プロテオーム解析
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プロテオーム解析(プロテオームかいせき、Proteomic analysis)、またはプロテオミクス(Proteomics)は、特に構造と機能を対象としたタンパク質の大規模な研究のことである[1][2]。タンパク質は細胞の代謝経路の重要な構成要素として生物にとって必須の物質である。「プロテオミクス」という言葉は、タンパク質を意味する英語「プロテイン(protein)」に「全て」を意味する接尾辞"ome"、「学問」を意味する接尾辞"ics"を合わせて作られた。ゲノムがある生物の持つ全ての遺伝子のセットを表すのに対して、プロテオームはある生物が持つ全てのタンパク質のセット、またはある細胞がある瞬間に発現している全てのタンパク質のセットを意味する。
プロテオミクスは、ゲノミクスの次にシステム生物学の中心になる学問分野だと考えられている。ゲノムがある生物の全ての細胞でほぼ均一なのに対して、プロテオームは細胞や時間ごとに異なっているため、プロテオミクスはゲノミクスよりもかなり複雑になる。同じ生物でも、異なった組織、異なった時間、異なった環境ではかなり異なったタンパク質発現をする。また、タンパク質自体が遺伝子と較べて遥かに多様であることもプロテオーム解析を難しくしている理由の一つである。例えば、ヒトには約25000個の遺伝子が知られているが、これらの遺伝子に由来するタンパク質は50万個を超えると見積もられている。このようなことが起きる原因は、選択的スプライシングやタンパク質の修飾、分解などである。
プロテオミクスはその生物についてゲノミクスよりも多くの情報を与えるため、科学者たちはこれにとても興味を抱いている。一つ目に、遺伝子の転写レベルからはタンパク質の発現レベルの非常に大まかな情報しか分からない。例え伝令RNAの作られる量が多くても、分解が早かったり翻訳が効率的に行われなかったりするとタンパク質の量は少なくなる。二つ目に、多くのタンパク質は翻訳後修飾を受け、その活性にも影響を受ける。例えば、リン酸化を受けるまで活性状態にならないタンパク質もある。三つ目に、選択的スプライシングや選択的翻訳後修飾により、1つの遺伝子が1つ以上のタンパク質を作り出すことがある。四つ目に、多くのタンパク質は他のタンパク質やRNAと複合体を形成し、機能を発揮することがある。
タンパク質は生物の生命活動の中心的な役割を果たす上に、疾患があると発現するタンパク質がしばしば変化するため、プロテオミクスは、ある種の病気の存在を明らかにするなど生体指標の道具として使える場合がある。
ヒトゲノム計画の大まかなドラフトが公表されると、多くの科学者は遺伝子とタンパク質がどのように他のタンパク質を作り出しているのかを探求するようになった。ヒトゲノム計画で明らかとなった驚くべきことの一つは、タンパク質をコードしている遺伝子の数がヒトの持つタンパク質の数と較べて遥かに少ないことである。ヒトは、200万個もの未知のタンパク質を持つ可能性すらある。このようなタンパク質の多様性は、選択的スプライシングと翻訳後修飾がもたらしていると考えられている。この矛盾はタンパク質の多様性はゲノム解析だけでは分からず、プロテオーム解析が細胞や組織を理解する上で有効な手段となりうることを示唆している。
ヒトの持つ全てのタンパク質をカタログ化するために、タンパク質の機能と相互作用が調べられている。国際的な研究の調整はヒトプロテオーム機構(HUPO)が行っている。