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非常に稀な進行性の神経性疾患で、自己免疫疾患の一種 ウィキペディアから
スティッフパーソン症候群( - しょうこうぐん、stiff-person syndrome:SPS)とは、非常に稀な進行性の神経性疾患で、自己免疫疾患の一種。 筋肉を弛緩させるための神経系統がうまく働かず、痛みを伴う体の硬直や筋痙攣を起こし、音や接触などの体感によって症状が誘発、悪化する(別名:スティッフマン症候群(stiff-man syndrome:SMS)、スティフ・マン症候群、全身強直症候群、全身硬直症候群、stiff-person症候群、stiff-man症候群、Moersch-Woltman syndrome)。
体を動かす際に本来は交互に働く主動筋と拮抗筋が、力を緩めることができず同時に収縮したままとなり、筋肉の硬直や痙攣、ミオクローヌスを引き起こす。また、感覚・刺激への反応が敏感になり、大きな音や体の接触、状況の急な変化などによって筋肉の症状が誘発、悪化する。これらの症状は中枢神経における抑制性神経伝達(GABA作動性、グリシン作動性)の低下により生じる。これらの低下は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ (GAD) やアンフィフィシン、ゲフィリン、グリシン受容体など、GABAやグリシンに関連する体内物質が自己免疫により失われたために起こると考えられている。
初期に報告されたSPS(古典的SPS)は体幹の硬直を主症状とする。一方、別の臨床症状を特徴とするSPSの亜型がいくつか報告され、その後、これらをSPSプラス症候群とする考えが提起された[2]。この中には、筋硬直を伴う進行性脳脊髄炎 (PER) 、筋反射性スティッフマン症候群、四肢・脚部を主部位とするSLSの3タイプが上げられている。
数年単位で慢性的に進行する。主に体幹(胸、腹部、腰、背中)を主部位として、筋硬直(強直)や痙攣が発生する。しだいに症状は近位四肢(ふとももや二の腕)にも現れ、さらには全身へと症状が進行する。長期のSPSでは、PERMの症状(突然死、脳幹障害)が現れることもある。
(Progressive encephalomyelitis with rigidity; PER) 全身に症状が現れる。数週間から数か月で急激に悪化し、突然死を起こす場合もある。脳幹障害(眼球運動障害、難聴、構音・嚥下障害など)、長経路徴候が顕著に表れ、典型的なSPSと区別される。しかし、長期のSPSはPERM様の症状が出現することもある。
別名:筋硬直とミオクローヌスを伴う進行性脳脊髄炎 (Progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus; PERM) 。
(jerking stiff-man syndrome) ミオクローヌス反射 (myoclonic jerks) のあるスティッフパーソン症候群。この反射は脳幹症状と考えられるが、PERと異なり、長経路障害は見られない。この病気については、筋硬直を伴う進行性脳脊髄炎と同じ病気とする文献もある一方[3]、ミオクローヌス反射を古典的SPSの症状の一つとする考え方[4]のように、SPSの亜型として扱わない文献もある。
別名:筋反射性SMS (jerking SMS) 、ミオクローヌス関連SPS (SPS associated with myoclonus) 。
障害の発生部位が、一部の四肢(腕、脚)に限定される(限局性SPS)。全身に進行することは少ないとされたが、現在は、典型的SPSに進行する前段階とも言われている。ミオクローヌス反射は見られない。
別名:stiff-limb症候群 (stiff-limb syndrome; SLS) 、stiff-leg症候群 (stiff-leg syndrome) 。
主な合併症として、自己免疫疾患、傍腫瘍症候群がある(#原因 - #腫瘍随伴性も参照)。
SPSでは、さまざまな自己免疫疾患、自己抗体が現れる。抗GAD抗体陽性のSPSで多いのが1型糖尿病で、最大35%という報告もある[5]。甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)、悪性貧血、白斑の併発例も多いとされる[4]。そのほか、重症筋無力症[6]、多発性硬化症[7]などの併発例がある。
SPSでは、運動失調(10%)、てんかん(5-10%)、眼球運動障害、単一恐怖・不安症などの神経性症状を併発することが多い[5]。
この病気は自己免疫疾患と考えられており、数種類の自己抗体が原因物質とされている。しかし、抗体が検出されない(陰性の)症例もある。特に重要とされるのはグルタミン酸デカルボキシラーゼに対する自己抗体・抗GAD抗体、抗アンフィフィシン抗体である。
SPSの症状に関連すると考えられる抗体は、抗GAD抗体、抗アンフィフィシン抗体、抗ゲフィリン抗体、抗GABARAP抗体、抗GLRA1抗体がある。抗GAD抗体は患者の60%で見つかるとされるが[8]、85%とする文献もある[5]。抗アンフィフィシン抗体は患者の数%で発見される[9]。抗GABARAP抗体はSPSの新たなマーカーとされ[10]、患者の65%で検出されるとも言われる[5]。抗ゲフィリン抗体は腫瘍随伴性SPSの1例[11]、抗GLRA1抗体はグリシン受容体α1サブユニットに対する抗体で、最初PERMの1例[12]で確認された後、複数のSPS患者からも検出されるようになった[13]。
腫瘍の発生に伴い、SPSを併発することがある(傍腫瘍症候群、腫瘍随伴症候群)。この場合、抗アンフィフィシン抗体が高い割合で検出される。
抗アンフィフィシン抗体陽性の場合、SPSの症状は首や腕回りに強く現れることが多い。主な症例として、乳がん、胸腺腫、ホジキンリンパ腫、肺がんなどがある[3]。
典型的なSPSは、体幹(軸)周囲の筋肉を主部位とするが、そのほか全身性、特定部位に顕著な症状など多岐にわたる。各部位の筋肉では、硬直 (stiffness) 、固縮 (rigidity) 、痙攣 (spasm) 、ミオクローヌス (myoclonus) などが発生する。
発作性の自律神経障害として、一時的な異常高熱、発汗、頻呼吸、心搏急速、瞳孔拡大、高血圧がおきる場合がある。
診断基準として、以下の4点が提起された[14]。
そのほか、抗GAD65抗体・抗アンフィフィシン抗体などの自己抗体の検出が診断の一助となる。以前は、ジアゼパムによる症状の改善が診断基準の一つであった[15]が、陰性率が高いために、現在では診断基準としては推奨されない[3]。
診断を補助する検査として、表面筋電図による測定と、自己抗体検査がある。
根治できる治療はなく、基本的に対症療法となる。日常的な服用の内服治療と、免疫状態を改善する免疫治療がある。また、傍腫瘍症候群の場合は腫瘍の除去が行われる。
一時的に筋肉を弛緩させる薬として、ジアゼパム(セルシン、エリスパン、ジアパックス、セエルカム)、バクロフェン(ギャバロン、リオレサール)などのGABA作動薬を服用する。これらは通常経口で投与される。特別な治療法として、体内のポンプで持続的にバクロフェンを投与するITB療法(バクロフェン髄注療法)も行われた例がある。
主な治療法として、免疫グロブリン療法 (IVIg) 、アフェレーシス療法(血漿交換、免疫吸着)、免疫抑制療法(ステロイド、免疫抑制剤の投与)がある。リツキシマブ(リツキサン)を使用し、改善した症例もあるが、NINDS による第2相臨床試験は、明確な効用が認められなかったとの発表[16]があり、その効果については不透明である。
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