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S.29 スターリング(Short S.29 Stirling )は、第二次世界大戦初期のイギリス空軍で使用されたショート社製の爆撃機。
S.29 スターリング
イギリス空軍初の4発爆撃機で、ハンドレページ ハリファックス、アブロ ランカスターと共に戦略爆撃機三本柱となったが、高高度性能が悪かったことと爆弾搭載に制限があったことが原因で3機種の内で一番早く退役した。名称の「スターリング (Stirling)」は、スコットランドにあるスターリング市のこと。
スターリングは、1936年にイギリス空軍から出された4発爆撃機の仕様に従って開発された機体である。飛行艇専門メーカーであったショート社に試作命令が出された背景には、4発の飛行艇の製造経験があったことが大きい。事実、スターリングの設計は1934年から開発が始まっていたサンダーランド飛行艇を基礎にしている。しかし、陸上機の製造に慣れていないショート社では、まず、1/2に縮小した実験機(会社名S.31)を製作、飛行させて各種データを取得した後、試作機の製造にとりかかった。試作第1号機は1939年5月に初飛行したが着陸に失敗して破損し、その後に飛行した試作2号機が実質生産第1号機となった。
空軍からの仕様により、出来上がった機体は爆撃機としては異常な程アスペクト比が小さく総重量も機体規模の割りに少ない窮屈な物になった。窮屈になった仕様として、日本の文献では長らく「標準格納庫で使用できるよう全幅を厳しく制限したため」と述べられることが多かったが、「分解して輸送可能にする」、「カタパルト射出する」という二つの要求から寸法と重量に制約が課せられたことが分かっている[1][2]
また、サンダーランド飛行艇と主翼やフラップの配置が同じであり、飛行艇のように肩翼式を採用したため主脚は長く複雑な形をしていた。尾輪は引き込み式だが、独立した2輪が並んでいる他では例のないタイプであった。爆弾倉は胴体下面の他、主翼内にも小型爆弾用の爆弾倉が設けられていた。
2号機の試験後量産を開始し、1940年8月には部隊配備された。しかし、機体の不具合の調整に時間をとったこととドイツ軍の爆撃による生産の遅れがあって、実戦に参加したのは1941年に入ってからである。
1941年から本機は爆撃任務に参加した。初陣は1941年2月のロッテルダムへの夜間爆撃で、昼夜を問わず爆撃任務を行った。初期においては昼間爆撃を援護戦闘機無しでおこなったが、強力な武装によって大きな戦果をあげた。ドイツ占領下のフランスへの攻撃をブレニム軽爆撃機に代わって行ったり、ベルリンやチェコ、北イタリアへの爆撃も行っている。1941年末には、流石に昼間作戦に従事するには無理があったため、夜間攻撃任務に従事するようになった。
スターリングは、イギリス空軍初の近代的な4発戦略爆撃機だったが、欠点も多かった。アスペクト比の小さな窮屈な機体のせいで、高高度性能が悪く爆弾搭載量が制限されていた。また、爆弾倉が胴体、主翼に細分化されていることにより、大型爆弾が搭載できなかった。加えて、主脚や尾輪の複雑な構造は、しばしば着陸時に破損事故を引き起こした。このため、後から出現したハリファックス 、ランカスターと比べると、性能的に見劣りした。
1943年に入ると性能的に時代遅れになってきたため、あまり重要ではない目標の攻撃や機雷敷設、レーダー妨害作戦に利用されるようになった。そして1944年9月に最後の爆撃任務を行った後は、グライダー曳航や輸送任務に就いた。グライダー曳航型の初陣は1944年6月のノルマンディー上陸作戦である。しかし、この任務でも長続きせずハリファックスやランカスターの派生型に取って代わられ、1946年にはイギリス空軍から全機退役した。
第二次世界大戦時のドイツ空軍で鹵獲機の運用など特殊任務を担っていた第200爆撃航空団がテストした機種の中に、スターリングの名前も含まれている[3]。
1948年-1949年の第一次中東戦争においては、エジプト王国空軍が6機のスターリングを購入し"第8爆撃飛行隊"を編成して運用した[4]。戦争中に1機が事故あるいはイスラエル側の破壊工作により失われた。残りの5機は1951年頃までにはエジプト空軍から退役した[5]。
The Short Stirling, Aircraft in Profile Number 142,[6] Flight International[7]
型式名称 | Mk.I | Mk.III |
---|---|---|
全幅 | 30.20 m | |
全長 | 26.59 m | |
全高 | 6.93 m | |
翼面積 | 136 m2 | - |
翼面荷重 | 233.5 kg/m2 | - |
自重 | 22,498 kg | 19,580 kg |
総重量 | 26,943 kg | - |
最大離陸重量 | 31,751 kg | 31,750 kg |
発動機 | ハーキュリーズ Mk.XI空冷星型14気筒(離昇1,500馬力)4基 | ハーキュリーズ Mk.16空冷星型14気筒(離昇1,650馬力)4基 |
プロペラ | 金属製3翅プロペラ 4.11 m | - |
最高速度 | 454 km/h(高度3,800 m) | 434 km/h |
巡航速度 | 320 km/h | - |
上昇力 | 毎秒4.1 m | - |
航続距離 | 3,750 km | 3,240 km |
武装 | 機首動力銃座 M1919 7.7mm機関砲 2門 背部銃座 M1919 7.7mm機関砲 2門 尾部銃座 M1919 7.7mm機関砲 4門 | |
爆装 | 最大搭載量 6,350kg | |
第二次世界大戦で使用された主要な四発重爆撃機であるB-17 フライングフォートレス、B-24 リベレイター、B-29 スーパーフォートレス、S.29 スターリング、H.P.57/71 ハリファクス、683 ランカスターの6種のうち、スターリングのみ完全な形で残る機体が無い。
以下の表のほかに墜落や不時着による放置されたもののうち、何機かは水中にあるが、2020年の時点で引き上げが実現したものはない。
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