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カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI

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カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI: carnitine palmitoyltransferase I、略称: CPT1、CPTI)は、長鎖アシルCoAのアシル基のL-カルニチンへの転移を触媒し、アシルカルニチンの形成を担うミトコンドリア酵素である。カルニチンアシルトランスフェラーゼI(carnitine acyltransferase I, CAT1)、CoA:カルニチンアシルトランスフェラーゼ(CoA:carnitine acyl transferase, CCAT)、パルミトイルCoAトランスフェラーゼI(palmitoyl-CoA transferase I)などの名称でも知られ、カルニチンアシルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素ファミリーに属する[1]。多くの場合、反応産物はパルミトイルカルニチン英語版である(名称はこのことに由来する)が、他の脂肪酸も基質となる可能性がある[2][3]。この反応によって、その後のアシルカルニチンの細胞質基質からミトコンドリア膜間腔への移動が可能となる。

CPT1には、CPT1A、CPT1B、CPT1Cという3つのアイソザイムの存在が現在知られている。CPT1はミトコンドリア外膜に結合している。この酵素は、脂肪酸合成の方向決定段階の中間体であるマロニルCoAによって阻害される。脂肪酸代謝英語版における役割のため、CPT1は糖尿病など多くの代謝疾患において重要である。結晶構造は未知であり、正確な作用機序は不明である。

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構造

要約
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CPT1に相同な酵素であるCRATの触媒部位に結合したカルニチン。触媒を行うヒスチジン残基が赤、安定化を行うセリン残基が黄色で示されている。

CPT1は、哺乳類の組織ではCPT1A、CPT1B、CPT1Cの3種類のアイソザイムが存在する膜内在性タンパク質英語版である。CPT1AとCPT1Bは大部分の組織においてミトコンドリア外膜に発現しているが、これらの相対的比率は組織によって異なる。肝臓などの脂質生成組織ではCPT1Aが優勢である一方、心臓や骨格筋など高い脂肪酸酸化能を持つ組織や褐色脂肪細胞ではCPT1Bが優勢である[4][5]。どちらもペプチド鎖中の2つの膜貫通領域によってミトコンドリア外膜に内在しており、CPT1Aに関してはトポロジーの記載がなされている[6]。複数回膜貫通タンパク質であり、N末端C末端はミトコンドリア外膜の細胞質基質側に露出し、2つの膜貫通ドメインをつなぐ短いループがミトコンドリア膜間腔へ突出している。

3つ目のアイソザイムであるCTP1Cは2002年に同定され、ミトコンドリアと小胞体の双方で発現している[7]。通常は神経(脳)でのみ発現しているが、特定のがんでは発現が変化している[8][9]

CPT1の正確な構造はどのアイソザイムも未決定であるが、カルニチンアセチルトランスフェラーゼ英語版(CRAT)など密接に関連したカルニチンアシルトランスフェラーゼの構造をもとにさまざまなin silicoモデルが作成されている[10]

CPT1とCPT2英語版、CRAT、カルニチンオクタノイルトランスフェラーゼ英語版(COT)の間の重要な構造的差異は、CPT1には約160アミノ酸からなるN末端ドメインが存在するという点である。このN末端ドメインはCPT1の重要な阻害分子であるマロニルCoAにとって大きな意味を持ち、CPT1AのマロニルCoAによる阻害感受性を高くしたり低くしたりするスイッチのような作用を果たす[11]

CPT1AとCPT1Bには2つの異なる結合部位が存在することが提唱されている。1つは「A部位」(A site)または「CoA部位」(CoA site)と呼ばれ、マロニルCoAとパルミトイルCoA英語版の双方に加え、CoAを含む他の分子も結合できるようである。そのため、酵素はこれらの分子のCoA部分との相互作用によって結合を行っていることが示唆されている。マロニルCoAはこの部位でCPT1Aの競合的阻害剤として作用している可能性が示唆されている。2つ目の「O部位」(O site)は、A部位よりも強固にマロニルCoAを結合することが提唱されている。A部位とは異なり、O部位はマロニルCoAのマロン酸部分のジカルボニル基を介してマロニルCoAを結合する。A部位とO部位のいずれかへマロニルCoAが結合することで、カルニチンはCPT1Aに結合できなくなり、CPT1Aの作用は阻害される[12]

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機能

要約
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酵素反応機構

現時点では結晶構造は得られていないため、CPT1の正確な反応機構は不明である。反応機構として2つの異なる可能性が提唱されているが、その双方でヒスチジン473番残基が重要な触媒残基として関与している。カルニチンアセチルトランスフェラーゼに基づくモデルの1つが下に示されており、His473はカルニチンを脱プロトン化し、近接するセリン残基は四面体型オキシアニオン中間体を安定化する[1]。異なるモデルでは、Cys305、His473、Asp454からなる触媒三残基が触媒反応のアシル基転移段階を担うことが提唱されている[13]。この触媒機構には、Cys305を介したチオアシル-酵素共有結合中間体の形成が関与する。

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カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼの推定反応機構

生物学的機能

カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ系は、長鎖脂肪酸β酸化に必要不可欠な段階である。脂肪酸はミトコンドリア外膜上で(CoAとのチオエステル結合の形成という形で)活性化されるが、活性化された脂肪酸の酸化はミトコンドリアマトリックス内で行われる必要があるため、この転移系が必要となる。パルミトイルCoAなどの長鎖脂肪酸は、短鎖・中鎖脂肪酸とは異なり、ミトコンドリア内膜を通って自由に拡散することはできず、ミトコンドリアマトリックスへの輸送のためのシャトル系が必要である[14]

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細胞質基質からミトコンドリアマトリックスへのアシルCoAの輸送

カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ系の最初の構成要素かつ律速段階であり、パルミトイルCoA(アシルCoA)のパルミトイル基(アシル基)のカルニチンへの転移を触媒してパルミトイルカルニチン(アシルカルニチン)を形成する。その後、トランスロカーゼがパルミトイルカルニチン(アシルカルニチン)をミトコンドリア内膜を越えて輸送し、そこでパルミトイルCoA(アシルCoA)へ再変換される。

カルニチンはアシル基の受容体として作用することで、細胞内のCoA:アシルCoA比の調節に関与している可能性もある[15]

調節

CPT1はマロニルCoAによって阻害されるが、その正確な阻害機構は不明である。CPT1の骨格筋・心臓型のアイソザイムであるCPT1Bは、CPT1Aと比較してマロニルCoAによる阻害に対する感受性が30–100倍高いことが示されている。この阻害は、将来的な代謝疾患治療を目的としたCPT1の調節の試みの際の良い標的となる[16]

アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)はアセチルCoAからマロニルCoAの形成を触媒する酵素であり、脂肪酸代謝の調節に重要である。ACC2英語版ノックアウトマウスは野生型マウスと比較して体脂肪と体重が減少することが示されている。これはACC活性の低下に伴うマロニルCoA濃度の低下による効果である。マロニルCoA濃度の低下はCPT1の阻害を減弱し、最終的には脂肪酸酸化の増加を引き起こす[17]。心臓や骨格筋の細胞は脂肪酸合成能力が低いため、これらの細胞ではACCは純粋に調節酵素として作用する。

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臨床的意義

CPT1AはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI欠損症英語版と関係している[18]。この希少疾患は、肝性脳症、低ケトン性低血糖、発作、乳児期の突然死のリスクを高める[19]

CPT1は2型糖尿病インスリン抵抗性と関係している。こうした疾患では、他の多くの健康問題とともに、遊離脂肪酸(FFA)濃度の上昇、骨格筋への脂肪の蓄積、筋肉の脂肪酸酸化能力の低下が引き起こされる。CPT1はこれらの症状への寄与が示唆されている。高血糖高インスリン血症英語版によるマロニルCoA濃度の上昇はCPT1を阻害し、筋肉や心臓のミトコンドリアへの長鎖脂肪酸の輸送を低下させ、これらの細胞での脂肪酸酸化が低下する。ミトコンドリアへの長鎖脂肪酸の輸送の低下はFFA濃度の上昇として観察され、骨格筋への脂肪の蓄積をもたらす[20][21]

CPT1は脂肪酸代謝において重要であるため、他の多くの代謝疾患の治療法の開発においても着目すべき有用な酵素である可能性がある[22]

HIVとの関係

HIVのVprタンパク質は、PPARβ/δ英語版を介してPDK4英語版やCPT1のmRNAの発現を亢進させる[23]。培養Jurkat細胞英語版でにおけるshRNAライブラリによるスクリーニングからは、CPT1AのノックダウンによってHIV-1の複製が阻害されることが示されている[24]

出典

関連項目

外部リンク

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