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顧客関係管理
さまざまな連絡方法で得たデータを用いて顧客とのやり取りを管理する手法 ウィキペディアから
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顧客関係管理(こきゃくかんけいかんり、英語: customer relationship management、略称:CRM)とは、顧客や市場から集められた様々な情報を一元化し、それを多様な目的に活用することで、売上の拡大と収益性の向上を目指す経営戦略/手法である[1]。顧客情報管理、顧客関係構築、単に顧客管理と訳される場合もある[2]。
その目的は、顧客ロイヤルティ (CL:Customer Loyalty)の獲得と顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の最大化である。また、すべてが顧客から始まるという考え方のもと、常に顧客満足(CS:Customer Satisfaction)を念頭に置いて企業の経営にあたることをCS経営という。
近年ではCRMを実現するためのCRMシステムが普及している。CRMシステムは、企業のウェブサイト、電話(多くのサービスにはソフトフォンが付属している)、電子メール、ライブチャット、マーケティング資料、そして最近ではソーシャルメディアなど、さまざまな通信チャネルからデータを収集する[3] 。これにより、企業はターゲットとなる顧客についてより詳しく分析し、彼らのニーズにより適切に対応できるようになり、顧客を維持し、売上の成長を促進することができる[4] 。CRMシステムは、データ駆動型の洞察(インサイト)を利用することで、企業のコミュニケーションを最適化し、顧客満足度を向上させ、持続可能な成長を促進することを支援する[5]。
CRMは、過去、現在、または将来(見込み)の顧客に対して使用される場合がある。販売やサービス関連の業務などの顧客との直接的な接触、予測、および消費者のパターンと行動の分析を行う。[6]
世界のCRM市場規模は、2024年の1,014億1,000万ドルから2032年には2,627億4,000万ドルに成長し、年平均成長率(CAGR)は12.6%になると予測されている[7]。
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概要
大量生産・大量消費を前提としたマスマーケティングの時代から、消費者個別のニーズに合わせた One to Oneマーケティングの時代へという市場環境の変化により、特に製品単体での差別化が難しい業界(金融やリテール)で注目を集めていた経営コンセプトである。顧客あるいは見込み客が体験する企業との人的・非人的対話をより良いものとすることで、顧客の獲得や維持の向上を目指すものである。
CRMの実践には、財務や税務処理といった観点の管理(伝票処理システムなど)とは別に、「顧客」を「個客」としてその行動をミクロに捉える視点と管理のテクノロジー、顧客指向の組織横断的なプロセス、そして顧客指向で行動する人が必要である。
サービスプロフィットチェーン(SPC)
従業員満足度、サービス、顧客満足度、利益の因果関係を表したモデルである。従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)が向上すれば顧客へのサービスが向上し、高い顧客満足度が得られる。さらに、高い顧客満足度が強固な顧客ロイヤルティを生み出し、その結果としてLTVが最大化され、企業の収益拡大へと繋がるという一連の流れを構成している[8]。
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歴史
要約
視点
「CRM」という概念は、近所の個人商店で顔見知りの顧客に提供するようなハイタッチの関係を大規模に再現することを目指すものであり、日本でも江戸時代から大福帳などで見られるように実践されていた[9]。単に売上高のみを管理するだけではなく、個人にフォーカスした経営が重要であることは、感覚的に理解しやすい。新規顧客獲得に対して、既存顧客からの継続・追加と離脱によるロスの防止の方が、はるかに収益性が高いとされる[10]ことが、基礎となっている。
1960年代から1970年代にかけて、従来の経験に頼っていた経営をコンピュータ利用によって効率化するという発想が生まれた[11]。このとき、企業の情報管理を目的とした戦略情報システム(MIS:Management Information System)という概念が登場する。さらに、1970年代になると、MISを発展させた意思決定支援システム(DSS:Decision Support System)が開発されるが、普及には至らなかった[12]。MISやDSSは、顧客や市場から集められた様々な情報を一元化し、それを利用するという観点でCRMと共通する概念であった。
1980年代になると、PCの普及とともに、顧客情報をデジタル化して管理するデータベースマーケティングが登場する。「TeleMagic」や「Act!」といった、初期のコンタクトマネジメントやSFAの先駆けとなるソフトウェアがリリースされる。
1990年代に、米国で消費者ニーズの多様化を背景に、顧客一人ひとりの関係性を重視する「CRM」という概念が誕生[13]した。連絡先管理とコールトラッキングシステムから、顧客に関する情報と、アクティビティー/応対の内容を記録し、これを活用する意図から、包括的な語としてCRMが提唱されたものと推定される。理論的にはPeppers and Rogersによる1to1[14]が代表する、顧客との長期的な関係がビジネスの本質的な利益に寄与するとの思想に裏付けられている。
1997年、シーベル、ガートナー、IBMの取り組みによりCRMは普及しはじめた。1997年から2000年にかけて、主要なCRM製品は出荷およびマーケティング機能で強化された。[15] シーベルは1999年に「Siebel Sales Handheld」と呼ばれる初のモバイルCRMアプリを導入した。スタンドアロンでクラウドホスト型の顧客ベースというアイデアは、当時、ピープルソフト(オラクルが買収)、[16] オラクル、SAP、セールスフォース・ドットコムを含む他の主要プロバイダーにも採用された[17]。
一方、日本においては、1990年代後半に紹介されて金融機関を中心に一時期ブームになったが、折りしも金融業界の不良債権問題を原因とする前向きなシステム投資が抑制されたため、一部の金融機関にしか導入されなかった。
2000年代以降は、インターネットや携帯電話の爆発的な普及により、インターネットメールマーケティングを中心とするe-CRMへと発展している。e-CRMはソフトウェアベンダーのパッケージ開発が盛んに行われてきたが、2000年以降ベンダーの統廃合が進んできている。一般に、CRMはERPなどの基幹システムと連携することが多く、独SAPや米マイクロソフトなどのERPベンダーが提供するCRMパッケージを基幹システムの種類に合わせて採用する事例が多く見られる[要出典]。
またオンサイト型の導入から自社にソフトウェア資産を持たずにインターネット経由でシステム利用を行うオンデマンドサービスを提供する企業が伸びてきている。セールスフォースやベンチャーではZoho CRMなどがサービス提供企業の一例である。
オープンソースCRMソフトウェアもこの時期開発が始まった。最初のオープンソースCRMシステムは、2004年にSugarCRMによって開発された。この時期、CRMは急速にクラウドへ移行しており、その結果、個人事業主や小規模チームも利用できるようになった。このアクセシビリティの向上は、大幅な価格低下の波を引き起こした[15] 。
2009年頃、開発者たちはソーシャルメディアの勢いを利用する選択肢を検討し始め、企業があらゆるユーザーのお気に入りのネットワーク上でアクセスできるようにするためのツールを設計した。当時の多くのスタートアップは、この傾向から恩恵を受け、BaseやNutshellなどのソーシャルCRMソリューションを専ら提供した[15] 。同年、ガートナーは最初の顧客関係管理サミットを組織・開催し、CRMソリューションとして分類されるためにシステムが提供すべき機能を要約した[18] 。
2013年と2014年には、人気のあるCRM製品の多くがビジネスインテリジェンスシステムや通信ソフトウェアと連携され、企業のコミュニケーションとエンドユーザーの体験が向上した。主な傾向としては、標準化されたCRMソリューションを業界固有のものに置き換えるか、あらゆるビジネスのニーズを満たすために十分カスタマイズ可能にすることである[19] 。
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CRMのタイプ/領域
要約
視点
実行系 (Operational) CRM
顧客接点とフロントオフィスのプロセスを改善することで、顧客の体験とパフォーマンスを向上することを目指すタイプのCRM。CRMシステムの主な目標は、販売、マーケティング、顧客サポートの統合と自動化である。したがって、これらのシステムは通常、企業が持つ各顧客の単一ページであるシングルカスタマービュー上で、これら3つの機能の全体像を提供するダッシュボードを備えている。ダッシュボードは、顧客情報、過去の売上、以前のマーケティング活動などを提供し、顧客と企業の間のすべての関係を要約する。オペレーショナルCRMは、セールスフォース・オートメーション、マーケティング・オートメーション、サービス・オートメーションの3つの主要コンポーネントで構成されている。[20]
- セールスフォース・オートメーション(SFA) - 営業支援システムとも呼ばれる。最初に連絡先情報を入力するところから、見込み客を実際の顧客に変えるまでの、販売サイクルのすべての段階で機能する[21]。 これは販売促進分析を実装し、リピート販売や将来の販売のために顧客のアカウント履歴の追跡を自動化し、販売、マーケティング、コールセンター、小売店を調整する。これにより、営業担当者と顧客の間の重複した労力を防ぎ、両者間のすべての連絡とフォローアップを自動的に追跡する[21][22]。
- マーケティングオートメーション - 全体的なマーケティングプロセスを容易にし、より効果的かつ効率的にすることに焦点を当てている。B2Cではセグメンテーション等に基づく多数のキャンペーン実行や、顧客行動に基づく自動オファリングなどによる成果拡大を目指す。B2Bではリードナーチャリング[23]等による営業初期段階の支援を目指す。今日のCRMシステムは、ソーシャルメディアを通じた顧客エンゲージメントにも取り組んでいる[24]。
- サービス・オートメーション - コールセンター、FAQ/ナレッジベースなどにより、カスタマーサービスの品質と生産性を向上することを目指す。音声、Eメール、チャットなどのチャネルと、これにともなる応対の履歴を統合することも一般的である[20]。
分析系 (Analytical) CRM
分析的CRMシステムの役割は、複数のソースを通じて収集された顧客データを分析し、ビジネスマネージャーがより多くの情報に基づいた意思決定を行えるように提示することである[25] 。分析的CRMシステムは、データマイニング、テキストマイニング、相関関係、パターン認識、映像分析などの技術を使用して、顧客の行動や収益性、対応プロセスなどを分析する。分析に必要なデータを集積するデータウェアハウスや可視化も欠かせない要素である。これらの分析は、解決可能な小さな問題を発見することにより、顧客サービスを向上させるのに役立つ。たとえば、消費者層の異なる部分に対して異なるマーケティングを行うなどである[20] 。
- 行動分析 - 古典的には購入履歴、後に問い合わせ履歴、Webアクセス、最近では店頭での行動から顧客の嗜好や期待を理解する。
- 収益性分析 - 例えば電話による問い合わせ有無など、顧客の購買やサービス利用の行動はその収益性に影響する。ABCと合わせて、顧客の価値を金銭的に把握することができる。
コラボレーティブ(Collaborative)CRM
コラボレーティブCRMの主要な目的は、サプライヤー、ベンダー、ディストリビューターなどの外部ステークホルダーを組み込み、グループ/部門および組織全体で顧客情報を共有することである。例えば、テクニカルサポートの電話からフィードバックを収集し、将来その特定の顧客に製品やサービスを販売するための方向性を提供するのに役立てることができる[26]。
カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)
カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)は、さまざまなソースからの個人に関するデータを1つのデータベースに集約し、他のソフトウェアシステムと連携できるようにする、マーケティング部門が使用するシステムである[27] 。
CRMシステム
CRMシステムは、マーケティングを通じて顧客関係の構築と管理を行い、関係の段階や収益性に応じてリソースを最適に配分することを目的としている。ここでは、単に属性データで顧客を分類するだけでなく、顧客を単なる収益源としてではなく「個」として深く理解する「リレーショナル・インテリジェンス」が重要視される。
例えば、企業目線の顧客分類では、「性別」「年齢」「収入」「教育レベル」などのデモグラフィックデータを取得することが多い。これらの分類に基づき、購入情報と結び付けて顧客を収益性の階層に分類することは長年行われているが、これは顧客関係に対する企業の産業的な見方にすぎない[28] 。一方、リレーショナル・インテリジェンスとは、年齢や購買履歴といったデータの分類を超えて、顧客と企業の間に存在する多様な関係性を分析し、そのつながりを把握・活用するというものである。
CRMシステムは、必ずしも大規模なシステムである必要はなく、紙のカードやノートを利用したシステム(大福帳など)を用い、顧客への対応を実践できる。しかし、数人を超える規模の組織で、顧客に関連する多様で大量のデータの集積と分析、これを活用したプロセスの改善を図る場合には、一定のテクノロジー機能が必要である。近年では、データ統合や案件管理機能を備えたシステムがSaaS(Software as a Service)などで提供されており[20]、eコマースの自動化や非営利組織の会員管理など、業種や目的に応じて特化した機能が活用されている。
一般にCRMシステムと言われるシステムには、以下のような要素が含まれる。CRMの導入を考える企業は、以下の様々な分野のうち、自社が注力する分野についてのシステムを中心に導入していくことが多い。
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批判
消費者向け企業は、顧客関係を無計画かつ不採算に管理していることがよくある[30] 。CRMシステムの分析に対する誤解や誤った解釈のために、顧客とのつながりを効果的または適切に使用していない可能性がある。CRMデータとCRM分析出力の間に橋渡しがないために、顧客は時折、ユニークな個人としてではなく、交換相手のように扱われることがある。多くの研究は、企業が関係への期待に応えられないことに顧客が頻繁に不満を抱いていること、その一方で、企業はCRMソフトウェアから得たデータを実行可能な行動計画に変換する方法を常に知っているわけではないことを示している[31] 。
2003年のガートナーの報告では、使用されていないソフトウェアに20億ドル以上が費やされたと推定された。CSO Insightsによると、参加した1,275社のうち、エンドユーザーの採用率が90%を超えているのは40%未満であった[32] 。これは多くの企業において、CRMシステムを部分的または断片的にのみ使用していることを意味している[33]。
英国の2007年の調査では、上級管理職の5分の4が、最大の課題はスタッフに導入したシステムを使用させることであると報告した。回答者の43%は、既存をのシステムの機能の半分未満しか使用していないと述べた。[34] しかし、消費者の好みに関する市場調査は、発展途上国の消費者の間でのCRMの採用を増やす可能性がある。[35]
また、顧客データの個人情報の収集は、個人情報保護法に厳密に従わなければならず、余分な支出が必要になることがよくある。
CRMのパラドックス
「CRMの暗黒面」とも呼ばれるCRMのパラドックスは、そもそもCRMの定義や企業への貢献度を正確に見極めることの難しさに起因している[36]。 CRMに基づく分析を行い、顧客へのサービスを展開することで、 一部の顧客に対するえこひいきや差別的な扱いを伴う場合がある。これは、企業がより収益性の高い顧客、より関係志向の強い顧客、または企業へのロイヤルティが高い傾向にある顧客を優先するために発生する可能性がある。そのような顧客に焦点を当てること自体は悪いことではないが、他の顧客が疎外感を感じ、利益を減少させる可能性がある[37]。
さらに、技術面においても適切なデータ管理やシステム連携がなされていない場合、CRMは容易に機能不全に陥る可能性がある。CRMのデータセット、接続、分散、整理も適切に処理する必要があり、ユーザーが必要な情報に迅速かつ簡単にアクセスできるようにする必要がある。企業にとって、一貫性があり信頼できるクロスチャネルの顧客体験を提供することがますます重要になっている[24]。
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脚注
関連項目
外部リンク
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