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Endpoint Detection and Response
システムのエンドポイントで脅威を継続的に監視して対応するセキュリティ技術 ウィキペディアから
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Endpoint Detection and Response(EDR、エンドポイント検出応答)とは、コンピュータシステムのエンドポイントPC、サーバー、スマートフォンなどの末端機器)において驚異を継続的に監視し、対応するサイバーセキュリティ技術である[1][2]。
従来のアンチウイルスソフトウェアが脅威の侵入を未然に防ぐこと(事前対策)を主目的としていたのに対し、EDRは侵入を完全に防ぐことは困難であるという「侵入前提(Assume Breach)」の思想に基づき、侵入後の脅威を迅速に検知し、事前対策をすり抜けて侵入した脅威に対する「事後対策」に主眼を置いている[3]。
概要
現代のサイバー攻撃は、特定の組織を狙う標的型攻撃(APT)や、ソフトウェアの脆弱性を悪用するゼロデイ攻撃、正規のツールを悪用するファイルレス攻撃など、著しく巧妙化・高度化している[4]。これにより、ファイアウォールなどでネットワークの境界を守る従来の「境界型防御」モデルでは、侵入を100%防ぐことが不可能となった[5]。 このような状況下で、セキュリティの基本思想は「侵入は不可避である」という前提に立ち、対策の焦点を「侵入後の迅速な検知と被害の極小化」へと移行させている[6]。この思想を具現化する「ゼロトラスト・セキュリティモデル」において、EDRはエンドポイントにおける継続的な監視と対応を実現する核心的な技術として位置づけられている[4]。経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が発行する「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」においても、インシデント発生を前提とした体制構築の重要性が強調されている[7]。 また、テレワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、ネットワークの境界が曖昧になり、従業員が使用するPCやサーバーといった「エンドポイント」がサイバー攻撃の主要な標的となっている[8]。このため、エンドポイント上での脅威を迅速に検知し封じ込めるEDRの重要性が高まっている。
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歴史
2013年、ガートナーのアントン・チュバキンは、「ホスト/エンドポイントでの不正な挙動(およびその痕跡)やその他の問題の検出・調査に主に焦点を当てたツール」を指すものとして、Endpoint Threat Detection and Response(ETDR、エンドポイント脅威検出応答)という用語を作り出した[9]。現在では、一般にEndpoint Detection and Response(EDR)と呼ばれている。
Endpoint Detection and Response - Global Market Outlook (2017-2026)のレポートによれば、クラウドベースおよびオンプレミスのEDRソリューションの採用は年間で26%増加し、2026年までに7億2,327万ドルに達すると評価される[10]。また、Zion Market Researchのレポート「サイバーセキュリティ市場における人工知能」によると、機械学習と人工知能の役割は2025年までに309億ドルの情報セキュリティ市場を創出する[11][12]。
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コンセプト
要約
視点
EDRの目的は、サイバーセキュリティインシデント発生時の被害を最小限に食い止めることである[11]。そのため、インシデントの早期検知と、脅威への迅速な対応が基本的な機能となる。EDRは、各エンドポイントデバイスにインストールされ、継続的にデータを収集するツールを展開し、収集したデータを分析する。収集したデータは一元化されたデータベースに保存される[1]。EDRが 攻撃者が侵入後に行う潜伏・偵察活動(他のサーバーへのアクセス試行(横展開)など)の微細な兆候を捉え他場合、本格的な被害が発生する前に迅速に警告する[13]。 脅威を検知後、感染が疑われる端末をネットワークから即座に隔離したり、悪意のあるプロセスを強制的に停止させたりすることで、被害の拡大を封じ込める。
これらの役割は、事故前後の状況を記録して原因究明に役立つ自動車のドライブレコーダーに例えられることがある[14]。EDRはエンドポイントでの出来事を詳細に記録・分析することで、インシデントの根本原因の特定と迅速な事後対応を支援し、組織の事業への影響を極小化する[15]。
全てのEDRプラットフォームには、独自の機能セットがある。ただし、オンラインモードとオフラインモードの両方でのエンドポイントの監視、脅威へのリアルタイムの応答、ユーザーデータの可視性と透明性の向上、ストアエンドポイントイベントとマルウェアインジェクションの検出、ブラックリストとホワイトリストの作成は、EDRプラットフォームの一般的な機能となっている。
アーキテクチャー
EDRソリューションは、一般的に「エージェント」「管理サーバー」「クラウド基盤」の三つのコンポーネントで構成される[16]。
- エージェント: 監視対象のエンドポイント(PC、サーバーなど)にインストールされる軽量なソフトウェア[16]。プロセスの生成、ファイルの読み書き、ネットワーク通信といったシステム上のあらゆる活動(アクティビティ)をリアルタイムで監視・記録し、管理サーバーへ送信する[17][2]。
- 管理サーバー: 各エージェントから送信されたログデータ(テレメトリ)を集約し、一元的に分析する中核コンポーネント[16]。脅威を検知すると管理者に警告を発し、端末の隔離などの対応アクションを実行させる司令塔の役割を担う[17]。
- クラウド基盤: 現代の多くのEDRでは、管理サーバーの高度な分析機能はクラウド上で提供される[18]。ここには、世界中から収集した最新の脅威情報(脅威インテリジェンス)や、AI・機械学習モデルが保持されており、エンドポイントから収集したログと照合することで高精度な脅威検知を実現する[18]。
検知
- 振る舞い検知: プログラムの見た目ではなく、その「振る舞い」に着目する。例えば、「Word文書がコマンドプロンプトを起動する」といった、正規のプログラムとしては通常あり得ない一連の動作を「不審な振る舞い」として検知する。これにより、シグネチャが存在しない未知のマルウェアやファイルレス攻撃も効果的に捉えることができる[19]。
- AI/機械学習の活用: 世界中の膨大なデータを機械学習モデルに学習させ、「通常の振る舞いのベースライン」を構築する[20]。監視対象のイベントがこのベースラインから大きく逸脱した場合、それを「異常(アノマリー)」として検知する[2]。
- 脅威インテリジェンス連携: 世界中で発生しているサイバー攻撃の分析から得られた攻撃者のツールやIPアドレス、マルウェアのハッシュ値といった侵害の痕跡(IoC)や、攻撃者の戦術・技術・手順(TTPs)のデータベースとリアルタイムで照合し、既知の攻撃活動を即座に検知する[13]。
対応
- 端末隔離 : 脅威が検知されたエンドポイントをネットワークから論理的に切り離し、マルウェアの横展開(感染拡大)などを即座に阻止する[17]。
- プロセス停止とファイル隔離: 管理者が遠隔から悪意のあるプロセスを強制終了させたり、マルウェア本体などの不審なファイルを安全な場所に隔離したりする[17]。
- 自動修復: マルウェアによって変更されたレジストリを正常な値に修復したり、暗号化されたファイルを攻撃前の状態に復元(ロールバック)したりする機能を持つ製品もある。
調査
- 根本原因分析: 収集したイベントログの因果関係を解析し、攻撃の起点から最終的な目的に至るまでの一連の流れ(アタックチェーン)をグラフィカルに可視化する[17]。これにより、攻撃の全体像を直感的に把握できる。
- デジタル・フォレンジック: EDRが収集・保存した詳細な活動ログは、インシデント後の詳細な調査(デジタル・フォレンジック)のための貴重な証拠データとなる[17]。これにより、リモートから迅速な調査が可能となり、フォレンジック調査の効率が劇的に向上する[21]。
- 脅威ハンティング: 自動検知によるアラートを待つのではなく、セキュリティアナリストが仮説に基づき、EDRが収集した膨大なデータの中から、未発見の脅威や潜伏する攻撃者の痕跡を能動的に探し出すプロアクティブなセキュリティ活動である[13][22]。
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XDR
巧妙なサイバー攻撃は、エンドポイントだけでなく、ネットワーク、クラウド環境、電子メールなど、複数の領域(セキュリティレイヤー)を横断して実行される。例えば、攻撃の起点はフィッシングメールであり、そこからエンドポイントにマルウェアが侵入し、ネットワークを介してクラウド上のデータサーバーにアクセスするといった事例が挙げられる。EDRだけでは、この攻撃の全体像を捉えることは困難である。
この課題を解決するために登場したのが、XDR (Extended Detection and Response) である。XDRは「拡張された検知と対応」を意味し、EDRの概念をエンドポイント以外にも拡張した、より包括的なセキュリティソリューションである[23]。
XDRは、エンドポイント (EDR) からのデータに加え、以下のような様々なソースからのログやテレメトリを統合する[23]。
- ネットワーク (NDR - Network Detection and Response) : ネットワークトラフィックの異常を監視
- クラウド環境: IaaS, PaaS, SaaS上のアクティビティログ
- 電子メールセキュリティゲートウェイ: フィッシングメールや不正な添付ファイルのログ
- ID管理システム: 認証ログやアクセス権限の変更履歴
これらの異なるレイヤーから収集したデータを単一のプラットフォームに集約し、AIと高度な分析技術を用いて横断的に相関分析を行う。これにより、個別のツールでは単なるノイズとして見過ごされていた可能性のあるイベント群が、一つの連続した攻撃キャンペーンとして可視化される。XDRは、サイロ化された各セキュリティツールの情報を繋ぎ合わせ、より高精度な検知と、攻撃の全体像に基づいた迅速な対応を実現する。この点で、XDRはEDRの自然な進化形と位置づけられている[23]。
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MDR
EDRやXDRは非常に強力なツールであるが、その導入は運用負荷の増大という新たな課題を生んだ。この運用課題に対する市場の答えが、MDR (Managed Detection and Response) である。MDRは、EDRやXDRといった特定の技術や製品そのものを指すのではなく、それらのツールを外部のセキュリティ専門家チームが顧客に代わって監視・運用するアウトソーシングサービスである。
MDRプロバイダーは、自社のSOC (Security Operation Center) において、顧客の環境から送られてくるEDR/XDRのアラートを24時間365日体制で監視する。アラートが発生すると、専門のアナリストがその内容を迅速に分析(トリアージ)し、誤検知を除外した上で、真に危険な脅威であると判断した場合には、顧客に通知するとともに、事前に合意された手順に従って脅威の封じ込めなどの初動対応までを代行する。さらに、プロアクティブな脅威ハンティングや、インシデント発生後の詳細な調査レポートの提供などもサービスに含まれることが多い。
EDRの導入がその運用上の複雑さから「アラート疲れ」という新たな問題を生み出したことは、MDRというサービス市場が創出される直接的な引き金となった。同様に、EDRの監視範囲の限界がXDRという技術的進化を促した[24]。
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脚注
関連項目
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