製品の石灰窒素には未反応の微量のカーバイドも含むので、カーバイドの不純物由来の臭気(主にホスフィン (PH3)や硫化水素 (H2S))を発する。

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肥料としての側面

石灰窒素は窒素肥料の1種であると同時に石灰分も多く含まれており、通常は元肥として利用する。施肥直後、まずカルシウムシアナミドが土壌中の水分と反応してシアナミドを生じる。このシアナミドの毒性により、殺虫・除草・殺菌効果が土壌にもたらされる[5]。生じたシアナミドは時間の経過とともに分解して尿素が生じ、尿素は微生物による分解反応をうけて炭酸アンモニウムに変化することで、初めて植物に対し肥料として作用する[2]。また石灰窒素中の酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウム(消石灰)となり酸性土壌を中和する。これらの反応が進みシアナミドの毒性が消失するまで春・秋は7–10日、夏場は3–5日を要する[2]。この特性のため追肥として使用されることはまずなく、土壌改良や除草・殺菌を兼ねて施肥し、シアナミドの毒性が消失するのを待ってから作物を植える。

農薬としての側面

石灰窒素を土に散布して混和することで、土壌中の水によって生じるシアナミドの毒性により、線虫類や雑草の防除効果がある。水田においては、穴を掘ってイネの根に害を与えるザリガニや、イネを加害するスクミリンゴガイを防除する効果もある。カルシウムシアナミドは、土中で水と反応して分解され、無害な尿素を経て炭酸アンモニウムに変化するため、残留毒性の問題はない。日本では1963年(昭和38年)に新潟大学の黒井伊作らの報告により、石灰窒素浸出液の処理が、ブドウの自発休眠を覚醒(休眠打破)できることが明らかにされた[6]

取り扱い上の注意点

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着衣の裾に石灰窒素が浸入したことにって皮膚に発生した薬傷
  • 皮膚に対して刺激性がある。と反応して化学熱傷を起こす。皮膚に付着した場合は、水で充分に洗浄すること。
  • に入ると強い刺激性があり危険である。眼に入った場合は、充分に水洗した後、眼科を受診すること。
  • 散布直後に飲酒すると、急性アルコール中毒を引き起こす場合がある。これはシアナミドが、肝臓でのエタノール代謝を阻害し、有害なアセトアルデヒドを体内に蓄積させるためであり、散布後24時間は禁酒が必要となる[7][8]
  • 上記のように危険性や毒性があるので、散布はマスクゴーグル手袋を着用し、長袖・長ズボンで肌を露出させずに散布作業を行うこと。

歴史

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開発者のアドルフ・フランク(左)とニコデム・カロー(右)

1895年に、ドイツのアドルフ・フランクドイツ語版ニコデム・カロードイツ語版が、大気中の窒素とアルカリ土類カーバイドの結合に成功したことに始まり、この方法は「フランク・カロー法」(英語版)と呼ばれるようになった。なお、原料のカーバイド(カルシウムカーバイド)製造では、生石灰コークスを大量の電気により強熱して化学反応させるため潤沢な電力の確保が重要であり、カーバイド製造には安価な水力発電による電力を用いることが一般的である。また前述したシアナミドの毒性や危険性があることから、石灰窒素を直接肥料にはせず、石灰窒素に加水して発生させたアンモニア硫酸で中和させ、硫安を生成して肥料に用いることが多かった。ハーバー・ボッシュ法の発明以前は石炭を乾留して作られるコークス炉ガスからの副産物と石灰窒素とが、アンモニアの主な供給源だった。


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脚注

外部リンク

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