トップQs
タイムライン
チャット
視点

計算経済学

ウィキペディアから

計算経済学
Remove ads

計算経済学(けいさんけいざいがく、: Computational economics)またはアルゴリズム経済学(英: Algorithmic economics)とは、計算機科学経済学を組み合わせ、経済学における計算負荷の高い問題を効率的に解くことを目指す学際的領域である[1]。こうした分野の一部は独自の領域であり、また一部は、コンピュータと関連する数値解析なしには研究が困難な課題に対して堅牢なデータ分析や解法を提供することで、既存の経済学の領域を発展させるものである[2]

計算経済学における主要な進展には、労働市場のマッチング理論英語版線形計画法の理論、アルゴリズム的メカニズムデザイン英語版、および公平分割問題アルゴリズムが含まれる。

歴史

計算経済学は、経済学の数理化の進展と並行して発展してきた。20世紀初頭には、ヤン・ティンベルヘンラグナル・フリッシュといった先駆者が、経済学のコンピュータ化と計量経済学の発展を推し進めた。計量経済学の進歩の結果、回帰分析仮説検定、その他の計算統計的手法が経済研究で広く採用されるようになった。理論面では、リアルビジネスサイクル理論(RBC)モデルや動学的確率的一般均衡モデル英語版(DSGEモデル)といった複雑なマクロ経済学モデルが、計算に大きく依存する数値解法の開発と応用を促した。21世紀に入ると、計算アルゴリズムの発展によって、計算手法が経済研究と相互作用する新たな手段が生まれ、機械学習モデルやエージェントベース・モデリングといった革新的アプローチが経済学の多様な領域で積極的に探索され、従来の手法とはしばしば性格を異にする拡張されたツールキットが経済学者に提供されている。

応用

要約
視点

エージェント・ベース・モデリング

計算経済学は、計算機による経済モデル化を用いて、解析的・統計的に定式化された経済問題を解く。これに資する研究プログラムとしてエージェント・ベース計算経済学英語版(ACE)があり、相互に作用するエージェントからなる動的システムとして、全体の経済を含む経済過程を計算的に研究する[3]。このアプローチは、複雑適応系パラダイムの経済学への応用である[4]。ここでいう「エージェント」とは、実在の人間ではなく「ルールに従って相互作用する計算的対象」を指す[5]。エージェントは社会的・生物学的・物理的な対象を表現し得る。均衡でエージェントが数理最適化を行うという理論的仮定は、限定合理性をもつエージェントが市場の力に適応するという、より制約の緩い仮定に置き換えられる[6]。この枠組みはゲーム理論的文脈も含む[7]。モデル作成者が定めた初期条件から出発し、ACEモデルはエージェント間の相互作用のみによって時系列的に展開する。その科学的目的は、実証的に支持される理論が時間とともに蓄積していくことを可能にする形で、理論的発見を実データに照らして検証することにある[8]

計算経済学における機械学習

機械学習モデルは、巨大で複雑かつ非構造化なデータセットを扱う方法を提供する。カーネル法ランダムフォレストなど多様な機械学習手法がデータマイニングや統計分析で開発・利用されており、たとえばSTARモデル英語版のような従来の統計モデルと比べて、分類・予測能力および柔軟性に優れる場合がある。さらに、因果機械学習や因果モデル英語版(因果ツリーなど)は、推論検定を含む独自の利点を提供する。

経済研究に機械学習ツールを用いることには、顕著な長所と短所がある。経済学では通常、理論原理に基づいてモデルを選択し、データで検証・分析し、他のモデルとの交差検証を行う。一方、機械学習モデルには内蔵の「チューニング」効果があり、実証分析の過程で同時にクロスバリデーション・推定・モデル比較を進める。このプロセスは、従来法よりも堅牢な推定につながる可能性がある。

伝統的な経済分析が既存原理に基づき部分的にデータを正規化するのに対し、機械学習はより陽的・経験的なモデル当てはめを採用する。機械学習は分類・予測・適合度評価に秀でる一方で、多くのモデルは経済研究者がより重視する統計的推論の能力を十分に備えていない。したがって、機械学習を用いる経済学者は、現代の実証研究の中核である統計的因果推論(たとえば交絡の特定や信頼区間の推定など)に関して頑健な手法を工夫する必要がある[9]

機械学習は、より複雑な経済学における異質性英語版をもつ経済モデルの開発を効果的に支援し得る。従来、異質性(嗜好・信念・能力・技能・制約の違いなど)を組み込んだモデルは、代表的個人による均質的アプローチに比べ、計算が非常に煩雑であった[10]。しかし、強化学習やディープラーニングの発展は異質性分析の複雑さを大幅に低減し、経済主体の行動をよりよく反映するモデルの構築を可能にするだろう[11]

さらに、計算経済学におけるニューラルネットワークディープラーニングの導入は、データ・クレンジング英語版やデータ分析の冗長作業を削減し、大規模データ分析の時間とコストを大幅に低減して、研究者が大規模なデータ収集・分析を行えるようにする[12]。これにより、新たなモデリング手法の探索が促進され、データ分析への作業比重が下がることで、因果推論・交絡要因・モデルの実在性といった論点に研究者がより注力することができる。適切な指針の下では、機械学習は大規模な実証データ分析と計算を通じて、正確で応用可能な経済学の構築を加速し得る[13]

動学的確率的一般均衡(DSGE)モデル

マクロ経済研究では、経済変動のシミュレーションや政策変更の効果検証のために動学的モデリング手法が頻繁に用いられる。DSGEは計算技法と数値解法に大きく依存する動学モデルの一分類である。DSGEモデルは、異時点間選択の不確実性を伴う環境で、現実の経済の特性をミクロ的基礎に基づく原理で捉えようとする。その本質的な複雑さゆえに、DSGEモデルは一般に解析的には解けず、通常はコンピュータを用いて数値的に実装される。DSGEモデルの大きな利点の一つは、経済主体の動学的選択の推定を柔軟に行える点にあるが、縮約形の仮定に大きく依存し、現実性に欠けるという批判も少なくない。

計算ツールとプログラミング言語

経済研究における計算ツールの活用は、長らく標準であり基盤となってきた。経済学向けの計算ツールには、各種の行列演算(例:逆行列の計算)や線形・非線形方程式系の解法を実行する多様なソフトウェアが含まれる。データ分析やモデリングの目的で、経済研究ではさまざまなプログラミング言語が用いられており、典型的には C++MATLABJuliaPythonRStata が使われる。

これらの言語の中では、コンパイル言語である C++ が最速の実行性能を示す一方、インタプリタ言語である Python は相対的に遅い。MATLAB、Julia、R は性能と可読性・対話性のバランスを取っている。統計分析ソフトとして早くから普及した Stata は、かつて最も一般的な選択肢であり、その幅広さ・正確性・柔軟性・再現性の高さから、経済学者に広く受け入れられてきた。

Remove ads

学術誌

計算経済学を専門とする主な学術誌として、ACM Transactions on Economics and Computation[14]Computational Economics[1]Journal of Applied Econometrics[15]Journal of Economic Dynamics and Control[16]Journal of Economic Interaction and Coordination が挙げられる[17]

出典

Loading related searches...

Wikiwand - on

Seamless Wikipedia browsing. On steroids.

Remove ads